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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第4章 -二匹の狼-
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発端 I

 その日はいつもの体育授業を真夏のようにクッソ暑く、体内の水分が蒸発しそうな日だった。

 いつもなら肩や頭の上にいる"くずきり寒天"が珍しく俺の近くから離れ、薄暗がりにいるぐらい暑かった。

 こういうときこそ"くずきり寒天"がいてくれれば、「身体の熱も取ってくれるのになあ」とは思うものの、"くずきり寒天"だって命は惜しい。

 自分の水分が枯れそうな外には出たくないのだろう。


 とにかく、そんな暑い中いつものダンスゲームをして、いつものマラソンをして"くってくて"になったところで、ティータとタナベとで世間話をした。

 その世間話というのは、


「ティータは大丈夫だとは思うが、ウェリエは気を付けろよ」

「はぁ、なに……が?」


 もちろん、俺はくったくたな状態での受け答えなので、普通に声を出すのも億劫なぐらいに死にそうだ。

 最近、右手の親指と人差し指、中指を立てたり折り曲げたりするだけで、自称生活魔法(笑)且つ低級起動が出来るようになった。

 ので、だいぶ俺に手加減が覚えられて来たと思う。

 空気中に作った水球を割って、頭上から滝のように流して涼をとりながら聞いた。


 すると、

「いやね、俺んところの男子寮の先輩さ。なんか凄くピリピリしてるんだよねー。何故かは知らないんだけどさ」

「ふーん。で、それがどうして俺とウェルが関わってくるんだ?」

 ティータが会話に参戦してきた。


「いやさぁ。ティータはまぁ、他人と余りぶつからないけど、ウェリエってほら……言葉を選んでいえば嫌味が強くて他人とぶつかり易いじゃん」

「それは、言葉を選んでるのか?」

 という、俺の突っ込みはスルーされた。


「で、ウェルがどうしたんだ?」

「まぁ要は、ピリピリしているところで、ウェリエみたいな奴が噛み付いたら喧嘩勃発するんじゃないかなーと」

「あー」


 と、ティータとタナベが二人して俺を見る。

 なんだろう、これは馬鹿にされているのだろうか。


「確かにウェルが喧嘩吹っ掛けられたりしたら、完膚なまでに叩き潰しそうだよなぁ」

「だろう?」


「いや、ちょっと待て。俺みたいな温厚な奴そうはいないぞ!」

 人化したとはいえ、トカゲと植物を飼っていた。

 そして、今だとスライムを飼っている。

 つまり、俺は小動物を飼えるほどに心は荒んでいない。


 実際にここ最近で完膚なまでに……は、ない。

 ちょっと前であれば、ティータらの誘拐事件とウェックナー近衛騎士団戦があったぐらいである。

 最近のいざこざでも、そんなにはない。

 大抵、俺の『戦熾天使の祝福』を見せれば、一発平伏される程度だ。


 というか最近、穴熊亭で白くて金色の何かを背負っている人ということで割りと有名で、警備隊の人たちに「それ背負った状態で街中歩いて欲しい」と頼まれるレベルだ。

 見世物的な意味か、それとも誘拐事件の時に見せた軍事的な意味か。

 個人的には前者だと思いたいが、どう好意的に見繕っても後者でしかない。

 それでも、俺自体は温厚だ。


 気に食わなきゃぶん殴るとは言っても、あくまで程度は(わきま)えている。

 覚えているなかでもやたらと目立つのは、殺さないといけない相手とかそんなものだが、流石に学生同士の喧嘩で魔法陣を使うとかはしない。

 村にいたときにテト相手に『蠱毒街都』程度を使ったぐらいだ。

『蠱毒街都』を"程度"というのは、些か不適切だが、仕方がないだろう。


「えー、お前が温厚ってそりゃあないわー」

「おう、言ったなタナベ。俺がどこらへんが温厚じゃないか言ってみろ」


「まず、その言い方からしてダメだぞ、ウェル」

「え、いやこれぐらい――」

 普通だろ? と言おうとしたところで、


「普通じゃないからな、ウェリエ。微妙にトゲがあるからな。お前の言い方」

「それ以外にも、そうだな。宮廷魔術師且つ『魔王』って名乗ってる時点で怖いね、ウェルは」


「……わ、悪かったな……。でも、これ好きで名乗っているわけじゃないからな」

『魔王』はともかく、宮廷魔術師はなりゆきで得た階級だ。


「あとはあれだ。ティータの誘拐事件のときの奴だなぁ」

「というと?」

「あの白い骨董品みたいな金縁のアレさ。目端利くやつが見るとアレって高級品にしか見えないんだよね」


 もしかしなくても『戦熾天使の祝福』のことだろう。

「それが?」

「あんなのを合計八つ背負って、アレ使って一瞬で空飛んで、しばらくしたら血みどろ塗れで帰ってくるとかこいつただもんじゃねぇ……って考えること請け合いだよ」


