表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第4章-世界の分岐点- 叫喚の魔王(Lord of ScreamPain)
302/503

発覚

 いつもの朝。

 ちょっとだけ涼しくも、これから暑くなるだろうと簡単に予想がつくような朝。

 朝の日課通りに"まらそん"をしにエルリネと共に、女子寮前で待ったが兄上はともかくとして、黒白たちも予想通りに来なかった。

 仕方がないとは思う。


 黒白たちも兄上に誘われて"まらそん"に来ているようなものだと思う。

 兄上がいなければそんなものだ。

 だが、少々不安がある。

 つい昨日の出来事のことだ。


「エルリネ」

「なに、パイソ」

「……すごい、嫌な予感がするのだが、否定してくれないか」

「奇遇ですね。私も否定して欲しいことがあります」


 エルリネにも否定して欲しいことがあるらしい。

 ただ先に私の方から否定して貰おうか。

「あの二匹、"まらそん"好きだったよな。来ない理由って昨日のことか?」

 兄上と一緒にいたからなのか、どうなのか知らないがあんなに楽しそうに跳ねる奴が来なくなるなんで相当だ。


「昨日のこともあるかもしれませんし、どうとも言えないですが、関係はあるかもしれません。

……ただ、単純にご主人様がいないから……ということもありえますが」

 なるほどね。

 ただ、

「じゃあ、もう一つ」

「その前に私のも否定してください、パイソ」

 順番だから仕方ないな。


「わかった、何を否定して欲しい」

「……パイソ、あなたは黒白たちの魔力って検知出来ますか?」

 流石、エルリネだ。

 私のもう一つ否定して欲しい案件をズバリ言ってきた。


「そういうことは……エルリネは検知出来ない、と」

「ええ、私だと魔力検知はうっすらここに何かがある……って程度ですから」


 ……知らなかった、そういうこと。

 兄上の魔力検知はどこどこに何があってっていうのが、分かるって言ってた。

 話を聞くと魔力検知というより悪意・敵意検知のようなものと思っていた。


 そして私は似たようなもの……ということは言い切れないが、周辺に魔力があればそれを検知。

 一応、その魔力を覚えればある程度の場所は分かるというもので、検知というよりどちらかというと探知で、相手がどれぐらいその場にいたか。潜伏していたか。何度足を運んでいるかどうかを視る魔力検知方法だ。

 だが、逃げていくまたは追いかけてくる対象を探知というのは出来ない。

 あくまで止まった相手にしか出来ないというものだ。

 兄上は訓練すれば追尾出来そうとは言っていたが、どのように訓練すればいいのか……。


 私がこうで、兄上がそうならしぜん、他人も似たようなものと考えていたものだが、エルリネはちょっと違うのか。

 ……覚えておこう。


「ならば、答えは決まっている」

「……やはり」

「黒白たちがいつもいる魔力の残り香が多く溜まっているところは、検知した感触でいえば五個。

内訳は、ここ女子寮前。カクトさんの部屋の中。兄上が住む男子寮。森林公園。"まらそん"の休憩所」

「…………、」


 で、いた? と聞きたそうな面持ちのエルリネ。

 もちろん。

「いない」

「……そう」

「この街は大きいからな、あまり検知しにくい。通常の魔力程度だと他人が多すぎる。範囲を広げると誰がどれか分からない。

……が、私にももちろんエルリネにもそうだが、あの黒白たちには『精神の願望』があるからな。それが出す魔力は非常に特殊だ。本当に分かりやすい」


「へぇ、そう、なんだ……。私、周辺探るはどうにか出来るけど、この街を探すなんてもちろん出来ないし、『精神の願望』に引っ掛けやすい魔力を出すなんて知らない」

 じいっと羨ましそうにエルリネに見られる私。

 結構、エルリネは目力が強いから、怒られそうで結構怖いから睨……じゃなくて見ないで欲しい。

「ま、まぁともかくとして。この魔力検知を信じると……、兄上はともかくとして『精神の願望』貼っているみんなは……」


「…………、」

「街の出入り口周辺にたむろったり出入りした?」


「私はもちろん。パイソは?」

「あるわけないだろ。街に行っても街中で何か購入するか、劇を観に行くぐらいだ」

「ニルティナは……まぁあの娘はいいでしょう。ビルーボーストに草木を生やしまくるとかなんとか言ってただけだし……。エレイシアもお友達はいるらしいから、その子たちに連れられて……じゃなければ……」


