F? A V
この寂れた漁村だった村には名物が出来ていた。
山の幸と海の幸。
私が食べるこの幸にどれだけの、同族の言葉があったか。
などと、考えてもあの国から外界である世界は、最早魔族は燃料となっている。
まず例外はない。
だから、『食べない』という選択枝は、ない。
私が食べなくても誰かの胃袋に入る。
彼らに全く還元されなくても、これはもう……仕方がない。
それだけに魔族製の魔石は燃料資源になった。
代替品がなければ、血肉族はどうにもならない。
諦めるしか……ない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
美味しく食事を食べて腹も膨れた。
あとは……寝る前に……ということで、買ったばかりの下着と服に身体を通した。
とても着心地がいい。
――やっぱりボロだと、スカスカするものね。
――ボロボロのものは、明日旅の途中で焚き火の種にしよう。
という明日の予定を立てたところで、先ほどの眠気が襲ってきて、私は意識が。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次に起きたときは、『賢者』の強制覚醒による目覚めだった。
何事かと『賢者』に問う前に、実顕化した『無貌』が私の右手に杖を持たせる。
投げたりするのではなく、右手に元々あったかのように持たせるのは、流石荒事慣れしているというべきか。
部屋の扉が破られると同時に『賢者』が壁を破壊し、『無貌』が私を引っ張り投げる。
「チッ」という舌打ちと共に、両刃剣と思われる分厚く長大な剣が私に投げられた。
普通の魔族ならばこれで終わりだろう。
だが、私は……!
キュイイイインという音が足元から聞こえた。
――これは、私の魔法陣が起動する音……!
「其は全てを呑み込み、全ての罪に罰を与える者なり!」
だから。
「我が呼びかけに応え、顕現せよ!」
――『影なる海の大賢者』!
ゴオッっという音と共に具現するのは、半液体状の黒い蛇。
その黒い蛇の鼻吻には蛍火のような煌きが灯り、蛇にはないギザギザの歯の輪郭が現れ、「ガパァ」と開く。
「食べ!」
簡単な命令が言うが早いか、蛇は長剣を食った。
それどころか、部屋に押し入り剣を投げてきた下手人をそのまま食いに行く!
建物に大きな噛み跡が残ったと同時に、私は地面に肩から落ちた。
「いっ……つつつ」
私は家族の中でもひ弱だ。
だから、受け身の類も全て『賢者』に任せていたが、『賢者』が食いに行かれるとこのように受け身が取れず肩から落ちる。
「コラァ、『ガルガンチュア』ァア! そこまでやっていいと誰が言ったぁ!」
外套に隠れている左腕の『精神の願望』からは、「ごめんなさい」の一言の反応。
「絶対に許さない! 覚悟しておきな――」
「ファイアボール!」
と、叫んでいたところで、小さな火球が私の顔があった位置を目掛けて飛んできた。
もちろん、小さく弱い火球など「避けてくれ」と言っているようなものだ。
飛んできた方向を見やれば、「ジェーン・ドゥー」とユーコがいた。
ユーコが魔法を使っているようだけでも、詠唱した上でそれなの? と突っ込みたくなるほどチンケだ。
「楽しそうに罵り合いしているところ、悪いけど」
「自分からあ、『牧場』に行ってくれると助かりまあす」
「あらあら、あなたたちと同じ人族相手に『牧場』だなんて……そんな」
と、人差し指を額にあててヤレヤレと首を振れば、
「やっぱり、ね」とジェーン・ドゥーが呟いた。
なにがやっぱりか。
「どうせ、あなたはここで『牧場』送りだから言っておくけども、『牧場』っていうのは魔族特有の言い方なのよね。人族と獣人族って全く別のことを言うのよ」
あ、そう。
「ふうん」
「ということで、あなた魔族でしょ。ジェーン」
「違う、といったら?」
「もちろん、魔族という判断はそれだけじゃない」
――へぇ、あるんだ。人身鑑定の類かな?
