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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第3章-登校日初日-
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 話し込んでいる内に、女子寮の前に着いた。

 いくら、大人たちの都合で、女子寮の中に入れるとしても、非常に気が引けるのはきっと正常の証である。

 非常に入りにくい。


 我が家の常識人である、セシルとクオセリスが何も言わないところからみて、最早俺が寮内に入ることは確実なんだろうが……。


「うん、無理」

「何がですか?」とはセシルの弁。

「いや、ね。俺が女子寮に入るってのは、絶対におかしいと思うんだよ」

「どこがですか?」

 真顔且つ疑問符を浮かべた顔で聞いてくるセシル。

「いや、女性には男性には知られたくないことだってあるでしょう?

それなのに、俺がいたら絶対におかしいだろ? って話」


「わたくしたちは婚約している身なので、隠すことなんてないですよ?

愛してくれるところを全て知って貰うためにも、一緒に住むことは必然かと思いますが」

「いや、そうじゃなくて。なんていうのかな、"プライバシー"じゃなくて、こう私事とかあるでしょ」

「この学園生活が終わってから、ずっと死ぬまで一緒に暮らすのですから、別に秘密なんてあってもないですよ。

ねぇ、皆さん」

「セシルさんの言うとおりで、私も嫁いだ身なので特に異常とは思いませんが。

寧ろ嫁いだ矢先に別居の方が、辛いです」

「お兄ちゃんと一緒がいい」

「私も同じく」


 俺がおかしいのだろうか。

「いや、えーと。うん、うーん」

「そんなにお辛いのであれば、私たちが男子寮に引っ越しますか?」

 いや、それは危険だ。

 野獣に草食動物を投げ入れるようなものだ。


「いや、俺が考えないことにする」

 完全にはムリだろうけども。


 そうこう悩んでいる内に、中から女性が出てきたがクォリャさんではない。

 クォリャさんのような、大人の女性ではなく。

 そう正直に言えば乳臭い女性というか、うぅむ、この世界の成人間際の女性というべきか。

「あら、なぜこんなところに男の子が?

男の子はあちらですわよ」

 そう言って彼女は男子寮へ向けて指をさす。


 ああ、良かった。

 彼女は普通らしい。

「ええと――」

「旦那様は私たちと共に住む方なので、ここに入れる方ですよ」

「はァ?」

 段々と彼女の顔に険がより始める。


「なんで、男性が我が女子寮に?」

「聞いていらっしゃらないのですか?

クォリャさんらから入ってよいと」

「なぜクォリャさんの名前を……。それはよいとして"入ってよい"だけ? なら入らないでくださらない?」

「そういう訳にも行きません。私たちの荷物もありますし」

「そんなものは私たちが取りに行きます。だからそこの方は入らないで下さい」

「いえ、ですから……」

「あああああああもう、くどいっ。男は駄目です!」


 まぁ普通そうだよな。

「あぁ普通の対応ありがとう。

だが、悪いけどフォートラズムさんからのたっての希望でね。ここの寮に住んで欲しいと――」

「それでも、駄目です!

一人でも例外を作ったら、ずるずると規則を破る者が出てきてしまいます!」


 へぇ、結構まともなことを言っている。

「それに男性は暴れます。窓を割って放置したりと良くないことをします!