「……因みに最近、特に昨日から今日に掛けて」

「……知ってて言ってるでしょ。みんないたじゃない」

 もちろん、確認程度だ。


「下手人のエレイシアと私たちが、被害者のカクトさんと共に寮母のクォリャさんに謝って、学校に謝ってフォートラズムさんにもごめんなさいをして、どうにか許して貰ったのに」

「だから、念のため……だって。記憶障害起きてないかの確認だ」

 因みに、謝ったら許してくれたフォートラズムという男。

 心なしか口元がピクピク動いていたのは、怒りか呆れか。


 その後は私は参加しなかったが、ニルティナとセリスとエルリネの三人でがみがみとエレイシアを怒ってた。

 いやあ怖いですね。特に目の前のエルリネが。

 ほんわかふんわりで、『人は間違っても殺せない人』と、ツペェアでは評したけれどがどうしたらこうなるのか。

「その話しからすると、街を出た。と」


「ああ、その可能性が非常に高い。具体的に言うと、昨日と夜半(やはん)に掛けて……だ」

 というのも、

「探知したもので一番新しい登録がそれだ。ただもちろん白が街周辺で家出もどきをしていれば、探しにいくのも可能だ」

「……もし黒柴も出たとしたら?」

「分かっているだろう? 夜半に出て帰ってこないとしたら、相当な距離を未だ移動中か。冒険者の類に狩られたか。前者であって欲しいが、我々で追い付くのは多分無理だ。エルリネは夜半から今に掛けて走っている獣に追い付けるか?」


「無理ですね」

「だろう。体力的なものもあるし、速度もある。我々が出来ることは、黒柴は実は男子寮にいて『私の探知が効かなかった、ビビらせやがってバーカ』と嗤って周辺を探すか、兄上を待つの二つに一つだ」

「ば、バーカ……。ま、まぁばーかだといいですね」

 まったくだ。


「だから、まぁ。男子寮に行こう。男子寮にいてくれれば助かる」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 男子寮前についた。

 走った際の脂汗と、黒白たちへの冷や汗がだらだらと流れて非常に気持ちが悪い。

 さっぱりしたく、身体中を拭きたいところだが、男子寮前だけあって私を見る男の目が多すぎる。

 こんな中で身体中を拭いた日には、犯されること必至だ。


――まぁ、要件をさっさと言ってしまって確認取れば帰れるから、いいと言えばいいのだが。


 私自身、兄上というか人間が好みそうな身体になってはいるが、正直な話兄上以外の人間から色目使われたり、鼻の下を伸ばされたりするのは非常に不快だ。

「好きです!」と言われた日にはぶん殴りたくなった。

 もちろん、殴った。

 殴ったら「もっと殴って」と言ってきた。それも何度も。


 もちろんお望み通りに何回も殴った。

 最後には「もっともっとおおお、本気でぇ!」と言われてドン引きした。

 なお、それ自体は許されている行為だ。

 何故なら、剣技部で何故か元部長との実戦時だ。

 私自身は兄上に剣を使って勝ち、また剣で兄上の隣に立ちたいと考えてた。


 だから剣技部というものをやってみた。

 剣を振るって、兄上との実戦と実践を交えて覚えた魔法を使ったところ、何故か尊敬されるようになって、何故か部長とやらと相対していた。

 正直、意味がわからない。

 何度か部長と切り合った挙句、最後は殴りあった。


 いや、殴りあっていない。一方的に殴った。

 それも結構本気で。

 最後の一撃は、兄上から教えてもらった"こんぼ"とかいうものをやった。

 殴って蹴って、蹴ったら浮いた身体を落として殴ってを繰り返すとかなんとかを、まず兄上のいう"ひいらぎ"とかいう鎧鱗を右手指に付けて、引っかき(えぐ)るように胸元の革鎧を穿(うが)ち、左手指にも同様に"ひいらぎ"を出して脇腹を捉え、頭突きされそうだったのを一瞬だけ"ひいらぎ"を額に着装。


