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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第4章-ある日の一日- IV
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発端

 とても大きい建物で二つに分かれている学校の内、魔術学校に一般学生として入学して早くも一年が経ちました。

 ミル様、いえウェリエ様との住居を分けてはや一年というべきでしょうか。


 最初の内はリーネ様はもとより、エルとパイソがみていて可哀想なぐらいに落ち込んでいましたが、最近はそんなこともなく、元気にしております。

 わたくしたちは女性、ウェリエ様は男性。


 確かにウェリエ様が男子寮に行くのも、仕方がないことかもしれません。

 何故なら魔術学校に来ている男性の目がとても危険だからです。


 ウェリエ様はとてもお優しい方です。

 わたくしたちの学業を損なうから、と仰って抑える方だと思います。


 肉を前にして魔獣のようになるまえに、男子寮に引っ越されたのでしょう。

 有難いことと思う反面、少なくともわたくしとリーネ様はウェリエ様の子を作るつもりです。


 学業よりもそちらを優先したいところですが、学業もありなので釣り合いが難しいところです。


 今は授業中。

 相変わらず、わたくし……というよりエルとパイソへの男性からの視線が酷いことになっております。


 わたくしが耳年増というのは、理解しております。

 というよりも、ザクリケルの人間として強い方の種を貰うには、それなりの知識が必要です。


 だから、耳年増なのは必然です。

 その上で言います。


 エルとパイソといった、身体の均整がとれている……いえ、ズバリいえば。

 男好きのする肢体を持っているが故に……、正直男子の皆さまが臭いです。


 特に朝とか。

 流石、獣魔族です。


 鼻が利くと辛いです。

 最早慣れましたが。


 あと、女性も臭いです。

 主に化粧の所為で。


 ザクリケルの女性は、みな多妻間で男性の取り合いはありません。

 男性からの愛はみんなのもの。


 よって、化粧をして誰かよりも愛を貰うなどはしてはいけない行為。

 であるが故に、わたくしとリーネ様は化粧なんてしません。


 ということで、お化粧の臭いが目立つのです。


 因みに、エルとパイソは化粧なんて全くしておりません。

 この二人、いえリーネ様とエリーもしません。


 物凄く肌の張りがいいのです。

 この四人。


 リーネ様は王族だから……というわけではなさそうですが、妙に納得出来ます。

 王族だからそういう「魔法」が掛かっているのだろう……と思えます。


 そして、パイソはまさかの『竜種』という絵本やそういった書籍では、騎士に殺される『魔王』、または『怪物』が人型になっています。

 つまり素で何かの魔法で、美しさが維持されているのでしょう。


 女性のわたくしですら、まず胸に目が行き、その後つり目で鋭い視線を持ちながらも、荒々しくも心優しい彼女に心を奪われるのです。

 エルは胸はパイソよりも小さいですが、それでも充分なほどですらっとしていて、脚も長く何を着せても大抵似合う方です。


 肌も健康的で茶色に焼けていて……その脚と腕の長さからパイソとの戦闘訓練では、まさにウェリエ様が「蝶のように舞い、蜂のように刺す」と仰ってたように、パイソを倒すのです。

