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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第1章-人生の分岐点- I
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母の想い


「ミリエトラルのことを綴ったこの母子手帳もそろそろ終わりね」と、私は息を吐く。


 あの子は、ミリエトラルは産まれて間もない頃から、異常な子だった。

 理性的な目をしているときと、赤ちゃんらしい目をしているときがあった。

 シスが赤ちゃんのときは、ぼんやりと私とカルスのことをみていた。


 でも、ミリエトラルは理性的な目で見るときは私をはっきり認識していた。

 もちろん、カルスのことも認識していた。

 ほかにもある。

 はいはい移動が早かったし、言葉を話すのも早かった。


 シスはもっと遅かった筈だ。

 それなのにこの子は早かった。

 夜泣きもそんなにしなかった。

 カルスは神童(しんどう)だと喜んでいたけど、私には異常としか見えていなかった。


 おっぱいから離乳食に変わったときも、直ぐに離乳食を食べることを望んだぐらいだった。

 おっぱいの方がいい筈で、シスも離乳食を中々食べなかったぐらいなのだから。


 異常だった。でも、それ以上に可愛い子だった。


 私が家事で忙しいときは、決まってシスに甘えてくれた。

 そのお陰で、私は大分楽が出来た。


 ミルはシスに甘え、シスはミルに甘えた。

 ただその副作用で、シスは弟を男として見なくなってしまったけども、きっと時間がなんとかしてくれるだろう。

 我が強い割には甘えん坊で独占気質なシスと、対比を成しているミル。


『女』と『男』でここまで変わるのかと考えてしまうぐらい。



 主要属性判定のとき、ミルが無属性が強い子だと、言われたときもそうだ。

 シスのときは火属性が強すぎると言われた。

 赤すぎると。

 色が強すぎると、それしか使えない子になり、そして性格も歪むといわれていた。

 だから、シスの赤色が強すぎると言われたときは、目の前が真っ暗になった。


 この子は歪んでしまうのか、と。

 でも、それをミルが歪ませずにシスをいい子にさせてくれた。

 ちょっと、弟に情欲沸いて歪んでいるけども、それでもいい子にしてくれた。


 ミルも無属性が強かった。

 だから、最初はこの子も歪むのかと思った。

 でも、カルスはそうじゃなかった。

 虹色があると、喜んだ。

 私もその後、虹を見つけて喜んだ。


 虹は万物の神から愛されている色だと、いわれているからだ。

 両親の愛情をしっかり与えていれば、どんな色にもなる。

 魔法使いになる。騎士になる。商人になる。工商になる。狩人になる。

 これらだけじゃない。

 勇者にも英雄にもなれる。


 あの子が望むならば、何にでもなれるのだ。

 世間も虹があれば甘くなる。

 だから、あの子の行く末は私とカルスが心配するようなことは絶対にない。

 私がおばあちゃんになって、カルスがおじいちゃんになっても、あの子は自分の実力(ちから)で羽ばたけるのだ。


 親としてこれほど、嬉しいことはない。


 あの子は私の自慢の息子だ。




 あの子との母子手帳の最後に、私が母から聞いた唄の一文を書いて、この母子手帳は仕舞っておこう。

 成人したら、その時にこの母子手帳を渡すのだ。

 あの子と、多分きっとメティアちゃんが一緒に私のところにくるだろう。



 唄の一文が息子とメティアちゃんに影響を与えて、あの杜の加護は巡り、巡る。


 来るべき未来に私は微笑んだ。


 息子が可愛い盛りのときを思い出した。

 娘と息子が一緒に私に名も無き花で花かんむりを作ってくれたときのことを。




 …………と、そのとき不意に家の扉が叩かれた。



 今日は誰も来ないはず。

 ああ、またミルがテトくんと喧嘩したのね。

 今度はしっかり怒らないと。


 そして、私は。


 扉を()け。


 巨大な影を見てから。


 意識を失った。


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