主に休日の過ごし方 II
休養日といえば、もう一つのイベント。
そう、戦闘訓練だ。
これに関しては観客が増えた。
最初の内はロルフェアラらのザクリケル関係者が多く見に来ていたが、今では他国民の女の子達も来るようになった。
高貴な出と言える貴族も平民も揃って、『世界』の外で目をキラキラさせて見ている様は、身分関係無く楽しんでいてくれているようで何よりである。
『世界』で内外を遮断したあとに観客枠である、セシルとクオセリスに他の女の子の反応について聞いてみれば、やはりというかなんというか。
俺が敵役で、エルリネとパイソ、エレイシアが勇者側らしい。
「頑張れ、勇者様~」という黄色い声は最早、恒例のようだと苦笑いするセシル。
初めの日、セシルとロルフェアラたちの観客とエレイシアの心は折れたようだった。
確かにやり過ぎたという思いはあった。
特に「焦灼の槍」である。
詠唱なしとはいえ、"国墜とし"面目躍如である。
『世界』がなければたったの一本で学園の女子寮が消し飛んだ。
これの初見で心が折れないのは、根っからの戦闘民族しかいないだろう。
つまりパイソのみである。
エルリネは過去に一度見ている。あのときは二本だったが、それでも異常っぷりは見ているし。今回も気絶しながらも「「焦灼の槍」の魔力を受けた気がします」と言ってきたところから、彼女の心も折れてはいないようだった。
比べてセシルも宮廷魔術師試験のときにリコリス戦で見たことはあるだろうが、コンパクト化させた上に装填したものを射出したものを見た程度で、直撃ちモードのは見たことがないはずである。
そして『世界』を解除したとき、セシルは爆音と光の奔流に驚いて泡噴いて気絶していた。
もちろん、気絶していたのはセシルだけではない。
クオセリスもそうだ。
クオセリスは泡は噴いていないが、倒れていた。
彼女の『魔王系魔法』に関して感想で、本物じゃないとかなんとか言っていたが、彼女の中の魔法に関する常識を過去にしたと思う。
「火球」や「火槍」でわーわーキャーキャー程度なんぞ、児戯に等しくみえる。
一発で弓矢よりも確実に複数人殺せる程度で持ち上げられていた魔法使いが、実は児戯でしかなく本物は軍隊を一撃で消し飛ばすというものを見れば、常識は壊れるだろう。
例えが下手くそだが、戦国時代にて刀と騎馬でわーわーキャーキャーしており、火縄銃持ちを多く抱えたほうが勝つという世界で、原子力爆弾を落とした場合、常識が壊れると思う。
それをクオセリスの目の前でやった。
気絶して当然である。
もちろん、ロルフェアラたちにも同等なことが起きたと思う。
気絶ではなく、口を開けて呆けている程度であったが。
攻城戦用魔法でもある、「焼夷の命令」シリーズの「焼夷徹甲弾」と「焼夷の雨」も割りとどこにでもありそうなネタだろうと思ったが、意外にもなかったネタのようだった。
というのも、先生であるサイクロプスのサイトさんに炎の雨を降らす魔法と炎弾を高速で撃ちだす魔法の有無について聞いてみれば、「無い」と回答が返ってきた。
もちろん、「基本学校」で学ぶ以外の概念で、とも言ったがそれでも「無い」ようだ。
ここから考えつくのは、「火球」の応用が無きに等しく、ただ飛ばすだけとか、槍の形にはすれどそこから何かするというのは系統として「無い」ということ。
正直、低レベルだと幻滅せざるを得ない。
少なくとも「基本学校」の間で学べることは、座学しかないことに入学してから二週間で学んだことだった。
因みにこの戦闘訓練、最近になってサイトさんも見に来るようになった。
というのも、ロルフェアラら上級生が先生たちに話したようで、攻性魔法の授業を執り行う人たちが中心に来るようになった。
恥ずかしいとかそういうのは無くも、何か釘を刺されるだろうかと戦々恐々していたが、特に何も言われず女の子たちと見学をして、終われば何も言わずに帰っていく。
もちろん、こちらには敢えて「火球」を使うとか、そういった自重はせずに「焼夷の命令」シリーズに「凍氷の命令」、「雷速の命令」といったものまで使い続けた結果、女子寮で女の子に会う度に、発言しにくい筈なのに日本語で魔法の名称を言ってくれる。
中には「いぇんあい、ぺえすしああと」とたどたどしく言いながら、撃つ際の構えを見せてくれる。
言っている内容は「焼夷の命令:焼夷徹甲弾」だ。
右手に拳を作り、拳の前に赤い炎の球体を作成して、腰のひねりを使って右手を前に出す。
そんな挙動を真似してくれる仕草が本当に可愛い。
可愛いのでついつい「うんうん、よく言えたねー」と頭をぽんぽんと撫でる。
