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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第3章-歴史の分岐点- または-世界の分岐点-
229/503

生還


 エメリアの取り巻きらしきアウラとアレグロとやらの子たちは、幸か不幸か気絶していてくれていたお陰で、グロい場面は特に見ていないようだった。

 ただ俺とティータとカクトの様子を見れば、何か『怖いこと』が起きたということは察してくれた。


 因みにカクトには、俺の匂いが染み付いたYシャツのような下着と『穴熊亭』のエプロンを着てもらっている。

 裸にYシャツはグッと来るが、いかんせん並程度に胸があるとはいえ、年齢二桁になったばかりの娘に裸Yシャツなど合う訳がない。

 事実、ぴくりとも来なかった。


 ただ、少々ラフな格好になったので、割りと男にも見えなくはない女顔のカクトだ。

 凄い似合う。


 それにエプロン。

 どこの女主人だろうか。

 といっても年齢二桁だが。

 ただ未来のカクトはとても童顔の女主人っぽくて……、とても俺垂涎(すいえん)の魔性の女性になりそうだ。


 アウラとアレグロ、そしてエメリアの三人に目立った外傷はなく、せいぜい擦り傷とかそういう程度だった。

 ということで簡単に立ってくれた。

 とはいえ、エメリアは組み敷かれていた。

 男に対して恐怖は覚えているだろうし、こればっかりは俺がどうにか出来るもんでもない。


 実際、アウラとアレグロはけろっとしているが、代わりにエメリアの目が虚ろだ。

 アウラとアレグロが物凄く心配して励ましてはいるが、エメリアは無反応。

 時間が解決してくれることを祈るしかない。


 女の子三人+一人(カクト)と男二人で、真っ直ぐ『穴熊亭』へ向かった。

 その間の会話は特になく。

 俺が先導すればとててててと、後ろを付いてくるのはカルガモの雛のようだった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『穴熊亭』の前ではミテちゃんが沈痛そうな面持ちで待っていた。