「あなたが持っている魔力の類よ。普通の人が持っている魔力とは違っていた。となれば、勇者か魔族か」
「…………、」
「そして、勇者であればある程度の情報を読み取れるのだけど……ジェーン、あなたの魔力は読み取れない」
「………………、」
「で、あれば特殊な力を持つ勇者かな……と思うけども……。残念ね。私と『これ』以外にも勇者はいるのよ」
「……、」
「あなたは魔族だった。それだけよ」
「くっ、」
「私も痛い想いは嫌だし、あなたも痛いのは嫌でしょう。ここで牧場に行ってくれれば大変お互い助かると思うんだけど」
「くくくくく。あははははは」
「なっ、」
「あはははははははは!」
「なあにがおかしいのですかあ?」
「あはははははははは、いやもうね! あはははははははは」
これ以上の喜劇はない。
「あはははははははは。同じ女でしょう? あはははははははは。そんな家畜のように飼われてこいとか、普通同じ女に言う?
あはははははははは!」
「なっ、それが魔族にとって幸せなんだろうが!」
「あはははははははは、何が幸せ? 好きでもなんでもない男の精を受けて仔を作ることが幸せ? あはははははははは!
「なっ……!」
「あはははははははは、いやもうね。これがあるから『勇者』とやりたくないんだ」
「…………、」
「よく分からない理屈で、家畜として飼い潰し。くっくくくくくく。あなた、転移者とかいうの?」
「……だとしたら?」
「じゃあいいことを教えてあげる。魔族はねぇ、私が生まれてきたときは、まだ血肉族。
ああ、人族と獣人族のことね。その種族と仲良く手を取り合って生きていたんだよ」
わかる? と、言外に聞く。
「ふふふふ、一昔前までは手を取り合って生きていて、よき隣人だったのに。
あなたたちが魔族を一方的に狩って、奴隷商に売り払い、女は『牧場』に送られて」
これのどこに。
「幸せがあるの? 寧ろ今までの伴侶を奪われて、仔を奪われてひたすら家畜として飼われる。これのどこに幸せが?」
このよく分からない理屈。
「あはははははははは、魔族が何をしたっていうの。『勇者』さまぁ?
ねぇ、応えてよ。魔族が何をしたの? 燃料資源になることを隠してたのが罪なの?
じゃあもう十分に燃料資源になったよね。なんでまだ、罰を受け続けなきゃいけないの?」
「………………、そ――」
「いいよ、いいよ"おためごかし"は要らない。この地にいる魔族は可哀想だけど、死んでもらうことにしよう」
「…………なに?」
「もちろん、あなたたちも死んでもらう。いや、『勇者』さまには女の悦びとやらを知って貰おうかな」
「出来るのか? ここは冒険者ギルドがあり、冒険者は百人近くいる。勇者も五人いるんだぞ」
「あはははははははは、そうだね! たった一人の魔族では荷が重いね!」
「……ならば!」
「悪いけど、今更魔族が世界の現状を知らずに歩けると思っているの?」
「なに?」
「人身鑑定の能力を持つ『勇者』いるんでしょ。鑑定しなよ」
そこで現れたのは、服飾屋に向かうときにあった男の子だった。
「ケンヌ、あいつの種族を」
「うん、魔族だけど……レベルは"モザイク"掛かっていて読めない。名前も"エレイ"までは読めるけど……」
「"エレイ"? ケンヌ、種族はなんだ?」
「見たことがない種族だ……。リリックセイレニア……?」
へえ、私の種族ってリリックセイレニアって言うんだ。
お兄ちゃんが、セイレーンの類の魔族とかなんとか言っていたことがあるから、それかなぁ?
