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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第3章-編入試験-
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学費

 フォートラズムさんに俺と家族四人がぞろぞろと着いていった先は、当然軽食食堂。

 皆でおっかなびっくりで、お勧めされているものを選んだところで、そのオススメのおかずが魚類だった。

 魚類の生臭さが苦手なエルリネが、当然のごとく遠く離れた席に逃げたぐらいで、特に特記するようなイベントは起きなかった。


 エルリネの可愛い反応をひとしきり楽しみ、食後の談話として女性陣放っといて、俺はフォートラズムさんに気になったことを聞いてみた。

「そういえば」

「どうしたのかな、ウェリエくん」

「学費とかどうすれば」

「…………ウェリエくんって本当に年齢通りの子どもかい?」


 失礼な。

 前世の記憶がある、心も身体も年齢通りの子どもよ。

 なんてことは言えないので。

「何故ですか」

「いやね、魔族の子どもでも"学費"っていう言葉は中々出ないよ。

しかも、きみが考えていることって、支払いについてだよね?」

「ええ、よく分かりましたね」

 この人『サトリ』かな?


「魔族でもなんでも、いいところのお坊ちゃん、お嬢様だとご両親が払うからね。

基本的に気付かなかったり、費用の値段を聞いても気にしなかったりするんだけど、ウェリエくんは違うね」

「……はぁ」

 確かに生前の義務教育でも高等教育でも、学費は大人が払っていた。

 子どもが学費について気にしたとしてもそれは高等教育からで、一部の学生であれば自力で支払うこともあるだろうけども、大抵の高校生は大人が払っている……と思う。


「で、お支払いは」

「……基本学費は一年で金貨十枚」

 あら、意外とお安い。

 宮廷魔術師の月給の十分の一。

「これが大抵七年なので金貨七十枚」

 月給の十分の七で、成人まで教育受けられるのか。

 安いとみるか、月給が高過ぎるのか。


「で、ウェリエくんとそのご家族が合計五人なので、ええと三百五十枚」

 四ヶ月分の給料に金貨五十枚のお釣りだな。

「これが、基本。但し」

 ん、なんかあるのか。

「まず王族のリーネ様からは取れないので、七十枚引いて二百八十枚に減算」

「ほう」

「引いた分は、ザクリケルへ直接支払いを求めます」

「ふむふむ」

「公的身分を持つ宮廷魔術師に対しても、色々、そう色々な思惑と頭痛がする諸事情がありまして、更に減算して二百十枚」


 なんかスゲー減ってんな。

「で、リーネ様とセシルくんのおふた方を同時に守れますか、ウェリエくん」

「どういう状況下を想定してです?」

「ウェリエくんが片方と共にいて、もう片方が街に繰り出しているときといった状況ですね」

「当然無理、ですね」

 俺の身体は二つもないし、双子なんていない。


「では、用心棒などの身辺警護が欲しくなりますよね」

「ええ、そうですね」

 そういえば、セシルとの契約では俺が身辺警護役なんだっけ。

 色々あって警護役から外れたけど。

「正直に言えば、ただのお嬢様やお坊ちゃん相手にはあまりここまでは言わないのですが、リーネ様はザクリケルの王族、いえ元でしたね。

で、セシルくんはザクリケルニアの有力貴族のご息女です」

「…………、つまり?」

「何かあったら、非常に困るんですよ。やれ、誘拐されたとか。いえ、誘拐ならまだなんとかなるんです。犯されたとか殺されたとかだと、戦争になるんですよ」


