卒業式
時間の流れは早いもので今日は卒業式だ。
卒業式とは名ばかりで、生前で言う卒業式の歌を歌ったりすることはなく、あくまで基本学校から上級学校へ進学するための儀式みたいなものだ。
とはいえ、当然一大イベントであるわけなので、学園と周りの国の思惑が入り乱れて訳分からない状況するのが、いつものことらしい。
何が言いたいかというと……。
「俺が、卒業者代表?」
ポカンと間が抜けた顔になっていただろう。
事実、初めて聞いたときは何を言っているのか、頭が追いつかなかった。
「うん、ウェリエくんが卒業者代表」
「ちょっと待ってください、サイト先生。俺が代表ですか?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ヤーク先生から「職員室に来い、話がある」と言われたとき、先日の誘拐事件の続きのことだと思った。
結局あの話は、『魔王』のブチ切れが原因で追えなくなったのが、原因で話が決着ついた……、が、そうもいえないのがウェックナーの人たち。
セシルのときの盗賊団のように溜飲が下がらない人がいるようで、困ったことになったようなのだが……。
俺からすれば「じゃあ、逃がすなや。ウェックナー内々で済ませろ、ゴミ騎士団」などと思ったりしながら、職員室やらビルーボーストの警備署に出頭したり、色々した。
決まって最後は、「近衛騎士団に入らないか」と勧誘してきてうっざいのなんのと心に思いながら、顔には出さずに「宮廷魔術師ですので、間に合ってます」とやんわり拒否すること、数回。
あいつら、事件の解決より俺の勧誘に力を入れてるとしか見えない状況。
中には「第五位がこんなにも譲歩しているだろ! ガキィ!」と激昂する奴もいた。
ちなみに第五位とやらはお姉さんだ。
それも美人。
ただちょっと好みじゃない。
俺の見た目は洋風だが、好みは日本人に出来るだけ近い奴だ。
だからエレイシアなんてストライクに近いし、ダークエルフといいつつ健康的な焼け方をしていて、お姉さん系のエルリネなんてどストライク。
パイソとセシル、クオセリスはいかにもな洋風の顔立ちしているけども、性格的にもストライク。
だが、この第五位。
「まぁ、美人だけど。一緒にいたいか?」って聞かれると「ビミョー」と言えちゃうぐらいに微妙。
ぱっと見は成人十五歳。
「あなた……より五歳上だよ……」と言ってきたので、本人を信じれば十五歳。
但し、魔力検知では年齢は十七歳。どっちかなんては別に二歳差なので、別に気にしてもしょうがないが。
それよりも『近衛騎士団』所属の癖に、親衛隊なんてものを作っていることに哀れみを感じる……。
最初のうちは適当にあしらっていたけども、毎回毎回毎回……毎回も絡んでくるし、その度に激昂するわで、いい加減ウザくてウザくてわざと刃傷沙汰にした。
というのも、先に剣を抜かせただけである。
ちょっとあしらって「親衛隊任せの第五位わろす」と煽ったら簡単に抜いてくれた。
あとはもう簡単だ。
抜いてくれた場所は所轄の警備隊の尋問室だったが、あっという間に破壊してあとは殺戮……とまではしていないが、血を見せた。
バッキバキに骨を折るだけじゃない。
大通りに面している部屋でもあったので、道行く冒険者、旅人、街の人に学生などに見られたまま、ウェックナーの騎士団相手に無双。
「死ねえええぇぇぇ!!」
と、マジになって斬り掛かる馬鹿とか、思わず「馬鹿じゃないの?」っと感想を漏らせば、見ていた人も「馬鹿がいる」とかなんとかが聞こえたり、そもそもとしてこれはザクリケルに喧嘩売っているのではなかろうかと突っ込み待ちだろうか。
とにかく「今なら遊びで済むから剣を仕舞えー」と猫なで声で忠告しても、ガン無視。
第五位も止めてーと言っても止めない。
周りにわらわらと寄ってくるのも、取り巻き共しかいない。
俺vs第五位の取り巻き三十匹になったところで、何故か魔法を解禁。
とうとう一般人から血が流れたときに、こっちも解禁して……九割半殺しにした。
半殺しもいいところである。
