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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第3章-登校日初日-
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男友達


 水晶球がパリンしてから皆の反応がヤバかった。

 男の子も女の子も寄らなくなった。

 うん……、まぁいいや。

 泣いてなんかいないもん。


 なお、護衛役の皆様も化け物を見る目で見ておりました。

 テメェらは覚えてろよ。



 登校初日の初お昼。

 隣には誰もおらず。

 セシルとクオセリス達は揃って早速出来た友だちと一緒に食べに行き、エルリネとエレイシアも各自出来た友だちの元へ去った。

 護衛としてはあるまじき行為だろうが、彼女らも護衛がメインではない。

 なので、仕方がない。


 仕方がないが、凄い孤独感。

 先程から話しかければ、そそくさーと逃げられる。

 物凄い疎外感。

 これは酷い。


 web小説などで、実力隠して昼行灯とかそういった描写があったが、それの理由はこれだった。

 物凄く避けられる。

「流石○○!」とか考えて妄想してたりはしてたけども、行き過ぎるとこうなるというのは想像してなかった。


 胸ポケットからちょこんと外を覗くパイソと一緒に昼食を食べる。

「……寂しい」

 ぼそっと呟けば、パイソが胸ポケットから出て肩から首元へ周り、頬ずりしてきた。

 どうやら慰めてくれているようだ。


 パイソの慰めが心に響く。

 可愛いなぁパイソは……。

 あはははは……「はぁ」思わず溜息を吐く。


 今日の朝の夢のこともあり、姉さんを思い出した。

 そういえば姉さんはよく隣にいたっけ。

 今頃姉さんは何をしているだろうか。

 元気にしているだろうか。


 いや、きっと苦しいことになっているんだ。

 それに比べて俺は今、苦しいことはしていない。

 こんなものに苦しいなんて思ってはいけない。

 早く十五、いや十四歳になりたい。

 なれば迎えに行けるのに。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 この世界にもパスタ麺があった。

 そのパスタ麺を塩と胡椒と卵で作ったソースで和えられている様はまさにカルボナーラ。

 パスタの硬さは程よいアルデンテ。

 そのカルボナーラはこの世界では"イエ"というらしい。

 というのも、なんとなく"イエ"……"家"……家庭料理か! と思って頼んでみたら、これが出てきた。

 騙された感がひしひしと感じるが、この騙された感を愚痴る相手も現状パイソしかいない。


 パイソ用にイエを小皿に分けて差し出す。

 まぐまぐと食べる姿はエレイシアのよう。

 トカゲといえば肉食だが、イエのメインはあくまでパスタだ。

 パスタといえば小麦粉つまり植物。

 異世界なので当然違う可能性も出てくるが、少なくとも現状は植物ものだ。

 加工された植物ものを食べるトカゲ。


 中々無いのではないだろうかこの図柄。

 ……魔法的生物だから気にしたら負けか。

 ニコニコとパイソの食べている姿を見ていたところで、誰かが隣に来た気配を感じる。

 エルリネたちの気配ではない。


 食堂に動物を連れ込んでいるから、その注意だろうか。

 パイソが食べている途中だが、パイソが嫌がらないようにお腹を横から掬い上げるようにして持ち上げる。

 持ち上げたパイソを尻尾から、胸ポケットにするっと入るように滑りこませる。

「食べ足りないよ?」といいたげな顔でじいっと見られるが、「外で食べようか」とパイソに伝えると、嬉しがるかのようにポケットから抜けだして首元へ移動する。

 トゲトゲとした鱗が微妙に刺さって痛いが、そこがまたよい個性で可愛い。


 そこで席を立ったところで、隣に立った人の姿を初めてみた。

 どうやら、先ほど助けた子とその友人たちらしい。

 助けた子はイエの皿を持っており、友人はまた別のパスタものをもっており。

「ねぇ」

 話しかけられた。

「うん?」

「一緒に食べない……? それとも、もう出るかな?」

 避けないでくれる人と記念すべき初邂逅である。

 こんなチャンスは中々無い、だから。


「ええ、ぜひ一緒に」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 助けた子はどうやらカクトという名前の男の子らしい。

 らしい、というのはどう見ても女の子っぽいからだ。

 だが、この世界は男は男らしい格好、女は女らしい格好を是としている。

 よって男の娘などは存在出来ない。

 で、彼は男の格好している。

 つまり男。

 但し顔と声音は女。

 世界が世界なら男の娘だった。

 いや、男の娘じゃない。

 いや、違う。


 ……もう分からん。

 とりあえずカクトは男で、声音は女。

 俺と同じく髪は栗毛ショート。

 目は栗色のたれ目なところから、全体が栗色といえばいいのか守ってあげたくなる系の男の子。

 保護欲掻き立て系の男の子。

 

