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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第4章-プロローグ-
233/503

引っ越し I


 そんなこんなで卒業式が終われば、みんなで食べに行ったりするものだったが俺はちょっと違った。


 俺はというより俺"たち"は、というのが正しいか。


 というのも寮の移動である。


 カクトは女性ということで女子寮に行った。

 まず無いことだったが、特例で女子寮に入寮した……が、しかし今更部屋は無い。

 ので、特別に一人部屋を与えられた。


 で、俺はカクトの代わりに~ということで、ティータと相部屋となった。

 俺も一人部屋となりそうだったが、空いているティータの部屋がある。

 ティータが一人になって、俺も一人というのであれば、俺が入れば特に差し障りもない。


 それにティータだって、俺じゃない誰かと相部屋になるより、一緒に遊んだりして気心知れている俺と相部屋になったほうがストレスが無いだろう。

 俺がいることで新たなストレスが発生しそうではあるが。


 俺の荷物は二年ほど愛用していた、タオルケットに、日曜大工よろしく自作した文机(ふづくえ)だ。

 あとは鞄にニルティナことマンディアトリコスの鉢に、ゴム毬スライムと自分の服に小物。


 服は先日購入した登山用と見まごうばかりに大きい鞄の中に入れて、昔ながらの鞄には小物とゴム毬スライム。

 

 布団は向こうにもあるとのことだったが、心地よく寝れるためのタオルケットを約三年と半年ぐらい前に見つけた思い出深いハンモックで(くる)んで、背中にセット。


 その上を押さえるように登山用鞄を背負い、肩からゴム毬スライムが入った鞄を身につけ、小脇に文机と鉢を抱えていざ男子寮へ……!

