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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第3章-編入試験-
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学園都市、ビルーボースト

 港から見て前に約五十キロメートル、横手へは約二百キロメートルの大きくも、大陸に比べればまだまだ小さな島。

 全体を詳しく分ければ、学園の敷地が都市(まち)と合わさり全体の四割を占めており、残りの五割は山林と草原の合計が約二割、残り三割は島なだけに海に面している地域で、潮風が香る。

 但し、その海に面している地の殆どは切り立った崖であり、直接海に触れることはほぼ出来ない。


 山林には色々な魔獣が潜んでおり、中には危険なモノがいるが基本的に駆除はせず、そのまま放っとく。

 街については、ビルーボーストと呼ばれる。

 名前の由来については偉人の名前だとかなんとかだが、詳しくは不明。


 肝心要の校舎については三つほどあり、一つは幼い内に学ぶ基本学校、もう二つは基本学校を卒業した後、座学と魔術を学ぶ魔術学校と、実戦実践をひたすら行う体術学校というもので構成されており、一定の時期になるとこの二校でいろんな分野で競い合わせるという。


 で、何故こんなに詳しいかというと港内の入国審査官(男)が、地図を見せてくれながら熱弁しているからだ。


 セシルやクオセリスたちは熱心に食い入るように聞いているので、特に水を差さずに聞いている。


 ……しっかし『魔術学校』と『体術学校』か。


 基本学校を卒業した後は、俺はどこへ入学するのだろうか。

『魔術学校』だと、魔王系魔法の手加減方法への道が開かれるだろう。

 が、当然手加減方法が確立出来なければ、非常に目立つ。

 いや、最初から既に目立つだろう。


 だから『魔術学校』しかないが、『体術学校』も中々面白そうでもある。

 というのも、生前に比べて身体を動かすのが、本当に苦じゃない。

 出来ることならば、過去に姉さんに見せた短剣二刀流を極めて、姉さんの度肝を抜きたい。

 そうでなくても、いっそ魔王系魔法を後衛でドゴンするために留めておいて、近接は体術で戦うのも良さそうだ。


 エルリネと比べて、絶望的に体術の重心の動かし方とかよく分からんぐらいに遅いけども、きっとエレイシアよりマシだしこちとら『最終騎士』がある。

 きっとこの家族の中では、マシに動けるはずだ。


 熱心に語るお兄さんの話はまだまだ終わらないようだ。

 中々に興味深いことは確かに言っているのは分かるが、教えてくれるのなら、街の由来とかそういった歴史モノではなくて、どこに何があるかとか、オススメの飯屋とか、文具はどこで購入するとかを教えて欲しい。

 そうじゃなくても、せめて学校の校則とかの方が非常に嬉しい。


 それともアレか。

 既に授業は始まっているとか、そういう流れだろうか。

 だが、ビルーボーストという街の名前の由来が、偉人で詳しくは不明の時点で歴史ではないし、島の全体の何割が山林で云々などは、地図を読めば分かる。


 右耳から左耳へ聞き流し、暇を持て余しても一向に話が終わらないし、そもそもとしてこのお兄さんの話の裏でお姉さんが黙々と書類仕事をしている。

 俺たち家族が書類を提出した後に黙々と業務をこなしているようなので、多分入学審査などを通しているのだとは思うけども。

 エクスタシーを恐らく感じているであろうお兄さんと、その人の話を熱心に聞いている我が家族たちを尻目に、しばらく胸ポケットに入れておいたトカゲくんと共に暇を潰した。


 小動物には小動物なりの愛しさがあっていいね。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 結局、話が終わったのはちょうどお姉さんが書類仕事を終えたときだった。

 というのも、お姉さんが「宮廷魔術師、ウェリエ様とそのご家族、フロリア家の方々の書類審査が通りました。向こうの部屋で血液と人相書を描かせて頂いてから、晴れて外へ出れます」と言って、お兄さんの熱弁を遮った。

