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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第4章-歴史の分岐点- 恐怖の怪物(Nightmare Horror)
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学芸会



 クソと修飾語がつくぐらいにクソ寒いこの日。

 学芸大会が始まった。

 体術学校生は運動会で、魔法学校の方は出し物だ。

 既に薄れかかっている生前の記憶では、学芸会というものは生徒が楽しむというより父兄が楽しむもの……という印象が強かったが、この世界だとそんなところでもなく、出し物したい奴は発表し、運動会に参加したい奴は出場というような具合だ。


 というのも、親の手から離れて寮に住んでいる人間が多いこの学校。

 生前の学校のように父兄といった親御さんがいないので、見せつける相手がいない。

 いや、いるにはいる。

 それはこのビルーボーストで住む住人の皆さんから始まり、他国の公務員……つまりは政界関係の人たちが見に来る。


 そういう人のおメガネに適えば、学芸会と運動会参加者に内定が出る。

 そう考えれば張り切るものが多く出るだろう。

 で、軍属関連の近衛騎士団、魔法騎士団といった連中に関しては、学芸・運動会の合間に開催される闘技大会を観る。

 最初から血の気が多い連中を抱えて、性格にちょっぴり難があるだけならば、そのちょっぴりを矯正してやれば立派な騎士になってくれる。


 で、俺はというと既に身分が固まっているので観る側だ。

 とはいっても、別に誰かに対して内定出したり出来るものでもないし、そもそも出来る権限を超えているし自ら首を突っ込むものでもない。

 そういうのは、そういうのを仕事にしている人たちがやるものだ。

 そんな訳で今日はクオセリスとデート……ではない。


 クオセリスとのデートは三日目であり、一日目は学芸会、二日目は運動会だ。

 本当はそれぞれ参加しなくてもいい。

 というか、体術学校生なので一日目は寝ててもいい……のだが、護衛兼使い魔のパイソとニルティナの二人がセシルとクオセリスから離れてしまう。

 だから、代わりにということで護衛という形で二人とセットで見ることになった。


 それぞれ別クラスではあるが、色々あってワンセットでいることが許可された。

 まあ有力貴族の娘であるセシルと姫のクオセリス。

 ワンセットに固まってくれた方が色々と楽である。

 守る側としても襲ってくる側としても。

 ということがあってなのかは不明だが、おそらくそういう理由でワンセットにさせてくれる許可を貰った。


 で、今セシルとクオセリス、その他ザクリケル関係者を集めてザクリケルの建国神話を簡単にまとめての発表中だ。

 クオセリスのネームバリューだけあって……騎士系の人たちが多くいる。

 流石に剣呑な魔力とかその類はないが、クオセリスに対する視線が中々に危ない。

 アイドルに対する熱意とかそういう如何わしい……とかそういうもんではないが、ちょっと言葉にし辛い何かがある。


 魔力検知には一切引っかからないので多分きっと大丈夫だろう。

 セシルには可哀想なところだが、クオセリスには現在『戦熾天使の祝福』の懐刀を持っている。

 危険が迫ればクオセリス自身が使ってくれるだろうし、相当致命的なことが起き得ると判断したら自動起動の許可も出している。

 よって、今一番安全なのはクオセリスの側にいることだ。


「で、あるからして――」

 クオセリスのキリッとした声音が壇上から響く。

 今回のクオセリスとセシルの発表は……、いわゆる惚気(のろけ)な話だ。

 というのも、俺自身ザクリケル人ではなく、カルタロセ人だ。


 よってザクリケルの建国神話など知らないし、タナベたちの自習時に聞いたクオセリスの名前の件も知らなかった。

 ということをクオセリスにぽろっと言ったところで、今回の発表テーマとなったという裏事情。

 表事情も俺が知らないのだから、他国も知らないのかもしれないということでテーマになった。

 で、俺みたいな子どもでも分かるぐらいに丁寧な話だ。


 更に言えばプロではなく、正に自分たちで劇として例の名前の件の神さまとお姫様をやる始末。

 解説はクオセリス。

 神さま役はセシル。

 お姫様役はまた別の人で、女子寮でちょっと見たことがある人だ。


 たしか……、

「エメリア……だっけか」

 ティータにラブラブ光線出してた気がするが……。

 そういや、ティータとカクト二人の救出の際に見てから、それっきりだ。


 ティータにそういう浮ついた話はとんと聞かないが、どうなったのだろうか。

 俺個人に嫁が出来ているからか、やっぱり他人に対する余裕も出てくるものだ。

「気になるな……」

 どうなっただろうか。

 一息吐いたら聞いてみるか。


 もちろん、彼女には聞かない。

 面識がほぼ無いからだ。

 だから、ティータに聞く。

 聞いてみて何も起きてなかったら、愛のキューピッドばりにくっつけさせよう。


 もし起きてたら心から祝福すべし、慈悲はない。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 いやまぁしかし、劇というものは割りと馬鹿にしていたが、なかなかどうして面白いものだ。

 ことの成り立ちである建国から、神さまの話。

 お姫様の話。

 どれもこれもまさに神話だ。


 突拍子のない、いかにもな神話臭がぷんぷんする。

 ザクリケルはでかい国で、エーゼ国領があるとはいえエーゼもとい、ティクの辺りも山に囲まれている。

 そして、お隣のザクリケルとズミューレーリーに、ケキエの国境も基本的に山を境にしている。

 つまりはこの国は山に囲まれた一個の世界と思われていた訳で、神話系でよくある。

 亀の上に象さんが乗っかって云々という世界観が出来た。


 海が近い訳だから象というより魚らしいが、似たような感じの世界観で、名前云々のもっと前の建国神話での女神はセイレーンというか人魚というか。

 セイレーンが歌を歌ってそのお魚を止めた。

「ずっと泳いでいたのだろう? ちょっとは休んだら?」といった内容だ。

 その後「言われてみれば確かに身体は疲れてるし、お言葉に甘えてここで寝るか」といって眠りに付く際に、「寝坊するかもしれないから、あとで起こしてくれ」とセイレーンに言ったそうな。


 で、今に至るわけだ。

 モーニングコールしてくれないセイレーンがマジキチである。

 そのセイレーンが獣魔族の括りだから獣魔族の国であったが、血が色々混じってクオセリスのような人魔系種族が主になったようだ。

 もちろん、獣魔族は髪の御使いということでザクリケル全体かどうかはともかくとして、ツペェアは獣魔族を重要視しているそうだ。


 確かセシルは人族の血が強い、獣魔族だった筈だ。

 重要視されるということであれば、多分きっとセシルも重要なポストに付けるかもしれない。

 なにせ彼女のことだ。

 キャリアウーマンばりにバリバリ働くだろう。


 パイソとかあの辺りは働く能力があるか分からんが、セシルは独立心が割りと強いし、もしかしたら食っちゃ寝していたら俺を見てぶん殴るかもしれない。

 怖い怖い。

 そうならないようにちゃんと働こう、うん。


 そういえば、パイソで思い出したけれど。


「闘技大会の予選だっけ。今、何やってるんだろうな。見に行けば良かったな」

 ああ、くそ。

 いや。

 折角、ザクリケルの神話を劇込みで教えてくれているんだ、

「俺もしっかり勉強しないとな」


 向こうは向こうでしっかりやるだろう。



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