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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第3章-休養日-
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 意外と行儀よく食べるパイソ。

 人化するとはいえ基本は小動物の手指だ。

 つまりは張り付いたりする程度の力はあれど、持つのは難しい。

 事実、物を掴みまたは持つために進化したという猿ならば、この世界で使われる先割れスプーン程度なら使えるだろう。

 だが、いくら後ほど人化するとはいえ、肉球を持つわんこやにゃんこが、スプーンなどの柄を掴んで握るというのは出来ないし、手指が猿のように掴めるようになっても長年親しんだ手指とは違う動きをさせるなどは無理に近い。


 しかしどうやら、目の前の元トカゲの人化ドラゴンはそうでもないらしい。

 しっかり、先割れスプーンの柄を握り"イエ"をもぐもぐと、口の中を見せないように食べる。

 "生前"でもそれなりにテーブルマナーは気にしており、常識の範囲内程度にテーブルマナーは身につけたつもりだったが、彼女(パイソ)は更に上を行く。

 食べ方が非常に優雅だ。


「どうした、兄上」

「ん」

「私の顔に何か付いているか?」

 どうやら凝視していたのがバレたようだ。


 ただ、それだけを認めるのは勝負などはしていないが、負けた気になるので。

「いや、パイソのくちびるからちょっと下辺りにさ。イエの白タレ付いてるよ」

 そう言いながら身を乗り出して、パイソの顔に付いている白タレを親指で拭う。

 普通なら布巾に拭くだろうが、"イエ"もといカルボナーラは非常に美味しい。

 だからぺろっと舐めた。

 ヤギの乳だろうか、さっぱりしている。


「美味しいな、イエのタレは」

「…………ん、そうだな」


 だいぶ間が空いてから、首肯を示すパイソ。

 なんとなく肉食系の目つきをしたパイソだが、直ぐに戻った。


 朝食ながらも休養日だからか、食堂にはのほほんとした空気が広がっている。

 用事がなければずっとここにいたくなる、そんな空気。

 わいわいと姦し四人娘らは、未だ食べ比べをしている。

 混ざりたいとは思うが、男という異物が混ざってはいけない空間のように感じる。

 そして、クオセリスやエレイシアよりも古いとはいえ、パイソも仲間ハズレだ。


 しかし、そういった仲についてはパイソがゆっくりと歩み寄るしか他はない。

「そんなに羨ましそうな目で見るなよ、パイソ」

「いや、そんなつもりは」

「いやいや、分かってる分かってるって。

ほら」


 箸を使ってミートソーススパゲティを巻く。

「ほら、パイソ。はい、あーん」

「あーん」

 と、大きな口を開ける姿はさながら鳥類の雛。

 ……そういえば爬虫類の恐竜は鳥類だとかなんとか、言ってたなぁ。

 などと、パイソの口を見て思い出しながら、箸でスパゲティをまとめて口の中に入れる。


 結構大きな塊だったが、難なく口に入れもぎゅもぎゅとよく噛んで、そのままごっくんと咀嚼(そしゃく)する。

「どうだ、タムエは」

「イエと比べて、肉の味もそうですが酸味が強いですね」

 トマト使っているしな。

 タムエに使っているか知らないが。


「兄上もイエ、食べるか?」

 そういって器用に持った先割れスプーンでイエの麺を一塊にする。

 食べ比べをパイソにしたとはいえ、正直こっ恥ずかしい。

 誰も見ていない筈なのに、見られているんではないか、晒し上げられているのではないかという思いがあるが、少なくともパイソはそんなことはしないと思うし、好意としてやっているように見える。

 ならば、ここで拒否するのは(いささ)か可哀想だ。


「じゃあ、貰えるかな」

「ああ!」

 そういって塊が体積を増す。

「おい、こら待てパイソ。それは増えすぎだ」

「私の食事は基本的に魔力だからな。魔力を出すためにも、もっと食べてくれないと困る」

「そうだろうけど、ちょっと要ら……」

 と、言いかけたところで、やたらといい笑顔で「ん?」と首を傾げられた。

 ちょっと上目遣いだ。


「……ええ、是非食べさせて下さい」

 我ながらホントチョロいな……。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


――たすけて。と言った者を、実際に助けてくれた者はひとりだけ。


――私は、その人しか知らない。


 古代の歌詞の碑文:炎熱焔の紅緋なる暴毒の魂-パイソ・フォルティーネ-

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