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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第4章-ある日の一日- XI
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『神格化』

 クオセリスとエレイシアが食事を終えてまったりしているお昼休み。

 俺の膝の上には、先程まで「気持ちいい」と言いたげに目を細めていた黒柴が、頭を膝から下に落ちかかっている状態で寝てた。

 落としそうな黒柴の頭を持ち上げて、更に大の字になっている寝相の身体も整えたところで、

「そういえば、旦那様。その黒い魔狼は……」と、興味深げにクオセリスからの質問。

「ああ、クオセリスには言ってなかったか。拾ったんだ」


「おお」と言いたげに目を見開くクオセリス。

 珍しい表情をありがとうございます。

「その子は、女の子ですか?」

「うーん、多分そう……だとおもってる」


 うんうんと頷くクオセリス。

「では、そちらの白い方は……、っと抱かないのですか?」

 白い方、つまりは白柴のことだ。

「白い方はね、黒いのと違って抱いたりすると不機嫌になったり、怒ったりするんだ」

 事実、抱くと怒ってイヌキックでげしげし蹴ってくる。


 可愛いといえば可愛いが、嫌がることはしたくないのもまた事実。

 だから抱かずに足元で寝かせたままにする。

 因みに黒柴を抱いていると、ちょっぴり怒ったりもする。

 黒柴に嫉妬か、それとも黒柴を独占する俺に対しての嫉妬か。


「ははあ。そちらの黒いのを抱いても宜しいでしょうか」 

「いいよ。でも寝てるしな。起きたらでいいかい」

「ええ、ありがとうございま――。あら」

 ちょうどいいところで、黒柴が起きた。


 どうやら、頭がずり落ちてたのを正したところで、起きてしまったようだ。

 黒柴のお尻と肩に負担が掛からないように横抱きにして、クオセリスに手渡す。


「ちょっと、見た目以上に重いから注意してな。クオセリス」

 疑問符を浮かべたような顔のクオセリスだが、いざ持たせてあげたところ「うわっ」と言いたげに驚き表情に驚きの色が現れた。


――だよなぁ。


 と、クオセリスの反応におもわずニッコリする俺。


 拾った当初はコロッコロでいて、それなりに見た目通りの重さだった筈だったが、いつの間にか見た目以上に重くなっていた。

 流石異世界というべきか、それとも魔狼というべきか。

 急に重量がズシッとくる生き物は早々いない……筈だ。

 生前の飼っていたわんこ達だって、重くなるには段階的に重くなっていった。


 だが、このわんこは段階的に重くなっていない。

 ある日目覚めたら、三十キログラムぐらいの重さになっているのだ。

 普通に重い。

 それに気付いたのは、猫のように足に身体を擦りつけてくるので、「甘えたいのかな?」と思って、黒柴の両脇を持って久し振りに「ころっころで可愛いですねぇ、お前さんはー」とやろうとしたところで、両脇を抱えて持ち上げようとしたところでズシッと重く、思わず「重ッ!」と言ったときだ。


 なお、冬で雪が降っていたころなので、つい最近である。

「お、お……重い……です……ね。旦那様……」

「重いだろう? 因みに白柴もそれぐらい重い」

 今は何キログラムだろうか。


 最初の「重ッ」からちょっと重くなっているのは感じるので三十五、四十だろうか。

 ころっころの体型のわんこだが、膝に同年代を載せているような感覚だ。

 そこら辺を含めての魔狼なんだろう。

 魔狼の生態はよく分からんな。


 いつもの俺の膝じゃないからか、居心地悪そうにクオセリスの膝の上でゴロゴロする黒柴だが、眠気には勝てなかったようでそのまま、くすぴーといつもの寝息をたてる黒柴。

 重いが愛くるしい姿はいつもどおりだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 しばらく話し、クオセリスは剣技部、エレイシアは歌唱部があるということなので、お昼休みが終わったところでお開きと相成った。

