F17 A III
※警告※
R-15 兼 胸糞がそこそこ。
嫌いな方はお戻りください。
また第三章後の内容が散見しています。
こういったものも嫌いな方はお戻りください。
『勇者』を生かしていたら、いつ魔族の街が襲われるか分かったものではない。
『勇者』を殺すことをしているのは、私の種族と兄上の事柄があっての怨恨の復讐ではない。
……魔族の街が襲われないための『剪定』だ。
世界に四、五人程度の『勇者』がいて、そいつらを殺すだけならば私たち八人がぶちのめせばいいけども、現状何人もの『勇者』を殺してきた。
つまり泉が湧くように、こんこんと湧き出る『勇者』をどうにかする。
街の守護者である、私たちがひたすら『勇者』を潰す。
"ローテーション"とかいうのを組んで、旅して殺していく。
ついでに牙を抜かれた魔族と襲ってくる奴と、腐肉漁りの沸く魔族狩りと、非戦闘員を分け隔てなく殺す。
非戦闘員を下手に残したりしたら、腐肉漁りの魔族狩りに"クラスチェンジ"しそうだからだ。
とにかく有限実行とばかりに、『勇者』ヒロキとかいうのとガタイのいい奴に向けて、「獄炎」いや、それ系統の上級魔法をぶつける。
「穿ち、焼き払え。「文明根源の厄災災禍」。其は災禍の炎なり」
その魔法は密閉空間であればあるほどに威力が上がる。
よって、同時に起動するのは簡易式として兄上からお借りした『世界』。
『世界』が閉ざされた瞬間に、私の握り拳ほどの燃え盛る火の玉が、円を描くように周回する。
周回をし続けている間に描かれるのは「炎」のイメージ。
兄上はこの魔法を「文明根源の厄災災禍」と名付けていたが、「"ヘルファイア"が二つあると皆が混乱するだろう」ということで、名称をわざわざ変更してくれた。
それも私が初めて使う段階になってからだ。
つまり、私専用の魔法。
――だから、"ヘルファイア"と"インフェルニティエンド"は私のお気に入りの魔法。
みるみるうちに火の玉が描き終わった魔法陣から、赤白い光が滲み出る。
その赤白い光に、今更動き出す『勇者』ども。
「あははは、遅い! 遅いよ『勇者』!」
私の声と共に発生するのは、描かれた魔法陣から発生するのは広範囲の爆圧と、全てを燃やし尽くすほどの高熱と。
地面から『世界』の天井へ向けて直上に立ち昇る火柱、いや光。
その姿はさながら雷雲の中を踊り狂う竜のよう。
元となった"ヘルファイア"のように生命の呼吸は許されない。
穴という穴から熱は入り込み、炭ではなく一瞬にして灰にする。
それだけではない。
この魔法は兄上がいう"エフェクト"が激しい魔法だという。
つまりは、ある程度離れていても、遠目から見えるということ。
よって、起きることは非戦闘員にのしかかるのは、死と隣り合わせであるという言葉を発しない無言の脅迫。
それによって起きるのは恐慌。
慌てて逃げようとする有象無象。
魔族狩りどもも逃げ出そうとしている魔力反応。
だが。
「あはははは、無駄無駄。何のために『世界』を張っていると思ってるの」
そう『世界』を既に張っている。
簡易式とはいえ、私と獣魔組の"魔術師"の魔法でどうにか天井を破壊できるものだ。
天井ではなく、しっかり張られた根元の破壊など今のところ誰にも出来ていない。
しかし、諦めきれないのか至るところで『世界』が殴られている感触がある。
全くの無駄なのに、だ。
薄っすら怒号と悲鳴が聞こえる。
血肉族の赤ん坊の声が聞こえるが……、肉が潰れた音が聞こえた。
大方踏まれたのだろう。
肉が潰れたということであれば、死んだようだ。
可哀想に。
「へっ、何が無駄だ、女ァ」
私としたことが、殺しきれなかったらしい。
いやはや、今回の『勇者』は大当たりか。
振り向けば、ヒロキとかいう板金鎧とガタイがいいのが、立っていた。
ところどころが焦げているが、普通に動けそうだ。
「あはははは、意外と死んでないのね。本気では無かったけども」
事実、本気ではない。
本気だったら兄上の「天空から墜つ焼灼の槍」か「偽りなき、無垢なる太陽」辺りを撃つ。
「こんな程度の魔法、俺たちからすりゃ焚き火だぜ」
焚き火か。
芋を焼こうとしても、灰にする焚き火とか価値はあるのだろうか。
「あはははは、強がっちゃって。
ところどころが焦げてたり炭になっているようだけど?」
「こんなものは傷にもなんねぇな」
強がりを言っているようにしか聞こえない。
「あはははは」
「てめえ、何がおかしい」
「だって、あはははは」
「…………、」
「だって、無理しているんでしょ。あはははは」
「…………、」
「まぁいいや、あははは。
さっさとやろゲホッ。あ、ごめん。まだ笑い過ぎてお腹が」
目尻から涙が出てきてしまう。
身体のところどころから、煙が出ているのに"傷にもならない"とか。
回復魔法使っているのかな?
