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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第3章-編入試験-
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面接試験

 学園までは道の通りで特に迷うこともなく、雑踏に塗れることもなく普通に着いた。

 学園の門の審査官というよりも、守衛さんがいたので話しかけると、「係の者を呼ぶのでしばらく待って欲しい」とのことだった。

 しばらく待ったところで、係の者という女性が迎えに来て一緒に学園の敷地内に入る。


 学園内の教室にいるわいるわでたくさんの子供たち。

 皆真面目そうに教師の言葉を聞く子が殆どだが、中には落ち着きが無い子もいるようだ。

 真面目そうな子どもたちや落ち着きのない子どもたちも、皆いいところのおぼっちゃま、またはおじょうさまらしく、隣にはいかつい、またはしかめっ面をしている護衛のようなおっさんまたはお姉ちゃんが鎮座していて中々にシュールの光景だ。


 係の女性に付いて行くこと約十分、物々しい扉の前に着いた。

 初めて読む字なのでなんとも言えないが、この雰囲気から校長室か理事長室のどちらかだろう。

 女性が一言、「例のツペェアの方をお連れしました」と門に報告すれば、扉がひとりでに物々しい音を立てながら開いた。

 流石異世界、魔法か何かか。


「では、お入り下さい」

 ああ、やっぱり入れってことなのね。

「お姉さんは入らないの?」

「はい、私は許可されておりませんので」

「そうですか」

 扉の中に入れば、他の四人もぞろぞろと続く。


 中は真っ暗だ。

 中でいきなりはないだろう、だがもしももあり得る。

――駆動、『前衛要塞』。それと同時に「常時探査(スキャニングソナー)」も起動。


 脳内の仮想マップに光点が五つ、引っかかった。

 家族四人と校長か理事長の一人。

 但し、その一人は隠れているつもりなのか、弱々しい光だ。


 存在感が半端無く感じられるのはエルリネで、俺の後ろにいるはずなのに後ろで魔力を練っているというのが分かるぐらいに煌々青白い光が視界の端に映る。

 ちらと右隣を見ればエレイシアがおり、彼女の左腕も『精神の願望』に魔力を通しているようで、こちらも仄かに点灯している。


 どうやら二人共警戒しているようで、更に言えば彼女の足元に、例の蠢く光点。


――『ガルガンチュア』、起動中か。 


 相手が下手なことをすれば一発バクンという、一触即発状態だ。


「隠れてないで出てきて。じゃないと……」

 けしかけるよ、という単語が後に続きそうな声音で、光点がある方に向けて声を上げる。

 その後しばらく沈黙をしたところで、部屋の中のランプに明かりが灯り、真っ暗闇から幾分かが明るく照らし出された。

 部屋の中は小奇麗にされ目の前にはテンプレ通りのオーク机。

 そこには回転椅子があり、背を向けられている。


 背を向けた椅子のところに、もう一つの魔力がいるように感じそうだが、厳密には違う。

『奪熱凍結の言霊』が自動で起動し、穿つは中空から光点の位置に向けて『氷柱の柱(アイスピラー)』が発生。

 椅子より高さ五メートルの中空を貫く。

 貫いたついでに冷気も発散させるが、その冷気によって部屋が寒くなる前に、『氷柱の柱』が熔かされた。


「ふうむ、噂に違わず中々好戦的ですね」

 男性の声が響く光点が五メートルの高さから、椅子のところに移動し、背を向けていた椅子がこちらを向けば、やはり声に違わずイケメンお兄さんが腕を組んで座っていた。