そういうところから、規則を破ってしまうので、絶対に禁止!」

 この世界で壊れ窓理論を聞くとは、なんか違っている気がするけどまぁいいや。


「それに男性は、女性を見ると問答無用で襲い掛かってくる生き物です!」


 ヒデー言われようだ。

「そんな生き物をこの寮に入れる訳にはいきません! 即刻出て行って下さい!」

 俺自体、襲いはしない。

 なにせ、嫁ズが多い。

 だから、寮内の女性には手をまず出さない。


 だが、そんな人と成りを知っている者は嫁ズぐらいしかいない。

 しかし、それでも。

「そうは言われてもね、一応能力と性格とかを見られてフォートラズムさんからの希望なんだけども」

「貴方もしつこいですね! 駄目なものは駄目です。第一実力って何ですか!」

 彼女がいちいち大声でわいわいぎゃあぎゃあ言うので、寮内の女性たちが恐る恐る見だして、俺と彼女を注目している。


「実力は実力さ」

「フン、女性を落とすための実力ですか。穢らわしい」

「――ちょっと、流石に聞き捨てならない。貴女ムカつく」

「はン、何よ貴女」

「私はお兄ちゃんの味方。そのムカつく口を閉じないと……」

「閉じないと……何かしら」


「……殺す。よ」

 底冷えするような声音で彼女に忠告するエレイシア。

 彼女(エレイシア)の足元の影に、蠢く光点。

 ゾクッとさせる魔力が集まる。


「あああああ待った"ストップ"、じゃない。止まれ、エレイシア!」

「なんで止めるの。お兄ちゃん」

 いやいや流石に止めないと。

「血の海出来るだろ!」

「…………へ?」

 目の前の成人間際の女性が間の抜けたような声を出す。


 あともうちょっとヒートアップしてたら、死んでたなんて普通は思わない。

 だが、それに近かった。

「だってアレ、お兄ちゃんのことをバカにした。

それどころか(けな)した」

「いや、別に気にしてないから。大丈夫だって。

それに人のことをアレって言わない」

 と(たしな)めるも、「嫌だ。アレはアレでいい」と言い切る。


「"アレ"ってわたくしのことですか?!

失礼が過ぎるのではなくて!

そもそも貴方が――」

「うるさい、ピーチクパーチク(さえず)るな。小娘」

 いい加減、水掛け論が過ぎるので強引に言いくるめる方針にする。


「なんですって! 貴方のほうが年下でしょうが!」

「ああ、確かにな。だが貴様よりは実力も地位も高いぞ」

「だから……なによ。わたくしがそんなものに媚びるものでも?」

「媚びなくて結構。ただ貴様の(つら)と成りは覚えた。

賢いなら意味が分かるだろう?」

 なるたけ悪そうに顔を歪めておく。

 もちろん、口に出しているだけで悪いことなんてしないが。


「ぐっ、貴方何者よ……」

「さぁな。だが、貴様に口出した者はツペェアの王族だ」

 ここまで言えば大抵は分かる。

 事実、「……なっ、ま、まさか……貴方は……」効果はてきめんのようだ。

 王族に近い者が、『面と成りを覚えた』という言葉はとても重くのしかかる。


 場合によっては一族が路頭に迷うような嫌がらせも受ける可能性がある。

 もちろん、それを回避するには覚えを良くして貰うしかない。

 場合によっては性奴隷でもなんでもするしかなくなる。

 だからこそ、王族や力を持つ貴族相手に喧嘩を売るのは愚策。


 というのは、ただの妄想で想像だが、多分彼女の反応から見るとあながち間違っていなさそうだ。

 ガクガクと膝は笑っており、顔面も蒼白だ。

 想像以上に脅かしすぎたかもしれない。


「貴方、いえ……あな、たさ……まは、きゅ、宮廷魔術師でしょう……か」

 顔面蒼白に唾をごくっと飲んだらしく、白い喉が動く。

 ちょっとエロい。

 しゃぶりたくなった。


「さぁなぁ。歳上として賢い頭で考えろよ」

「あ……あ、あ」

 涙目の彼女。

 罪悪感が物凄い。


「まぁツペェアの王族を(めと)ることが出来るのは、並の貴族や平民じゃ無理だろう、なァ?」

「…………お、おゆ……おゆるし、を」


 想像以上に怖がらせた。

 これはいかん。

「いや、すま――」

 すまん、怖がらせすぎた。悪かったと続けようとしたところで、彼女から被される。

「お、おゆるしください! 宮廷魔術師さま!」

 と、深々と土下座する彼女。

 ここまで深々とされると、何も言えない。

 ……この世界土下座あるのか。


「だから、どうか。我が一族はどうか!