 その隣には例の保母さん的な冒険者のお姉さんが一人。


『十全の理』で強化した視力で彼女らの姿を捉える。

 人通りはまばらだ。

 だから、


「――エメリア」


「なん、です――」


「ミテ、という子が俺に助けを求めた。だから、ミテという子にお礼を言いに行きな。そこの建物の前にいるから」


 正直に言えば、非常に遠いところにミテちゃん、もとい『穴熊亭』がある。

 距離にして約五百メートル。

 彼女(ミテちゃん)らの顔色を見れば、まだ俺たちを捉えていない。


「それとも、ミテも同じ目に遭えばよかったとか――」


「そんなこと微塵も思っていませんわ!」


「なら、行けよ。走って行って、無事を知らせてこい」


 空いた手でしっしっと腕払いする。


「ウェリエ……さん、貴方は――」


「見りゃ分かるだろ……。こっちはおんぶしているし、必要以上に労働してて辛いんだよ。走ってられるか」


「そうですか。ありがと――」


「礼は要らない。当然のことをしたまでだ」


「そうですか……、では」


 一礼して走るエメリアとアウラとアレグロ。

「ミテー!」と叫ぶ三人。

 その呼び声に反応したミテが走りだし、お互いが抱き合うシーン。


「ええ、話や」と涙ぐむも、後方のティータが何やらぶつぶつと呟いている。

『十全の理』で強化された聴力でも聞き取れない。

 まぁいいかと、ばかりに自分も遅く凱旋し、固定客が呼びに行ったのだろう。


 店長代理が出迎えてくれた。


「……遅刻だ、ウェリエ」


「……ぇ?」


「……え?」


 後方のティータとカクトが呆けた声を出す。

 何に対して呆けたのだろうか。


「あれ、まだ鐘鳴ってませんよ?」

 そう、大体一時間後に鐘が鳴る予定だ……が、何故に遅刻。

 まだ、鐘が鳴っていない。


「鐘が故障中だ。だから、既に時間は経過している」


「……え、嘘」


「まぁいい。今日は休みにしておく。明日来い」


「あ……はい。わかりました」


「それにお前、精も根も尽き果てているだろう。その状態で仕事させてみろ、失敗するのが目に浮かぶ。だから、帰れ」


「あ、はい。では、ありがたく早退させて頂きます」


「それでいい」


 ということで、ご帰宅確定した。

 ついでに、このままおんぶすることも確定した。


「……もしかしなくても、ウェリエって仕事中だったのか……?」


 背中のティータが聞いてくる。


「ん、仕事中……というより休憩中だった」


「あわわわ、ご、ごめん」

 何を謝っているのだろうか。


「なに、言ってんの?」


「いや、だってさ。お前……」


「俺が仕事しているよりも、よっぽどティータとカクトの身に何かあったほうが、嫌だわ」


「……え、それってどういう……」


 背中のティータが期待した声音で問うてくる。

 なにを期待しているのだろうか。


「ティータもカクトも俺の友だちだ。それ以上もそれ以下もないし。

それに俺が仕事を優先してて、お前らが壊されていたと思うと……ね」


「そんなに……大事に想ってくれるのか……? 俺たちのことを」


「もちろん、俺は『魔王』だ。自分勝手に自分の手の届く範囲は、全部俺のものだ。

カクトもティータも俺の数少ない友人だ。その友人をみすみす失いたいと思う馬鹿がどこにいる」


「……なんか、そう言われると……その、なんだ。照れるな」


「……ぅん、その、ありがと。ウェリエくん。そう言ってくれて」


「と、言うわけだ。俺たちは一先ず帰るか」


「そうだね、帰ろ。ウェリエくん」


 学園の先公への連絡はどうしようかな。

 明日、いやこういうのは今日中にするべきだな。


「代理、学園の先生に報告したいので……」


 ティータをおんぶしながら代理に話しかけたところ、


「ウェリエ」と、逆に返された。


 物凄く真面目な話だろう。

 だからこちらも、応える。


「なんでしょう」


「賊はどうした?」


「殺しましたけど」


「何故、生かさなかった?」


「何故、って復讐されたら面倒だから……ですね」


 もしかして、この国はツペェアみたいな『斬捨て御免』は禁止なのだろうか。

 やっべ、やっちったな。


「通常であれば法の裁きは受ける必要があった……。これではただの殺人だ、ウェリエ」


 確かにそういう国であれば、そうだなぁ。


「そうですね。では、どうします? 俺をひっ捕らえます?」


「馬鹿を言え、お前をひっ捕らえてみろ。ツペェアと戦争になる。

そうでなくとも、ザクリケルとの心象が悪くなる」


「左様ですか」


「それに復讐されるのも、怖いというのも事実だ」


 でしょうな。


「ということだ、分かったか」


「分かりました。以後気をつけます」


「いや、お前にじゃない」


「え、じゃあ誰に?」


 と聞いたところ、『穴熊亭』の中から、ぬっと人が現れた。

 どこかで見たなこいつ。


 背格好はどこかの貴族っぽいピッチリとした服装。

 細剣(レイピア)を左腰に付けていて、ところどころに銀の装飾。

 顔も鼻が高くて茶髪の碧眼。

 誰だっけコイツ。


「やあ、久し振りだね。ウェリエ君」


 と、聞かれてもさっぱりなものは、さっぱりである。

 だから、思わず、


「いや、誰ですか」

 とか聞いちゃうのも無理は無い……はずだ。


「ぷっ」と笑む目の前の優男(やさおとこ)


「流石に、忘れちゃったか」

 あはははと笑う優男。

 そんなこと言われても歳上のお兄さんの知り合いなんて、クオセリスことリーネの兄上であるゼルしか知らんがな。


「僕はウェックナー騎士団第二位のセイカーだ。一応、副団長を務めている」


 あぁ、あの体験学習のときの人か。

 興味ないイベントだったから、全然覚えてないわ。

 確かにいたなぁ、こんな優男。


「……で、セイカー様が何故ここに?」


「『様』付けは止めてくれよ。どちらかと言えば、君のほうが上なんだぜ。歳は下でも、能力とかその他諸々(もろもろ)が」


 めんどくさいやっちゃな。と思いながら

「で、セイカーさんが何故ここに?」

 そう、聞いてみた。


「……近くでちょっとあってね。ちょうどツペェアの『魔王』が働いているという、ここに来たんだけど……。ちょうど留守でね」

 ふーん、で?


「だから、まぁ待たせて貰った。しかも、どうにもウェリエ君が赴いたのは、そこの女の子のためだとか」


「……何がいいたい」


「ああぁいや、ただの世間話だよ。……まぁ結果からいうと、君が殺したという相手が僕たちが追いかけてた奴と、似てたからさ。

できれば、殺さないで欲しかったなーというのが一点」


 もう一点は?


「もう一点は、ウェックナー騎士団に入ら――」

「お断りします」


「つれないね。分かってたことだけど」


 先ほどからずっと魔力検知が危険と警鐘を鳴らしている。

 ただ、敵意と害意があっての危険警鐘ではないため、理由が分からない。


 実力行使が起き得るということならば、『天地動の言霊(サテライトオービット)』使わなきゃよかったと後悔するほど、特級クラス駆動は迂闊(うかつ)だった。


「……そんな怖い顔で見ないでくれよ。こちらはそんなつもりはないんだって」


 つもりってなんだ……?


「……排除しよう、とか考えてるだろう。そんなに怖がらなくたっていいじゃないか……な」


「どうかな……。今なら手負いだぜ、俺」

 主に精神的な意味で。


「止してくれ。手負いの獣ほど怖いものはないし、いくら『近衛騎士団』の第二位とはいえ、『魔王』とまともにぶつかりあったら……この地消えるだろ」


「違いない」


「それに手負いってどこが……だい? どこも怪我してないだろう?」


「そう思うなら、そうしておこうか。面倒だし」


「そうだね、そうした方がいい」

 やれやれと肩を(すく)める、セイカー。


「『魔王』、近いうちに伺うよ。また」

「面倒だから来るな。見たくない」


「つれないね、まったく」


 背中のティータが「あわわわ」って言っている。

 ティータの吐く息が耳をくすぐってて、非常に気持ち悪いから「お前、息吐くな」なんてことは言わない。

 

「じゃあ、また今度」

 セイカーはそう言ってまた『穴熊亭』の中に引っ込んでいった。


 それに対して俺は。


「一昨日来やがれ」と文句を言った。




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