 カクトの友人は男の子が一人。

 名前はティータで、特徴はカクトと瓜二つ。

 但し、眼の色は赤茶でツリ目。

 そんな彼の開口一番は「化け物の人か」と中々ムカつくことを口走ったが、カクトが目の前にいてキレるのも大人げないので黙っておく。

 ちなみに、ティータも女声だ。


「さっきは、そのありがとう」

「さっき?」

「さっきはさっきだよ、宮廷ナントカ」

「あぁ、あの潜在属性の奴ね。どういたしまして」

 宮廷ナントカとか一々ティータが五月蝿いが、お礼を言われるのはやっぱり嬉しいもんだ。


「……凄いね、ウェリエくんって」

「うん?」

「だって、あの丸いのが割れてからそんなに時間が経ってないのに、直ぐに僕の前に立った、から」

「ああ、それは――」

「どうせ、宮廷ナントカで手馴れているんだろ」

「……、手馴れているといえば手馴れているからね。……主に実戦でね」


「ケッ、宮廷ナントカさんよ」

「なんだよ、ティータ」

「うっさい、ティータさんと呼べ」

「断る」

 なんで不遜な奴相手に"さん"付けしなければならないのか。


「なんでだよ」

「さぁな、自分の胸に聞け」

「アァん? テメェ俺の胸が薄いって言いてぇのか」

「実際薄いだろ、ガキ」

「テメェもガキだろォ」

「ハッ、悪いがこちとら実戦歴長いんでねぇ。並以上には胸あるぞ」

 胸板のことである。

 なお、未だにお腹は引っ込まない。


「テメェのことは認めねぇからな」

「何がどう認めないんだ、ティータ」

「だから、さん付けしろ」

「ヤなこった」

 ティータに魔力が集まり始める。

 対する俺は余裕を醸し出す。

『前衛要塞』があるので、殴られても衝撃を感じられない程度の防御力だ。

 だから余裕。


 だが、ティータは一触即発、そんな中。

「ティータ、ケンカはだめ」

 ティータを(たしな)めるカクト。

 青菜に塩を掛けられたように、急速にティータに(つど)っていた魔力が霧散し、大人しく席に座るティータ。

「ごめんね、ティータが――」

「いや、いいよ。気にしてない」

「そっか、ありがとう。僕が許すからティータはティータって呼んであげ――」

「ちょっ、勝手に決めんな。俺はこんな奴に呼ばれたくない!」

「だ、そうだけど、カクト?」

「いいよ、別に。……ティータ、照れ隠ししない。めっ」


 対するティータは、物凄く赤くなってカクトの襟を掴んでガクガクと揺さぶっている。

 カクトが主導権握っているのか。

 可愛らしいな。

「あ、こらテメェ。そんなニコニコした顔で俺を見るなぁ!」

 いやぁ可愛いなぁ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ティータが、「こんな奴に呼び捨てにされた。お婿に行けない」とか言って食堂の机に突っ伏して寝息が聞こえてからは、ずっとカクトと話しっぱなしだ。