「まぁ、名前は"エレイ"で魔族……というのが、わかったのなら」
――『聖域方陣:冒涜された不浄の夜都』起動します。
「もう、隠す必要ないね」
現れるのは現象。
お兄ちゃんの『世界』を取り込んで私なりに作った『世界』。
双子月が黒く染め上げられ、響くのは鐘の音。
明らかな異質な空間。
辺りに充満するのは大地を毒する精製された魔力素。
「な、なんだ……?!」
「くすくすくすくす、改めて初めまして『勇者』さま。
私の名前は……エレイシア。あなたたち『勇者』たちの基準で言えば、私は『殺戮の魔王』です」
「なっ……んだ……と」
絶望した声が勇者だけでなく、周りからも聞こえる。
「……おい、嘘だろ」とかなんとか。
「うふふふふ、しっかり弄んであげるね。あなたたちの言う悦びをしっかり身に刻んでね」
――『再活性の円舞曲』起動します。
「あはははははははは、おいでよみんな! ここに生者がいるぞ。悪くて憎い生者がいるぞ!」
そして私の周辺の地面から骨と霊魂と怪物が現れ始めた。
「…………なにっ」
黒染めの月を扉に現れるのは、翼を持った謎の竜種のようなものに乗った騎士が数十名現れた。
もちろん、それだけではない。
「きゃきゃきゃきゃ」と甲高い声が響かせながら嗤う霊魂。
宙に浮いた火の玉纏わせた、男用のボロ外套だけが浮いたモノ。
私を守護るかのように騎士鎧が現れ、自然と立ち上がり、どこからともなく馬の嘶きが聞こえたと思えば、巨大で私の身の丈五倍以上の高さを持つ黒い馬に乗った騎士と、一つの下半身に二つの上半身が捻れ合わさった、腐りかけた牛頭獣人などの不浄なる者ども。
それだけではない。
ありとあらゆる、いわゆる不浄がこのザイニエアに集い、覆った。
「あはははははははは! 『勇者』は『一騎当千』するのが謳い文句だっけ!」
「…………、」
最早聞いていなさそうだ。
だが、
「一人で千を相手出来るのであれば、不浄なる軍勢を蹴散らせてみろ! まずは地上部隊三千、空戦部隊五百から行こうか!」
辺りを伝播された恐怖。
それはこの『冒涜された不浄の夜都』の維持にとって活力となる。
「押し潰せ!」
私は命令した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「あはははははははは! 流石『勇者』だね!」
結局、合計三千五百の軍勢は削られて手勢も減ってきた。
だが、当然私はまだまだ余裕がある。
――彼らには無いようだけどねぇ。
いつのまにか、ダイチとケンタがこの戦場に来て、騎士と斬り合っている。
「くくくく。面白いなあ」
「くっお前! なにが面白い!」
「いやぁだって、持ち堪えるからさぁ。『勇者』を一人ぐらい死ぬかなぁと思ったけど、死なないし。まぁ冒険者は数を減らしているけどね」
「ふン、こいつらを倒せば――」
「ああ、それなんだけどさ」
「……え、……いや、ま、さか――」
ふふふ、ビビってる。
「誰がここで終わりだと言ったの? ねぇ」
「ま、まだ――」
「あはははは、さぁ第二回戦だ。今度は空戦部隊無し、地上部隊の再活性による復活と新規を併せて八千と巨人行こうか」
スケルトンと呼ばれていた骨たちが起き上がり、一つに纏まっていった。
「ふふふふ、起きなさい。不浄の大巨人、空をも食い散らかせ」
骨の巨人は起き上がり、うつろな眼窩に暗く青い炎が灯る。
スケルトンという骨だけであれば、カタカタと鳴るだけの音が、巨大になればガシャガシャと耳障りな音が響きわたる。
「死体は仲良く私の得物。さあ、殺された冒険者たちよ、起き上がりあなたの仲間を殺して増やしなさい。あなたたちは一人ではない」
首を掻っ切られた者、頭を削がれた者、身体に穴が空いた者などが起き上がり、立ち上がる。
中には生命が今に消えそうな者達が恐れる。
「俺たちによくわからない怖いものが、近づいて」
「ああああああああああああ」
という悲鳴が辺りから響く。
「さぁ食え。食め。冒険者だけではない。住民もみんな食われろ」