 ……うわぁ。

「で、出来ることなら放ったらかしではなく、そう身辺警護を雇って欲しい。ただ下手な警護役を雇って、力及ばず殺されました、犯されました。

中には警護対象者を犯しました、なんてこともあったようなのですが、そんな人材を見繕った学園に火種が落ちるのは困る。

では、適任者は誰か。

という話になります」

「…………、」

 ……うわぁ。


「そこで目をつけたのが、エレイシアくんですね」

「…………、」

「彼女を魔法は攻撃能力が高過ぎますが、十分でしょう。それに貴方たちの身内でもある。仕事として考えるのではなく、家族として死ぬ気でやると思います。

それに、もしも失敗し――」

「ああ、分かったから。

ところで家族の絆というもので縛り付けて、累が及ばないように保身する学園長様は、我々になんの利益を?」

「学べることは利益では……?」


「あー確かにそうですね。では、そういうことが起き得ないように今の内に掃除しましょうか」

「……なにを、かな?」

「そりゃあ、街をですね」

「……ほう」

「一先ず、更地にしておきましょうか。危険地域を今直ぐに一覧表にして持ってきて下さい。

フォートラズムさんにお伝えした、対軍用魔法をちょっと使って更地にしてきます。

あぁ人も遠ざけて下さい、巻き込む危険性もありますし、死体から疫病を(もたら)す可能性もあります」


「ま、待て。待――」

「いえ、待ちませんよ。早くしないと彼女たちが今直ぐにでも犯され殺される未来が出てくるのですから。

ささ、ほら早く。

面倒ですからフォートラズムさんが嫌いで殺したい人の一覧表と住所録も下さい。追加で殺してきますよ。

いやぁ腕が鳴るなぁ。

「天空から墜つ焼灼の槍」にしようか、それとも「天雷、裁終の神剣」にしようか。悩むなぁ」


「待ちなさい」

 強く静かな声でフォートラズムさんに止められた。

「なんですか? 彼女たちを守るために先に膿を出そうとしているだけですよ?」

「分かった、分かったから。何かウェリエくんたちの利益になるものを考慮して一覧表に書くから」

「じゃあ、今直ぐ挙げてください」

「……え?」


 何を鳩が豆鉄砲食らった顔をしているんだ。

「『あとで考慮する』、『今教師陣と会議している』とかでズルズルとされたら、意味がないってことですよ。

こちらも、即決めて実行に移そうとしましたが、そちらに止められました。

今度はそちらの番ですよ。ほら即考慮して、即実行に移して下さい。

だから、今直ぐに我々の利となるものを直ぐ考えて下さい。ほら早く」


「…………、」

「あ、学ぶ以外でお願いします。

あと、ちょっと独り言ですけども」

「…………、」

「セシルとクオセリス、いえリーネ様が犯されたりしたら戦争になるのですし、僕、いえ俺がこの島を先に更地にしようかなぁと考えていたり。

どうせ更地になるのですし、遅かれ早かれ。だったら早いほうが直ぐに建物を復興する時間が増えるだけ、得だと思うんですよね」

「…………キミは、僕を脅してどうする気だ」

「いやだなぁ、独り言に突っ込んできているよ。この人」


 でもまぁ。

「先に喧嘩振ってきたの、そっちだよ。フォートラズム」

「何……?」

「家族の絆を信じさせて、あとは知らぬ存ぜぬを貫くとかいい度胸しているね。

まぁ学園の長として考えるなら、ありかもねぇ。

でも時と場合を考えよう」


 そう。


「確かにエレイシアは家族が好きな子だ。きっとフォートラズムが、想像した通りに動いてくれるだろうよ。

だが、いいのか……?

