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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第4章-歴史の分岐点- 恐怖の怪物(Nightmare Horror)
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お祭り 一日目 夕食 -III-

 屋台……と一口に言ってもこの世界、というかこの国に於いての屋台というのはいわゆるフードコートみたいなものだ。

 要は適当な椅子に座り、各々が好きなものを買ってまた自分の席に座って食べるというもの。

 逢引宿(ラブホ)街にもある屋台村。

 その区画の特徴が所狭しと立ち並ぶのが、屋台村の特徴だ。


 そんな屋台村に着いたところで、イニネスと黒柴がダウンした。

 というのも人が多くて疲れたのだろう、四人分(俺、イニネス、ティータ、カクト)の席を確保し、イニネスを座らせたところでくたりと寝入った。

 そんなイニネスの様子を見て安心したのか、黒柴も舟を漕がずにそのまま「ばたんきゅう」である。

 その分、白柴はお目目ぱっちりしているので、席の確保を頼んだところ、ツーンとそっぽを向かれたが……多分きっと見ていてくれるだろう。


 イニネスと黒白柴の食事の好みは似通っている。

 というのも、肉と野菜は満遍なく、それこそ好き嫌いなく食べる。

 イニネスにとって特に好きなのが、乾酪(チーズ)だが黒白柴にはそれがない。

 よって、好き嫌いを無くすような食生活を無理に摂る必要もないので、好きなものを食べさせる形になる。


 ということで、

「乾酪入り……か」

 売ってるだろうか。

 乾酪がなきゃないで、そのまま買ったものを食べさせ……、


「ウェーリエくん、」

 カクトに呼ばれた。

「ん、どうした。カクト」

「うん、ただちょっと呼んでみただけ」

 なんとも肩透かしを食らうことだ。


「なんだそりゃ」

「むふふ。ねね、イニネスの食べるもの探してる?」

 ええ、まさにそれを考えてました。

「僕も、イニネスのと同じものにしようと考えててね。ウェリエくんに選んでもらおうかな」

「別にいいけど……、カクトの口に合わないものだったら、どうすんだ」

 乾酪って人の好みに左右されるし、なんでもエルリネなんかは乾酪はダメらしい。

 匂いがキツイいとかなんとか。


「だいじょうぶ、ウェリエくんが選んだものだしね。食べるよ、もちろん」

「なんだそりゃ……」

 別に決意したような顔色ではなく、あくまでのほほんとそれでいて言い切るカクト。

 というか、

「なんで、俺基準なんだ」

「むふふ、さぁなんでだろうねぇ。にぶちんには難しいかな?」


 また「にぶちん」か。

 なんなんだろうな、「にぶちん」って。


 一旦話が終わり、お互い無言で屋台を巡る俺とカクト。

 無言の圧力……圧迫がちょっとキツい。

 何か話題を……と考えたところで、一つ見つけた。


「なあ、カクト、」

「なあに、ウェリエくん」

「ティータにも言ったけど、予選通過おめでとう」

「うん? ああ! 大会ね」

「そう、大会。なんかパイソが仕出かしたとか聞いたけど……」


 ぶっちゃけ詳細は知らない。

 なので、当事者に聞けば一発だ。


「うん、パイソさんね。うん、とんでもないことを言ってね、」

「うん、」

 なんだかとんでもないことを言ったようだ。

 先を聞くのがちと怖い。


「結構、本気装備で来て「剣技部部長の位階が欲しくば本気で来い!」とかなんとか言っててね。戦闘はなかったんだけど、ほら元剣技部部長と殴りあったり、女子寮で不届き者にこう殴りあったりしている姿を知っている人たちが恐れて……、逃げちゃった」