日本だとこの行為は、事案ものである。
とにかく、そういうことで我が家の戦闘訓練については一定の知名度と市民権を得た。
なお、エレイシアはエルリネやパイソほど本人の力が無いことを理由に歌っていることが多くなってきた。
彼女にもちょうどいい練習相手がいればいいのだが……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
"日本語"講座もまずまずである。
最早日本語というよりも"四則演算"をひたすら解きながら、日本語を話す毎日。
以前までそこまでやらなかったセシルも、クオセリスというライバルが出来たお陰か、真面目に取り組んでくれるようになった。
とはいえ、強制ではないためやらなくてもいいとは言ったが、それでもやりたいということなのでそれ以上は言わなかった。
それ以外で変わったことと言えば、お風呂である。
セシルの家でお世話になる前までは、お風呂はなく桶に水を溜めて、布で身体を拭くという生活だった。
その後、セシルの家、ツペェアと変遷し、今ではお風呂がなければ我慢出来なくなってしまった。
よって、先生たちに街へ出てひとっ風呂浴びさせて下さいと懇願したところ、三日に一回なら良いと許可を貰った。
何故三日かと聞けば、頻繁だと他の生徒に示しがつかないから、だそうだ。納得。
それからは大手を振って街の風呂屋に出没するようになった。
意外にも男女に別れており、番頭さんに銅貨三枚を渡して、貴重品を入れることが出来る革袋と鍵を貰い着替え室に入る。
室内に入れば、明らかに背の丈が二メートルを超えているようなにーちゃんは当たり前。
毛むくじゃらの狼系獣人。ヒゲもっさりのドワーフ然としたおっちゃん。サイクロプスのイケメンとかとにかく雑多な人種が集っていた。
更に言えばどの人も。
「傷だらけだ」と感想を述べれば、「おう、ガキンチョ。俺たちの傷を見るのは初めてか?」と聞かれる始末。
もちろん、この世界で初めて大衆浴場に来た訳であるため、「ああ、初めてだよ。お兄さん」と答えれば、「そうかそうか」ガハハハと笑う顔はお兄さんというより、豪快なおっさんである。
この豪快なおっさんと気が合い、話を聞いていると俺の嫌いな職種である、冒険者だという。
だからといってそんな様子は出来るだけ見せないようにしたところ、色々なことを話してくれた。
なんでも、例の黒いことをするような阿呆は昔から割りといるが、基本的には薬草採集や害獣駆除などがメインであって一般人に恐怖を与えるようなことは、もっての外だという。
「一般人がいるからこそ、俺たちの仕事がやっていけるんだぜ。それなのに、一般人を蔑ろにする馬鹿がなんと多いことか! なぁお前ら」
豪快なおっさんが周りの人たちに聞こえるように同意を求めると、みながみな反応した。
どうやら、ここは冒険者という職種の人が集まる風呂屋らしい。
「ああ、全くだ。そういう奴ほど山賊崩れになるからな!」
「あ、山賊崩れで思い出したわ。カタギをボコボコにした上に強姦未遂のあのクソ獣人。北の山で見たわ」
「本当か? 風呂から出たらぶっ殺してくるか」
「討伐行く? 討伐行く? 俺も行くぜ?」
「……すまん、ザードのことだろうか?」
「おう、そいつのことだが、どうした?」
「ああ、すまん。この間、知り合いの商隊護衛のときに襲いかかってきた山賊をぶち殺していたら、見たことがあるザードがいたからさ」
「つまり、討伐済みか」
「あーつまんねーの」
「馬鹿討伐とか超楽しいのになー、この気分火照ったしどうしようか」
流石、冒険者言っていることが超怖い。
「娼館行って出してこいよ」
やっぱり学園があるとはいえ娼館はあるのね。
「おいおい、ここにガキがいるんだからよ、血生臭えことを話すなよ」
「あぁそうだな、未来の前途ある冒険者が一人減っちまう……そう、こいつの所為で」
と言った冒険者が指を指すのは、「娼館行って来い」と提案した猫系と思われる獣人の兄ちゃん。
「おいぃい、俺の所為かよ?!」
猫系獣人が弄られているが、猫系獣人の人は満更でもなさそうだ。
「おい、坊主。お前、学園の生徒だろ?」
豪快なおっさんいや、豪快なおっさんはこの場に多くいるので、ガハハのおっさんとして、そのおっさんから俺の身分について聞いてきた。
「ああ、生徒だよ」
「俺たちに物怖じしないし、お前、冒険者にならないか?」
それは非常に困る。
宮廷魔術師以上に絶対になりたくない職業ナンバーワンです。
「いや、悪いけど」
「そうか! まぁ不安定な仕事だしな!