 と言ったところで、何故かパイソがついてこようとした。


「おい、こら。なんでついてくるんだ」

「私もついていくに決っているだろ」

 いやいや、

「なんでだよ」と突っ込む俺。


 なんで男子寮におっぱい女を連れていかなければならないのか。

「お前、女……いや雌型だろ。男子寮に連れていけるか、馬鹿野郎」

「えぇっ」

 ガーンとショックを受けたような顔をする竜種。


「いや、え……だって」

 しどろもどろになる竜種。


「兄上がいないと……朝ご飯の魔力は……」

「大抵は食堂にいるんだから、食いに来い」

「えっ、食べているところを見られたら……どう――」

「じゃあ授業中に食わせてやるから、そのときは小型化しろ」


「いや、そうじゃなくて……だな。兄上……」

「なんだよ」

 何が言いたいんだこいつは。


「いや、そのだな。小型化して一緒についていっては――」

「ダメに決っているだろ」

 思わず肩を竦めてしまう。


「お前、結構ゆったり(リラックス)してたり、寝ているとき竜種化しているぞ」

 そうなんのかんの言って、こいつは例の柊葉のような鋭鱗とその間々(まま)に鋭い針が伸びた、竜種というでかいコモドドラゴンになる。

 全身が柊葉の鋭鱗に鋭針のトカゲと一緒に寝る恐怖。


 事情を知っている俺とかエルリネたちだからいいものの、事情を知らないティータだと驚くってレベルじゃない。

 隣でパイソという美女と寝ていて、起きたら全身凶器の爬虫類がいたら飛び起きる。


「うぐっ……だ、大丈夫だとも! ちゃんと人型取るし!」

「いや、人型がダメなんだが……」


 男子寮に女性を連れ込む奴がどこにいるのか。


「じゃ、じゃあ小型化するから!」

「だから、お前。それが出来ないだろって……」


 珍しく枕元に小型化したパイソと一緒に寝たが、起きたらパイソは竜種の姿を取って、俺の上で丸くなっていた。

 その姿は卵を温める蛇のように、だ。


 最近、ただでさえ四年から三年前の森のなかの生活のように、部屋が蒸し暑いのにパイソが更に蒸し暑くさせてくる。

 更に体温……は偏見だったが、火属性の魔力を周辺に放出するため、非常に暑い。


 彼女のお腹側の鱗は刺々しさはあれども、針はなく、呼吸によるお腹の縮み膨らみで鱗も動き……、柊葉が顔に当たって引っかかれて痛いという始末。


「そこをなんとか……!」

「いやいや、だめだめ」


 お慈悲をお慈悲をおおおぉぉぉと泣きながら、追い(すが)るパイソ。


 大の大人(っぽい見た目)のパイソが、小さな子どもの腰に抱きついて、頭ぐりぐりと押し付けてくる。

 非常に久し振りだ。


 この頭ぐりぐりと押し付ける行為は。

 愛情表現らしいので悪い気はしない……が、悪い気はしないだけで許す、許さないには全く関わらない。


「それやってもだめだめ」

「うぇえええん」

 段々と泣きが入り、最後には。


「きゅううううううん」

 情けないことに竜種化した。


 見た目が大人で言い回しも大人っぽいが、やはり年齢相応の子どもだ。

 竜種化したパイソは見た目通りに重い。


 本人の骨格がガッシリしているし、竜種という魔獣の括りとはいえ肉もあるため重い。

 それになにより彼女の柊葉鱗が普通に硬くて重い。


 以前、パイソが脱皮……っていうものでもないが、抜けた胸付近の鎧鱗を貰った。

 子どもの腕力的な問題もあるだろうが、ズシッとくる重さだった。


 ちなみに竜種の鱗は、お約束かのように一級防具の材料らしい。

 よってパイソの鱗も一級防具の材料になる……が、そんなものは全く興味ないし、彼女自身が記念にどうぞと贈ってくれたものだ。


 だから記念品として貰って観賞用に取っておく。


 そんなクソ重たい生物を腰に抱きつかれながらも、ずるずると引っ張る。

「きゅうきゅう」

「うるさいぞ、クソトカゲ。離せ」

「きゅうきゅ」


「ダメだっつの! 第一小型化成功してこのまま四年過ごしたとして、お前の人型知られてるんだぞ!」

「きゅ?」

 ちょっとだけ力が弱くなった。


 畳み掛けるように、

「ティータから、『あれ、パイソさんは?』って聞かれるに決っているだろう……っが!」

「きゅ?」


 何が悪いのか分からないとばかりに首を傾げるパイソ。

「パイソと話がしたいときに、頃合いを図ったかのように出てくるのは不自然だし」

 一旦言葉を切って、

「俺とティータとエルリネたちが食事処で合流したときに、お前がいなかったらおかしいだろ」


「きゅう?」

 本当に分かってなさそうに首を傾げる竜種。


「パイソがいない中、なんでもなさそうに飯食ったら、ティータはどう思うか。『家庭内でイジメでも起きてる……?』とか思うかもしれないだろって話」

 もちろん、

「ティータだけじゃない。別の奴だって、いつも飯時にいたパイソが不在がちになったら、どうなったか邪推する奴が出てくるだろ」


 だから、

「めっ」

「きゅうう」と伏目がちになるトカゲ。


「分かったなら離す!」

 ぱっと回した腕を離すパイソ。


 全く。

「よく考えれば、朝の持久走開始時に食えばいいじゃないか。俺もお前(パイソ)もエルリネも皆勤賞なんだから」


「…………、」

「ということだから、ほら……って服の裾を掴まない」


「……きゅう、せめて」

「うん?」

 攻めて?

 なにを?


「その鉢は置いていって欲しい。兄上」


 パイソから交換条件を出された。


「なんでまた?」

 食べるつもりだろうか。


「私が駄目でそれはいいというのが納得出来ない」

 う、うん?

 愛玩動物(ペット)愛玩植物(ペット)に嫉妬か?


「パイソは魔力食えるが、こいつは魔力水を垂らさないといけないから。こいつは置いていけないし、そもそも俺が育てないと危険――」

「それはもうないから、大丈夫だ」

 なにを根拠に……だろうか。


「いや、そういうわけにも――」

「大丈夫だ」


 いやいや。

「どこにそんな根――」

「それは既に成長しきっている。あとは食餌というよりきっかけだ」


 本当にどういうことだ。


「きっかけ……?」

「きっかけ」

「成長し"きっている"というのもよくわからん。たった二年と三ヶ月で大樹が成るか?」


 成るとは思えない。


「普通はならない。だが、兄上の純粋な凝縮された魔力のお陰で……な」

 ふーん、そうなのか。その割には、


「まだ、見た目が玻璃(ガラス)細工なんだが」


 透き通った色をして息を吹きかけるとピクピクと双葉が動く謎植物。


「それは知識によると掛けた時間によって、成長していくものだが……兄上の魔力によって促成され中身だけが成長した」

 ……つまり?

「中身だけは既に成草しており、きっかけがあれば見た目も美しく成長する。兄上の庇護下に入っている間には、無いだろうがな」


「そうなのか?」と脇に挟んだ鉢をの中のガラス細工に話しかけても、答えは当然返ってくるはずもなく。


 ふとパイソを見やれば、中に赤の絵の具が混じったビー玉のような目は、偽りを言ってなさそうに見つめ返してくる。


 ……。


「……分かった。ではニルティナの鉢は置いていく」

 小脇に抱えた鉢をそのままパイソに手渡しし、「食べるなよパイソ」と釘を刺す。

 魔力を食べるパイソだ。


 魔力を体内に溜め込んだ魔草など餌にしか見えないだろう。


「……兄上は、私をなんだと思っているのだ」

「うん、腹ペコ系お姉さん?」


 パイソから拳骨貰った。




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