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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第4章-初日-
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過去

 さてそんな訳で学校内をまず探検した。

 七人の片手には学校内の地図を持って、だ。


 ティータは引率の先生、いや「ここは休養室。で、次のここは~」と案内していくさまは観光名所めぐりのガイドさんか。


 最初は不参加と決め込んでいたニムとティアも、今では目がキラキラしているかのようにきゃいきゃいしていた。


 ナイアーもタナベも「ふんふん」と片手の地図に色々丸とかを書き込んでいたり、正しくも年齢通りに楽しんでいるなぁと肉体年齢通りには考えずに、この集団のことを考えた。


 さて、この体術学校の立地だが、マンモス校だからなのか教室などはひとつの建物の中であった。

 しかし、職員室と休養室に、工作室に料理教室などの特殊な部屋は全て外の離れの家屋または倉庫のような建物にあった。


 魔法の実践教室は屋外らしい。


 図書館と食堂は基本学校生時代と変わらないらしい。


 ちょうど昼時であったため、七人で昼食を摂り食べ終わった頃にはずいぶんと打ち解けていた。

 主にクロッカスとフリージアが顕著だ。


 ブルブル震えて無言だった兄妹が、少々震えているとはいえ、笑顔が見えるようになったり、このメンバーの中で貴族階級を持つ俺相手に色々話してくるようになった。


「あの、ウェリエさ……ん」

「ん、なに。クロッカス」


 クロッカスは兄の方だ。


「ザクリケル出身……って言ってたけど、ザクリケル……って、ど……んな」

「ザクリケルはー、一言で言えば実力主義だね」


 国の特徴は実力主義だ。

 実力があれば、ハーレムも是となる。

 流石に犯罪の類は禁止だが。


「実力……主義?」

「そ。実力主義」と答えたところ、「そうなのか?」とはタナベの声。


「実力というか、火力があったから俺が『宮廷魔術師』という職に就けたぐらいの実力主義だよ」

「そうなの?」とはニムだ。

「うん、ウェックナーの近衛騎士団の選考基準は知らないけれど、宮廷魔術師は何かの一芸に特化しているとなれるらしいんだ」


 実際に、

「宮廷魔術師の知り合いは三人いて、その内一人は『要塞』と呼ばれている人だったけど、とても防御に特化している人だった」

 その分火力が無い人だった、と注釈は付くが。


「言い方は悪いけれども、とにかく結果が全てでそこに至るまでの道も一応見る感じというべきか。

俺は兵器として特化していていて、別の人が使えるような魔法ではなくて……いわゆる特異点魔法(ユニーク)が使えるという一芸があるからなった……って感じかな」


「じゃあ宮廷魔術師っていうのは貴族というよりも、あくまで『一芸"兵器"的な個人』ってことか?」

「そう言えるかな。少なくとも俺はそう解釈してるし、元々『兵器』という蔑称(べっしょう)があったから『宮廷魔術師』という貴族の位階を与えたっていうぐらいだし」


「じゃあ……、貴……族、って……いうよ……り」

「うん、平民だよ」


「そ、そうなんだ……」

 心なしかクロッカスとフリージアの顔が明るくなった。

 貴族に何かされたのだろうか。


 貴族と思っていたときと、平民だと分かったときの落差がある気がする。


「あれ、でもウェル」

「ん、なんだよティータ」

「お前、家名あるよな。フロリアっていうのが」


「うん、あるけど」

「一代限りの貴族だったら、国から所属国の名前が入って『ザクリケル』……は王族の家名だけど、それに準じた家名になるはず。

それにリーネさんって王族で、その王族と婚約……ほぼ婚姻だけど、それをすれば『ザクリケル』が家名に入るのに、なぜ『フロリア』なんだ?」


 明るくなったクロッカス兄妹の顔がまた暗くなってきた。

 ちょっとは空気を読め、ティータ。


「母さんはともかく、父さんは貴族なんだよ」

「え?」

「お前……貴族だったのか?」


「父さんは国の凄いところで働いていて……というのは知ってる。けれど、俺の生まれも育ちも長閑(のどか)な村だし、家名は持てども心は平民だよ。なにせ平民……いや村民として暮らしてたんだから……っ」


