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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第4章-歴史の分岐点- 恐怖の怪物(Nightmare Horror)
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お祭り 一日目 夕食 -I-


「では、旦那様。わたしたちは……その、」

「うん、行っておいで」

「も、申し訳ございません。本当に私たちは、その……」

「いいから、いいから。君たちの友達付き合いのほうが大事さ」

「で、ですが……」


「いいから。それとも、何。俺が浮気するとかそういうのが心配?」

「い、いえ。寧ろ旦那様は、浮気して私たち以外にもたくさん作っていただかないとザクリケルの国益にならないのですが……」

「あはは、あっと。そう言われるのは嫌だなぁ。俺は君たちと……まあ故郷の二人ぐらいしか見てないんだから」

「もう、旦那様ったら。私もセシルも旦那様がほかにお嫁さんを連れてくることを楽しみにしているのですから」


 公式に浮気してもいいよ宣言が来ました。

 が、元が一夫多妻制の国……ではなく、一夫一妻制の国出身なので頭で分かってても、一人しか選べないし。

 なんというか、愛を育むのは本当に片手の指分で充分なのだ。

 これ以上の女性が来ると、間違いなく扱いが雑になってしまう。


 そんなのは駄目だ。

 バ火力と高出力で今の今まで成り上がってきたとも言える、今のところの人生。


 俺が生まれてきてからあの村を出るまで色々教えてくれて、俺が姉好きという潜在的なフェチを開花させてくれた姉さん。

 なんだかんだ言ってあの村でいつも一緒にいてくれて、色々遊んでくれた幼馴染。

 あの村から出て今までいつもお世話になっている、エルリネ。

 ザクリケル国領内でのセシルという娘に会い、そしてセリスといった娘に会った。


 充分すぎる。

 寧ろ俺には勿体無い

 有力貴族様と国のお姫様である。 

 どこのラノベか。

 いや、俺の黒歴史ノートの設定集はラノベの設定集みたいなものだが、それはさておいて。


 とにかく、この五人で充分なのだ。

 それぞれのいいところがある。

 姉さんとエルリネは歳上だから、甘えようと思えば甘えさせてくれる。

 というか、属性もろかぶりしているのがこの二人だ。


 姉さんにこう甘えていたものが、そっくりそのままエルリネにも流用出来る辺りもろかぶり。

 ただ、姉さんにないものはアレだ。

 へっぽこでポンコツな部分か。

 姉さんはキリッとしているが、エルリネはポンコツだ。


 ただ最近のエルリネはキリッとしていることも多くなったので、そう考えれば記憶の中の姉さんっぽくなった。


「ところで、そっちもお祭りだからといって怪しい人には付いて行かないようにね」


 おいちゃん、そういう不届き者に(さら)われたと聞くと、もう嫌な予測が嫌でも沸いちゃうの。

 でも、セリスはくすっと笑み、


「大丈夫ですよ。私はどんなことがあっても、旦那様一筋ですし。エルリネ、エレイシアにパイソたちもいます」

「そ、それでもだね……」

 どちらかというと俺が離れたくないところだ。

 お祭り気分で羽目をはずして、お持ち帰りからの朝チュンとか有名な寝取られシーン。


 浮気してもいいよと言われても、俺自身が浮気されたら結構嫌な人間だ。

 暴れ狂うレベルで。

 だからやらない。やりたくない。


「大丈夫ですって。……旦那様」

「……なんだよ」

「婚約宣言、正直受けたとき酷いなぁと想いました。けれど、」

「けれど?」


 というか、やっぱり酷いよな。

『俺のために孕め』とかマジ下衆い。

 どこかの悪者のようだ。


「……それを聞いちゃいます? 旦那様」

「聞かないと、分からないだろう?」

 全くもってそうだ。

 どんなに状況的に分かるということでも、腹の(うち)ではどう考えているかは分からない。


 ニヤニヤと笑っていても、実は悲しいとか。

 そう、殆どまるで覚えていないが、生前のエロゲのシチュエーションであった。

 主人公のことが好きな幼馴染。

 主人公に彼女が出来たと知った幼馴染。

 ニヤニヤと笑いながら、その恋を応援しつつ、胸の内ではわんわんと泣いて……。

 最後は転校する幼馴染。


 読者というかプレイヤー側は、幼馴染の心の中が読めるから……『言わなくても分かる』という芸当が出来る。

 けれども、プレイヤーではない主人公。

 ただ一人の特殊な能力、ましてや読心能力などない主人公が、その幼馴染の想いに気付けたか。

 答えはNOだ。


 腹の中はどう思っているかは分からない。

 当然、口に出してくれなければ分からない。

 これをしたら相手はどう想うか、など分からない。

 手探りしつつトライアンドエラー手法で正解を探すか?


