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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第?章-炎竜と踊る「Dead End」-
163/503

F17 A II

※警告※


R-15 兼 胸糞がそこそこ。

嫌いな方はお戻りください。

また第三章後の内容が散見しています。

こういったものも嫌いな方はお戻りください。


 我が故郷(くに)の焼き肉。

 家族水入らずで食べる焼き肉のことを思い浮かべるだけで、この『剪定』も自然と力がはいる。

 涎がポタポタと垂れてしまう。

 この先に起きる美味しそうなことを想像するだけで、足取りが軽くなる。


 ……おっと、涎が。

 爆発によって周囲の机などが吹っ飛んだとはいえ床が残っていたが、その床に涎が落ちたとき、床が燃え盛った。

 涎といった体液が燃え盛る液体"燃素"だから垂らしたり漏らしたりするのは止めなさいと、"森人"からは注意を受けてたっけ。

 ……また、やっちゃったな。


 足取り軽く建物の外へ出てみれば、狙った『勇者』とおまけの魔物狩りどもが、待ち構えていた。

 ご丁寧に刃物を抜いているものや、魔法の詠唱をしているものもいる。

 ただの魔族狩り共については、計算に入っていない。

 いくら狙って殺そうがわらわらと増えていく。

 一人殺せば二人に増える。

 二人殺せば四人に増え、四人殺せば十人。

 十人殺せば百人に膨れ上がる。

 最早、狙って殺しても無駄。

 増えるならば何かのついでに殺す。


 例えば『勇者』の剪定に殺すなり、血肉族が支配する地を壊したりするときのついでに叩き潰す。

 腐肉漁りのように。

 血肉族は魔族を人間と思わずに、歩く燃料として殲滅していると聞いている。

 ならば、我ら魔族も非戦闘員である民草を殺してもよい。

 兄上の言葉を借りるならば"目には目を歯には歯を"だ。


 我が故郷が軌道に乗り、余裕が出てからは"慈善事業"とばかりに奴隷魔族を中心に巻き込まないように小細工をしたが、大概が私たちへの恨み骨髄で拒否、または歯向かったりした。

 拒否はともかく、歯向かわれてまで助ける義理もないということで、最近は魔族ごと街を潰している。

 死ぬ奴は血肉族ごと勝手に死ね。

 生きたい奴はどうにかして生き残れ、という理念でやっている。

 私たちは国を破壊するだけの力は持っているが、憎まれてでも助けるようなお人好しとして振る舞う力は持ちあわせていない。



――だから全員まとめて消し飛べ。


 と、ばかりに雁首揃えて刃物を抜いた血肉族をまとめて消し飛ばす。

 振るう魔法は。

「消えて、喪え。「獄炎(ヘルファイア)」」

 目の前の宿屋と酒場を範囲に入れて、着火。

 一瞬の発光の後に続くのは爆炎と爆発音。


 狙った場所以外は延焼を起こさないという魔法で、この世界の常識となる魔法とはまた違う。

 というのも私が識っていた魔法では、範囲はどうにか決めれたとしても延焼させない。

 火力の方向性を完全に決めるというのは出来なかった。

 だが、兄上より下賜された魔法陣(ちから)と、私の能力で最大限に魔法を使うことが出来て、今や私の種族では最後の一匹として名に恥じない魔法使いとして生きている。

 話が逸れたが、とにかく延焼させず威力が均一に発生する「獄炎」で多数の"腐肉漁り"の巣となっていた、宿屋と酒場を燃焼させた。

 ドン臭い奴はこれで焼き肉になった筈だ。


 特に酒場の焼き肉は、程よく"アルコール"と一緒に焼かれているだろう。

 一口食べたいところだが、炭になっているのを食べても美味しくない。

 食べるなら目の前の肉共を生焼で且つ骨を程よく砕けば、ちょうどいいだろう。

 