 非常に羨ましいです。


 わたくしもエルのように、長い手足を持っていればあのようになれるのでしょうか。


 とにかく、そういった二人がわたくしの両側についています。

 パイソは言いませんが、エルはわたくしの護衛とのこと。


 だから隣に侍っているのは当然だと……言っておりました。

 別にいいのに……とは言いません。


 わたくしはエルとパイソに比べて弱い者です。

 エルのように動けず、パイソのような魔法もない。


 だから、守ってもらうしかない。

 代わりにわたくしにしかないものがあればいい。


 わたくしにしかないもの。

 お金……は、所持金についてはウェリエ様に負けます。


 両親のお金……とかを考慮するならば、リーネ様しかおりません。

 リーネ様に比べれば、わたくしの実家のお金などはした金でしょう。


 エリーには歌とかあります。

 わたくしには何があるのでしょうか。


 ……………………

 ………………


 …………

 ……何も、ありませんでした。


 どうしましょう。

 そんなところで天啓が降りてきました。


 内容は『家庭的になれ』という思し召しです。


 そうと決まれば、早速今日の趣味会が終わったら上級生様から、掃除のコツと料理を学びましょう。

 ウェリエ様曰く、『何事を為すにもまずは一歩から』と聞き及んでいます。


 まずは一歩踏み出しましょう。


 と、そんなことを息込んだところで、隣のエルからひとりごとが聞こえました。

 どうやら、ため息のようです。


 どうでもいい思考をばっさり切って、耳を傾けたところ、

「うーん……これは……」


 とのこと。


 わたくしは顔だけは真面目に前を向いている訳ですから、師の発言にもう一度聞き直そうとしたところで、とっても。

 そして、心躍ることが聞こえました。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「"使い魔"……ですか」


 新しい家族を迎え入れる。

 それは、とても心が踊ります。


 だから、わたくしは踊りました。

 新しい家族が増えると。


 ですが、わたくしが使い魔を持ったら、エルやパイソの二人ぼっちになってしまいます。

 わたくしの使い魔を一緒に……と考えましたが、もし気難しい使い魔を持ってエルとパイソを触れさせなかったら……。


 使い魔以上に気心の知れている、エルとパイソは友人で家族です。

 使い魔を捨てることになるかもしれません。


 そんな未来があるのであれば、最初から持たないというのも有りかもしれません。


 幸いなことに師は「獲得出来なくても別に落第はない。特別点をやるだけだ」と、抜け道がありました。

 それでも、ウェリエ様の妻となる者として、抜け道があろうがなかろうが特別点も取り切り、どこに出されても恥ずかしくなく、ウェリエ様を立てるのが妻の務め。


 で、あれば獲得するべき。


 ですが、わたくしが使い魔を迎えても、エルとパイソに懐かなかったら……。

 エルとパイソのそれぞれに使い魔を迎えられたとしても、別教室のリーネ様たちの使い魔も合わさって寮の部屋が五人と使い魔五匹とニルティナの鉢と大所帯になってしまいます。


 どうしたものか。


 今日の授業後の掃除と料理については明日にして、今日はエルとパイソにリーネ様、エリーを交えて相談することにしましょう。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 放課後、趣味会前に一度部屋に戻るのですが、その際に相談しました。

 使い魔を迎えるか否かです。


 すると、


「セシルのところもそう言われたのですね」

「ということは、リーネ様のところも……?」


「ええ、使い魔……とははっきり言っておりませんでしたが……「そろそろ時期だな」とかを言っておりましたので、多分使い魔かなと」

「なるほど」


「ねえねえ」

「ん、なあに? エレイシア」


「お姉ちゃん、使い魔って……なに?」


 今更すぎる質問です。

 対して、


「エレイシア、使い魔っていうのは、色々出来なくてもしなければいけないことを、代わりに魔獣とかにやって貰うのが使い魔っていうんだよ」

 

 エルがそう答えました。


「ほへー。例えば……どういうもの?」

「うむ、そうだな。戦闘とか偵察とか……あとは留守番とか……かな」


「ふーん。じゃあ私で言うと……『ガルガンチュア』みたいなもののことかな?」

「そういえば、エレイシアはもう使い魔みたいなもの使役してたんだよね。エレイシアは、特別点獲得かな」


「ううむ、エリーが使役となれば護衛繋がりという扱いで、自動的にリーネ様にも点数入りますね」


 羨ましくないと言えば嘘になりますが、仕方がないといえば仕方がないことです。

 残るはわたくしたち、エルとパイソとわたくし組です。


 みなでうーんと悩みます。



「あー実は名案があるんだが……」


 と、パイソは片手を挙げて自己主張をしました。


「名案……どんな?」

 みな、興味があるようです。


「ただ、ちょっと兄上に許可を取る必要がある……から、この後の趣味会が終わったらまた、部屋に集まって欲しい。その後、兄上の奉公先に行こう」


 ということになりました。


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