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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第3章-休養日-
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人化


「ごめんなさい、ごめんなさい、悪気はなかったんですごめんなさい、ごめんなさい」と、彼もとい彼女は泣いていた。

 すんすんと鼻を鳴らしながら、両手を握り目元から流れ出る涙を隠しているように泣いている姿はどうみても、哺乳類の人間。

 だが、彼女は(トカゲくん)だった。

 恒温爬虫類が何故、哺乳類になるのか。

 いや、人間型になるのか。

 お前は魔獣の類なのか。

 それとも魔族の括りなのか。

 あと何故抱きついたのか。

 それ以上に、トカゲ『くん』として、オスと思っていたのに、まさかのメス。


 他にも色々聞きたいことがあるが、一先ず置いて誰何する。


「……ええっと、君は本当にあのトカゲくん?」

 コレクションが主目的の某ゲーム、最初は151匹でいつの間にか400匹以上をコレクションにする必要がある某ゲームの進化のように、いきなりどでかくなったトカゲくん(♀)。

 対する応えは、鼻をすすりながらも。

「…………、」

 無言。

 でも、首はこくんと縦に振る。


 今の彼女の姿は、今の俺には少々危険な見た目をしている。

 泣いている女性だから、というのもそうだが、控えめに言って胸が大きい。

 いや、大きいというかなんというか。

 エルリネより大きいことは確実だ。

 エルリネは正直に言えば揉み甲斐がある大きさだが、トカゲくんもといパイソは揉みきれない。

 俺の小さな手指はもちろん、生前の頃の大きい手指の頃でも沈み込む。

 だからといって、エロゲで割りとある奇乳とかそういう気持ち悪さはなく、あくまで現実的な大きさ。


 更にくびれはあって、お尻はいわゆる安産型なため、足腰は割りとしっかりしてそうだ。

 髪は朱色で肌の色はエルリネと似た褐色肌で顔の造形は、普通に美人。

 エルリネは垂れ目だが、パイソはちょっと釣り目でとてもキツそうな印象を受けそうだが、泣いているので詳細は分からない。

 耳はエルフらしい笹穂耳ではなく、普通に人族のような丸耳だ。


 爬虫類にはなく哺乳類であればある、いわゆる乳房だが、複乳ではなく人と同じ一対のようだ。

 というのも、見てはいけないとは思うが、いかんせん俺は思春期に突入した男児なわけで。

 目が釘付けになるのも、当然だ。


「ええと、そのなんだ」

「ごめん、なさい。噛もうとしたことは謝ります。鱗で刺したことも謝ります。

だから捨てないで……くださ、い」

 段々と言葉尻が(しぼ)み、また頭を垂らしてすんすんと啜り泣くパイソ。

 頭上の柊葉の鱗の角のような尖った部分が力なく垂れ伏せる。


 彼女のお尻から伸びる長く釘バット的な鋭い鱗がある強靭な尻尾も、腐りかけた肉のようにでろーんとしている。

「ええっと、その」

「兄上が」

 うん、兄上?

「兄上が昨日の晩に、私の胸とお腹を嫌というほどに触ったから。その」

 

