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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第3章-ある日の一日- VI
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家族


 午後の授業はなく、昼食を摂った人から順々に学園の外へ行ったようだ。

 こういうお祭りの日は宿や、食事処は掻き入れどきとして多忙となり、猫の手も借りたくなる。

 事実、生前の大学生のアルバイター時代においてこういう日に休みを取ろうとすると、店長やらなんやらが厭味をグチグチ言ってきた。

 おばちゃんもブツブツ言う癖に、若いねーちゃんやらなんやらが休もうとすると、ド甘やかして休ませるし、おばちゃんも「いいわよー(笑)」とシフトを工面してくれる。

 俺にはやってくれない。


 やってくれないから、クリスマスイヴの日にぶっちした。

 もちろん、勝手に辞めたわけではない。

 いい加減休日に休ませろ、休ませないなら辞めてやると半年以上前に言った。

 その半年後クリスマスイヴか、当日どれかに休みをくれと言ったが、どれも出勤。

 いやイヴから年始の三が日までお休みなしの八時間。とサビ残三時間にみなし休憩一時間で、計十二時間。

 もちろんみなし休憩なので、休憩? あるわけない。


 ブラックもいいところである。

 だからぶっち。いわゆる逃亡。


 そんなこんなでムッカついていた。が、この世界では女尊男卑ということは特にないようで、真面目にほぼ毎日『穴熊亭』に出勤して宿屋の番頭を務めていたら、店長代理から「家族祭の日のお前は休みにしておく」と通告を受けた。

 別に休みでなくてもいいのにと言っても、女性従業員らが働き過ぎていると申告があったため、休みにするとのことだった。

 そうであれば、しっかり休まないと失礼に当たる。

 だから家族祭の日と翌日を休日として頂いた。


 というわけで、今現在エルリネとセシルたちと一緒に屋台を巡りながら、最初の目的地である郵便局へ向かう。

 相変わらずこの世界は焼き肉が美味しく、ツペェア印の魚粉ソースもいいが、それ以上にどこかの国印の肉汁ソースが物凄い美味しい。

 web小説などで、元日本人が醤油とお味噌革命を起こして云々の描写があるが、こちらの魚粉ソースや肉汁ソースも美味いってレベルじゃない。

 別に醤油も味噌も要らない。

 俺にはこの世界のソースがあれば一生過ごせる。


 もし、何らかの拍子に日本に帰れたとしてもこの二つは持って帰りたいと思わせるソースが、べっとりと垂れ落ちるほどまでに付けられた焼き肉を歩きながら食べる。

 これ以上の贅沢はない。それも和気藹々(あいあい)と仲良く歩く女の子を観ながら……だ。

 生前では考えられないシチュエーションだ。いやロリコンとかそういうのは無しで。

 隣の朱髪の娘の手には「自称:水」と、ツペェアで食べた"ビーフシチュー"こと「カルテヌア」があった。

 どんだけこの娘は……ツッコミも今更か。


 しかしまぁ、村にいた頃とは考えられない程に華やかになったと思う。

 幼馴染と姉さんで十分だとは思っていたけども、なんだかんだ言って異性というか女性がいると空間が華やかになる。

 嫉妬アンド嫉妬が渦巻く……こともなく、彼女たち五人の仲もいい。

 稀に喧嘩が発生するけど、昼ドラのようなドロドロ感は感じないし、ピリピリとした緊張感も感じさせないところから、本当に仲がいいのだろう。


「兄上」

「んー?」

「これ食べるか?」

 差し出してきたのは「カルテヌア」だ。

 もちろん当然、「要らない」とそう答える。


「えー、何故だ」

「えっ、いやだってそれ"アルコール"入っているし」

「…………"あるこおる"?」

 首を傾げるパイソ。

「あ、おっと。これは日本語か」

 ええと。

「酒精が入ってるからね」

 そう言い換える。


「ははあ、酒精のことを"あるこおる"と言うのか」

「うん、そう。いきなり聞きなれないこと言ってごめんね」

「いや、いいとも。新しい知識が入ってくるからな」

 そうか。

 で、まぁ。


「とにかく、まぁ酒精は駄目なんだよ、ツペェアで食べたときなんて、直ぐに酔いが回って突っ伏すぐらいだし」

「そうなのか……残念だ」 

 しゅんと項垂れるパイソ。


 もちろん、それは今だけだ。

「成人したら一緒に食べよう。その頃には慣れていると思うし」

 お酒とタバコは慣れ、と生前に聞いたことがある。

 もしそうであれば、きっと俺も酒に慣れるだろう。

 もしくは酒に慣れるのではなくて、心底「美味い美味い」と呑めるかもしれない。

 そんなことをパイソに言ったら、「約束だぞ!」と言われた。


 ……まぁいいか。約束しても。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 郵便局に着いて、クオセリスとすっかり顔なじみになったという職員に、ツペェア行きの手紙を渡した。