 鱗鎧の脚甲の足の裏で返しがあって抜けにくい棘鎧――兄上が棘鎧と命名――で蹴り出して距離を取りつつ返しで、一緒に顎も裏拳でかち上げて倒しながら突き放し、……自分でも分かるほどに普通の女性――エルリネとエレイシア、セリス――よりも非常に重いと分かる自分の身体で元部長の腹に飛んで落ちてやった。

 吐瀉物(としゃぶつ)が噴水のように出たが、今も元部長は普通に生きているし一応ピンピンしている。

 だから多分殺人にはなっていない。


 で、何故か私が部長になった。

 だが、部長なんてものは私には分からない。知識にもないことだし、覚えるためにやるかというとそこまでしたくもないので、丁重にお断りして自分の手に合った剣の手入れを部室でしていたら、私が部長ということは確定し、元部長は部長代行になった。

 ということがあって以来、私に対して色目からの愛の告白はなくなった……が、私が部長とかいうめんどくさいことになったお陰で、私に喧嘩売ってくる奴が増えた。

 で、ついでとばかりに胸も見る。

 あと、鼻の下を伸ばす奴は相変わらずいる。


 非常に不快だ。

 一人に対して不快なことが二回も起きる。

 だから、男子寮は嫌いだ。

 喧嘩売ってくる奴と胸を見る奴がたくさんいる。


 服装も割りと見えにくいような服を選んではいるが、まったく効果はない。

 そんな場所だから早く帰りたい。


「……エルリネ」

 非常に不快だから、エルリネに任せようとしたところでエルリネは既に側にはおらず、既に建物の……、寮父さんがいる部屋の前にいた。

「エルリネはすごいな……」

 毅然とした態度を崩さずにこんな中を歩けるなんて、私には出来な……くはないけれど、不快に感じることは感じる。

 エルリネにはたくさん見習うことが多いな、うん。


 エルリネに小走りして追いついたところで、ちょうど

「すみません」

 エルリネが部屋の中に入り、寮父さんに声を掛けた。

「はいはい、なんでしょうかね」

 と、寮父さんがエルリネを見る。

 エルリネも男性好きするような肢体を持つ。


 正直、私以上に均衡がいい。

 そんな中意外にも、目の前の寮父さんは胸とかはまぁ見ただろうが、鼻の下を伸ばしたりは特にせず紳士的な人らしい。

「ご主人さ……いえ、ウェリエ様の同室の方のお呼び出しをお願いできますか」

「ウェリエくん、だね。ええと、ティータくんでいいかな?」

「ええ、ティータさんでお願いします」


「うむ、少々待っていなさい。今、呼んでくるから」

 そう言って寮父さんが部屋を出て呼びに行った。

 その間、私たちはこの好奇の目に晒されながら待つことにした。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ものの二、三分もしない内にティータが来た。