 プレイヤーであれば、セーブアンドロードでトライアンドエラー手法が取れる。

 だが主人公側ではセーブアンドロードというチートなどない。

 行き当たりばったりでその時の良策をぶっつけ本番で試す。

 それが主人公が持つ世界。


 そんな中で想いを口に出さず、腹の中も分からない状態で幼馴染を落とす。

 もちろん、幼馴染以外のヒロインでもそうだ。

 腹の中が分かるからこそのエロゲ、ギャルゲだ。

 この何でもなしに頭を撫でる行為がある。


 あるヒロインには、それこそ二百回ぐらいやったら落ちるのがいたとしても、リアルで二百回頑張って撫でようとする奴はどんなチートを以って撫でようとするのか。

 いや寧ろ何故、撫で続けることで落ちると知っているのか。

 もちろん別のヒロインに対してやったら、好感度がマイナスに行ってしまうのもあるだろう。

 何故、なでなですることが、そのヒロインに対してピンポイントで効果的なのか。


 閑話休題。


 とにかく、そういう訳で。

「うん、言わないと分からんね。どういうことだい、クオセリス」

「まったく、旦那様ったら。……ニブいのですから」

 そう言ってクオセリスは魔法学校でのご学友がいるなかで、ととととっと近づき俺のくちびるに。


「こういうことですよ。旦那様」

「ああ、うん」

 セリスはいつもこうだ。

 いつもさり気なく、それでいて確実に俺の、


「では、行ってきますね。旦那様」

「ああ、うん。行ってらっしゃい」

 お互い手を振り、

「むぅ、セリス。そうやってさり気なくいくのか」

 パイソの声が聞こえ、対してセリスがパイソにあれこれ話している辺り、今度のマラソン時にさり気なさを装いつつ何かされそうだ。


 そんな中、ニルティナもパイソたちとの会話に入っている辺り、どうにか打ち解けたか。

 はたまた、打ち解けようとしているのか。

 ただ言えることは。

「努力……か……」

 嫌いな相手でも、どうにか付き合う。

 それが人間だ。

 一人では生きていけない。

 だから付き合う。


「世知辛いな」

 生前の世界の世知辛さは知っている。

 けれども、この世界も世知い。

 どうあっても一人では生きれない。


 いや、力があれば生きれる。

 そう俺みたいに森を転々として……やっていける。

 けれども能力も何もなければ、人付き合いをせねば軽く死ねる。

 だから世知辛い。


 ニルとパイソのように仲が悪くても、俺の……まあペット枠の魔獣組の二人が生きるには仲良くせねばいけない。

 だからといって、どちらかを野生に(ほう)り出す気はないし……どうしても駄目なら、部屋を別々に借りるというのもありかもしれない。

 パイソはエルリネたちと仲がいい……が、イニネスたちとは余り面識がない。

 そうなると、この場合引き離すのはイニネスと面識があるニルだろう。

 イニネス繋がりで黒白柴とも仲がいい。


 うん、ありだ。

 そうなると、女性とバレているので男子寮には一緒にはいられない。

 となると、部屋を別に借りる。

 どこを借りるか。

 寮じゃなくて、一般住宅しかないだろう。


 そう考えると中々良さそうな気がしてきた。

 日当たりのいいところにニルを置いて、黒白柴たちは普通に室内飼。

 イニネスをカクトの元に預けるのが、ちと遠いが……イニネス自身で「おさんぽ楽しい」と言ってたところから、散歩で手に入れる視覚情報が新鮮なんだろう。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 そんなことを考えながら、