わたくしはどうなっても。どうなっても構いません。ですから一族だけは!」

 効果が強すぎた。

 恐る恐る見ていた子たちも何人かも土下座。


「ええっと……。ごめん、クオセリス。これどういう状況?」

「ええとですね、彼女含めてザクリケルの貴族と民です」

「え? でも、彼女クオセリスのことを知らなかったよね」

降嫁(こうか)していることはまだ知らないかと思います。嫁ぎに来てからまだ半月も経っていませんよ?」

「…………、そういえば、そうだね」


「おゆるしください、おゆるしください!」

 叫ぶ彼女が非常に痛々しい。

「……どうしよう?」

「私は特段気にしてませんし、旦那様も気にしていないのですよね?」

「うん」

「では、許してあげてはどうでしょうか。このままだと、流石に」

 ああ、でも。

「エリーが気にしてましたね。エリー、貴女は……」


「お兄ちゃんとセリスおねえちゃんが気にしていないなら、私からは言うことないもん」

「だそうです。旦那様が許してあげて下さい」


「おゆるしぐだざいっ、おゆるし……えっぐだすぁ」

 確かにそのままだと、情操教育に悪い。

 だから、彼女の前に移動する。


(おもて)をあげよ、小娘」

 出来るだけ、先ほどの強引に言いくるめるような声音で、だ。

「は、はい」

 泣き腫らしてひどい顔だ。

「小娘、済まなかった」

「いえ、宮廷魔術師様が謝ることでは――」

「よい、貴様は。この女子寮という"国"の王族であった。

対する我は女子寮という"国"を脅かす敵国であった。

強大な敵国と言えども、自らの"国"を守るためであったと言えば、貴様の行動には好意を持てる。

我が国には"郷に入らば郷に従え"とある。

意味は、「その環境に入れば、習慣ややり方に従え」というものだ。

強大な敵国として、"自国"の王族に問いたい。

この国の者として、我が入るにはどのようにすればよいか」

 結構カッコ良いことを言おうとして失敗している感はある。


「……特例は、ござい……ません」

「そうか、残念だ――」

「ですが……!」

 慌てたような彼女の声音。

 別に脅した訳じゃない。

 森があるし、森で寝食やろうかな~? なんてパッと思いついたぐらいだ。


「ですが?」

「…………ですが、わたくしはまさに女子寮の王族のように、男性を入れさせないための者として門としておりました。

だから、その。宮廷魔術師様に頼むのもお門違いだと思いますが、是非に。

わたくしの代わりに門を守って頂けますでしょうか」


「何故、」

「過去に色々あったのです。望まないことが……」

 望まないこと、ねぇ。

 並程度に自由に行き来出来ていたお陰で、一児の母になっちゃったとかそういう系かな?


「父親知らず、かな……?」

「……何故、それを」

「なんとなく、分かるのでね。で、正解は」

「はい、それが起きました」

 何が"起き得る"だ。

 普通に起きてるじゃねーか。

 でも、待てよ。

 和姦(わかん)なら父親知らずじゃないな。


「後ろ盾が何もない、平民の子が誘拐されて……その……」

 フォートラズムに語った展開そのままじゃねーか……。

 何が起き得るだ、あの野郎。

「ふむ……」

「なので、そのえっと。

わたくしはこの通り、まだまだ弱い身なので、突破されたらと思うと、その……」

 彼女の言葉に涙が混じり始める。


 彼女は女子寮という"国"を守る王族だ。

 だから、ああいったように俺という敵国を排除する必要があった。

 だが、結果は敵国に破られた上に、逆らってはいけない相手であった。

 更に言えば、王族が敵国に頭を垂らしてしまった。

 これには下策中の下策で、敵国の元に連なるという意味になってしまう。

 それでも、彼女の今後を考えるならば、仕方がない。


 それを貶すのは非常に難しい。

「よい。

いいか、我は今はただの貴様の国に住みたいという、哀れな――」

「お兄ちゃんは哀れじゃなーい!」

 雑音が聞こえるが無視しよう。


「そういう者だ。

よいか、この女子寮はザクリケルと同じだ」

「…………、」

「貴様は王族。我は宮廷魔術師という"兵器"。

"兵器"に頭を垂らす、王族。

ほら、ザクリケルだろう?」


 日々平和を享受させてくれる宮廷魔術師へのお祭りがあるぐらいだ。

 彼女を奮い立たせるように。

「貴様は、ザクリケルという国の王族のように、"兵器"に頭を垂らした。

だから、王族として"宮廷魔術師"に言え」


「……はい。……はいっ」

 応えは力強く。

「宮廷魔術師様、この我が"国"に気が済むまでの間滞在し、その間、恵みを下さいませ」

 応える姿は、神へと祈り続ける修道女のように、純粋に願う。


「ああ、約束しよう。

我が『惑星』より(いで)し魔力を()って、この地に潤いを与える。

血は水となり、肉は地となり、声は風となり、想いは火となり。

重みは言の葉。時は全てを()む。空は世界となる」


 よって。

「ここに『契約』しよう、この地に飽くまで。

この地は、我『魔王』ウェリエがいると」


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