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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第X章-エンディング- I
20/503

エンディング:郷愁、果て無き未来。号哭、想い。

所謂、番外編になります。


10/27追記

だいぶ、本編に関わるようになったので注釈削ります。

 平原から道の両側に木々が立ち並び、街へと続く並木道。

 木々が青々と生い茂り街へと向かう人々を楽しませる、ここはこの国の観光都市『カッカル』へと至る道。


 横に大きく作られたこの道は、周辺の平原と森の景観を壊さないようにと作られた道で王族が乗る豪華絢爛な横に広い馬車でもすれ違えるような幅を持っており、平常時は商品を運ぶ馬車や、冒険者が行き来さしており、雑多ながらも観光都市の名所の一つと数えられている。


 この道は過去に何人、何十人、何百人、何万人もの数えきれない人々がこの道を通った。


 決意新たに出て行った者。

 嘆き悲しみを負い出て行った者。

 英雄として帰ってきた者。

 知智を学びに来た者。

 新たな生命を持って、帰ってきた者。

 永住の地として舞い戻った者。

 一旗を挙げようと志した者。



 色々な者をこの地は受け入れ、時には排除してきた。


 ◇◆◇◆◇◆


 カッカルへと至る道で成人したばかりのように見える女性と学者然の恰幅のよい男性が歩いている。

 時代が時代であれば、盗賊が舌舐めずりして襲ったであろう。

 しかしこのカッカルという都市(まち)は他の国に比べてとても安全であった。

 その理由はカッカルという都市だけが持つ、特殊なことであった。


 それは、この地から遠く離れ、海を船で渡った先にある秘境の地『聖域』の加護を受けている地というものだった。

 聖域の加護を与えた者については、失伝されており、辛うじて残っていた文献を信じれば数千年前の者であるという。

 また、種族は人族なのか魔族なのか判然としない。


 聖域については不明なところが多く、また本人の人柄や能力についても眉唾ものしかなく、神話によくある物語として見られ今も昔も研究している者は少ない。

 しかし、聖域という目には見えないが実在する存在を魅せられれば、嫌でも存在を認めざるを得ない。


 それがカッカルの特殊性であった。


 そのことを恰幅の良い男性が得意げに女性に話しており、対する女性は感心したようにノートにとっている。

 女性が男性の台詞をノートにとってていることに気を良くした男性が、女性に質問をする。


「では、その聖域の特殊性は具体的に何かな?」

 それに対して女性は悩む。

 悩むが、いざ聞かれると分からない。

 ほかの国や都市をまわった女性からすればこの都市の異常性は分かる。

 この街を担当する領主がこの国に所属する領主ではなく、海を隔てたその先の聖域で生まれ育った優秀な『巫女』と『司祭』が、この地に来て采配を執る。

 そしてその下に、民衆から選ばれた都市の民たちが環境や観光などの商業関連や政治(まつりごと)、裁判などを執り行う。


 それを聖域の力かと聞かれれば答えは否だということは分かる。

 その女性からの返答がないことにイライラすることなく、上機嫌に答えを明かす。


「それはね、聖域から流れてくるとんでもない効能を持つ上に、すごい量の魔力のお陰で草木は健康に育ち、栄えてきたんだよ」


 この地は聖域の主が、嘆いた悲哀があり死の地にしてしまった。

 何が起きたのかは失伝しているが、死の地にしたことは確かであった。


 その主を慕っていた者が、この地を再生させた。

 誤って死の地にしてしまったことに詫びた主は、この地に聖域の欠片を使った結果、生命溢れる地となり、村が出来、街になり、今に至るのだ。


 そしてその聖域に感謝を込めて、至るところに聖域を祀る御神体が設置されている。

 その御神体には字が書かれており、読めないが魔力を通して視れば魔族でならイメージが頭に浮かぶという。


 女性が男性に質問をした。

「先生は、その字を読んだことは?」

 その質問に満足気に頷いた男性は、「もちろん、読んだことはあるさ」と満足気に答えた。


「確かに読めない。だが、魔力を通すと視れるのが不思議でしょうがない」

「意味はなんでした?」と女性は更に問う。


「『この地に憤怒、悲哀を求める者。聖域の鉄槌が落ちるであろう』だったかな。

使い古された脅し文句だけど、有無を言わさない辺り恐怖を感じた」

 あと、と更に続ける。

「この肥沃な地を戦争で奪おうとした国があったそうだけど、その国は何故か開戦初日に滅びた」


「………………、」

「もちろん、数千年前の話で、証拠となる文献は殆ど存在しない。

ただ、こういった出来事は全くの出鱈目(でたらめ)ではない。

全てこの大陸と海を隔てた向こうの大陸を歩き回って見つけた証拠の結果さ」

「文献は無いのに証拠ですか?」

「不思議そうな顔をしているね。ま、気持ちは分かるよ」

 一息入れて、再度男性が喋る。

「主の(ゆかり)の地に所々に点在する『古代の歌詞の碑文』これが関係する…………っともう都市の中に入ったし、続きはまた明日だ」

 と男性は女性に別れを告げ、男性と女性は帰路についた。






 そして、その姿を並木道から外れ、森の近くに苔むしている、一見土に埋まった碑文の主が見ていた。

 その姿は耳が長く、青みがかかった銀髪を頭の後ろに結いてポニーテールにした女性であった。

 その姿は町娘と似た格好で、民族風の装いしかない彼女を想い、贈った服だった。

 その後も幾つか贈られたが、一番のお気に入りは最初に贈られた服であった。

 女性の声は聞こえなかったが確かに語った。

 その姿、その表情は子どもの成長に満足した母のような柔らかさがあった。


 そして、都市を一瞥し主の故郷が眠る地を満足そうに見て、フッと消えた。


 あとには、苔むした石と優しい風によって囁く森が残った。



 ◇◆◇◆◇◆



 貴方はこの地で悲哀を作りました。

 私はこの地で貴方に出会いました。

 貴方はこの道で憤怒を識りました。

 私はこの道で貴方を識りました。


 貴方はこの道を大事だと言いました。

 私はこの道が悲哀であるならば、滅ぼすべきだと言いました。

 貴方はこの道が故郷だと言いました。

 私はこの道が憤怒の道であれば、無くしたいと言いました。


 貴方の愛したこの地は、この道で全てを望めるように。


 貴方が覚えた悲哀は、私達の憤怒に。


 貴方の想いは、私達の想いに。


 古代の歌詞の碑文:黄昏の風に刻まれる滅び行く大智の言葉-エルリネ・ティーア-

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