 とはいえ、重い置物は未だ目覚めないので俺はまだここに縫い止められている。

 男とはいえ、同年代かと見紛うばかりにかなり重い生き物二つを米俵のように肩で担いで、自室に戻るのは流石にちょっとアレなので、目覚めるのを待つことにした。

 因みにクオセリスの膝の上から、俺の膝の上に移ったときの黒柴の反応は尻尾を千切れるんじゃないか、と心配になるぐらいに尻尾を振りながらくすぴーと即寝入った。


 マイ枕というかマイ布団と思っているのか。

 嬉しいとは思うが、


――そんなのでいいのか元野生。


 と突っ込まざるを得ない。


 くすぴーと寝息をたてる重い生物を側に置きながら、彼女らが起きるまでの暇つぶし方法を考える。


――久し振りに『十全の理』のメンテでもするか。


 メンテ……といっても、そんなに特別なことでもない。

 立体化したルービックキューブ状の魔法陣――『十全の理』専用コンソール――に触れながら、『精製された魔力』プールの最適化とかなり古い魔力を通常の魔力素に戻すように設定する。

 これによりかなり時間を掛けて――といっても一日掛からずに終わる――だが、汚染されていない通常の魔力に戻る。

 大体の感覚としては「魔力撹乱(カウンタースペル)」のようなものだ。


 要は『精製された魔力』として編み込まれた情報文を(ほど)く作業となる。

 それらと並行して行うのはバックアップだ。

 バックアップには特に設定は要らない。


――そういえば、黒歴史ノートに書いたあの設定は実現するだろうか。


 俺が設定した魔法陣に自我があるように振る舞う今、正直言って実現しているようなものだが、その設定というのは個人に合わせた、つまりは個人特性の魔法陣に自我が発生するかどうかだ。

 俺専用のオリジナルたちは設定したので自我がある……のは分かる。

 ただ『十全の理』はあくまで『精神の願望』とは違う、それぞれの魔法陣へのアクセス権限を担う窓口みたいなものなので、自我は発生する可能性はあるがきっと多分ないので除外する。


――けれど、ミリエトラルの世界観での『十全の理』には自我発生するんだよなぁ。


 そのときの設定は"神"だったか。

 ミリエトラルが信仰する女神はケフで、そのケフの偶像として『十全の理』に接し、ミリエトラルの最期のときにはケフの力を使って……、だったか。


 どちらにせよ、現在俺が信仰している神はいない。

 よって、『十全の理』がケフ化することはない。

 だが、魔法陣に自我があって、魔法陣(かれ)らを持つエルリネたちが(まほうじん)らを『神格化』させないとは限らない。

 そして自分の中にある個人、または種族特性で特化した魔法陣を同様に神格視させて自我を作るか。


 困ることではない。

 寧ろ喜ばしいところだ。

 だが、俺謹製ではなくオリジナルの個人特性が自我を持つということは、危険ではある。


――そういう意味では困ったことにはなるか。


 自我があった所為で破壊を(もたら)すことしか出来ない存在になり得るかもしれない。

 自我がなく使われるだけの魔法陣であれば、本人が出したいと思ったところで力を振るうものであれば問題がなかったかもしれない。

 だが、自我があるのであれば「よかれと思ってやりました。テヘペロ☆」ということがあるかもしれない。

 幾ら、『十全の理』にON/OFF機能があろうとも、一々OFFなんて出来ないし、気付かないやってることもあるし、そもそもとして個人特性であれば『十全の理』を介さないこともあり得る。


 というか、現状『ガルガンチュア』がそんな状態だ。

『十全の理』との繋がりが『心なき改造台』だが、肝心のそれはバックアップがちゃんと出来ていない状態で移った。

 繋がり自体は持っているので、OFFには出来なくはないが、『精神の願望』で作られた個人特性に対しては『精神の願望』が窓口みたいなもののお陰で、直接結びついたりはしない。

 よって直接OFF命令は難しい。


『十全の理』から『精神の願望』に強制供給魔力停止命令を与えて、俺謹製の魔法陣たちには活性化命令を与えて、残りだけは不可命令を続行という手間が掛かる。

 下手したら『神格化』によって個とした"神"となって、同種の神たる『十全の理』からの命令も聞かない可能性もある。


――あれ、これ結構危険な状態じゃね?