 カクトとティータの間柄は、近所付き合いがあったほぼ兄弟として育ってきて、ティータが弟分らしい。

 実際の年齢通りでいえば、ティータの方が兄らしい。

 ティータは「虹」の中級容量で、カクトは「風」の計測不可。


 幼馴染で何しても一緒だったカクトとティータは、誰が先に言ったか分からないけれども、学校に通いたいと思い始め、試験を受けて今に至るという。

 卒業後の目的について聞いてみたところ、ティータと共に世界を回りたいらしい。

 中々に夢がある夢だ。


 村かどこか郊外に家作ってのほほんと暮らしたいと夢見る、枯れた宮廷魔術師とは大違いだ。

 そんなことを聞いていたところで、カクトから逆に聞かれた。

「ウェリエくんは、何故ここに?」である。

 これには隠す必要など最早ない。


 彼には魔法を壊すというチートな場面を直接見せた。

 だから包み隠さずに話す。

「んー、手加減を覚えに……かな」

「手加減……?」

 まあ気になるよな、この台詞は。


「カクトに見せた魔法ってさ」

「うん」

「どの系統だと思う……?」

「……系統? うーん、無詠唱だったから……生活魔法……ではないよね。

自衛かなぁ」

「へぇ、何故?」

「基本的な人だと、生活魔法が無詠唱になって自衛魔法。更にその上の攻性魔法が詠唱ありで」

「うん、うん」

「ウェリエくんは、宮廷魔術師っていうザクリケルの"兵器"といったら、怒るかもしれないけど。

でもそういうことだから、凄い人と思えば、自衛ぐらいは無詠唱は出来るかな? 、と」


 自衛魔法の上は攻性魔法で間違いないようだな。

「なるほど、ちなみに答えは攻性ね」

 相手の魔法を強制的に打ち消す、または潰す魔法で自衛以上の効果がある。

「え、攻性?」

「うん、攻性」


「攻性を無詠唱だなんて、凄ッ」

「でしょう?」

「そんな凄いのに、なんで手加減を?」

 どかーんとか一杯出来るよね?! と言われましても。

「意外とどうにもならないよ、ほら例えば戦争でさ。後方から滅ぼしに掛かってきたりされたら、怖いじゃん?」

「あー……」

「サシでやるときもそうだし、後ろに守る人がいるときに手加減なくぶっ放して、殺したら意味ないじゃん?」

「あー…………」

「だから、手加減」 


「なるほど。凄い人には凄い人なりの苦労があるんだね」

「うん、そうなんだよ。厭味に聞こえるかもしれないけどね」

「ううん、確かに知らない人が聞いたら厭味に聞こえるかもしれないけど、僕からすればちゃんと分かったからいいと思うよ」


「そうか、ありがとう」

 カクトは両手のひらを合わせながら

「で、モノは相談なんだけど……」と切り出してきた。

「うん?」

 はて、相談とは。

「身分が違い過ぎるけど……さ」


「うん……うん?」

「その、……僕と友だちになって欲しいんだ」

「え?」

「あ、嫌だったらいいんだ……。でも、僕はこの通りに平民だしティータ以外に話せる人がいなくて……その、えっと」

 段々と声が小さく細くなっていくカクト。後半がほぼ聞こえない。

『十全の理』の聴力強化で一応聞こえてはいるけども。


「何言ってんだよ」

「あ、ごめん。声小さか――」

「何が"友だちになって"だよ」

「え?」

 彼の顔が上に上がる。その顔がちょっと歪む。

「とっくに友だちだろ、俺とカクトは」

「…………、」


「友だちじゃなきゃ、こんな身の上の話なんかしねーよ」

 だろ? と彼に聞いてみれば、先ほどの歪みかけた顔が一転して笑顔に変わり、「うん!」と力強く頷かれた。

 第一。

「身分なんて知らねぇよ、俺は元村民だぞ」

「ええぇっ」

 一応貴族らしいがな。父親の勤務場所を考慮すると。

「貴族以外でも宮廷魔術師ってなれるの?!」

「おうよ、俺は実力でなったもんだからな」

「ええっ凄い! どうやってなったの!?」

 おおう、凄い食いつき振りだ。

 やっぱり男の子だな、この反応。

 あれだろ、生前でいう警察官になった近所のお兄さんに対する憧れ方だな。


「まずな、人の家を間違えたんだ」

「え、間違えた?」

「ああ、間違えた。自己紹介のとき、セシルっていう娘いただろ」

「うんうん」

「あの娘はツペェアで有名な一族の人でね。一族の屋敷の門を叩いたんだ魔法で」

「うんうん」


 そしたらな。

「屋敷の門だと思ったら、宮廷魔術師の門だった」

「えええー!」

「で、なし崩しでドカーンしたら、宮廷魔術師になった。

と、そんな感じ」

 最早ギャグである。

「す、凄いね」

「だろ。ま、そんな感じだから、誰でもなれるよ。一応性格的なところも見られるけど、特に気にしなくていいと思う」

「ほへー」

 理解が及ばないだろうな、そりゃ。


「僕もなれるかな?」

「俺と同じぐらいの魔力容量持っているってことであれば、いけるんじゃね」

「ホント?!」

「ただ、自衛と攻性が並以上にないとダメだと思う」

「それは、そうだよね……」

 打って変わってしゅんと力なく垂れるカクト。


「俺のは特殊な魔法群で、それでなれたもんだから余り参考にするものではないとは思うけど、カクトならいいところいけそうだし。

もしアレだったら、俺が口利いとくよ」

「…………?」

「中々面白そうなのがいるって、ね」

「……?」

 疑問符を浮かべているような顔をするカクト。

 "口利き"ってことが分からないのかな?


 と、そのとき鐘が鳴った。

 はて、この鐘は。

「あ、お昼終わりの鐘だ。次は確か実力検査だっけな。

一緒に行こ、ウェリエくん」



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