「くっ、住民は関係ないだろ! 魔族め!」
「あはははははははは、非戦闘員どころか、子どもを追い立てて狩っている血肉族がなにを言うか。子どもを想う母親に対してなにをしたか。うふふふ、死ねばいい」
「血も涙も――」
「涙なんてとっくに枯れ果てたし、血なんて魔族だし流れない」
「な――」
「言っておくけど、私は何もなければ明日には帰ってた。ここで戦闘を起こした馬鹿は縛り首だね」
「ぐっ」
「信じられるか、そんなもの!」
ダイチとかいう男の声だ。
不思議と死んでいないらしい。
「魔族はみんな敵だ! 俺は魔族に――」
「大事な人が殺された……とか、かな」
「そうだ!」
ダイチは器用なことに黒い馬の騎士の剣と鬼火、それと騎士鎧だけの化け物と剣戟を交わしながら叫び声をあげる。
「ううーん、器用だねぇ」
「なにが!」
わからないらしい。
「ふふふ、どうせ死ぬからネタばらししてあげるけど、ここ私の生まれの故郷でね。生家が『牧場』だったから、今日には出ていこうとか考えたんだ。
まぁ審査官に止められて、明日出て行くって形だったんだけど……。まぁどうせ、ここは潰すし……」
ああでも。
「大丈夫だよジェーン、あなたは生かしてあげるから。代わりに悦んでもらうことにするけど」
「よろこぶ?」
「うふふふ、ダイチには見せてあげない。だから死んで?」
そして纏うは精製された魔力。
「其は処刑に阿く悪鬼なり! 悪鬼の纏うことばは邪なる言葉!
聞き耳を立てるな、其は生命を削り潰す者!
邪なる者には死を与え! 罪に涙なす者には一瞬の苦罪を」
組み立てあげられるのは櫓。
人はそれを、
「え、こ、絞首台?!」
黒い騎士の剣を受け止めた瞬間に、ダイチの口に猿轡が嵌められた。
「……むぐっ」
誰でも、一瞬で何か攻撃を受ければ戸惑う。よってその一瞬の隙を付き、騎士鎧のメイスがダイチの脇腹を打ち、振り切られた。
ダイチの脇を守っていた金属鎧が一瞬の内に砕け、骨が数本以上折れた音を響かせながら私の側に飛ばしててくれたことにより、これから起きることが分かりやすくなった。
「ごっ、が、がふっ。げふっ」
猿轡が嵌められ満足に呼吸が出来ない状態での強打。
みるみるうちに首輪と足鎖と手錠が嵌められ、足鎖と手錠で固定。
更に重みを増すために、じゃらじゃらと鉄球を飾りのように付けられ満足に動けないようにし、
――ガチィン!!
周辺の絶叫が響く中、一際響く鍵が締められた音。
ダイチの首に嵌められた首輪は、絞首台の先端に、
「いやあああああ、止めろおおおおお! ダイチを、ダイチを殺――」
ジェーン・ドゥーの悲鳴が聞こえる。
「「苦罪:首縊りの櫓」の刑に処す」
「いやああああああああ」
「むぐぅううう」
ダイチの足元が開き、結果は首一つで自分の身体と装飾された鉄球などの重みを耐えること。
耐えることは当然叶わない。
「ボキャッ」と鈍く、瑞瑞しくも枯れたような太い木を折ったような、音が響く。
その音と共に、ダイチの目からは赤い血が溢れ落ち、歯を食いしばったのだろう。
猿轡が外れたと同時に舌は千切れ落ちた。
もちろん、折っただけでは済まされないぐらいの重量なだけに、首の筋肉と皮が千切れ――。
「止めろ、止めろおおおおおお!」
どちゃっと、水気を含みつつも重量のあるものが高いところから落ちたような音が、した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そこからは、ただの消化試合だった。
ダイチという『勇者』は冒険者の中で、拠り所になっていたようで、死んだ瞬間に冒険者はあっさり死んだ。
ある者は頭を削がれ脳漿を撒き散らし、またある者は胸を貫かれて血を吐きながらのた打ち回り、またある者は腹を切り裂かれて零れ落ちる内臓を必死にかき集めて。
ある者は剣山に貫かれ痙攣し、飢餓の感情を与えられ周辺の人間も何もかもが食い散らかし、渇水の感情を与えられたものは自分の血だけでなく、やはり飢餓と同じく、周辺の人間を刺し殺し水分を啜る。