『勇者』は割りと回復魔法使えていたりするけども、これもそういう類かな?
「どこまで続くかなァ、その余裕」
「てめえは絶対に許さない」
「ああ、俺もだ。お前は絶対に許さない」
ちょっとだけ興味が沸いた。
「許さないとどうなるの?」
「てめえのことは犯して、ほかの男どもにも輪姦させてから、封印処理して殺してやる」
「俺もだ。普段絶対に魔族には手を出さないが、今お前には手を出して殺す」
「あはははは、えーとなんだっけ。
ああそういうのって"取らぬ狸の皮算用"っていうんだっけ。
出来るだけの実力を備えてから嘯くようにね。
ま、次の人生で人族に生まれるといいね。
ほら、魂ごと灰にしてあげるからさぁ」
「へっ、てめえの顔が恥辱に歪み、そのでかい胸を好き勝手に出来ることを考えるぐらいに、俺の未来は確実だ」
「あははは、悪いけどこの胸は兄上だけのものだから。
あと恥辱に歪む顔も兄上にだけしか見せてないから、ね。
まぁそのなんだ。"人の夢は儚い"って書くんだっけ。よく分からないけど」
ところで良いのだろうか。
――私の能力と魔法は戦闘態勢に入ってから順々に、強化されていくものなのだけど。
最初からフルパワーの"魔術師"には私は勝てないし、"闇月"と"銀月"姉妹のあの切断にも勝てない。
それぐらい、私は後半になっていくに連れて強くなるのだけども、本当にいいのだろうか。
こんなに話していて。
私としては後半になるにつれて、死んだり犯される危険性が零になるからいいのだけど。
「ハッ、吐いた唾飲むなよ……?」
「あはははは、『勇者』たちが悲鳴と断末魔と世を恨む言葉が聞けると思うと、楽しみで仕方がないよ。
ぐっちゃぐちゃにしてあげる。
貴方達、血肉族が魔族の女に対してやった"ぐっちゃぐちゃ"という擬音語。
分かるでしょ、私は違った意味を持たせてぐっちゃぐちゃにしてあげるけど」
「言っていることが最低だな、このおっぱい魔族は」
「あはははは、ありがとう。褒めてくれて。この胸を兄上に見せて触って貰おうにも、なかなか触ってくれないからねぇ。
いつでも、どんなときでも触るどころか、揉んでもいいって言ってるのだけど」
「へぇ、羨ましいな。まぁ俺達があとで揉んでやるからなァ」
「実力が伴ってから、嘯くように。
……さて、楽しもうよ。殺し合いを、刺し合いを」
「…………、」
「私が負ければ貴方たち、血肉族は私の身体を愉しみ、民草は死なない」
だけど。
「貴方たち、血肉族の戦闘員が全滅すればこの地を灰にする。
これ以上にないってぐらいの"シチュエーション"でしょ。さ、殺ろう殺ろう」
「…………、」
「それと考えたりして、騎士団の到着を待っているのかどうかしていると思うけど。
それ、悪手だから」
「…………なに?」
「兄上が言ってたことを口に出すね。
"閉じられた空間内で、常に燃焼し続ける火炎相手に、時間を掛けたらどうなる?" だってさ。
どういう原理かは知らないけど、『勇者』ならその答えは知っているとかなんとか。
……知ってる?」
「流石、魔族最低だな。非戦闘員まで殺すとは」
「あはははは、非戦闘員の魔族を捕らえて殺しお金にし、または捕らえて犯して子どもを生ませて男児であれば魔石。
女児であれば育ててまた孕ませる、最低の血肉族が何をほざく」
「…………なんだと」
「ああ、なぜ知っているかというとね。一つ農場を壊したからさ。
いっぱいいたよ魔族の女の子。哭きながら……ね。
逃げられないように手足を折って、さ。
涙混じりのあの顔。
まとめて殺すときのあの顔。
……好きなんでしょ、そういう"シチュエーション"。
反吐が出るね、これだから血肉族は」
「……まて、それは聞い――」
「あははははははははははははははははははは!
