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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第4章-ある日の一日- XII
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服と首輪

 イニネスがあともう少しで食べ終わるっといったところで、対面の席に「ティータ見なかった?」と言いつつカクトが座った。

「ティータは、まだ夢の中かな」

 姿が見えない辺り、まだ布団の中だろう。

 俺の回答にカクトは眉を八の字にして「そっかー、残念」と呟いた。


「なんかあるのか?」

「いやさ、今日は一緒に遊ぼうと思ってさ。ウェリエくんもどう、一緒に遊ぼ」

 と、誘われる俺。

 いつもなら「いいね!」とばかりにほいほい付いて行くところだが、

「あー、悪い。今日は家族と買物だ」

 今日は先客がいる。

 だから、残念なことである。

 非常に残念だ。


「そっかー残念」

 そういう割にはそんなに残念ではなさそうだ。

「ところでさぁ、ウェリエくん」

「うん?」


「隣の子、僕にそっくりな気がするけど誰?」

「あー」

「なんかやたらと僕にそっくりじゃない?」

「あー」

「髪長いけど、」


「えーっと聞いてない?」

「なにを?」

「ティータから」

「いや、なにを?」

 勝手にティータ繋がりで知っているもんだと思ってた。


「……この子、"寒天"だよ」

「えっ、……"寒天"ってあの、ウェリエの頭の上でぽいんぽいんと跳ねてたアレ?」

「うん、それ」

「跳ねてたのが、何故こんな見事な人型に……」

 それ聞かれても分からないわ。


「それはイニネス本人に聞いてくれ」

「イニネス?」

「ああ、"寒天"のこと。人型になった訳だから名前を使った方が便利でしょ」

「なるほど」

 カクトがイニネスの顔を、まじまじと見ているのがよく分かる。


――そりゃあ気になるよなぁ。


 明らかに自分の顔がウェリエという野郎の隣にいたら、憤慨する。

 分かっている、分かってはいるんだカクト。お前にモテないからって、そっくりに似せたカクトを侍らすとかサイッテーの行いだっていうのは分かる。

 お前に風評被害が被られるのも分かる。

 でも、分かってくれ。侍らせているつもりはないんだ……。


 そんな葛藤の中、イニネスは、

「ボク、イニネス。イニネス・メルクリエ」

 ぺこっと頭を垂らすイニネス。

 対して「僕はカクト。宜しくねイニネス」と応えるカクト。


 で、だ。

「なんで、また僕の顔なんだろう」

「それも本人に聞いてくれ。俺には分からん」

「僕と結構会ってるから?」

「会ってる……か?」

 一番最近で会ったのは、あの逢引宿の飯のときか。


「うん、ごめん。会ってないね」

「だろう」

「うーん、だとすると理由はなんだろうねぇ」

「さぁ?」


「そういえばさっき"買物"って言ってたけど、もしかして」

「もしかしなくても、イニネスの服と黒白柴の首輪を買いに行く話だよ」

「ほほう」

 キラーンとティータがたまに付けているような眼鏡のフレームの端っこが光る。


――そういえば、カクトも眼鏡っこだっけか。


 小さな眼鏡で鼻にブリッジで掛ける感じのもつけたりするおしゃれっ子。


「ねね、ねね。僕も付いて行っていい?」

 それとも……駄目? と言外に聞いてくるカクト。

 女子寮内では我が家のエルリネらと懇意にしてくれていて、クオセリスからは家族かと思うぐらいに親しい付き合いがあるという。

 更に特別誰かと仲悪いということもなく、あの気難しいエレイシアや、ちょっと合いにくいニルティナとも仲がいいとかなんとか。


 もし、そうならば特別俺から何かいうことはない。

 ただ、一応。

「一応、家族水入らずのつもりだったからね。エレイシアたちに聞かないと、俺からはなんとも言えない」

「そっかーじゃあ、ちょっと僕から聞いてみよう」


「で、二つほど聞きたいんだけど」

「うん」

「なんで着いてくるんだ?」

「そりゃあもう……!」

「そりゃあもう?」

 やたらと鼻息が荒い。


「僕とそっくりなんだ。きせかえごっこしたいじゃん!」

「いや、意味わからん」

 本当に分からん。

「それに折角、僕に似ているんだし……、」

「似ているんだし?」


「僕と見た目変わらないようにして、ウェリエくんをどぎまぎさせたい」

 不意を突いて狼狽(うろた)えさせるのが"どぎまぎ"という言葉の意味なのに、宣言しては意味ないような……気がしないでもない。

 そこで、イニネスの意思を問うてみた。

「イニネスは着せ替えされてみたい?」

 誰でも着慣れていない服とか嫌だし、そもそも着て脱いで着て脱いで着て脱いでをエンドレスるのは、結構な重労働で疲れる。

 だからきっと嫌がると思った。

 だが、予測と反して「やりたい」と是の意。


「おおーやりたいよねー。じゃあやろっか!」

 と喜ぶカクト。

 あんな重労働をやりたがる女性ってわかんない。


 …………

 ……


「で、最後にティータはどうするんだ?」

「うん、いないならいないでいいや」


――いいのかよ、仮にもお前の彼氏だろ……。


 彼氏の友だちの男と連れ歩いて、彼氏に対して危機感煽らせる悪女のタイプだろうか。


――本当によく分からないや、女心っていうのは。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 カクトの急遽参加については、特別小言もなくエレイシアの「うん、いいよ!」の一声で決まった。