セシルの家の騎士どもにやったときのように、鎧を砕いてその破片で身体を切り裂くとかをひたすらやった。
もちろんそのときの魔法は「魔法装填:狂風」だ。
イメージはミキサー。
その間に連中も魔法が激化していて、もう冒険者も剣を抜いている始末。
人通りが激しい大通りなので、「神剣」と「焼灼の槍」を「装填」しても射出は出来ない。
だから、このように中級魔法でひたすら粉砕していく。
粉砕に粉砕を重ね、最終的には『蠱毒街都』の低級駆動で「常在魔法:化膿毒」と「知覚過敏:出血毒」を同時に使い、ひたすら虐める。
スライム状の赤黒い液体が、身体を金属片によってズタズタに粉砕されて呻いている連中の身体を覆い被さり、発生するのは絶叫のごとき声量。
あとは、そう簡単には治せないように「化膿」までやってあげる始末。
俺に近い奴には、「熱病毒:肺炎」で肺を冒して、呼吸困難に陥らせる。
これで死ぬ奴も出るだろうが……刃物抜いて堅気に血を見せたアホの責任だ。
俺の知ったことではない。
「ぎゃあああああああああ」
「たすけてくれえええええええ、いてえええええええ」
大通りに絶叫が木霊するが、誰一人として助けたがらない。
助けられない。
相手が『魔王』だというのと、こいつらが刃物を抜いて多数の一般人に怪我を負わせた。
誰が味方をするか。
というのも、ただの憶測だが間違ってはいないだろう。
奴らに近寄らない代わりに、第五位から盾になるように……か、俺の前に立とうとする一般人と冒険者たちがいる始末。
「ううぅ……、そんなつもりないんですよぅ。信じてくださぁい」
第五位が泣いている。
ただこんな状況で信じられる奴はたぶんいない。
この話のオチとしては、第二位のセイカーが乱入。
話を聞くようにするも反感が高まった冒険者と一般人らが、聞く耳を持たず。
第五位も怒られたくないからか、わんわん泣く始末。
で、まともに話が聞けそうという俺に聞いてきたので悪意たっぷりに、「一般人に怪我させたので、やり返しました。あと俺に『近衛騎士団』に入れとやかましいので黙らせろや、そこの女を」と言って戦闘開始。
言い分としては、「そんなことをするはずがない」とかなんとか。
実際にやった訳だし、言われた訳なので精製されていない魔力で簡易起動の「焼灼の槍」を二十本と「神剣」一本、「大地の御剣」を五本に「雪山の吹雪」を撃って、強引に話を終わらせた。
奴らの「化け物か」と思っていそうな顔が心地良い。
で、結局とっても痛ーいお灸がビルーボーストから、ウェックナーに通達が行ったとか何とかを、『穴熊亭』の固定客の内の一人の警備隊員に聞いた。
ちなみに警備隊員は俺の前に盾になってくれた人の内一人の獣人だ。
それも蛇系。
ズミューレーリーの件以来、俺には蛇系獣人のファンがついたようだった。
なんでもビルーボーストに住んでいる蛇系獣人は、みなウェリエのことが好きだとか。
あんな件一回でファンがつくなんて、なんてチョロいのだろうか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
とにかく、その件のことかと思い職員室に来てみれば、基本学校生代表として、壇に上がれとかなんとか。
――めんどくせぇ。
と、思うのは詮無きことだろう。
数学というより算数に毛が生えた程度の内容に、ツペェアにいる間にそれなりに覚えた国語。
お金の数え方。大体の歴史。理科の代わりの魔法学。
簡単に頭に入る。
更に最早うろ覚えに近いが、『生活』なんていう授業が小学生時代にあったが、これも裁縫と料理でしかなく、料理は生前やっていたわけだし、裁縫もミシンの扱いがド下手糞で、自分の指を何度か縫ったが、針の方は並程度に覚えてる。
授業中にセシルとクオセリス用にマフラーも編んだ。
ちなみに何故か教師から褒められた。
何故か発生する俺SUGEEEである。
こんなので俺SUGEEEには、びっくりするが。
こんな程度で代表である。
チョロすぎて笑える。
ただ俺が代表だということには、当然思惑があるようだ。