「ん、」

 俯いてから、ふっと前を向き男子寮へと向かおうとしたところで、イニネスと黒白柴がいた。

 一人と二匹……いや三人とも校門前でずっと待っててくれていたようだ。


 黒柴は獣化した姿で尻尾を振っている辺り……、やはり犬だろうと思う。

 間違っても凛々しい犬系の狼じゃない。

 かなり飼い犬系だ。

 元々愛犬家の俺だ。

 当然、かなり嬉しい。


 懐いてくれた訳だからだ。

 以前も結構懐いているような感触はあった。

 が、かなり怪しい雰囲気があった。

 だが、今はそんなことは感じさせないほどに懐いてくれているのが分かる。


 言葉に出さないと、腹の中は分からないとはいったものの、黒柴のように好意をダイレクトに言ってくれるのはとても分かりやすい。


「おう、黒柴。イニネスとお留守番済まなかったなー」

 (ひざまず)いて両腕を広げたところ、大体五メートル先にいた黒柴とイニネスが同時に腕の中にすっぽり入りたいと言いたそうに、飛び込んできた。

「わぷっ、ちょっ」

 イニネスのしっとりとした柔らかい髪と、もふっとした黒柴の体毛が俺の顔に直撃。

 ゲホゲホッと思わず咳き込む俺。


 そんな俺に対してべろおおんっと舐めてくる黒柴。

 人化している姿を知っているが故に結構クるところがある舐めかただが、彼女なりの愛情表現方法なんだろう。


「こらこら、舐めないの。うおっと」

 それでも舐め……てきたのはイニネスだ。

 黒柴はまだしも、明らかな人型のイニネスにぺろぺろ舐められるのは絵面的にマズい。

「こぉら、舐めないの。黒もイニネスも。まったく、俺は君たちのご飯じゃないんだから」


 女子寮組は揃って学友たちとご飯……となれば余り身の自分……ではなく、黒白柴とイニネスがいるのであれば。

「うん、よし。一緒にご飯食べに行こっか」

 ということで連れて行くことにした。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 イニネスは歩いていると、あちらこちらへと視線を動かして見たことがないものや、興味が沸いたものに対して色々と質問をしてくる。

 正しくもまさに何にでも興味が沸く子どものようで、視覚情報から学ぶ姿には俺としても学ぶところがある。

 そんなイニネスなので、俺の右手はしっかりイニネスの左手を握っている。

 理由としては、離していると立ち止まっているのを知らずに置いていってしまうからだ。


 置いて行っても、直ぐに黒柴が俺の服の裾に噛み付いて(しら)せてくれるが……、毎回そうさせるのも悪い。

 という訳で、手を握ることにした。

 嫌がるかな? とは思ったが、そんなこともなく。

 気になるところは、立ち止まってじっと見てから、俺に「ねえ、先生」と言って聞いてくれる。


 気になったことを述べて、それに答える俺。

 それをイニネスが「ふんふん」と頷きながら、同時に黒柴も神妙な面持ちで「ふんふん」と頷く。

 人化すると分かっていると、黒柴の行為はとても可愛げがある行動だ。

 人化すると分かっていないと「こいつ、わかってるのか?」と胡散臭い目で見ていたが、黒柴は分かる子と思えば教えるのも楽しい。


 俺という先生に、生徒が二人出来たようで、非常に気分がいい。

 そんな訳で今日も夕暮れ時に校門から出て、街へ着いたときにはとっぷりと日が暮れていた。

 着いたときのイニネスの興味事は「地面の石には色々な形があるけれど、それは何故?」ということだった。

 とっても難しい問題だ。


 いや、簡単ではある。

 風で飛ばされて地面や他の石にぶつかり、形が整えられたり、雨ざらしで削られたりとか色々ある。

 その辺りを説明し、分かってなさそうな顔を二人がしたので、街の外で実験。

 適当な石を複数持ってこさせる。


 魔法で作ったり、俺が持ってくるのも有りだが、この場では俺が先生なら、生徒が持ってくるべき……という意味ではなく、黙って授業を受けて分かった振りをするより、授業で身体を動かして学ぶと、身体が覚えてくれる。