「……うわぁ、」


「その煽りで僕たちは本当に何もやってないまま、予選通過しちゃった」

「いやいや、それでも予選通過はしたんだから、やっぱ凄いんじゃね」

「え、なんで?」

「パイソの宣言から逃げ出した奴と、宣言から逃げ出さずに挑む奴。

どっちが名誉的かと問われたら後者で、カクトたちだろ」

「あー、だねえ」

「だろう?」


 だからまあ、

「おつかれさまとおめでとう、を一緒に言わせて貰いたい」

「うん、分かったありがとう」

 そういってニコニコと微笑うカクトはやはり女性、それも魅力的な女性だ。

 笑顔だけでご飯三杯イケる。

 ホント卑怯。


「じゃあさ、」

「うん? なに、カクト」

「ウェリエくんから応援してくれたけど、言葉じゃなくてももっと形に残る応援が欲しいな!」

「……例えば?」


「イニネスを……僕の子どもにしてくれるとか……、」

 既に子どもだと思う……いや、近所の新婚夫婦に対して懐いている子どもか。


「いや、それはどうかな……」

「じゃあ、僕が……、」

「うん? なに?」

「いや、なんでもないよ」


 さっきもティータに拒絶された訳だから、当然そっから先は聞かない。

「そうか、じゃあ聞かない」

「む、聞いてよ」

 同じ轍を踏まないようにしたら、文句を言われる事案。

 どうすりゃあいいのか。


 プリーズギブミー攻略本もしくはwiki。

「じゃあ、なんだよ……」

「いいよもう、にぶちん」

 にぶちん、三回目である。

 なにをすればいいのか。


 二人で言い合ってる内に、ふっとカクト脇を見て動かなくなった。

 ので、釣られて俺も見たところ、視線の先には装飾(アクセサリー)の露天商があった。

 色とりどりのメッキ……ではなく、ほぼ本物の金銀を使った装飾品だ。

 値段も当然のことながら高い。


 というのは、ひとえに加工の()難さがあるのだろう。

 この世界は変なところで文明が低いので、金銀を曲げる技術はあれど即興というか、その人間の指に合わせたサイズの指輪の作成が非常に難しい……らしい。

 それを知ったのは、エレイシアと共にツペェアの図書館で本を読んでたときに知ったことだ。

 とはいえ、比較的古めの本だったので、今の技術がどうなっているかは知らない。

 多分、変わってはいないとは思うが。


 そんなものをカクトは、目も心も奪われてしまっているようだ。

 美人というかなんというか、正直に言おう。

 周りが魔族だらけな俺として、一種の清涼剤と言っては下衆だが、こうクるものがある。

 例えティータという旦那さんがいようが、結構割りとめちゃくちゃにしたい感がある。


 なので、こういうアイテムに見惚れている姿を見ると、思わず買ってあげて気を引きたくなってしまう。

 というわけで、

「カクト、なんか買ってやろうか?」

「え?」


「ほら、どれがいい」

「いや、え?」

「なんだよ」

「い、いや、悪いよ!」

「いや、悪くねーよ。ほらどれがいい」


 お金で好きな女の子の気が引けるなんて、本当にやっすい買物だ。

 買える範囲なら幾らでも出せるね。


「い、いや、でも……」

「いいから。カクトは女性なんだから、少しは着飾れ」

「えぇっ、そんなに僕って女っ気ないの?!」

「いや、充分程にあるけど……もっとこう前面に出せばいいのに。って話」


 なにせ、

「なにを来ても、なにを着用()けても似合うんだぜ、カクトは」

 そう、俺が認める。

「質素というか、素のカクトってさ。いかにも野草の花で、こう道を歩いていると「おっ」と気付いて見てしまうような魅力あるけど、ちょっと手入れすれば、その手の貴族の庭で咲くような花にもなれる。そんな魅力があるんだぜ、カクトってさ」

 もっと、

「自分の武器を有効に使おうぜ」

 と、言っても彼女の相手はティータだけのもので、彼だけにしか使えないが。


 うん、俺の花になって欲しい。

 とは、口が裂けても言えないのがまた悲しい。


「あ、う、うん」

 なんて言ったら、カクトが俯いてしまった。

 余りにも気障ったらしいことを言ったおかげで、ドン引かれた。

 辛い、これは辛い。


「ま、まあ。そうだな、話はひとまず置いといて、ほら選べよ、どれがいい」

「あ、うあ」

「ええと、」

 ひとまず、恥ずかしい台詞から逃げるために真面目に露天商の商品の中からアイテムを選ぶ。


 アイテムの種類はおおまかに「指輪」「腕輪」「イヤリング」の三つだ。

 この内、女性に贈ったらマズいモノ。

 指輪だろう。

 婚約指輪ともいうし、明らかに危険なアイテムだ。


 何度も考えるが、ティータとカクトは美夫婦だ。

 そこにこんな栗毛の特徴なしが、嫁を寝取るかのように危険アイテムを贈る。

 血で血を洗う戦闘になりかねない。

 いや、裁判か。


 とにかく、そんなものはやりたくない。

 ついでにいえば「指輪」ということは、その人の指にあったものを贈るということ。

 作るのに一手間あるし、そんな一手間込めたものを贈っておいて「下心なんてありませんよ」ピーピーと下手くそな口笛吹きながら、(うそぶ)く技術など持ちあわせてなんかいない。