 これであとは一、二週間後にツペェア近くの港に着いて、配達されるようだ。

 郵便局へ向かうというイベントはこなした。

 次のイベントは、祭りを楽しむこと……だ。


 というわけで、みんなで周った。

 ツペェアほど大きい都市ではないので、一日で大体周れる。


 屋台の他にも色々な出し物はある。

 というよりも家族祭というよりも、子供祭というべき出し物が多い。

 生活魔法の風で投げてみよう! という輪投げとか、どこかで見たことがある玩具の剣が置いてあるくじ引きとか、かき氷とか、針で削る型抜きとか。

 流石に射的の類はなかったが、それに準じたものとかあって、日本のお祭りの屋台であれもこれもと時間を忘れて夢中で遊んだ俺も楽しんだぐらいなのだから、エレイシアはもちろんのこと、こういうお祭りには縁がなかったというセシルとクオセリスのお嬢様が楽しみ熱中し、気付いたころには日が傾いていた。


 特にみんなが熱中したのは型抜きだ。

 繊細な魔力がないと上手く削れないようで、こういうのに心得がある俺が魔力を通さずに削ったが、何回も失敗した。

 しかし、生活魔法が使えるセシル、クオセリスは二、三回失敗した後に成功したことから、生活魔法使える人には少しの集中力があれば出来るようだ。

 因みにエルリネとエレイシアは集中力はあれども、魔力の繊細さがないのか結局成功しなかった。

 もちろん俺が魔力を載せて針を溝に合わせると、その瞬間全体がひび割れてしまうという結果に落ち着いた。

 パイソはそういうものが出来ない娘のようで、飽きて直ぐ食べていた。


 集中して目と頭を酷使したため、非常に糖分が欲しい……ということをみんなに言ったところ、ちょうどみんなもそう思っていたようで、ちょっと早いが夕食を取ろうということになった。

『穴熊亭』がある地区は東区だが、今いるところは北区と少々遠い。

 よって北区で探すが食事処を探すが……この地区は外の地域に近いためか、宿屋が多い。

 そして食事処が宿屋とワンセットで、宿屋に泊まる人限定で食べれるところが多すぎるという地区だった。


 中には食事処だけ開放しているところもあったが、流石に逢引宿(ラブホ)で飯など食えるはずもなく。

 傾いていた日が、段々と更けていくまで探し、地区を変えようというときになって、カクトと、ティータに会った。

 どうやら彼らの庭は北区のようで、会って早々食事処を探しているということを伝えたら、一緒に食事処に行くところだったらしく、一緒に行こうと誘われた。

 もちろん断る理由など無い。

 カクトらと共に飯屋(もちろん開放している逢引宿ではないところ)に入り、一緒に食べた。


 "家族祭"と銘打っているものの、俺からすればあくまでお祭りだ。

 家族はきっかけに過ぎない。

 家族だから、と頑なにどうのこうのする気はない。


 それにカクトはともかく、ティータはちょっと暴力的な言い方をする人で且つ「チラッ」と見てくる人でもある。

 これを機に仲良くなってほしいと思う。特にエレイシアが。


 女性五人、男性三人で仲良く寮が閉まる時間まで家族祭を楽しんだ……と思う。


 五年後は幼馴染(メティア)と姉さんと一緒に周りたいなと思う。

 特に血が繋がっている実姉の姉さんとだ。

 姉さんにはとても気苦労を掛けているはず。

 俺は死んだことになっていて、それでいて彼女の周りには母さんしかいない。

 味方は自分だけという状況だ。


 一緒に周るだけでは物足りないかもしれないけれど、それでも一緒に周りたいと思う。


 どういえばいいのかわからないけれど。




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