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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第1章-人生の分岐点- I
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本日の更新は最後です。



 

 儂の警戒度は一瞬で振り切った。

「――なんの用じゃ、貴様」

 言外に殺すぞと殺意も合わせて、腐った貴族(ヤツ)にぶつける。

 庭の樹木が、儂の殺意に震える。


 儂の家に留まっている馬車の軍馬も怖がっている。

――知ったことか。

 と、更に殺意を膨れ上げ、軍馬は泡を噴いて気絶した。

――この時機に、此奴のようなのが現れたとなると、王国の情勢のことしかあるまい。


 そんな中、殺意を物ともせずに、大仰に腕を広げて貴族は儂に問うてきた。

「おや、そんなに殺意をこのワタクシめにぶつけるなど、このワタクシは貴方に何かしましたでしょうか?」

 儂の眉がピクリと上がる。

「ああ、失礼いたしましたぁ。ワタクシめは次期国王陛下の使者でありまぁす、クエッドと申しまぁす」

 なんじゃ、このふざけたクソは。

 殺してやろうか……。いや、殺すか。


 (グレートソード)を持つ手に力を入れる。

 この感覚も久しぶりだ。

 いや、それもそうか。

 剣を持つこと自体が30年程前が最後だ。

 忘れているものだと思っていたが、いやなるほど、相棒は儂を待っていたようだ。


「おおっと、ワタクシめを粉砕する前にお待ちくだすぁい」

 出鼻を挫かれる。

「我が次期国王様は、魔族のことをとてもとてもお嫌いでして。その魔族を擁する村も『粛清』の対象だと仰っておりまして、ねぇ」

 儂の思考は真っ白になる。

 このクソは今何を言った?



『粛清』だと?

 クソは話を続ける。

「ワタクシめは、このように素ぅ晴らぁすぃい村が炎に染められる姿を見たくはないのでねぇ。

文句を言わずに魔族を差し出して頂けると助かるのですが」


 クソの話は聞こえない。

『粛清』という言葉しか聞こえない。


「――貴様」

 警戒値ではない。

 殺意の計器が振り切る。

 振り切った上に一周し、更に再度振り切る。

「――殺す」


「あらあら、貴方様のような魔法が使えない獣人族であれば、魔法具の有用性は分かっておりますよねぇ?

それとも、知らなくて?」

 魔法具、それは。

「知らないのですっか! それでは教えて差し上げまぁす。

魔族という汚らわしい人形に傷を入れて上げて、生きたまま捻ってあげればあら不思議。

簡単に身体がもげますよねぇ。

それを封印処理してから、殺せば……ウフフ」


――聞きたくない。こいつの言葉は聞きたくない。

「本来、魔族が死ねば身体が宝石のような汚らわしいながらも綺麗な板になり、そのあと砕け魔力素となりまぁす。

まったく、何故魔力素になるのか。

わかりませんねぇ、そのまま宝石になればいいものを、もったいない。死んでからも我々、人族にと獣人族に優しくない種族だこと」


――聞きたくない。聞きたくない。

「でもぉ、封印処理を施しますとあらぁ不思議。魔力素の塊の部位が出来ちゃうのですよぉ。

目玉も、耳も、腕も素ぅ晴らぁしぃいものですよぉ。それがあれば、自身の魔力を超過した魔法も思いのまま使えますからねぇ。最近は隣国の戦争も控えていますかぁら。

とにかく、魔族が欲しいのですぅよぉ。

だから、国を助けると思って、差し出してくれないかしらねぇ」


 儂は、歯を噛み締めた。

 ここまで馬鹿な話があるか。

 国のために、種族を差し出せ、だと。

 ふざけるな。

 儂が、俺がそんなもののために、国を守ったと思っているのか。

 俺の傭兵時代に友人らで馬鹿話をした。

 学がない俺たちだった。


 一番馬鹿な力だけで見た目の怖さで俺のせいで泣いちまった女の子を、あやしてくれて、結局危ないときに俺なんかを庇って代わりに死んじまった、人族のフィリップ。

 一緒に娼婦街行って、奴が自身の嫁にボコボコにされ、最期は戦火で焼かれた自宅にいて奴の人族の嫁を覆い被さるようにして、共に逝った魔族のグレーゼ。

 ほかにも一杯ある。

 俺を良くしてくれた、同じ熊人族で構成された赤毛熊団のリーダーも俺が騎士になったときに、一緒に喜んでくれた。


 ああいう奴らが精一杯守って助けた、この国がこのクソに殺されるのか。


 ふざけるな。貴様。

「貴様」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「その、ご様子ですと。交渉は決裂ですねぇ」と奴はうっすら笑いながらやれやれと肩を竦めていた。

「何が、おかしい貴様」


「いいえ~、ただ、まあ宮廷騎士団長様にも同じ交渉しましたけど、首を縦に振らないので。

たしか、宮廷騎士団長さまのご自宅は森の外れですよねぇ。

まぁワタクシめは話に挙げただけですから、詳細は知りませんけど。

ワタクシめの護衛の騎士団は、まあそれはそれは女性を見れば幼い子でも……。

どうなったかは知りませんけどねぇ……。

……たしか宮廷騎士団長様の細君様は、まだ娘盛りの方ですよねぇ」


――貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様


「貴様アアアアアァァァァァァァァァァァァァァァ」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 と、そのとき。


 村の学校から。


 人智を超えた魔力の奔流が半円球状に村全体を覆った。

 半円球の表面に字が描かれているが読めない。

 この世界の言語ではないようだ。


 だが、脳内に意味が響く。

 声だ。その声も何を言っているか分からない。

 その声はメティアやシスであれば直ぐに分かった。

 その声はミリエトラルが右腕(じゅうぜんのことわり)に話しかけていた、言語に似ていると。


 その魔力には赤くて緋い猛烈な怒りと、黒くて昏い悲しみが見て取れた。

 村長には、この魔力の出処が分からない。

 ただ、分かることはとにかく怒りと悲しみ。

 庭の樹木が枯れてゆく。それも急速に。

 感情の魔力が、力を持たない者を順に殺してゆく。

 村長の周りにいた、野生の虫たちが死んで落ちてきた。

 ほんの奔流が溢れるその寸前まで空を飛んでいた、鳥達も絶命した状態で落ちた。


 その時、ことばが脳内を巡る。

――殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺


 言語が違うから音も分からない。

 ただ、意味は響く「殺」と。


 そのほんの刹那後、魔法の名前だと思われるモノが脳内に響いたとき。


 学校が。学校で。




 感じたことのない。


――『死』が。


 常識外の。


――降りた。



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