表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第3章-編入試験-
172/503

脅迫

「かおいろわるいけど、だいじょうぶかい」

 わざとらしく棒読みで心配するように問いかける。

 だが、高位貴族で殺される、ヤられるのが自己責任で当人らの能力にしか責任が問えないならば、


「ただまぁ、学校と寮の行ったり来たりしか出来ませんよねぇ」

「…………、」


「学園と街が一体化していて、街としては各国のウリがこの街に(つど)っている。

でも、自分を守ってくれるであろう三国が出資したという学園が、学園内しか面倒を見ない。

こうなったら、引き篭もってひたすら勉学に励むしかないですよね。

貴族が自由に外に出れないのに、平民上がりが街に出歩く。

とてつもない精神的苦痛ですよね。

『なんで、私、俺はあの子たちみたいに友達と一緒に出かけられないんだろう。他国のお菓子とか服とか見に行きたいのに』とか。

鬱屈しすぎて爆発なんてものも起きえますね。


で、いざ街に繰り出したら、万が一の誘拐なんかがあって学園は触ってこず、自分が雇用した警護役が助けにくるだけ。

警護役が助けに行かなかったり、警護役があっさり死んだり。

でも、それは警護役が悪い。

なんとか身体は帰ってきました。

でも、心と身体は汚されていて、誰のと知らない一児の母になってました。

街で起きた出来事なので学園は知らない、存じません。

ご両親はどう思うかな……?」


「……それは、違う」

「どこがでしょうか」

「今まではそんなことはなかった。ああ、ウェリエくんには言っていたが、起き得ることもあると言っただけだ。

そう、起き得るだけだ」

 声音が焦っている。

 だが。

「でも、今後は?

あと先ほどフォートラズムさんも仰ってましたよね。『失敗したら学園に火種が』と。

過去にあったんじゃないですかね。

そこら辺は知らないんで、どうでもいいって言えばどうでもいいんですが。

そのときはたまたま平民か何かだったんでしょうね。

平民だからという理由で黙殺したのですかね」


 フォートラズムさんの顔が歪む。

「この学園が営利団体……であれば、間違ってない対応だとは思いますよ。

極端な話、学園が維持できれば、それだけお金が至るところからじゃぶじゃぶ投入されるので。

ただ、子を持つ親はどう思うかなぁ? ってだけですよ」

「…………、」

「我々家族が無事に卒業した(あかつき)には、今日のお話はしっかりオウネさんには話は通しておきますわ」

「……オウネ……さま?」

「そうそう、リーネ様いや、クオセリスの父上だね。学園がこういう態度、姿勢、立場だったよ、とね」


「どういう風に……だ」

「いや、ありのままに?

クオセリスとセシルだけは国家間感情が悪くなって、下手なことを起こすとマズいから『魔王』がどうにかしてね。

と、言われたよ、って感じかな」


 家族の絆で失敗はしない。失敗しても家族にトラウマを植え付けるだけで、『学園』に痛みはない。

 いやぁ素晴らしいシステムだ。


「そんなことは……」

「ああ、じゃあ平民はどうなってもいいけど、貴族は守ろうという動きはあったよ。

というべきかな?」


 フォートラズムさんが、くちびるをわななかせている。

 先程よりも顔色悪い。


「オウネさんは割りと平民思いというか、何となくだけどあの人は、平民と仲良さそうだけど今日の学園の立場を知ったらどう思うかな。

あ、これ別に脅迫とかしてないよ。オウネさんの性格とかその辺り知らないから、ただの想像だし」


 だから。

「ただ学生が安全に成人までの間を、『学びたい』、『友達を作りたい』、『三国のためになりたい』ということを夢見て、学園の門を叩く人が必ずいて、その人達が確実に学ぶことを約束し、その場を提供するのが学園じゃないかなと思うんだよね」


 だから。

「安全が欲しいと言ったの。もちろん、個人でどうにか出来るようにはするさ。

危ない地域には近づかないとか、良からぬものは買わないとかさ」


「…………、」

「これが俺、いや僕の最高の利益……ですね。

さっきは勢いで口約束しましたが、別にいいんですよ。

守らなくても。

口実が欲しいだけなんで」

「口実……」


「ええ。

学園が頑張りました。

守れませんでした。やり場のない怒りはどこへ。

実行犯は殺せたかもしれない。

でもまだ大元は壊滅しきっていないかもしれない。

じゃあ焼け野原だ、お前のところも全員殺してやる。

あの宿屋のおっさんが怪しいから殺そう。

あの食堂のおばちゃんも怪しいから殺そう。

あの町民はウチの子が助けてと喚いていたはずなのに、助けなかったのはきっと仲間だったからだ。だから殺そう。

馬鹿だと思うけども、そう思うのが家族でしょ」


 流石にそこまではやらんけど、『戦熾天使の祝福』などで辺りを爆撃したり、『蠱毒街都』辺りで毒汚染ぐらいはするかもしれない。


 それにあの村の出来事だ。

 あの場はどうにか、俺が既に死んでいるということで誤魔化せた筈だ。

『勇者』または『魔王』の可能性がある『虹』持ちが、色々な魔法を使い死んだ。


 姉さんはあの事件の被害者だ。

 それもあの豚共に犯されかけるという被害者だ。

 母さんは実際にヤられた。

 幾ら俺が加害者だとしても、母さんと姉さんのことがあったから、怒りに任せてやった。

 理由があった。

 肉親が被害に遭った。

 だから、本気で怒り狂った。

 結果が『擬似太陽』などの「災害(ディザスター)」フルコース。


 そして獲得したのは、魔力汚染した大地と奴らが殺したと思われる子どもを、俺が殺したという濡れ衣。

 いや、濡れ衣ではなく、実際に殺したかもしれない。

 テトは俺のお陰で「助かった、ありがとう」と言ってくれた。

 でも彼は『擬似太陽』の爆心地の近くにいた。

 つまり、彼も下手をすれば焼き殺していた。

 