 側にはイニネスがおり、二人とも不思議そうな顔だ。

 というか、イニネスを見るたびにふつふつと、兄上と一緒にいて羨ましい、妬ましいと思う心がここにある。

 うーん、これでは兄上に嫌われてしまう。


「どうした? ウェリエだったら今日帰ってくる予定だけど……」

 ティータが聞きに来たが、外に出るように促しつつ、「……いえ、黒柴はいますか?」と返したのはエルリネだ。

 この話は割りと内輪の話だ。

 あまり他人には聞かれたくない。


「黒柴? 女子寮にいるんじゃないの?」

「女子寮……ですか? なぜ、そんな」

「え、いやだって。女子寮で寝転がってる白柴を置いて帰ってきたとか……じゃないの?」

「い、い……いえ。白柴はどこかに行ってしまいまして、黒柴はイニネスと共に男子寮まで送ったのですが……」


「えぇっ、なにそれ。初耳だよ」

「……っ」

「だから、あんなに黒柴はしょぼくれてたのか……!」

「あう……、あの黒柴は今どこに……?」


「ごめん、分からない」

「えっ」

「夜中に黒柴が起きて、扉を開けて欲しいとばかりにカリカリと引っ掻いたから、扉の鍵を開けて扉を開けたんだ」

「…………っ」


「女子寮で寝ている白柴に会いにいくのか。怪我すんなよーとは言っておいたけど……」


「パイソ」

「ああ、」

「マズい……ですよね」

「ああ、マズい。確定した」

 状況は結構深刻だ。

 元野生とはいえ、ほぼ一年ほど飼われてた黒白たちだ。

 野生の勘なんて消えかかっているだろうし、そうじゃなくても危険はたくさんある。


「マズいって何が、まさか……」

「そのまさかは分からないが、私の魔力検知を信じれば、黒白たちは街の外へ」

 私の予測は聞いたティータは、"苦虫を噛み潰した"かのように顔を(しか)めて、「マズいな」と一言。

「マズいというと……」


「ある程度の予測なんだが、ウェリエが今いるとされるところは、黒白たちと出会った場所らしい。そこに行ったとか……はありえるか?」

「無くはないと思います」

 とはエルリネ。


 確かに無くはない。

『精神の願望』が何故か兄上がいる方角を必ず一定の頻度で示してくる。

 これはもう、エルリネはもちろんエレイシアに聞いていることだ。

 エレイシアなんかは方角どころかある程度の距離まで示しているそうだ。


 黒白たちがそれに釣れられて、向かうなんてことはあり得る。

「そうか、ウェリエから聞くと割りと遠いらしい。お昼前後ぐらいから夕食前ぐらいにはつく程度だとか。そんな距離だということは、恐らく北のナーの巨森(きょしん)の西よりの辺りだと思う」

「ナー……ですか」

「あそこの森は地図で見ると非常に大きい。探すのは困難だ」


「…………っ。それでも、それでも家族だから、探したいんです」

「ああ、私も家族だから探したいんだ。だから、ありがとうございます。大体の場所を教えてくれて」

「いや……行くな」

「何故……ですか」

 行こうと考えた矢先に止められた。

 何故止めるのだろうか。


「まず、遠いから、今から向かうよりはウェリエを待ったほうが多分いい」

「それでしたら、パイソとエレイシアを置いて、私と別の者で探索します」

「それと、眉唾ものだが……、いやちょっとここではいえないから、もうちょっと離れようか」


 そう言ってイニネスを含めて四人ともだいぶ離れた上で、聞き耳立てられても聞き取りにくいように小声で話すことにした。

「で……だ。実は、ナーの巨森にな。カルタロセの魔族排斥派の中でも割りと喧嘩腰の奴が来ているらしい。下手したらお前らが攻撃される」

「だったら、尚更早く探しに……!」

「今から行って間に合うか? 無駄骨なら無駄骨で済むだろうが下手したらかち合って殺されるぞ」


「いや、流石に殺されは……」

「いや、する。何故なら排斥派のそいつは『勇者』だからだ」

「え……『勇者』なのに、するのですか?」


「カルタロセってのは『勇者』は無礼講が許されるんだよ。なにせあいつらの『勇者』は国の代表で正義なんだからな」

「……という、と」

「国の代表だから、あいつらの行動は国の正義だ。あいつらが罪と言えばそいつは罪人になる」

「なっ」


「"気に入った他人の妻がいれば、無理にでも自身の妻に出来る"という程になんでもしていいと考える連中だ。そんな奴が排斥派だぞ。お前らがあたってみろ、即断罪だ」

「……にわかには信じ――」

「信じられなくたっていい。余りにもあんまりな事実だ」

「……くっ」


「酷なこというけど、お前らが探しに行って黒白と共に殺されて帰ってこなくなるより、黒白たちだけが犠牲になっただけのほうが何十倍もいい」

「…………、」

「もちろん、一番いいのは黒白たちは犠牲にならず、そいつをウェリエがぶつかってぶち殺せばいい。あいつなら、ものの数秒で出来る。もしカルタロセが文句言ったとしても、ウェリエの元はカルタロセ国民だったとか」

