二日目 -買い物-
短いです。
あんなに『ガルガンチュア』が暴れて殺戮をしたのにも関わらず、戦場には誰一人来なかった。
それもそのはずだ。
『世界』が『ガルガンチュア』の出現を検知したとき、自動で「世界」を隔絶してくれた。
それがなければ、今頃討伐されていただろう。
だが、それにより困ったことが起きている。
そう、死体をどうするか、だ。
瞬炎などで焼き尽くすなどを考えた。
しかし、そういったアフターケアまで『ガルガンチュア』はやってくれるらしい。
肝心の内容はなんと、死体を食うらしい。
まさにウナギ。
大口を開けて剣山ごと、または石畳の上に放置されている死体をバクンと口に入れ、咀嚼しエレイシアの影へ戻る。
消化を待たなくてもよいぐらいに大きいウナギ。
大きさは約五十メートルという巨体。
もちろん、大きさは自由自在に変えられるようで、殺戮しているときは十メートル程度だった。
そんなウナギが消えた、エレイシアの影に血の湖が触れるとみるみるうちになくなっていく。
ほんのしばらくしている内に完全に、跡形もなくなった。
辛うじて戦闘があった傷跡は、石畳が割れて剥げているところだけか。
隔絶された『世界』解除し、ぬめりけのある猛烈な悪意を纏った空気は全て霧散し、朝が終わり昼に近くなった空気が美味しい。
ざわざわと人々の祭り最中らしい、人々の雑踏の音が聞こえる。
ツペェアの屋台が作る料理のそれぞれが美味しい匂いを醸し出す。
先ほどまで起きていた、地獄絵図は感じさせない。
あるのは平和、だけだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
結局のところ、賊はあの一度こっきりだった。
波状攻撃でも仕掛けてくるかと思えば、そんなこともなく。
クオセリスの服を購入し、ついでだからとばかりに美容院に入り、クオセリスは長髪から短髪へ。
ロングのほうが似合うのに、と言えば「髪が短ければ掴まれにくいですから」と、悲しいことを言われた。
それってつまり、ああいったことが恒常化しうると予測しているということか。
変に警戒させているということが、不甲斐ない。
あのようなことが起きて、エリーことエレイシアはエルリネやセシルに気後れするかと思えば、持ち前の明るさでいつも通りの反応だ。
エルリネは酸いも甘いも噛み分けるためか、一言だけ「おつかれさま」とエレイシアに零して頭をなでなでと撫でたっきり、いつものように接している。
対するセシルだけは、おっかなびっくりだがまぁ普通ならそういう反応だろうな。
彼女の反応は、本当に一般人らしい反応だから、我が家の異常さのボーダーが分かる貴重な存在だ。
女性四人の服を買い、美容室でいつもとは違う髪型を楽しみ、食べたことのない他国の食べ物を食べ、気付いたときにはもう夕方であった。
スリにも暴漢にも酔っぱらいにも出会わず、中々楽しめたと思う。
祭りは明日で終わり、当初の予定通りに明後日の朝の内に近くの港に赴いて学園へ向かおうか。
その予定を明かすために、今日もまた大衆食堂の扉を開ける。
こうして二日目の夜も更けていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
気に入ったよ、お前の力の欲求と想い。
微力ながら貸してやるよ。
――単品で国を墜とすと呼ばれるこの力を。
『心なき改造台』から『啜り啼く黒い海の呼び声:エレイシア・フローレス』へ。