 あの村の親も子を喪ったかもしれない。

 でも、どうにかして生き残れた被害者。

 例えやり過ぎてしまった加害者が、怒り狂った理由となる被害者の母姉を、セカンドレイプするような人はきっといないだろう。

 俺はそう信じている。

 加害者の一族とはいえ、被害者だから。


「…………、」

「そんなことはさせたくないのが、『学園』だ。

下手にそれを良しとしたら、他の国から突き上げを食らう。

だから、そんなことは起こさないように努力する、それでいいんだよ。

世間一般的であれば親、同年代の幼い妻たちを娶っている僕からすれば、明確な約束が欲しい。

知らぬ存ぜぬじゃなくて、そんなことは起こしません。

起こしたら、首を差し出します。

だから、安心して入学してください。

ちゃんと卒業させます」


「…………、」

「ほら、こう言うだけで安心感が段違いでしょ。段違いに思わなくても、僕は思うけどね。

じゃあ学べるんだ。安全策に気を取られずに、楽しめるんだとね」


 確かに。

「結構、むちゃくちゃなことを言っている自覚はあるよ。

でも、親ってそう思うでしょ。親元離して他所に行かせているんだ。

風邪を引いてないかとか、怪我していないかとか心配な親御さんもいるはずだ。

そういう人たちがいる筈なのに、ぽろっと"家族の絆"とか『失敗しても』とか口に出すのはありえないでしょ。

実際にそう思ってないと」


「…………、」

「…………、」

「……、」

「……、」

「……ウェリエくん、きみは」

「あ、退学ですかね。

別にいいですよ」


「いや、そうではない。

……この学園は学びたい者がいれば、門扉を開けて待っているのが基本理念だ。きみが学びたいのであれば、僕からは退学とは言えない。

きみが退学したいという意識がなければ」

「そうなんですか。で?」

「きみは本当に申告通りの八歳の子どもか……?」

「逆に聞きますけど、正体はなんだと思います?」


「古い、古いお伽噺(とぎばなし)の魔王は、その長い人生に飽いて、学園に何度も年齢をごまかして入り直したという。

その度に新しい出会いを求めて。

きみはそういった(たぐい)の者か?」

「何故?」

「きみは申告通りであれば八歳。だがきみの言葉は子を持つ親の感覚だ。

きみは何者だ」


 前世の記憶でも親になった覚えはない、三十路に片足突っ込んだしがないお兄さんですが。

「そんな化け物になった覚えはありませんね。

もちろん、自覚もありません」


――ただ、肉親が被害に遭ったことがあるだけですよ。


――あの一瞬だけ、本当の意味の『魔王』になっただけです。


 そう心のなかで注釈を入れる。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 さて。

「話がだいぶ逸れましたが、学費についてです」

「ああ、全額無料にする」

「や、それはいいです。約束してくれるのであれば、もう利益は十分に頂いています」

「いや、それも含めての約束だろう?」

「いえ、特例ばかりだと不公平なので。

ええと、僕の分が減って二百十枚でしたっけ」

 ちょっとうろ覚えだ。

 その確認に対して、フォートラズムさんは、大きく頷き、「ああ、そうだ」と短く応えた。


「で、だ。

先ほど言おうとしたことはだな、リーネ様の護衛にエレイシアくん。セシルくんの護衛に成人している娘を当てる。

それをしてくれれば、エレイシアくんと成人している娘の学費をそれぞれを半額。

合計で言えば、一人分無料にしたい」

「で、あれば百四十枚ですね」

 一月(ひとつき)分と十分の四だけの給与でお支払い。

 当然九ヶ月分の給与は丸々残っているので、即一括出来る。


「一括支払い出来ますねぇ」

「今、手元には?」

「無いですね、取りに行けばありますよ」

「ならば後でいい。

で、だ。

寮の使用料と食堂の利用代がある。

食堂と寮は一纏(ひとまと)めで、一人あたり年間金貨一枚。

七年で七枚。

ウェリエくんらは五人なので三十五枚。

但し、先ほどの基本額と同様に割り引いた結果十四枚」


 ……安いと思うのは金銭感覚が狂っているからだろうか。


「最後に諸費があって、それぞれにお金が掛かるが、一式を一括すれば全ての支払は免除というのがあります。

これは割引ができない」

「お幾らでしょう」

「一人あたり二十枚の七年分で百四十枚、五人で七百枚ですが王族と宮廷魔術師分を差っ引いて、四百二十枚」

 一転して高い。

「であれば合計は、四百二十枚足す、百四十枚足す、十四枚で五百七十四枚ですね。

……食堂利用代と言っておりますが、食事出た上での値段ですか?」

「もちろん」


「あとはウェリエくんたちご家族の服飾などは、当然自腹でお願いしたい」

「ええ、それは当然」


 しかし、五百七十四枚というとほぼ六ヶ月分のお給与か。

 なってて良かった宮廷魔術師。

 なってなかったらどうしてただろうか。


計算ミスがあったので修正。

また、それに伴い表現も修正。(20:27)


感想より表現ミスの指摘があったため修正。(2/13 1:25)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