「そうですね。私とご主人様の出会いはカルタロセです」

「なら、尚更だな。あいつが強引に『カルタロセ国民の『勇者』で、『勇者』が余りにも目に余るので特権で殺しました』と(うそぶ)けばいい」


「ですが……」

「居ても立ってもいられないのは分かる。でも仕方がないんだ。ウェリエを待つしかない」

 カルタロセとかいう国は中々厄介な国のようだ。

 兄上の出身国でなければ、いや出身国であっても私の身体が成長しきったら、滅ぼしてやろうかと考えるぐらいに苛立ってきた。


「とにかく、帰ってくるとしたらまずは男子寮に来る。そうしたら、俺が言っておくから今日は帰れ。

男子寮にいてもお前らのことをジロジロ見るやつしかいないし、そもそも俺の部屋には入れない。イニネスはともかく」


「ぐ、ぐぅ」の音しか出ない。

 ただ、エルリネは少々納得したようだ。

「……一つ聞かせてください、ティータさん」

 とティータに聞いた。

「うん、なに?」

 応えるティータ。


「何故カルタロセのそういったことを知っているのです?」

 対して、深く目を閉じるティータ。


「理由は三つ。一つは昨日タニャベ……とナイアーっていう奴がいてな。そいつらと話題になった。カルタロセの排斥派が来ているってな」

「…………、」

「もう一つは……、俺の故郷的な話だ。ちょっと色々あるんだよ、俺にも……ね」

「では、」

「で、最後の一つは……さ。俺のパートナーだぜ、ウェリエはさ。いつかアイツの隣に立ちたい。だから、アイツの故郷のことも調べたんだよ。

……それこそ、苦手な本を読みに図書館に通ってカルタロセのことを学んだ。それだけさ」


「…………、」

「アイツは俺のあこがれだ。本当に尊敬している。

授業は卒なくこなすし、頭はいいし。

俺の知らないことをよく知っているし、付き合い始めたときなんか俺はアイツに冷たいことをしたけど、アイツは笑ってたしそれを許してくれた。それだけじゃない。

俺を助けてくれたことが二回もある。

あのズミューレーリーの蛇のときなんて、俺じゃどうにもなんねぇってときにアイツはあっさり蹴散らした。

俺とカクトがとっ捕まったときもそうだ。あっという間にノしていった。アイツに勝てると思っていた。ズミューレーリーの蛇だって、頑張ればイケると先生から聞いていた。

実際に一人で倒した人がいると聞いたからな。俺もイケると思った。

だけどさ、本物を目にして何も出来ず、ましてや自分が捕まったときも出来る……! と考えて、立ち上がるように心を言い聞かせてもどうにもならなかった。

それを、ウェリエはやったんだ。勝てない。絶対に勝てない。俺がウェリエに勝てるところはなんだ」


「…………、」

「何もない。勝てるところなんてない。アイツに追い付くだけでも精一杯だ。だから『隣に立つ』なんて叶えられる夢なんかじゃない無謀でしかない。

剣技部のパイソになんか当然勝てない。ウェリエにゃ魔法の腕に関しては比べるのもおこがましい。

エルリネの体捌きに、まだまだ追いついていない。だから、勝てるものというのは実戦にはない。あるのは知識だけだ」


「…………、」

「だから、アイツの側に立てるように知識を持つ。だから、カルタロセの話もすぐ出来た訳だ」

「……そう」


「俺はアイツの友人として立っていたい」

「…………、」


「ま、ウェルの知識量もとんでもないけどな。だが、俺が追い付くにはそれしかない。どうにかアイツの側に立てないもんかね。

そういうわけだ。待っとけ、ちゃんと伝えるから」


「……わかりました、帰ろうパイソ。私たちは学校あるから」

「分かった。では、黒白たちのことをよろしく頼む」

「頼まれた。任せておけ」


 そういって、私たちは男子寮を後にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