 ……そういえば、余りの暇っぷりにパイソのお腹と背中の鱗鎧を拭きまくった。

 彼女が人間型で例えれば、ひたすら胸とお腹を拭いたことになる。

 どう見てもセクハラである。

 言い逃れは出来ない。


「止めてと言って抵抗しても止めてくれないから、そのえっと」

 確かに抵抗された。

「だから、意趣返しに嫌なことをやってごめんなさい」

 そういってパイソは更に泣く。 


 小動物と侮っていたが、確かに嫌なことをされたら復讐とまではいかないが、やり返したくはなるだろう。

 死にかけたとはいえ、小動物の彼女がやった行為は、俺がやってしまった行為の仕返しだ。

 つまりは、俺の所為。


 それが分かっていたからなのか、『最終騎士』が起動した。

 あのまま、強引にやっていれば魔力検知から『前衛要塞』も起動していたであろう。

 彼ら『魔法陣』の移籍先が分かったとはいえ、元小動物に移るとは予想していなかった。


「いや、そのごめん。パイソが小動物だからという理由で遊んでた。

――済まなかった」

 いくら、知らなかったこととはいえ、不快と思われたことが事実ならば謝罪は当然だ。

「兄上、頭下げないでください。その私が人型になれることを黙っていたのが、その」


「いや、うん。分かった」

 ところで。

「今、さらりと言ったけど、以前から人型になれたの?」

「はい、ただ理由があってあの大きさになっていました」

「ほう、理由とな」


「この人型になるのは、とても魔力の消費量が激しくて滅多になれないのです」

「ふむふむ」

「となれば、残るはあの大きな姿と兄上に愛された姿の二択で、大きな姿だと魔獣として殺されそうだったので、少々無理してあの姿に」

「無理?」

「兄上が私を右手で掬う際の抱かれ方、胸のお近くにいるときがとても幸せで、人型になるよりは少量とはいえ魔力を消費してでもあの姿で……」

「というと、消費がなく楽な姿というと」

「はい、あの『りゅうしゅ』の姿です」


 ……聞き間違いだろうか。

「『竜種』……?」

「はい『竜種』です、私」

「『竜』ってあの竜?」


「どのことでしょう」と疑問符が浮いた顔で首を傾げる『竜種(パイソ)』。

 ……毒々しいドラゴンがいたもんだ。

 確かに『竜種』であれば、『最終騎士』と『前衛要塞』の移籍には納得が行く。

 なにせ、黒歴史ノートの設定では『最終騎士』と『前衛要塞』はワンセットで、ウェリエ側の四天王にいる『竜種』のイケメン男性の魔法陣だ。

 最初は人の姿で主人公を圧倒し、第二形態とばかりに翼を広げた(ドラゴン)の姿を取って、畏怖を撒き散らす。

 ドラゴンキラーと呼ばれる剣を持った主人公すらも圧倒し、最期までウェリエのことだけを信じていた。

 名前は確か。

「クルオゲウム・コラップスか」

「流石兄上ですね。『竜種』の王のことをご存知とは」


 ……『竜種』の王?


「ただ、クルオゲウム様はもう亡くなり、私と同じ『竜種』だいぶ人族に狩られました。

だから、そのえっと」

 ……だから捨てないで欲しい、かな?

「もう言わないから。パイソの家はここだよ」

『竜種』だからステイタス的に、とかそういった下心は当然あるけども、なんの因果か黒歴史ノートで設定したウェリエ四天王で欠かせない『竜種』で、『最終騎士』といった俺の分身たる彼らが移籍したとなれば、パイソはうちの子だ。


