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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第3章-ある日の一日- I
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ガレット

 カクトが言ったとおり、世の中の家庭料理というものは数時間掛けて煮込むスープ的なものが主らしい。

 もちろん、失敗しているものも多く、中には鍋が吹き零れる程度なのは可愛いもので、鍋が爆発したりとか刃物が折れて流血沙汰とか、チャンバラはなくても似たようなことが起きたり、とにかくいろいろカオス。

 そんな中、授業開始からほんの数分で一品作ってパイソに食べさせるほかに、パイソに包丁持たせて一緒に切る練習をしながら作るのはガレット。


 ガレットというものを簡単にいえば薄く切ったりしたものを、円状にして焼いて食べるもの。

 甘味(おやつ)としてのものもあるし、もちろん食事として出るものでもある。

 甘味としてのガレットは作ったことが無いが、昼飯として作ったことはある。

 なので、大体の作り方は覚えている。


 幸い『とんぺい焼き』の油脂は残っていると言ってもたっぷり残っている訳ではないが……と考えていたところで、肉として食すのではなく油として使われると言われる、ウェドとかいうこれまた魔獣の一種の肉があった。

 肉を箸で摘むとそこからボタボタと油が溢れ出る。

 流石、異世界。

 俺の常識にはない。


 なお、こういった情報はパイソから来ている。

 流石、生き字引。

 手指がねちゃねちゃすることを承知で肉を手で絞ったところ、なんと約八十パーセント以上が油のようでバシャっとフライパンの上に落ちた。

 ウェドとかいう魔獣はスライム系なのだろうか。


 手指についた油の匂いはまさに肉油で味は仄かに甘い。

 水で洗おうにも、この辺りは生前の世界と同じく水で洗っても油分が取れない。

 それでもごしごし洗ったところ、パイソから長い舌でレロレロされた。

 何でも肉味でありながら甘いのは美味しいらしい。

 彼女のご先祖様も、この味が好きでジャンキーになった者もいたらしい。

 彼女の涎まみれになった手は簡単にねちゃねちゃが取れたが、なんだかイケナイことを往来でした気分になるのはきっと気にしてはいけない。


 さて油がほぼ抜けた肉のほうはおからのようにぐずぐずしており、何かに使えそうであるがどうにもならないので捨ておき、フライパンを温める。

 あとはパイソと包丁を持ってこれまたジャガイモらしき植物のマクネオロロとかいうものを洗って皮を剥く。

 ピーラーがあれば初心者に楽ではあるが、そんなものがあったら、たぶん料理で世界が獲れる。

 いや、言い過ぎか。

 兎角、そういう形で黙々と皮を剥く。


 隣に立つパイソも黙々と剥く。

 最初のうちは剣と違って力み過ぎて怖いというところであったが、彼女なりに試行錯誤しているうちに学びきれたようで、器用に桂剥きまでしてくる始末。

 相当な腕前である。

 皮を剥いたマクネオロロをスライスにして更に細く切り、ウェドの温めた肉油を敷いたフライパンに投入。


 水気は当然あるのでパチパチいわないように火を止めて……だ。

 で、火をつけて蓋をしてしばらく待つ。

 中でパチパチ言わせて、しばらく待ってからまた蓋を開けて裏返しにしてまた蓋を閉める。

 

 で、出来上がり。


「パイソの初めての料理作りが出来ましたー」

 わーっと拍手してパイソと喜びを分かち合おうとしても、パイソの顔は浮かばれず。

「どうした、パイソ。好みに合わないのか?」

『竜種』とはいえ元はトカゲの肉食系だろう、野菜は合わないのかもしれない。


「いや、そういうわけではない。そういうわけではないのだが……」

「だが?」

「私が知っている料理というものは、煮込みものだ。このように簡単なものでいいのだろうか」


「パイソの知識の人たちが家庭料理に特化していたんだろ。俺は手軽な料理を作っただけだ。

方向性の違いだよ」

「そう、かな」

「そうだよ。ま、気にするな。もしどうしてもっていうなら、是非とも今度作ってくれ。

パイソの知識の料理を、さ」

 なに、変なところで悩んでんだか。


 とりあえず。

「さ、食べてみようか。流石に学園で出るものだから変なものは出ないだろうけど、いかんせん味が分からないからね」

 パイソと一緒に二人で食べた異世界産ガレットは非常に美味しかったです。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 一品ならずとも二品も作ってもだいぶ時間が余っており、あくびが出るばかり。

 アークらの班は黙々と底の深い鍋をかき混ぜているし、エルリネ・セシルコンビとエレイシア・クオセリスコンビも同じく鍋をかき混ぜている。

 なんというか、似たり寄ったりの構図ばかりだ。


 ガレットを作って食べたところ思いの外美味しく、ひたすらガレットを焼いた。

 パイソももちろん好評で、美味しい美味しいと食べる姿を見て作った甲斐があると思えてくる。

 ウェドの油脂かマクネオロロがいい意味で、大当たりなのかどうなのかは判断つかないが、とにかくそういう訳でひたすらガレットを焼き、パルマーの肉を同じようにスライスして焼いて食べ合わせるとか、とにかく食べた。

 よって、この暇な時間が暴力的にキく。


 そう、腹が膨れて眠いということだ。

 パイソは最早机に突っ伏してぐっすりしており、舌をしまい忘れているかのようにちょろっと舌が出ている。

 彼女の胸がとってもクッションのように見えて、非常に寝心地がよさそうだ。

 くすーひゅぴーと、彼女の寝息が聞こえる。


 お昼前後の温かい空間。

 なんとも贅沢な時間だ。

 風通しもよく、ふうわりとカーテンが踊る。

 暴力的でもない日の光。


 殺人的だ。これで眠くならない奴はきっと鋼の心を持っている。


 隣の殺人的寝息のくすぴーを子守唄に、俺は意識を手放した。


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