 というわけで、参加者は俺とイニネス、黒白ハスキーに、エレイシアとカクトとセシルのキャッピキャピの女性三人組だ。

 最初の内のイニネスは俺と手を握ってとことこと服飾屋を目指し街並みを歩いていたが、カクトが「一緒にいこ」と誘い、エレイシアも早速とばかりにイニネスに絡み、セシルも囃し立てる。


――姦し四人娘か。


 その後は時間が経つのが遅いってぐらいに待った。

 三人が服を買わずに、イニネスを人形の如く着せ替えごっこをし、その内どうやらイニネスが気に入ったら購入していくというスタイルらしい。

 といってもやはり決まらない、というか、イニネスにそういう美的感覚は多分きっとない。

 だから候補がもっさりあって……ああ、うん。


 俺がいてもつまらんというか、下着決めが始まっている辺り俺の存在が物凄く邪魔だと思うので、黒白ハスキーの首輪を買いに行くから楽しんでてと、エレイシアに伝えその場を後にした。



 首輪を売っている防具屋まで連れて行き、首輪を物色していたところで黒白ハスキーが、首輪を持ってきた。


――またチェーンタイプか。重いだろうに。


 とはいっても、今の首周りでちょうどいいサイズは、各々が持ってきた首輪しかない。

 しょうがないということで購入した。

 お値段、銀貨二十枚ずつで、日本円に換算して合計四万円也。

 高いはずなのだが、今生の例のお給料のお陰で安いと考えてしまうレベル。


「よし、じゃあ首輪外すからなー」

 と言ってバカ正直に首輪を顔から取ろうとしたところ……、


――耳と顎骨に引っかかって取れないッ。


 耳はまぁどうにかなるとしても、顎がどうにもならない。

 ぐいぐいっと自ら首輪を取ろう後ろに尻込みするかのように後退(あとずさ)る黒柴。

 首の少ない脂肪というか皮の部分がむにゅっとしていて、


――お前はチャウチャウか。


 と思わず呟きたくなるぐらいに美人な顔が潰れる。

 念のため、白柴にも同じようにすると、


――お前もやっぱり引っかかるな……。


 引っかかりすぎて「あ、チャウチャウだ」と思わず口に出た。

 チャウチャウを知らない筈なのに、何故かムスッとする白柴。

 仕方がないので「赤熱の刃」を装填して強引に首輪を融解させ破壊した。

 これで食い込んでいた首輪も取れて、呼吸をしやすくなったであろう。


 せっかくならこのままにしてあげたいところだが、本人たちが首輪を望むのならば仕方がない。


「はい、ほら黒柴おいで」

 といって買ったばかりの首輪を持ってやれば、自ら首を差し出して掛けやすいようにしてくれた。

 首にかけて軽く締める。


――中々猶予はあるな。


 毛皮の上からの締まり方なので「ぐえっ」といくようなことは恐らくないだろう。

「よしよし、苦しくないか?」

 と聞けば、回答は「わふん」と一吠えからのごろんと寝転がり。

「撫でて?」ということだろうか。


 ぽんぽんと顎の下のあたりを撫でて、やはり首のほうには余り締まっていないことを確認。

「うん、よしよし。いい買い物だったね」と前脚の脇辺りをこちょこちょ。

 気持ち良さそうに目を細める姿が、見ているこっちも幸せになる。


 同じように白柴の前の首輪を破壊し、これまた首輪を嵌める。

 黒柴だとぶかぶかになりそうな首周りの首輪も白柴だとちょうどいいらしい。


「白柴も似合ってるね」といって背中を掻いてあげる。

 素直に喜んでくれているような雰囲気を感じた。

 もちろん感じただけなので、もしかしたら違うかもしれない。

 これだからツンデレは分からない。


「さて、合流しますかね」

 ということで二匹を連れて服飾屋へ向かった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 買い食いしたり色々して服飾屋へ戻ってみたら、まだやってた。

 よくもまぁ飽きもしないものだ。

 しばらく待ってもまだやってるので、露店で掘り出し物あるか見に行ってくるとセシルに伝えて、ほぼ半日を露店で過ごして帰ってきても、まだやってた。


 本当に女性って分からない。






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