というのもウェックナーのサイアも候補に挙がっていた……が、例の件のせいでお流れになり、あとはほかの国もあったけども『魔王』に格で負ける……ということで、俺が自動的に勝ち取ったというカタチ。
ウェックナーの第三王子のサイアとザクリケルの宮廷魔術師『魔王』のどちらが格が高いかといえば、間違いなく王族である向こうなのになぜ俺なのか。
少しぐらいの瑕疵など気にするほどでもないような、そうでもないのか。
ただ確かに、各国の兵器で代表者たるウェックナーの『近衛騎士団』とザクリケルの『宮廷魔術師』がぶつかったとなったら、『戦争』であるし。
その戦争にほぼ無傷で勝利し、『近衛騎士団』と違いまだ完成していない年齢の『宮廷魔術師』。
ちなみにビルーボースト内にあるザクリケルの銀行から給与を貰いに行ったとき、謎のお金が振り込まれていた。
その件について聞くと、なんでも「慰謝料」的なものらしい。
よく分からないがザクリケルがウェックナーに請求して、勝ち取ったとか何とか。
ただでさえよく分からないレベルの高給取りなのに、更にくれるのは心にクるので突っ返したいところだが、そのまま貰っておいた。
閑話休題。
とにかく、そういう理由があって壇上に上ることになった。
で、こうなるとまた更にめんどくさいことになった。
というのも、俺の進学先だ。
『魔術学校』と『体術学校』どっちに行くかで、今度は教師たちが喧嘩になった。
最初は行き先について聞かれた。
このとき、「決まっている」と言えば良かったのだが、「まだ、決まってない」と答えたもので職員室が騒然となり、それぞれの学校のいいところの紹介とかなんとかで紛糾した。
ここまで来ると非常にめんどくさい。
目の前のサイトさんに、
「……ひとまず部屋に帰って考えます」
「……そう、ね。そうしたほうがいい」
疲れた顔をしたサイトさん。
「期限はいつまでですか。明日ですか?」
「いいえ、卒業の日までなら……。もちろん、早いことに越したことはないけど」
「そうですか、ではゆっくり考えておきます」
うん、とサイトさんが頷き、
「一生の方針を決める物ですから、むしろ時間が足りないけれど……ゆっくり決めなさい。あなたの道に先生はとやかく言わないから」
「そうですか。ありがとうございます」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
部屋に帰り、セシル、エルリネたちに進路希望先について聞いてみれば、全員『魔術学校』だった。
なんでも「魔法を覚えたい」らしい。
それも俺特有の。
パイソは俺の魔法に近いものを覚えているし、エレイシアはまんま俺の魔法だが、それでも『魔術学校』希望だった。
この学園に入学した理由は「加減を覚えるため」に、入学した。
自分勝手、気ままに力を振るう『魔王』が、無謀にも誰かを守る『勇者』になるための一歩である『加減を覚えるため』にきた。
ただ、俺は結局諦めることになった。
加減はどうしようもない、と。
荒れ狂うこの力を無理に抑え付けるのは出来ない。
抑え付けてもイメージが先行する。
どうあがいても無理だ。
だが。
「魔力装填」すればどうか。
自動的に腕に装填出来るような大きさになる。
であれば。
「装填」を主にする戦いを目指せばいい。
だから。
「決めた」
俺は『体術学校』に進学することにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――人生の分岐点まであと五年。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――お前は俺を助けてくれた『勇者』だ。
――お前は『魔王』なんかじゃない。
――お前が誰にも認められなくて泣いても、俺がずっと近くにいるから。
――俺が認めた『勇者』だから。
――二人で世界に名を残して轟かせる『勇者』になろうぜ、ウェリエ。
古代歌詞の碑文:虹空を辿り歩む者-ティタニア・(欠けていて読めない)-
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