 となれば、残るは「腕輪」と「イヤリング」となる。

「腕輪」はどうだろうか。

 結構無難だ。

「指輪」に比べて致命的に刺さるもんでもない。

 となると、第一候補はこれだ。


 残るは「イヤリング」だが、これは判断が難しい。

 結構良さそうなデザインのものは揃ってピアス式。

 つまり、耳たぶに穴を開けて通すものだ。

 耳たぶとはいえ、傷を付けたくないのは当然いるだろう。


 となると、

「「腕輪」かな?」

 で、あれば、どんなデザインがいいだろうか。

 ということで、カクトに聞こうとしたところで、


「え、あ、あの、さ」

「うん?」

「本当に……その、それ買うの?」

 そうカクトが指を指すのは、

「嫌か? 「腕輪」」

 そう聞くと

 慌てたように腕を前に突き出して左右に振るカクト。


「いや、いいよ! いいよ! 大好きだよ「腕輪」!」

「ん、そう?」

 じゃあ、

「どれがいい?」

「あ、えっと。そ、そうだなあ。僕が着用()けるだもんね」


 ええっと、と言って選んだものは、

 銀が主の腕輪だ。

 なお、腕輪といってもブレスレットというよりも、アームレットの方が近いか。

 袖に完全に隠れる部分なので、多分きっとバレにくい部分だ。


『服を脱いだら奴隷紋がありました』並に、結構キツいモノがあるかもだが、ぶっちゃけ目の前の装飾品の中に隠せそうなものがこれしかない。

 なので、これにした。


 金貨まではいかない値段だったので、そのまま支払い、

「ほら、着用けてみ」と言ってみたが、ぽけーっと腕輪をずっと見ている辺り、大丈夫だろうか。

 まさに"心ここに非ず"状態。


 じいっと見るだけなので、誠に勝手ながら彼女の腕の袖をまくって「腕輪」をハメる。

 ぱっと見では気付かなかったが、結構複雑な作りをしているようで、一人では着用けられないものだった。

 一人というのも、片手では出来ないというもので、この機構を一言で且つ具体的に言えば「ラブブレスレット」に近いと言えよう。

 片手では出来ないので、必ず誰かにハメて貰うことが必要なブレスレットのアームレット版というべきか。


 最初にハメるのが俺で恐縮だが、今後は夫婦でハメて貰うことにしよう。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 いっつも以上にぽやっぽやした状態のカクトと夕食を購入し、寝ているイニネスの隣にカクトが座ったところ、ぽやっぽやしたなりのカクトは引っ込んで、いつものイニネスに向ける母性本能が前面に出たカクトがいた。

 そんなカクトにムラムラ来る俺。

 多分、というか普通に変態だと思う。


 俺って歳上の女性が好きなのかもしれない。

 歳上というか母性的というか、甘えさせてくれる人が。

 うん、矯正せんとアカンかもしんない。


 仲良くカクトとイニネスがお話をしている横で、ティータがツンツンと俺を突いてきた。

 どうやら連れションのようだ。

 男同士の付き合いだし、付き合うことにした。

 いつの間にかある腕輪のこともあるだろう。


 ごめんなさい、と謝れば許してくれ……るかな?


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 連れションで俺たちが人混みに紛れたところで速攻で謝ろうとした。

 腰から九十度に折り曲げて、だ。

 だが、それよりも先に、

「俺にも買ってくれ」と催促された。


 理由を聞いてみれば、

「カクトばっかりズルい。俺にも何か残るものをくれ」とのことだった。

 野郎に指輪、腕輪なんかよりも、剣とかあの辺りと提案したが、要約するとナウ欲しいとのことだった。

 更に言えば、カクトみたいな装飾品が欲しいらしい。


 野郎に指輪なんて贈ったら男色家になってしまう。

 で、腕輪はカクトに贈ったわけであるならば、


「分かったよ、じゃあこの耳飾りな」

 ということで残り物の右に銀と宝石、左に金と宝石をあしらったピアスを買ってやった。

 ティータの「え、マジで?」という顔がマジで笑える。

 めっちゃくちゃ高くてゲロりそうだが、この"鳩が豆鉄砲を食ったよう"な顔が笑えるので、良しとしよう。


 ついでに言えば、

「ありがとう、これ大事にするよ」と、宣言された。

 蔑ろにしろとは言わんが、そこまで宣言するものでもないような気がするが、どうなんだろうか。

 その後、連れションから帰り、よく食べるティータの顔の動きに合わせて、両耳の金銀のピアスが嬉しそうに踊っているのが、何故だかとても印象に残った。



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