 ズキッと頭痛がしてとうとつにあたまにうかぶのは。


 誰かのか分からない緋色のみず。

 鉄錆の臭い。

 ピンクと黄色と青白いナニカ。


 響く声。

 すえた臭い。

 水音。


 白濁。

 涙。


 ことば。


 無理矢理強引に剥ぎ取られた、ピンクの赤々しい何かと黄色のいとくずがくるまって。


 だれかのなきごえ。


 たすけをよぶこえ。


 ああぼくをよぶこえがきこえる。


 たすけて。


 たすけて。


 そのこえはきいたことがないこえだけど。


 おきて。


 おきて。


 どこかなつかしくて。


 たって。


 たって。


 そのこえにぼくは。


『起動』とみじかく応えて。


『世界』を変え――。



「おい、ウェル。大丈夫か」

 気付けば目の前にティータがいた。


 ティータの声は不思議だ。

 彼は男の割には未だに中性的な声で、そして五臓六腑と頭に染み渡る声をしていて、直ぐに先ほどのよく分からない状態から一気に開放された。


「ティー……タ?」

「おう、ティータだ。大丈夫か」


「な、……にが」

「いや、話しているときに急に顔をしかめて、ぼそっと呟く声が聞こえたからさ。心配になって」

「ああ、すまん。心配かけた」


「…………、」

「で、なんだっけ。ああ、俺の故郷のことか」

「ウェル、いいんだよ」


「何がだよ。ティータ」

「お前、過去に何かあるんだろ」

「…………、」


「思い出さなくていいよ。そこまでしてくれて聞きたくない」

「いや、そんなことはな――」

「いいんだよ、ウェル。本当にいいんだ」


「いやいや、本当に――」

「いいんだよ」


「いや、ちょっと勝手に勘違いするなって」


 正直、俺の身の上の不幸など、数ある不幸のうちの一つでしかない。

 当人からすれば地獄であって、人を信じられなくなって、、場合によっては復讐に走る現実ではあるけれど。

 他人からすればどうでもいいことだ。


「復讐は何も産まない」とか、「殺された人はそんなことを望んでなんかいない」と想いを代弁してしまうぐらいに、他人からすれば当人たちの想いなどを踏みにじり、喜劇にする。


 だからこそ、この俺の身の上の不幸話は他人に言えない。

 言えば心にも想っていない同情をされてしまう。

 そして人は「忘れろ」、「命あっての物種」というだろう。

 そんなことを俺は望んでなんかいない。


 確かに村の人々からすれば、許しがたい罪人かもしれない。

 だが、その罪人を作り出したのはカルタロセだ。

 村人が俺に復讐をするならば、俺はカルタロセに復讐する。


 だが、今のところ実害は発生していない。

 だから、カルタロセのあの村に帰っても何もしない。


 俺という"兵器"がカルタロセではなく、ツペェアいやザクリケルの"もの"となれば、カルタロセに十分な報復(ふくしゅう)だ。

 俺にだって無駄に生命を磨り潰すことは極力したくない。


 だから、しない。

 カルタロセに対しての恨みがあって、復讐はする。


 直接はしない。

 直接すれば、赤の他人を巻き込む。


「……おい、こらティータ抱くな。暑苦しい」

「はいはい、よしよし」


 そういって俺の後頭部を撫でるティータ。

「おいこら、止めろって」

「辛かったんだな、俺を母ちゃんだと思って――」


「いやいやいやいや、どっちかつーと父ちゃんだろ。お前!」

「あっはっはっは、どっちも一緒だ!」


「一緒じゃねーよ!」


 ただ、ティータのお陰でさっきの感情は霧散したので、もう少し、そうもう少し。

 振り(ほど)かないで、このままでいようと思う。


 

 迷惑をかけたことを謝り、ティータやタナベの話に始まりナイアー、ニム、ティナ、フリージアと女の子四人とも世間話。

 どうしてこうも女性というのは、四人も集まれば姦しいのか。


 隣に座るタナベを見れば……とても笑顔で「うんうん」と頷いている。

 これはいわゆる女の子の話を聞くのが上手いっていう類なのだろうか。

 クロッカスもフリージアという妹さんがいるからか、とても受け答えが上手だ。


 対するティータは物凄く仏頂面。

 多分きっと俺も仏頂面。


 なにせ、言っていることが物凄く異世界だ。

 服の名称なんてワンピースが云々とかなら……ある程度……だが。


 ソニアがどうのこうのとか、サレアインの花が云々とか意味が分からない。

 タナベとクロッカスは理解しているようで、あーだこーだ突っ込んでたり、もう本当に分からない。


 誰か助けて!


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 結局、異次元会話は夕方まで終わらず、学生の皆々が夕食を摂りそのまま寮に帰り、食堂が閉まるまで姦し井戸端会議は続いた。


 最後まで話しを聞いて相槌を打っていたタナベは凄いとおもう。

 クロッカスは途中で帰ってた。


 ティータは突っ伏して寝ていた。

 俺も意識が彼方に飛んでた。


 続きは明日ということで解散になったが、女の子四人とタナベを置いて、俺はまたティータと共に帰路についた。





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