 進化した『ガルガンチュア』の例もあり、下手したら謹製組が進化するかもしれない。

 OFF機能は生き残るだろうか。

 現状、『精製された魔力』を作り出す能力をエルリネらは持っていないので、俺の『十全の理』から『精製された魔力』を『精神の願望』経由での供給を強制停止すれば一応止まりはするだろうが、近いうちにもし『精製された魔力』を作る能力を持ったとき、どうなるか。


――完全に自立するような……。


 危険ってレベルじゃない気がしてきた。

 俺は俺で一応、まともな思考があって(まほうじん)らを御する能力を持っているから、大丈夫だとは考えてはいる。

 だが、『神格視』しそうな『精神の願望』を張られている子たちに『神格化』して自我を持ち、破壊能力に特化したのが(ささや)いたら……。


――今直ぐにでも、『精神の願望』外したほうがよくね?


 とは、思うもののそれを拠り所にしている、エルリネとエレイシアのを外すのは気が引ける。

 特にエレイシアはマジ泣きするだろう。

 例の食事作法のときに「『精神の願望』を外さないで」とお願いされたこともあるぐらいだ。

 やったら、多分泣かれる以上のことが起きるかもしれない。


『ガルガンチュア』も張り付いているしなぁ。

 エルリネ、エレイシアのを外さないとなったらパイソのも外せない。

 理由を話せば外させてくれそうではあるが、「エルリネとエレイシアは外せないのに、なんで私だけ!」と憤慨されることもあり得る。

 重量級黒白団子の首元の『精神の願望』も外せない。


――全員、見ているもんな……。


 いざ、外したら「なんで外したのか」と聞かれること請け合いである。

 で、理由を……いや、そもそも理由を話したら危険化する可能性がある。

 ならば、最初から危険のないものとして扱って貰って、且つそれを信じて貰った方が多分きっと早い。

 で、全員が成人したときに理由を話せば、きっと大丈夫だろう。


 ということで、最適化が終わったアラームが鳴る。


「次はバックアップか」

『戦熾天使の祝福』のバックアップは既に取ってある。


――あ。


『戦熾天使の祝福』の移行先について詳しく聞いたとき、相手はクオセリスだった。


――さっきの時点でクオセリスに渡せば良かったな……。


 彼女自身に奴隷紋と見間違えそうな『精神の願望』は張れない。

 同理由でセシルも無理だ。

 それはさておき。


 だから、苦肉の策として『戦熾天使の祝福』の長方形の立方体――羽のこと――を模した懐刀(ふところがたな)を渡すことにした。

『懐刀』を一度開放すれば、即覚醒して『戦熾天使の祝福』が起動する……ようにしている。

 因みに『懐刀』を作ったときの『戦熾天使の祝福』はノリノリだった。


 なんとなくだが、「こうやって登場するんだ!」とかなんとか言ってた。


――あー、すまんね。『戦熾天使の祝福』。


 と、『十全の理』を介して謝罪してみると、「しょうがないなぁ」という感情が『十全の理』に届いた。

 謝罪は受け入れてくれたようだ。


 そういえば、

「特級もそろそろ……かなぁ」

 というのも、『天地動の言霊(サテライトオービット)』を使ったのは、基本学生終盤の頃だ。

賢者の石(ラピス・フィロソフォルム)』のプールがあったとはいえ、ただでさえ出すのがキッツい特級だったが、そろそろ成人に近い今。

 もしかしたら出せるかもしれない。


 とはいえ、出せたとしても破壊力が尋常じゃない時点で試しに出して確かめるといった器用なことはできない。

――ガイアス先生曰く「戦争が近い」と言っていたし、戦争で出してみるか。


 きっと特級の『天地動の言霊』も『世界を薙ぐ影なる灯火(ワールドアポカリプス)』、『天竜、雷風の咆哮(スーパーマルチセルクラスター)』らにも自我が現れて、移行を望むかもしれない。

 嬉しいが……正直怖いところだ。


 特に『世界を薙ぐ影なる灯火』が。

 一番自然の力じゃなくて、異物と異質に(まみ)れた性能を誇っている。


――『天地動の言霊』もヤバいし『天界の天象儀(セレスティアルスターダスト)』なんかは『惑星』に関わる魔法陣だけど……。


『世界を薙ぐ影なる灯火』は『惑星』に関わらない。

 いや、関わるといえば関わるが、それも強引に考えれば……の話である。


――用心に越したことはないよ……な。


 ということで、特級クラスをバックアップ、それも手持ちで一番危険な『世界を薙ぐ影なる灯火』一本にして、バックアップを図ることにした。


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