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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-人生の分岐点- II
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三日目 -アルコール-

 最後の北東街ではエルリネとセシルがピリピリと警戒していたが、特に何事も無かった。

 綺麗なツペェアの水をふんだんに使った酒がメインの観光地らしく、どこもかしこも酔っ払いだらけ。

 ごろんごろんと道路に転がっている姿は、またたびの匂いに酔った猫のよう。


 酔っ払って突っかかってきた阿呆には、地面の石畳とキスして貰い、嫌がる女性に走って迫る馬鹿には足を引っ掛けて、じゅうじゅうに焼けた屋台の鉄板にキスして貰ったり。

 そんなこんなで昼下がり、みんなの両手には酒をスパイスに煮込んだビーフシチューの皿の大盛りと、パン。

 内容物はツペェアのアルコール度数がとっても高い物で漬け込んだ肉に、それほどでもない度数の物で三日掛けて煮込んだ野菜。

 それらに、ツペェアの五大酒を大胆に煮込水に使い云々。

 で、出来た結果がこれ。


 アルコール特有の味はせず、アルコール特有の匂いはせず、ただ酔うというぶっ飛んだシチュー。

 見た目はビーフシチューのような赤黒さ。

 ついつい昨日の血の池を思い出す赤黒さ。

 とにかく、ぱっと見ビーフシチューに見えなくもないので、暫定的にビーフシチューと呼ばせて貰う。

 一応呼び名は「カルテヌア」という肉料理らしい。

 というのも。


「こんなところで会うとは、思っても見なかったですね」

 目の前にOL風の残念トリップ娘が教えてくれた。

「ええ、こちらも思ってもいませんでした、リコリスさん」


 北東街の広場には、屋台で買った料理や飲物を食べれるようにと、席が設けられている。

 南や西街には無かったものだ。

 有り難くみなで席につこうとしたところで、リコリスにばったりと会った。

 お互い挨拶をし、別に嫌がるものでもないので同席と相成った。


 リコリスに女友だちが二人いるようだったので、挨拶しようとしたところ、図書館の司書さんでした。

 それも俺に付きっきりで教えてくれた二人。

 名前は「セン」さんと「ニル」さんで姉妹らしい。

 こちらも連れを全員紹介し、共に席につく。


 エレイシアの声音に少々トゲが含まれていたが、きっと博物館の出来事を思い出してしまったのだろう。

 仕方ないね。

 で、お互い席について俺とリコリスが主に世間話をしていたところ。


「お兄ちゃん、今日のお昼買ってきたよー」

 と、エレイシアの元気な声が。

 認めたくはないが、彼女に『ガルガンチュア』が付いたことにより、対人で心配しなくとも俺並に強い。

 だから、一人でなんでも出来るようにはなっている。

 同じ丁稚奉公(アルバイト)をしてたので、商品名は読めるし、お金も使える。

 なんと値切りまで出来る。もちろん、俺は出来ない。

 

 だとしても、危ないことはして欲しくないし、放任主義でもない。

 だから。

「一人で買ってきたの?」

「うん!」

「駄目だろ、一人で行ってきちゃ」

 両手でげんこつをつくり、頭の両側をぐりぐりと内側へ向けて押し込んでやる。

「痛い、痛いよぅ、お兄ちゃあん」

「痛くしてるの!

全く、エレイシアの身体は一つしかないの。きみがどうにかなったらお兄ちゃん悲しいんだから、どこかに行くときは二人で!」

「ぶーぶー、エルリ姉さんは一人で買い物に行くよ!」

「あの娘は俺よりも歳上で、成人しているでしょうが!」

「ええーだってー」

「だっても何もないの、どうしてもというのなら、俺が成人した頃ならエレイシアもみなし成人ということで、一人でどこかに出歩いてもいいから。

それまでの間は誰かと一緒に!」

「ぶぅ」

「全く……」


「あははは」

「何だよ、リコリス」

「あぁごめんなさい、あの時に比べて仲いいなぁと思いまして」

「三ヶ月ぐらいあれば、そりゃね」

「私も中に入れてくれない?