 ……雑魚共に『最終騎士』は勿体無い。

 と、ちょこっと考えたらあとは剣などを持って、接近戦を持ち込んでくる者にはもれなく「瞬炎(インシネレート)」を纏った両の手の平で相手の肩やら何やらに触れる。

 そこから起きるのは内部からの焼殺。

 相手の穴という穴から黒く炭になったかのような煙が流れ出る。

 中には触った相手の目の水分が、急速に枯れた所為でパンと弾けたり、弾けること無く目から黒い煙が噴出()たりと、わらわらと殴りかかってくる腐肉漁り共を焼殺していく。

 もちろん、奴らには魔法使いがいるようで、うにゃうにゃと魔法を詠唱してぶつけてくるも、四属性の槍とかそんなものである。

 まともに当たってもそこまで痛くはない。


 寧ろ、決定打を与えられないのに、いたずらに魔力素を満ちさせるのは狙ってやっているのだろうか。

 数えるのも馬鹿らしくなる程度の数を殺したところで、漸く『勇者』と呼ばれる雑魚が現れた。


 身長は兄上程度、年齢も兄上程度か。

 見た目は緑色の髪に無精髭を生やした顔。

 ここら辺は兄上と違う。

 ガタイもそれなりによく、筋肉質。

 私にはそういった趣味はないが、『歌姫』と『銀月』なら拷問したがりそうな体格だ。


「……まぁ、あの娘たちは人族がそもそも嫌いだから……ねぇ」

 じゃなきゃあんな凄惨なことをしない。

 なにせ『歌姫』はあの黒魚で引きずり回してからの苦痛を最大限に与えて云々。

『銀月』ならあの鋼糸(ワイヤー)とかいうのでなます切りにして楽しんだあとに、鋼糸(いと)を通して操り人形にして街を襲わせて人の手で殺させるっていう、周りくどいことをやってたりしてたけども。

『歌姫』の考え方とかは、兄上なしの家族内会議『なぜみんなは兄上、お兄ちゃん、ご主人様、旦那様、父上、マスター以外の人族が嫌いか。第三回』で明かしてくれたっけ。


『歌姫』はまぁ分からないでもないけど、『銀月』と『闇月』との違いに差が出過ぎているのは、なんだろうか。

『闇月』は「お父さん以外の人族は無関心。お父さんに害意悪意殺意がないならどうでもいい」と言ってた。

 対して『銀月』は『歌姫』並、いや兄上にも嫌っている感バリバリさせてた。

 それでも兄上から魔法陣を下賜されているし、"種族特性"とかいうのに"進化"させているらしいから、心底兄上のことを嫌っているという訳ではなさそうなのだけど、姉妹なのに本当に差がある。


「おい、あんた」

 最早作業として魔族狩り、いや『勇者』殺しの前菜を食べ(もやし)ていたところで、声を掛けられる。

 どうやら『勇者』のようだ。

 だが、先ほどふっ飛ばした奴とは違う。

 ところどころ、服が燃えているところから"巣"にいた奴だろうか。

 

 今度のこちらは、痩せている男だ。

 身長は高くもなく低くもなく。

 顔つきは彫りが浅い童顔。

 赤毛で板金鎧(プレートメイル)に傷が付いている年代物らしい。

 男と女の獣欲の臭いがするので、どうやら致しているところを「獄炎」でふっ飛ばしたようだ。

 正直に言えば「ざまあみろ」ってところか。

 そう考えると、本当に先ほどの「獄炎」はベスト魔法だったようだ。

 魔法が苦手な私でも、褒められる"レベル"。

 帰ったら褒めて貰おう。


「おい……てめえだよ、女ァ」

「なんですか、忙しいんです」

 そう、忙しいんです。主に兄上に褒めて貰う妄想に。

「てめえ、なんてことをしやがるんだ」

「その質問に回答する阿呆はいると思います?」


「なんだとぉ……?」

「あははは、自分らの胸に掌を当てて、思い出してみなさい。自身らが殺される理由を」

「てめえ、……まさか、その身なりでありながら、魔族……か」

「あら、気付かなかったのですか?」

 というか同じ人族に向けて、刃物抜いていたのですか。

 つくづく、人族というものは恐ろしい。

 ……あ、でも私たちも襲われたら魔族でも殺してましたね。

 ……おあいこでした。


「ええ、まぁ身なりはこの街に入り込むなら、必要かなと思いまして。

人化させて頂いております。種明かしはもういいでしょう。早く殺し合いしませんか」

 この地は魔力素が満ちている。

 早く戦いたい。早く殺したい。早く食い殺したいと私の身体が疼く。

『勇者』を頭から齧ったらどうなるだろう。

 いや、頭からではない。頭からだと、許し乞いの言葉が聞こえない。


 私の種族を殺してきた『勇者』という種族。

 私の種族を殺した『勇者』は数多くおり、どの『勇者』も血の繋がりがなく、ただの騎士が私の種族を討伐して後の世に『勇者』と称されるだけ。

 それでも『勇者』を一人残らず殺していけば、たった一匹、最後の一匹となった私が。

 見たこともない私の生みの父母、ご先祖さま、親戚、似た種族のみなが殺されたように。

 きっと『勇者』を殺し、絶命時の許し乞いが"弔いの言葉"となり、魔力爆発が"弔いの鐘"になるだろう。


 これは私なりのこの世界に対する恨み。

 兄上がいなければ、一生あの森で小動物として生き、あの"ライオン"とかいう肉食動物に私の身が食われていた。

 父母を返せとは言わない。

 でも、私をここまで自我があるようにと育ててくれた兄上を壊した人族と獣人族の血肉族。

 そして私の種族を殺した『勇者』は血肉族。

 これほどまでに恨みと目的が合致したものはない。


 早く殺したい。

 腕をもぎたい。足ももぎたい。傷口を焼いてただでは死なないようにして、悲鳴、断末魔、許し乞いを兄上と種族に捧げる歌として、早く殺したい殺し尽くしたい。

 私が『勇者』殺されるときは、どんなときだろう。

 酒に酔っているときか、それとも殺されることなく魔力が尽きての大往生か。

 ……あはははは、身体が抑えつけられない。身体が疼く。

 ……とても痛痒い、早く早く早くッ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「殺し合い……?へぇ、てめえ戦闘狂か」