 先ほどのような悲しみを込めた声ではなく、今度は嬉しさを醸す顔で涙を流す彼女。

 ちょっと、チョロい。

 さて。


「楽な姿が『竜種』とはいえ、人化……人型化のことね。その人化するのはかなり辛くて、小型化するものちょっと辛いとなると、今後どうする?」

 パイソに聞いてみたところ、直ぐに泣き止み応えた。

「兄上に抱かれるのが好きなので、小型の方になろうかなと」

「確かにそれしかないけども……、うーん」

 いいことを思いついた。

「あ、人化するときは魔力を消費すると言ったよね」


 対する応えは無言で首をこくんと縦に振る仕草、かわいい。


「外部からの魔力供給はどうだろう、一度パイソの身体を経由しているからイケると思うけども……」

「出来るとは思うけど、どう、やって……?」

 簡単だ。

「『精神の願望』を貼りつけて供給だ」

 そう答えてもピンと来ないのか疑問符を多数貼りつけている顔のパイソ。

 当然メインの使い方ではないが、一時期エルリネ用に貼りつけた理由が、魔力を通せば仄かにぼうっと点灯させて『奴隷紋』とさせるというものだった。

 そして俺側から魔力を供給することも出来る。


 つまり。

 パイソが常時人化出来るほどの魔力を溜め込むまでの間、俺が代理で供給する。

 精製魔力も喜んで食べたパイソだ。

 当然、精製魔力の外部供給も利くだろう。

「口で説明するのはちょっと難しいから、見たほうが早いってことで……ほら」

 そう言って『精神の願望』を込めた右の人差し指をパイソに見せる。


「いつも魔力を込めているところはどこ? お腹?」と聞きながら、人差し指を彼女の目の前で動かしお腹の辺りを指さす。

 下乳で隠れているお腹。

 やたらとエロいので、無私無想の心構えでお腹を見る。

 褐色肌のおへそが、エルリネと違ったエロさがあってギュンギュンとキている。

 爬虫類の割には哺乳類ばりのおへそである。

『竜種』は胎生なのかもしれない。


 そう益体もないことを考えながら、彼女の前に指を振っていたところで。

 はむっと指が彼女の口の中に消えた。

 狩猟系動物なだけに目の前で動くものはとにかく口に入れたくなる、とばかりにぱくんとされた。

 竜を描く上でよくあるような鋭い牙や歯はなく、のこぎりのようではあるものの鋭くはない歯で甘咬みされながら、これまたトカゲらしい舌で人差し指がちろちろと愛撫される。

 コモドドラゴンのように口の中に毒があるかもしれないなどと思うものの、そんなことを感じさせないとばかりに口内と舌を絶妙に使った愛撫。

「ん、んっう、ちぅ」

 彼女の口から水音とちゅるちゅるといった、舌を這わせるような音がする。


 それからしばらくして一通り愉しみ、満足したのだろう。

 ちゅるっと、無色透明でありながらも朝日を受けて銀色の糸のような水分で出来たアーチが、俺の人差し指とパイソの口の間に出来る。

 エルリネの笹穂耳を弄ったときのように、(とろ)け赤い顔を見せるパイソ。


 俺はこの(かんばせ)を識っている。

 そう、発情したときのエルリネだ。

 八歳相手に厳密には幾つかは知らない女性が襲い掛かる。

 事案である。

 単純な力であれば身長体重共に上手(うわて)のパイソが勝つ。

 事実、今パイソに押し倒され三つ畳みした敷布団とパイソの肉布団に挟まれている。


 どこで発情したかが分からない状況だ。

 腰と耳がその手のポイントだというのが分かった。

 だが、パイソが分からない。

 口の中か。

 そう考えるも、思考が中断される。

 何故ならば、パイソの長い舌が首筋を這い、そして耳たぶを舐めまわし耳の穴に舌を入れる。


 エルリネと魔力循環をしたときも、同じように耳の穴の中に舌を入れられたが、彼女とも同じのようだ。

 ゾクゾクっという鳥肌が立たせている姿を満足そうに見やった彼女は、舌を耳から抜き膝立ちになった。

 下から見上げる彼女の顔、但し胸に邪魔され見えない。

 そして、顔が見えたと思えば舌が……閉ざしたくちびるの間をすり抜けて、入ってきた。

 最後の歯の壁もするっと入り、長い舌で俺の口の中を蹂躙する。


「兄上の魔法が口の中に入ったので、仕返し、だよ」

 自分から口に入れたくせに何を、と言いたいところだが彼女の長い舌と俺の舌が絡みあい、言の葉は発せない。

 代わりに発せられるのは、水音。

「んくっんく」

 パイソが何かを飲み込むように喉を鳴らす。


 そして、舌が離れた。


「兄上……」

 下手人のパイソから声を掛けられるが、見れない。

「私の魔力を作るところは、喉なんだ」

 ……ドラゴンなだけに『喉』ですか。

 口内で火を噴くからね、納得。

 ただ舌で責められる理由が分からないのですが。

「…………、」

 と言いたいが、口から出るのは呼吸音。 


 既に『精神の願望』は貼り付けられており、右の人差し指にはない。

「兄上」

 パイソは呟き。

「我が『竜種』のちからは、兄上の命ずるままに」

「そう……か。それは良かった……な。

――『精神の願望』、彼の者が主なり」


 俺の死にかけながらの宣言に呼応して、『精神の願望』が彼女の口内で輝く。

 朝食をこれから食べるというのに、どっと疲れて俺は…………。



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