 だから、石を持ってくれば、この授業は石でやった授業で……と、連想する形となる。

 もちろん、俺も持ってくる。

 別に先生だからと言ってふんぞり返るつもりはない。


 だから一緒に大きめの石を探す。

 こういうのはインパクトだ。

 でっかい石をバカリと割ればインパクトはデカい。

 小石など割ってもしょうがない。


 ということでウキウキ、わくわくとしている黒柴と、余りの退屈さでぐっすり夢のなかの白柴を尻目に、イニネスと共に街のすぐ脇を流れる川の土手で大きめの石を探す。

 そうこうしている内に「もってきた」とイニネスが石を目の前に持ってきた。

 どれもこれもそこそこ大きめだ。

 対して、俺の石は胸ほどにある石と、イニネスが持ってきた石の大きさが劣るものが複数。


「うん、イニネス重くなかった?」と聞いてみた。

 割りと、いや普通に重かったであろう。

 だがイニネスは「ううん、そうでもない」と淡々と答えた。

 そんなことはないだろう……とは思うものの、本人がそういうのであればそうなのだろう。


「じゃあ早速だけど、こういう石は……」

 早速実験だ。

 何事も実験。


 まずは風で飛ばせることを実際に見せる。

 使う魔法は「狂風」をかなり弱めにしたものだ。

 とはいえ、ティータぐらいであれば飛ばすことが出来る、例の風量程度のものはあるが。

 ということで。

「ほら、俺が持ってきたこの石を……「狂風(バイオレントゲイル)」! で、このように簡単に飛ん……」


 結果から言えば飛んだ。

 飛んだが、そのまま十五メートル先の川にぼちゃんした。

「おおー、」とキラキラと目が輝く生徒たちの、純粋そうな顔がこころにぐさりとくる。

「飛んだねー」と黒柴の声が聞こえたのはきっと気のせいだ。

 だって彼女は獣化している筈だから。


「……このように重かろうが、それ以上に強い風なら飛ばせるんだ」ととりなすように、強引に話を続ける俺。

 正直、カッコ悪い。

「では、次に……」と言って、十五メートル先の川へ向かう。

 それは何故か。


「ひえっ、()っ」

 飛ばした石を取るためである。

 胸ほどの大きさであるが故に、石と石をぶつけるには使える物だ。

「寒い、冷たい冷たい冷たい。っていうか重い。マジ重いし寒い!」


 ということで寒いながらも持ってきたこの石。

 とっぷり日が暮れていて、それも相()って非常に寒い。

 それでも、イニネスと黒柴という生徒のためだ。

 生徒のために、身体を張りたくなるのが先生という生き物だ。


「で、だ」

 そういって寒い中で実験だ。

「先程のように飛ばせることが分かった。では、どのようにして形が変わるか。この石も先程と違って、ほら」

 そういって指を指し示したところは、

「このようにぶつけた衝撃で、ここが欠ける」


「ふんふん」と二人が頷く。

「ここにイニネスが持ってきた石。この石はほら、こうやって(とが)っているだろう?」

「うん」とはイニネスだ。

「うん、ではこの石が先ほどの……この石のように飛んだとしよう」


「ふんふん」

「びゅわーっと風に舞って、飛んだこの石が……この石を地面に例えてね」

「うん」

「とりあえず飛びました。で、地面にぶつかり転がります」


 そう言って尖ったところをひっかくようにする。

「うん、」

「で、なんどもなんども転がる内に、こんな感じで」

 そう言ってガンガンとぶつけて尖っていた部分をへし折った。

 新たな尖りが出来たが、それはいいとして。


「こんな感じに折れました」

「うんうん」

「で、これが……」

 そう言ってまた尖りの部分を削るように、ガリガリと引っ掻く。


「このように引っ掻くとほら尖りが段々と削れて……丸みを帯びてきただろう?」

「うん、」

「このように地面の丸みを帯びた石が出来たって訳」

「うん、」


「では、色々な形の理由だけど。このように丸みを帯びるのも、風に飛ばされるなりなんなりしてそうなる訳だ。

では……だ。全ての石は、等しく風に飛ばされるし、等しく同じ大きさ……かい? イニネス」

「ううん、ちがう」

「何故だい?」


「先生の「きょうふう」で飛ばしたこの石も、ボクが持ってきた石も全部ちがう形で重さ」

「そう。よく分かったね。そうなんだ」

 全て、

「違う石なんだ。風に飛ばされるだけじゃない。例えば……こんな感じに」

赤熱の刃(レッドブレイド)」を装填して、石を炙り赤熱化させたところで、急激に冷やし、その石にでこぴんを一発。

 当然と言わんばかりにパキンと割れた。


「と、このように割ることも出来る。そして割ったらまた風に飛ばされるか、川に流されて同じ石とか水によって削られて違う重さで違う形の石が出来る」

 という訳で、

「何か他に質問……あるかい、イニネス。それと黒柴」

 白柴はとにかく寝ているので放っとく。


「ボクはない」

「わうふ」と言って首を横に振る黒柴。


 これでひとまずは質問コーナーはおしまいだ。


「じゃ、白も退屈で寝ちゃってるし、さっさとご飯を食べに行こうか」

 ということで街に入り直した。


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