あの娘にはもっとえげつないところがあってね。フォートラズム、あんたがそれを知らないで彼女をけしかけるんだぜ。

俺なんかまだ可愛い方だよ、直接的でね。

あの娘はもっと"怖い"ぞ」


 ぶっちゃけハッタリだ。

 だが、『ガルガンチュア』の能力がまだ出し切っていない筈だ。

 何せ『首縊り櫓』なんて魔法は、俺は知らない。

 ということであれば、あれだけではない、という推測が立つ。

 物質透過する化け物が周辺に死を満たす。

 冗談抜きで怖いわ。


「え、エレイシアくんの学費はなしで――」

「それだけ?」

「リーネ様のも――」

「それっぽっち?」

 別にお金関係を希望している訳じゃないんだが。

 勝手に追加してくれるのなら、それは貰っとくけども。

 たった一言「それが起きないようにするし、起きたら首を差し出す」と言えば、それだけでいいのに。

 まぁ首を差し出された程度で、強引に俺は納得するようにはするけど、ザクリケルのほうはしそうにないな。


「分かった。では成人している娘とセシルく――」

「少ないね」

「何がいいんだ、キミは。他に何が欲しいんだ……!」

「安全だよ」

「…………、は?」


「勘違いしないで欲しいんだけど、一言も学費安くしろとか言ってないんだよね。フォートラズム、アンタが勝手に言っているだけで」

「…………、」

「学費は払うよ、まぁそっちで安くしてくれるのなら、それで宜しくお願いしたいけど。

……真に欲しいものはそれじゃない」


「……安全、だと」

「そう、安全」

「エレイシアはまぁ、リーネ様と仲良いし、セシルはもう一人の娘と長い付き合いだからね。あの子達同士で勝手に固まってくれる。

今でも、ほら」

 と、あの子達の塊を見せれば、お互い隣同士でくっついている。

 いわば、派閥が出来ているのだ。

 可愛い派閥だ。

 ドロッドロのどこぞの昼ドラみたいな派閥じゃないなら、良し。


「別に警護が云々じゃない。

で、フォートラズム。アンタはあの子たちの仲良くしている仲を警護役と対象者の仲として誤認識、あとは放ったらかしで学生を守る学園、民を守る街が努力せずに個人でどうにかさせようとした。

こうなったら、"転ばぬ先の杖"いやそうだな、前以って危険から排除しようと考えるのは普通じゃない?」


 違う?

 と言外に(にじ)ませる。


「……何がいいたい」

「努力しろってこと以外に何がある」

「努力した結果が、そうなったらどうする」

 ま、そう考えるよな。

「そうだね、まず関係国に謝罪して貰って、首を差し出せばいいんじゃないかな」

「……なっ!?」


「ほら、死にたくないから力入るでしょ。エレイシアの魔法じゃないけど、常に絞首台、斬首台に首が載っていると思えば、日々にメリハリ感じないかな?」

「お……おま――」

「別に首を差し出したくなければ、それはそれでもいいけど。待っている未来はこの島が更地になって、結局さらし首かな?」

「ぐっ」

「世界最悪の戦犯になるんじゃない? 自身が死にたくないがために、民を犠牲にしたとかなんとか。

それも王族とか有力貴族の怒りを買いながら、逃げ出す戦犯。どこ行っても敵だらけ。

勘違いしないで欲しいけど、別に俺はフォートラズムの首が欲しいわけじゃないからね、そこだけは本当に勘違いしないで」


「…………、」

「さて、こちらが提示した利益はこれだ。そんなことはさせないと約束しておけばいい。

努力が足りなければ、宮廷魔術師の『魔王』が怒るだけで済むんだし、簡単だろ?」

「その魔王が怒ったら何が……」

「知ってる上で聞くの?」


「分かりました……約束します」

「ええ、ありがとうございます。……一応これらは録音しておきましたので、逃げたりしたら国に提出しますね」

「……録音?」

「……録音」

「録音ってなんですか」

「録音はろくお……ん、」

 ……あれ、音の保存ってこの世界無かったんだっけ。


「ああーうん、録音っていうのは、声などの保存ですね」

「えっ」

「書類約束ではないですが、音声なんでほら、この通り」

『永久不滅の誓文』のレプリカで、先ほどの口約束を再生。

 うむ、しっかり明瞭に音声が聞こえる。

 いつでも提出出来るな。


 目に見えてフォートラズムの顔色が悪い。

 寧ろ、真っ青だ。


 悪いものを食べ過ぎだな。

 もっと旨いものを食べないと。



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