魔族⑤(メティア視点)
さて、
「メティが言った、その立ち上る鮮やかで綺麗な色の魔力のミルくんはどんな子なんだね」
と妻に聞くと、一言で言うとと前置きして「噂通りの子ね」と言った。
「噂?」
「貴方はこの村にいないことが多いから、分からないでしょうけど、その子に関しては眉唾ものの噂があるの。
以前、この村には属性判定で無属性の白に虹が観測されたと言ったことがあったけど、その子がミルくん。
お姉さんがその子に相好を崩すほどべったりしていて……正直メティじゃ勝てないわね」
俺がメティを見ると口を一文字にし不満げだった。
やはり、お気に入りの子か、お父さん悲しいよ。
妻は続ける。
「無属性の筈なのに何故か赤と青の気配がする、と言われていたのよ。その子」と言葉を一旦切る。
妻は机に置いた水瓶から水を食器の中に入れ、一口飲む。
妻が鳴らす、このごきゅっと喉の音が好きだったりする。が、今はそんなことどうでもよい。
いかん、妻の綺麗な喉を見ているとしゃぶりつきたくなる。
――我慢我慢。
我慢していると、妻の口からぷひゅーと音を漏らす。
――……我慢出来るうちに早く話を進めて欲しい。
「で、話を続けるとお姉さんが、べったりだからお姉さんの魔力の残り香が色移りしてしまっているのが原因ではないか、と予測されていたのだけど、正直に言うとあれは違うわね」
一度妻が、言葉を切り、その後溜めて絞りだす声は「あれは固有属性固有魔法を抱えてる。それもかなり強力な」の一言。
「強力?」と、俺は妻に聞く。
「どれぐらい強力なんだ」
「具体的には分からない、けれども極薄っすらと、どこかと繋がっている接続線が見えた」
「接続線だ……と……?」
「そう、接続線」
大人2人で納得しあっても、娘は理解出来ないのが見て取れる。
俺は娘に分かりやすく説明する。
「接続線というのは、魔力容量が自分のものではなくどこかと繋がっているってことなんだ」
「……?」
「これは国が研究していることなんだけど、魔力容量が高いけど魔法が使えない人がいて、逆に魔法が使えるけど容量が少ない人が当然いる。魔力容量が少ない人が多い人を接続線で繋げることで、使える魔力を借り受けるようにする。それがこの接続線の魔法のこと。借り過ぎることもあるから、まだ実用に至ってないのだけど、でも実用にこぎつければ、戦争とかはもちろんのこと、文明も進む技術だと思っている」
と一度切り、妻のように俺も水を飲む。
俺が水を飲むと、よく妻はうっとりした熱視線で俺を見るが、何かしただろうか。
「そんな最高研究をそのミルくんは実用させている。これは凄く素晴らしいことだ。
ただ、『固有属性固有魔法』として持っているのは、とても残念なことだ」
「……固有属性固有魔法ってなに? 学校で聞いたこと無い」
「それは、村で学ぶことではないからね。あるとすれば魔法学園でだろう。
そう呼ぶにあたっていくつか条件とかあるけども、単純に言えばその個人にだけしか扱えない『固有の魔法』のことだな」
「固有の魔法?」
「そう、固有の魔法。お父さんの知り合いの魔族の人は『固有属性』と『固有魔法』持っているが、どれも凄いの一言しかない」
どう凄いの? と妻と娘は同時に疑問を述べる。
「まず属性だけど、『固有属性:木』ってもので木に関する魔法が使える。それで森に入った不届き者を捉えて捕まえることが出来るそうだ。魔法の方はそういったものに加えて、木々の近くにいれば遠隔で対象に回復術を行うことも出来るってことを本人から聞いたことがある」
つまり森の中では最強ってことだ、と締めくくる。
「そんな森の中だけ最強の魔法、属性を好き好んで学ぼうとしても覚えようとしても出来ないのは、固有たる所以だろうな」
娘は呆然と聞いていた。
そうだろう、自分が好意を持っていた相手は実は、こういった可能性のある化け物なのだから。
だが、人族からみれば魔族は化け物でしかない。
見た目は人族と変わらないのに、人族にはあるまじき思考能力に魔力容量。
だが、人族では死なない程度の傷でもあっさり死ぬ、我々魔族。
願わくば、そのミルくんがメティアに加護を受けさせてくれれば、手放しで喜べるのに。