さあ!
殺ろう!
さあ!
殺し合おう!
血肉族がこれ以上の滅びがないようにこの私を殺す!
そして、私自身が滅ぼされないように!
私が死んだことで兄上が、これ以上壊れないように!
滅び! 滅べ! 世界の血肉族!
我が種族の牙を! 爪を! 皮を! 肉を!
食した『勇者』に滅びを!」
さぁ。
「死ね」
私の言葉を皮切りに、発生するのは自身の身長と同等の高さを持つ"タワーシールド"と呼ばれる分厚い長方形の金属製の光沢を持つ盾。
それが縦横に幾重にも連なる。
「あはははははは。これを貫いて私を殺してみせろ『勇者』!」
煽っておきながら、動作させるのは防御の構えではなく、攻撃。
「振り下ろし、潰せ」
その号令に従い、"タワーシールド"と呼ばれる盾が五枚だけ『勇者』に向かって振り下ろされる。
潰されたその音は骨が砕ける音ではなく、肉が潰れる音。
しかし潰されたのは『勇者』ではなく、魔族狩りの男。
どうやら、逃げずに襲いかかってきたようだ。
だが。
「あはははははは、羽虫ごときが貫けるか!」
だから。
「肉を削ぎ、肉を砕け」
盾が"タワーシールド"の形状から、縁が刃になるように自動で変化する。
形はいわゆる"カイトシールド"か。
私自身の腕の動きに沿って、盾たちが蠢動する。
羽虫程度の動きであれば、鎧ごと身体を削ぐ。
ガツンという金属同士がぶつかった音に、鎧を引き千切る音。
その結果は羽がもがれた羽虫のように、鎧が強引に身体の肉ごともがれ、半死半生の羽虫ども。
胸の肋骨が見えているところから、最早死に体。
『歌姫』のような趣味は持ち合わせていないので、力尽きからの死はさせない。
問答無用で"カイトシールド"の一部を"タワーシールド"化させて、押し潰す。
肋骨がへし折れる音。
自分に呼吸の乱れなどはない。
最早慣れた。
作業でしかない。
事実、血肉沸き踊る戦闘など街に襲いかかってきた戦争以来だ。
だが、今回は「文明根源の厄災災禍」を耐えた『勇者』が二人いる。
だから楽しい。
「あはははははは、楽しいなぁ!
とっても楽しいよ! 『勇者』まだまだだよね!」
「羽虫、羽虫と舐めるんじゃねぇえええええ」
と叫び、特攻してきた羽虫が来たが、なんてことはない。
『焼灼焔の言霊』の自動迎撃の「瞬炎」を射出。
一瞬にして即焼死。
本体である私を直接狙うのは、よい判断だ。
だが、既に『前衛要塞』は起動している。
よって盾を避けてその隙間を狙って私を即死させる一撃を当てる。
または、盾を物ともしない一撃を当てるか。
二つに一つ。
『前衛要塞』の外盾と内盾は発生させるのに、時間を少々要する。
つまり、私に勝つには速攻を掛ける必要がある。
だが『勇者』どもは何故か時間を掛けた。
それにより『前衛要塞』は完成し、『最終騎士』も起動しきっている。
もしかしたら。
……ヒロキとかいう"『正義』と『悪』論"であれば、『悪』はまだ『正義』を待つ側なのだろうか。
馬鹿としか言いようがないが、事実そうとしか見えないので仕方がない。
とにかく、完成した『前衛要塞』の合間を縫って叩くのか。
外盾で、私自身の周囲を円状に周回させているため、全方位から攻められても対処出来るようにしている。
であれば、刀剣で隙間を突くのは非常に難しい。
では、魔法かと言えば全く以ってその通りだ。
が。
その魔法にも『前衛要塞』が対応し始める。
というのも内盾の存在だ。
内盾の効果として魔法反射・増幅と呼ばれる効果を持つ盾がある。
その名の通り、魔法をあてたとしても反射される。
それも、何倍かに増幅された状態で。
時間をかけると私の弱点が、潰されていく。
だから、私相手に時間を掛けるのは愚策。
分かっていても潰せないという、『歌姫』と『薬術士』は言っていたけども。
魔法耐性も得た。
最早敵はない。
しかし。