鎧ごと食べることを試みるためか、彼らの咥内の歯は全て折れ、喉は切り裂かれ、哀れな被害者は生きながらにして食われていく。
そこかしこから聞こえるのは絶叫。
「あーあ。つまんないの」
「くっ、お前……よくもこんな地獄を……」
「くすくすくすくす。戦いをしたがらない『魔王』を怒らせると、こうなるの」
今、ユーコと呼ばれていた物は、ケンタと呼ばれていた者に食まれている。
二人、蠢く姿はさながら。
「くっ、貴様もやっていることは我々よりも……!」
「うん、そうだよ。やっていることはえげつないという自信はある」
「ならば、なぜ!」
「なぜ? あなたたち血肉族は、魔族のことを絶滅させようとしている」
ならば、
「同じようにこちらも血肉族を絶滅させたいな、と思うのは自然じゃない」
「狂って――」
「魔族は魔石という燃料。血肉族は血肉、つまりは肉となる」
「…………、」
「知ってる? そこかしこに『牧場』ってあるけど『牧場』がありすぎているんだよね」
「…………、」
「一つの国に一つの『牧場』じゃない。一つの街に一つは『牧場』がある。獣魔族という多産の魔族だけなら、賄えるかもしれないけど。
獣魔族って本当にいないんだよね。あと種族次第だけど、一人作るのに一年が平均」
だから、
「日に日に際限なく増える血肉族による需要で、一年で一人。且つ、赤ちゃんから十分な大きさになるために、成人ぐらいの大きさにする必要がある」
ね、
「賄える訳がない。でも、家畜として魔族という血肉族の隣人だった人間を飼っていて、それを女は望んでいない仔を作ることを幸せだと刷り込まれている『勇者』にとって、この現実は難しいかな?」
「…………、」
「だから、魔族ってもう詰んでいるの。
私は魔族だから、そりゃあ最初は大好きな人と一緒に住んで、赤ちゃんを作って、赤ちゃんが成長して、大好きな人ともしくはその家族たちに看取られながら死にたいなとか、思った」
でも、
「私と最愛の人との赤ちゃんを作って、その子が『牧場』に連れ去られてしまったら。連れ去られなくても、少数の魔族として知られてしまったら」
わかる?
「魔族はもう絶滅するしかない。私たちの国にしかもういない。逃げるための腱を切断され、牙も抜かれた魔族をどうやって運ぶ。私は運べない」
「…………、だからって同族を――」
「うん、殺すよ。生かしていてもどうせ飢えてしまうだけだし、『牧場』から外に出たことがない子なんて何を思うか」
「それは、空が青いと……か」
「うふふふ、自分の許容量を超えた情報の多さに壊れると思うね」
過去に助けたことがあった。
激情に駆られてのことだ。
助けだされた彼女らは『牧場』という世界を超えた先の、嗅覚、味覚、視覚などの情報量の多さにみな結晶化してしまった。
それもこれも、彼らが出した感情の音で彼らの想いが聞こえてしまった。
だから殺すしかない。
気付けば辺りは何も聞こえない。
ぐちゃぐちゃと何かを食む音も、何もかも。
一切の静寂のみが残る。
この街を覆っていた不浄も全て消え、黒く染められた双子月は、元の青白い月に変わっていた。
「私はね。『魔王』の中でも『勇者』に対して特に恨みが強い方なの。最愛の人の大事なものを奪い、私たちの家族も奪った。
でも、割り切った。忘れることにした」
けれども、
「あなたたち『勇者』が、私に恨みを思い出させるのであれば、話は別。幾らでも殺してあげる」
さぁ、ジェーン。
「あなたのいう幸せを味わって……ね?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝、人っ子一人いなくなった故郷で、私は悠々と街を出て行った。
足取りは軽かった。
作者名とアカウントネームが違うため、私の活動報告に直接飛べません。目次の下部にある「作者マイページ」から、私のアカウントの活動報告の閲覧出来ます。