 当然、遮られれば話を止めざるを得ない。

 恨めしそうな顔をしてお姉さんを見るお兄さん。

 お兄さんの言いたいことは分からなくもないが、お姉さんグッドジョブだ。


 水なしで半刻(いちじかん)も話しっぱなしとか、どんだけ話すことが好きな人なのだろうか。

 皆で別室へ移動し、一人十分ぐらいを使って人相書を描かれながら、血を抜かれる。

 というのも血の数滴が簡単な個人情報詰まったものらしい。

 微妙にここら辺は科学を感じる。


 血を数滴でいいということで指先を針でちょんと刺すだけでいいとのことだが、そんな自ら進んで血を出すなんて今まで生前も含めてやったことはない。

 つまり、そのちょんと刺す加減が分からず……ええ、ブスリとやりました。

 おっかなびっくりでちょっとだけ、刺しても血が出なかったので、もっと強く……ってときにトカゲくんがくしゃみをした。

 結果がドバー。


 指先なのに、こんなに出るの?! と疑うぐらいにドバー。

 指先の血を拭うように提出し、久し振りに属性回復魔法を使おうとしたところで指をパクっと咥えられた。

 我が家のわんこのエルリネに。

 言いたいことはたくさんあるが、まあいいか。


 さて無事に皆の人相書も描かれ審査所から抜けて、今ここは港で目の前に街の入口門がある。

 そのまま入口門で、また審査を受ける。

 ツペェアの博物館の入り口のような化け物を見たような顔は特にされず、ほぼ顔パスで通り街に入れば、そこはツペェアに負けず劣らずの活気があった。


 この雑踏にごった返す一本道の先には白亜の建物があり、その一本の道の両端にはツペェアのように店が立ち並び、魚や野菜、肉も所狭しと並んでいる。

 門から出て直ぐ左には、案内所(インフォメーション)まであり、初めて訪れた人にも優しいようだ。


 早速、案内所のお兄さんに「学園に行きたいのだけど、どこをどうすればいいんでしょう」と聞いてみたところ、やはりこの先の白亜の建物が学校らしい。

 お兄さんにお礼を言い、セシルたちに学校に先に向かうことを伝える。


「観光はあとでも出来るから、さっさと学園に行って身分だけ貰おうか」

「そうですね、確かにそちらを早くした方がいいでしょう」

「もう、お昼だからね~。夕方には学園閉まっちゃうかもしれないから、だよね。お兄ちゃん」

「うん、エレイシアが言った通りだ。閉まる可能性があるし、もしかしたら学生身分でないと宿屋に泊まれないかもしれない。だから行こう」


 軽く、家族たちと打ち合わせをしてエレイシアとセシルの手をとり握る。

 二人共ぽかんと呆けるように見てくるが、当然意味はある。

「この雑踏だからはぐれる可能性もある、だからお互いの手を握れば、誰かの手が外れてもすぐ分かるでしょ」

「なるほど」

「この地は比較的安全だとは思うけども、良からぬことを企むのもいると思う。

多分学生の自衛と危険感知能力の向上のために、わざと放置されていて、うっかり本当に危ないのまで放置されている可能性もある。

セシルとクオセリスなんかはいいところの人だし、他の二人も合わせて美人だしね。攫われたらとんでもないことになる。

もちろん、助けに行くけども間に合わないということも、起きうる。

だから、ほらお互い握ろう」


 正直な話、俺はともかくエレイシアとエルリネに関しては殆ど心配していない。

 エルリネは成人しているし、『闇夜の影渡』がある。

 エレイシアなんて『ガルガンチュア』がいる。

 良からぬ者に首輪を嵌めて「市中引き回しの刑」なんてものを洒落込む可能性もある。

 エレイシア本人がON/OFFが出来るとは言ったものの、緊急時には俺の『前衛要塞』のように強制ONだろうしな。

 もちろん、そういったことを正直に話したりしてしまった場合、驕る可能性が出てくるので、そんなことは言わない。


「みんな、握った?」

「うん、握ったー」

 エレイシアは相変わらず元気な声を出す。

 本当に出会ったころと大違いだ。

「仲間はずれはいないねー?」

「セシルとセリスの手を握っているし、大丈夫」とはエルリネの弁。

「では、出発!」




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