ま、俺たちはいつでも待ってるからよ。
……最近のヒヨッコは"騎士"になるとか言ってよ。結局なれずに冒険者に堕ちるとか考える輩がなんと多いことか!」
眉間を抑えるガハハハのおっさん。
「冒険者は堕ちる職業じゃねぇ。騎士と同じく『なる』仕事だ。仕方がないから、どうしようもないから、で『なる』仕事じゃねぇ。
そう言ってなった奴は、大抵ろくでもねぇ仕事を取ってさっさと死ぬ。
それも、俺たちに迷惑を掛けて……だ!」
「あぁそうだ。坊主、ザードって奴もな堕ちたから冒険者になった奴だ。
……アイツって確か」
「アイツは元"見習い騎士"だ。シゴキに耐えられずに堕ちたっていうクチだな。もったいねぇとは思うけども」
確かにもったいないな。
一応、見習いとは言え公務員の枠組みだろうし。
「いや、アイツは貴族だぞ。ヘボい貴族な。なんでも剣も魔法も全て駄目で、本来騎士になれない奴なのに、無理して見習いという枠で入ったとかなんとか。
まぁアイツと一緒に仕事したことあるけど、護衛対象の娘に対して襲いかかろうとしてたからな。ホント、アイツとは一緒にやれねぇと思った」
いるんだな、そういう生き物。
「その点、坊主はしっかりしてそうだな!
見たところ体型もガッチリしているし、足腰も強そうだ。剣も持てるだろお前」
お腹がぽっこり出ているのをガッチリというのだろうか。
「一応、持てますね。振るえるかは別問題ですが」
「いや、この歳で持てるなら十分だ。あとは腰使って振るう訓練だけすれば、体術学校だっけか。
そっちに入学する頃には、十分サマになっている筈だ」
「ま、お前気に入ったからよ。なりたいときはいつでも言え。
俺たちはよ、結構名が知れているからよ。お前の上級生からも、何回か師事させてくれと頼まれているぐらいだ」
要らん。
そんな情報。
「俺もだぜ、俺は魔獣狩りを生業としている。そっちのおっさんも同じだ」
猫系獣人とガハハハのおっさんは魔獣狩り専門のようだ。
「俺はザードとかそういった馬鹿狩りの方だな」
こっちは狼系獣人と、梟顔のドワーフ然のおっさんが、
「儂も、馬鹿狩りじゃな。あと、商隊護衛もやっておる」
とのこと。
「僕は採取が主ですね」
会話に入ってこなかったサイクロプスのイケメンが応える。
「あぁ、この一つ目のこいつはな。初めて見ると怖い、かもしれないがな。
採取系の達人だからな。こいつはスゲーぞ。何せ俺がまだ師事して貰っているからな!」
サイクロプスのイケメンは困ったように笑い、他のガチムチマッチョさんたちはギャハハハと笑う。
「お前、いい加減覚えろよ」
「そんなんだから、受付に脳筋って言われんだよ!」
「う、うるせぇ!」
と、このように初大衆浴場の日は過ぎて、彼らに連れ出され大衆食堂や酒場を転々とし、帰ってこれたのは翌日だった。
幸いなことに次の日は休養日だったので、どうにかなった。
因みに酔った彼らを相手にチャンバラもした。
もちろん普通に勝った。
それ以降は特に彼らに会わずにひとっ風呂浴びて、彼らのお勧めだという大衆食堂で食事を取って女子寮に帰っているようにしている。
そんなこんなで半年が過ぎた。
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