「そ、そうか……。そう……か」

「あと、穴熊亭……だっけ? あそこで『喧嘩売るなら買うぞゴルァ』って言ってる姿よく見るからね。そこら辺も気にしたほうがいいぞ、ウェリエ」

「あ、ああ」

 としか言えない。


 俺の横にいた、俺よりもちょっこっとだけ背丈が高いティータの、服の裾を親指と人差指で摘んで

「ティータさんや。そんなに俺って……トゲだらけな人種?」と、上目遣いで聞いてみる。

 結果。

「……うん、結構」


 これにはショックを禁じ得ない。

「温厚の反対ってことは……つまり冷酷ってことか……。そんなに(むご)いことした覚えないんだけど……」

「いやあ? 正直に言っちゃうと結構酷いことやってると思うよ」

 とはティータの言。


「えっ、そ、そうか?」

「いやさ、助けて貰った奴が、助けてくれた人にいうべきじゃないのは分かるんだけど……。

きらきらと輝く槍で犯人を縫い止めたあとに、人間の身体を爆発させるのってどうかなと思うよ?」


「は? ウェリエってそんなこともやったのか? うわっ最悪だな」

「いや、それは、ええと、その」


 申開きが出来ない。

 手足程度が爆発するかと思ってたら、身体全体が爆発するとは思わなんだとはいえない。


「ま、でも。ウェルがああしてくれたお陰で、ここにいられるんだから……。ウェルは冷酷でいいと思うよ」

「それ、貶してる?」


「いや、褒めてるよ」

「そうには聞こえないんだが……」


「気のせいだ」

「……まぁいいか」


 で、ええと

「なんの話してたんだっけ」

「あー、えーと」

「俺んところの寮の先輩の話」


「ああ、それだ」

「タニャベが理由が分からないとなると、俺たちも分からないな」


「考えられる理由となりそうなの……といえば……、試験近いとか?」

「先日、全学年まとめての試験あったのに?」


「なんかの大会近いとか」

「闘技大会は来年だよ」


 え?

「闘技大会あるの、この学校」

「いや、寧ろなんでないと思ったの?」

 と、ティータ。


「だって、かれこれ三年ぐらい、この学校にいるけど闘技大会なんて見たことないぞ?」

「いやだって、四年おきだぜ?」とタナベ。


「し、知らねぇ……」と呟く俺に、

「意外にウェルにも知らないことあるんだな」

「ウェリエって穴熊亭とかいう情報が集まるところで、働いている癖に情報に疎いんだな」

 と、タナベとティータは目を丸くしていた。


「まぁ、あれだ。ここでぐだぐだ悩んでも、答え知ってる奴いないんだから意味ないでしょ」

「そうだな。ま、いつか分かるでしょ。

……ということで、ウェル」


 野郎(ティータ)の小首を傾げるその顔にきゅんとしてしまった、俺はホモじゃない。

 そんな心の声をおくびにも出さずにティータに応える。

「なんだ?」


「来年の闘技大会出るか?」

「何故?」


「ウェルが出るなら、俺も出ようかな……なんてね」

「……俺が出ても一位間違いなしな気がするんだが」


 だよなぁ? と、タナベに同意を求めるように見やれば、俺の視線に気付いたのか、頷きながら「確かにウェリエが出たら、対戦者のほぼ何人かが及び腰になるだろうな。誰が好き好んで人体を爆発させる奴相手に戦いたがるというのか」と、バッサリ。


「いや、俺も好き好んで爆発はさせねえよ……」

「でも、爆発させたんだろ。ウェリエは」


 もちろん、事実であるがゆえに「あ、はい」としか答えられない。


「ま、爆発はともかく。『女子寮裏の大戦争』って女子連中の話を聞くと、演劇とかで見る自衛魔法を昇華させた攻性魔法以上と聞いているし……、怖いもの見たさで一人突っ掛かられて、あとはみんな及び腰になる未来が見える」


「あー、確かに見えるなあ」

 と、心底おかしそうに微笑うティータ。

 対して、

「いやいや、笑いごとじゃないぞティータ。お前、本人の前で言っちゃあ悪いが、化け物と殴りあって身体が残っていると思えないんだけど……」


「大丈夫だよ、タニャベ。ウェルはすっごい優しいから、死んだり死にかけるような大怪我は負わせてくれないよ」

「あのー、本人の目の前で貶したり、褒めてくれるのは止めてもらえませんか」


 そう、俺が突っ込んだところでティータとタナベが、腹を抱えて笑った。

 結構真面目に恥ずかしいから止めて欲しい。


 陰……じゃなくて本人の目の前で悪口……って言う訳でもないが、こう面と向かってすっごい優しいとか、顔から火が出るほど恥ずかしいから、そういうことを言うのを止めて欲しい。

 などと、考えながら半笑いしていたところで、俺の背後から大きな影が差した。



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