「戦闘狂でもなんでもいいよ、早く殺し合おうよ」

 涎が落ちそうだ。

 ああ、でも駄目だ。

 "森人"から禁止されている。

 でも私の溢れ出る魔力が、魔力循環出来ない過剰分が、涎となって出てくる。

『勇者』がいなければ、このように身体が疼くことがないのに。

『勇者』というものは害悪でしか、ない。


「おい、待てよ。ヒロキ、女魔族と殺る前に一つ言わせろ」

「ンだよ、こっちは彼女と――」

「うるせえ、こっちはダチ数人がこいつに殺されてんだよッ!」

「こっちは俺のパーティーメンバーの嫁たちが重傷だぞ!てめえのダチなんかとは価値がちげぇ!」

「あんだとっ!」


 よく分からないけど、二人で喧嘩し始めて外野になってしまった。

 うむ、よく分からないけどもあっちの痩せているのはヒロキとかいう名前か。

 溢れ出る行き場のない魔力が、口から出そうだ。

 だからまぁ、うん。


「"先手必勝"、一先ず死ね」

 狙いはヒロキという板金鎧に向けて、燃え盛る火炎の槍を作成して飛ばす。

 別に魔力で作っているが魔法ではない。

「チッ、避けられた」

 割りと"森人"の早さと同等の速度で射出してみたが、避けられた。

 今度は『闇月』にしてみようか。


「おい、てめえ」

 "巣"にいた『勇者』に声を掛けられる。

「……なにか」

「普通、待つだろ。喧嘩終わるまでよぉ!」

 え、待つもんなの?

「……知らない。仲間割れしているなら殺るものでしょ」

「カーッ、お約束分かってねぇなぁ! てめえは『悪』、俺たちは『正義』の味方!

『悪』は『正義』を待つもんなんだよぉ!」

 ……よく分からないけど、私は私の中では自分は『正義』だけど……、馬鹿だからか違いがよく分からない。

 褒められから一転して、お叱りを受けそうだけど兄上に聞いてみよう。


「ふぅん……? よく分からないけど、とりあえず殺し合おう?」

「おい、お前」

 今度はなんだよ、とガタイのいいのに見やれば。

「お前がな、殺した奴は全員いい奴だったんだぞ」

 魔族からみれば、"悪い人"ですがそれは。


「サッツァは馬鹿で計算出来ねぇけど、歌は上手かった。

コルツは楽器、セニーは料理、ザルツは俺の右腕だった」

 何が言いたいんだこいつ。

「……だから?」

「だから、だと……?

だからだとぉぉぉ!

なんで、殺したんだ。こんなにいい奴らを! あんたは! なんの権限があって!」

 いい奴らを殺したって言われても。

 魔族を狩る悪い人を殺しても、いいのでは。


「……? 復讐している、というのが話の大まかな流れですが?」

「ああァ?

いいか、魔族。"復讐は悲しみの連鎖を生むだけなんだ"ぞ!

てめえら魔族が人族の二つの国を滅ぼした。それを受けて魔族を狩ることになった!

違うか! お前ら魔族が先にやったことだ!

俺は、悲しみの連鎖を断ち切るために、魔族狩りはしてねぇ! お前らもそんなものを止めろ!」


 なにそれ知らない。兄上を壊した先の戦争は、そんなオチになっていたのか。

 それよりもいけしゃあしゃあと兄上を壊した人族ごときが、"悲しみの連鎖"とか片腹痛い。

 魔族を一方的に狩っているのに……?

 一方的に狩って、金貨に変えて。

 絶滅に抗うために、仕方がなく血肉族の女を恵んで貰おうと、お伺いを立てているのに武力で蹴りだされて暴徒化した魔族を、人族が魔族に"復讐は何も生まない"とか説き伏せるとか。


「頭湧いてる?」

 ああ、もう駄目だ。

 この兄上の故郷とだいぶ離れているこの地で、こんな考え方をしている血肉族がいるとなると、最早魔族は生きていけない。

 本当に、兄上たち家族が住んでいるあの街しか、魔族は住めなさそうだ。

 私が出る前は、血肉族は兄上だけで魔族しかいない二百人程度の街だった。

 妊娠している魔族(ひと)もいたから、増えているとは思うけども。

 私たちの街がきっと、最後だろう。


 もう駄目だ。

 この地にも魔族いても駄目だ。

 やっぱり全員殺そう。

 下手に入れて説き伏せられて、牙を喪った魔族が不和の元になりそうだ。




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