 くそう、イケメンめ。

 爆発しろ。


「くくくっ、そう睨まないでよ。はじめまして、僕の名前はフォートラズム。親しい人はフォートって読んでくれるかな」

「フォートラズムさん、ですか。僕の名前は……ウェリエです」

「ツペェアじゃないけど、ウェリエくんより僕は階級は下なんだよね。だからフォートラズムと呼んで欲しいかな」

「生憎、初対面。ましてや親しくもない人に対して呼び捨ては出来ませんよ」

「おや、じゃあ。親しくなったら呼んでくれる?」

 人を食ったような声音から、一転して心底嬉しそうな声音になるが、俺はそこまでチョロくない。


「残念ながら……、フォートラズムさんは僕より歳上ですよね。歳上相手に"さん"付けなしは難しいですね」

「へぇ……。ではウェリエくんより歳上に見えるその娘には、"さん"付けなのかな?」

 フォートラズムさんは不躾な視線でエルリネがいるところを見ている。

 実際に不躾か知らないが、少なくとも俺は不躾にしか見えない。

「彼女は大事な家族なんで。家族相手に"さん"付けとか他人行儀(たにんぎょうぎ)でしょう?」

「それも、そうか」

 今度は残念そうだ。


「さて、入学試験みたいなものをさせてもらってもいいかな」

「入学試験?」

「そうだ。編入試験とも言っていい。

なに、勉学試験なんてはしない。ただの面接だ」

 面接とな。

 面接試験には嫌な思い出しか無い。

 主に『お祈りメール』的な意味で。


 寧ろ勉学、足切り試験の方が気安いのだが……、まぁそれはいいとして。


「どんなことをするんです……?」

「そうだねぇ、実際に学ぼうとしている者は誰だい?」

 フォートラズムさんの発言に、恐る恐る手を挙げるセシルと元気よく手を挙げるエレイシア。

 対してクオセリスとエルリネは手を挙げない。


「ほう、二人は学ぶ気はないと。一応、理由は聞いていいかな?」

「この身は学ぶには少々遅いので、ご主人様と共にであれば学びますが、そうでないのであれば」

「私もそうですね、旦那様と共に歩むだけでここに来ております」

 これは愛されているというべきなのか。

 悪い気はしない。


「そうかそうか。

では、学びに来ているという君たちの理由は」


「故郷で待っている人と僕の魔法の手加減を学ぶために」

「私はお兄ちゃんと同じで、手加減を学ぶために~」

「私は自衛以上の魔法が使えないので、それを学びにきました」


 セシルの方は以前より聞いていたが、エレイシアの方は初耳だった。

 俺と同じ理由とは。

 でもまぁ、殺戮魔法の手加減を覚えても生殺しが続くだけなんだよね。

 まさかとは思うけども、これが目的だろうか。


「ふむふむ、各自の得意な魔法を教えてくれないか」

「生活魔法の火ですね」

「生活魔法の水です」

「生活魔法の風」

 エルリネ、セシル、クオセリスの順番で申告だ。

 狙っていない筈なのに、こうも綺麗に並ぶとは。

 というか、セシルの潜在属性『地』の筈なのに水が得意なんだな。


「ふむ、ウェリエくんとそこのええと、キミは」

「私は、エレイシア。得意魔法は殺戮魔法かな」

「ん、僕は魔王系魔法ですね」

「…………へ?」

 素っ頓狂な声を出すフォートラズムさん。

 ああ、まぁうん。

 魔王系魔法とか殺戮魔法とか、どう考えてもユニーク魔法だよな。

 注釈入れないとな。


「ああーそのええとですね。魔王系魔法というのは、規模が大きい大破壊系魔法のことです。

全力出せば一個の街を墜とせます」

 厳密に言えば全力じゃなくて適当に「天空から墜つ焼灼の槍」を百本ぐらい作って、「擬似太陽」を落としながら何らかの広範囲破壊系魔法陣を撃ち込めば、街どころか国までイケる。