最近、笑うことがなくてね」


「いいよ、別――」

「駄目」

「あら、なんで?」

 エレイシアは拒否し、リコリスは理由を聞く。

 心なしかエレイシアの視線とリコリスの視線がぶつかり合って、火花を散らしているようだ。

「駄目なものは駄目」

「…………、」

「絶対駄目」

 そういってぷいっと、顔を背けるエレイシア。


「お前と話すことは何もないとばかりの、嫌われかたね。

何かしたかな?」

「こら、エレイシア。リコリスさんに何やって」

「ふーんだ」

 聞く耳を持たない。

「すみませんね、エレイシアが」

「いいのですよ、気難しいときもあるので。女の子には、ね」

「そうなんですか?」

「ええ、ですからウェリエくんも、余り女の子を追いかけない方がいいですよ。

機嫌悪いときに追いかけられると、つい攻撃的になってしまいますから」

「……き、肝に銘じます」

「私は拒否なんてしませんから、追いかけてきてもいいですよ」

「え……、それはどういう」

 意味で……

「ナイショ」


 内緒となってしまった。

 そのままの意味で受け取れば、彼女は……いや、きっと大人の女性という余裕さで子供を遊んでいるのだろう。


「そういえば」

「ん、なんです?」

「さっきの娘、エレイシアというのね」

 ああ、そういえば言ってなかったな。


「ええ、あの後諸事情ありまして、ウチの娘になりました」

「そうなんだ、親無し子であれば孤児院行きだったと思うけど、孤児院経由してないよね」

「ええ、ちょっとした裏技を」

「『奴隷落とし』かな……?」

「よく、わかりましたね」

「それぐらいしか、法律をくぐり抜ける方法無いし。

……その割には、奴隷紋の類とか無いね。

奴隷紋を使えば、もう二度とやりませんと思わせるぐらいに苦痛を与えるというけど、あの子にしてあげたのは愛ある体罰だったし」

 

 体罰に愛なんてあるか否かで言えば、ねーんだがな。

 それはそれとして。

「あれは体罰ではなくて、ただのじゃれあいですよ。

リコリスさんだからネタばらししますけども、奴隷紋は施していないし、隷属魔法も使ってません」

「へ、へぇ……、ではどうやって?」

「色々機密に当たる部分なので詳細は避けますが、彼女の左腕にありますよ。答えが」

「そうなんだ……見えないけど」

「ええ、"今は"見えませんけど」


 うっかり見えたら『ガルガンチュア』が起動しているときだ。

「今は見えないんだ……。いつか見せて貰えるかな」

「彼女にその気があれば」

 その気があったとき、しつこいようだが『ガルガンチュア』が起動しているときだ。

 食われるだろう。

 多分見れないんじゃないかな、その答え。


「お兄ちゃん、はいこれ」

 有無を言わさずにエレイシアによって目の前にゴトッと置かれたそれは、底の深いスープ皿に入れられた「カルテヌア」だった。

 "生前"の世界のビーフシチューにしか見えず、肉と野菜とスパイスの匂いがあり、正に香ばしい。

 見れば、エレイシアとクオセリスが二人して、買ってきたようで既にエルリネとセシルの分まであるようだ。


 で、家族五人で「頂きます」をして、いざ俺がスープを口にしようとしたところで、リコリスから止められる。

 理由はアルコールの塊だということだ。

 この世界でのアルコールはやはり成人してから、というのが多数のようだが、祭りとかでは一々確認しない。

 だから、このようにエレイシアのようなご年齢でも買えてしまう。


 しかも、味も匂いもしないのに酔うって悪酔い確定じゃないですか。ヤダー!

 それを未然に防げてリコリスがいて良かった。

 さてエレイシアが選んだという料理だ。

 いくら、成人していなくてもエレイシアという可愛い娘が買ってきたのであれば、食べたいと思うのは親心。

 親じゃないし、一つか二つ下なだけ、だけども。

 折角だからと、一口掬う。

 ほかの女性四人には肉がそこそこ入っているが、俺の分は肉がゴロゴロ入っている。

 多分きっと、純粋な好意だろう。


 漬け込んで柔らかくした肉を更にアルコールで煮込む。

 つまり食ったら酔う。

 買ってきた張本人のクオセリスとエレイシアを見ると、「食べて、くれるよね?」と期待に満ち満ちた目でこちらを見る。

 肉野菜は食うもの。スープは飲むもの。


 肉野菜は食うが、スープはエルリネにあげよう。

 そういうことで、食った。非常に気持ち悪い。

 残りスープとなったところで、エルリネに飲んでと言って俺は机に突っ伏した。

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