 別に火属性に縛らなくても、大洪水でも地割れでも、天変地異でも引き起こすことも出来る。

 だが、そんな全力出さなくて適当でもイケるよ? なんて言ってみたら恐ろしいことになりかねないので取り敢えず黙っておく。


「ほ、ほう……?」

 いかん、規模がでか過ぎたようだ。

「あーうん、対軍用ですよ。群がる軍隊をなぎ払います」

「ああ、なるほど」

 もちろん一撃で、だが。

「確かになぎ払えるほどの魔法を持っているならば、手加減を覚えることなく育つように仕向けられるな。

……うむ」

 別にそういうもんでもないんだが、まぁいいか。


「で、殺戮魔法については……うーん、対軍用……かなぁ?」

断罪の刃(ギロチン)」辺りは、一回の発動で多人数の首が落ちたところから、範囲系一括起動の魔法だ。

 だが、これを対軍用と言い切っていいものかは分からない。

 術者のエレイシアに聞くのもありだが、うっかり口を開かせたら余計なことにもなりかねないので、取り敢えず言い切っておく。

「対軍ではないけども、少数相手なら無類の強さを誇るものですね」

 嘘ではない。

 範囲で首が落ちたり、万力で締められたり、鉄杭の剣山の華が咲くだけだ。

「ふむふむ、なるほどなるほど」


 善良な人を騙している感が非常に強いが、下手に事実をばらすと以下略なことになりかねないので、黙っておく。

「対軍用魔法使いが二人に、生活魔法が三人か。ふむふむ」

 呟く声は力強い、最早面接というより確認に近いかもしれない。

「両名の『魔王系魔法』と『殺戮魔法』をあとで見せるように」

 ああ、やっぱり。

「死にますよ、冗談抜きで」

「知的好奇心が疼くのは止められない。実際にウェリエくんが『魔王』と名乗るその力を是非見せて欲しい」


 冗談抜きで普通に死ぬんじゃなかろうか。

 そんな俺の心配を他所に、エレイシアは「うん、いいよー」とはにかみながら応える。

 右隣りに立つ彼女の笑顔が心なしか、邪悪に見えるのはきっと気のせい。


「さて、君たちは『基本学校』を卒業したらどうする?」

「ご主人様に合わせます」

「同じく旦那様に」

「わたくしもです」

「私もお兄ちゃんに」

「えっ?」


「愛されているな、ウェリエくん」

 心なしか、フォートラズムさんの声音が嬉しそうだ。

 というかですね、エルリネさんとクオセリスさんは学ぶ気無かったのでは、と突っ込みたいが突っ込まないでおく。

「して、ウェリエくんは」

「……魔法の、方かな……?」

「ふむふむ。

では次にだが。学園も卒業したらどうする……?」

「ああ、それは故郷で待っている人を迎えに行って、迎えたらツペェアに住む予定です」

「それは、そこの女性たちも――」

「ええ、存じております」

「うん、知ってる」


「…………、そうですか」

 そういったきり、値踏みをするように俺たちを見つめる。

 時間にしてほんの約二分。

 値踏みする視線から一転して、柔らかい笑みに変わり。

「ようこそ、我が学園へ。魔王ウェリエとそのご家族」


「…………」

「おや、喜ばないのかい?」

「いえ、嬉しいのは嬉しいのですが、

…………一人で決めていいのですか?」


「うん、いいよ?」

「一応、こういうのって教師陣が決めるものじゃ」

「あ、そういうことを気にしてるの?

そこら辺は大丈夫だよ。ツペェアの王族にザクリケルニアの有力貴族の娘ってだけでも名称価値で素通りさ。

更に更に、ツペェアが誇る最終兵器の宮廷魔術師で『滅火』と『魔導』、『要塞』が認める『魔王』が来ると聞いて皆てんてこまいさ。

皆、いつ来るいつ来るで凄かったよ」


 へ、へぇ……。

「というわけで、皆素通りで僕だけが入学を決めてなかったって感じかな」

「……はぁ」

「というわけで、エレイシアくんとウェリエくん以外は皆合格」

「……うん?」

「キミたち二人は、僕にその特異点魔法を使って欲しいな」


 ユニーク魔法のことを特異点魔法って言うんだな。

 それはともかく。

「諦めていなかったのですね」

「どこで諦めるといった?」

 心底ワクワクしたような声音で言わないで欲しい。

「…………本当に、本当に死にますよ。結構本気で」

「大丈夫だって、死なない死なない」

「本ッ当に死んでも文句言わないで下さいよ」


「あははは、心配症だなぁ、ウェリエくんは。大丈夫だって、こう見えても僕は戦争を生き抜いている。

それも前線の魔法使いだよ。魔法の範囲なんて慣れてる慣れてる」

 そういうレベルの話題じゃないんだが。

「…………はぁ、分かりました。分かりましたよ、じゃあお見せしますよ、はい」

「おお、本当か!

いやぁ楽しみだなぁ!」


「先に言っておきますけど」

「うんうん」

「死んでも文句言わないで下さいよ」

「あははは、死んだりしたら言葉を話せないじゃないか」

 "死人に口なし"ってか。

 笑えんわ。


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