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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-歴史の分岐点- 殺戮の魔王(Lord of NecroExecutioner)
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二日目 -幼い魔王-



 いやはやなんとも衝撃的だ。

 俺の魔法陣が自分から、移籍するとは、思いもよらなんだ。

 なにせ『闇夜の影渡』、『前衛要塞』らが移籍するとか云々とか言っていたが、まさか『心なき改造台(ハートレスアルター)』が移動するとは。

 あの「血滾る剣の花」は「ブラッディソーンズ」と呼んでいた。

 更に「断罪の刃」は「ギロチン」、「処刑者の剣」は「エクスキューショナー」、「血黒の万力」は「ブラックヴァイス」。

 どれも、"日本語"の魔法だ。


 そしてそれらはどれも、エレイシアに教えていない。

 "日本語"の知識とそれのイメージが合わさり、エレイシアは彼らを殺った。


 もちろん、それだけではない。

 更に「心なき改造台」らが集まって重なり合い、結果が一つにまとまって魔法陣が生まれた。

 色は赤黒いものと、青み掛かった緑色の魔法陣。

 どれもが、五線記譜に音符がいくつも入り混じった魔法陣。

 もちろん、教えていない。


 赤黒い魔法陣からは、ぬめりのあるウナギっぽい見た目の蛇が現れ、蹂躙する。

 その間は、青緑の魔法陣で歌を記憶させ、俺の『十全の理』の「多重起動(マルチタスク)」のように、多重起動且つ自動起動。

 青緑の魔法陣が何か悪いことに使えそうだが、それよりもあのウナギがヤバい。


 地面を掘り進まず透過するということは、剣などを振るわれてもそれを透過する可能性がある。

 更に自律式だ。

 魔法陣で出来た身体。


 新しい魔法陣の姿となり得る。

 更に言えば、俺はこのウナギ状になるものなど考えていなかった。

 自律するといっても、精々『奪熱凍結の言霊(ニブルヘイム)』のように、複数の魔法陣が重なりあい球状に立体になる。

 そんな程度だと思っていたが、まさかウナギとは。


 いや、エレイシアの出自を考えればアリだ。

 海国の生まれのエレイシア。

 きっと「海」、「魚」とか色々なワードをイメージしたのだろう。

 懐かしい海とかなんとか、を。


 それに反応して「心なき改造台(ハートレスアルター)」と「永久不滅の誓文(インペリシャブル・エコー)」が、自身の身体をそのイメージに近しいものを選んで、ウナギとなった、そう考えられる。

 剣山によって作られた奇怪な肉塊のオブジェは、今なお血が滴る肉の森を作る。

 首輪を嵌められた物、寸断、切断ほか色々されちゃっているモノは、噴水もとうに枯れ、今や湖を作る。

 襲い掛かってきたバカ共、全員をこれで全員殺した。

 俺の冷静な部分である理性はそう考えた。

 だが、感情はその冷たい理性を邪悪なものと考えてしまう。

 それもそのはずだ。


 呆けているクオセリスとその傍にいたエレイシアを俺の胸に抱けば。

 みな、同い年の者だ。

 まとめて抱き抱えられるほど、俺の身体は大きくない。

 それでも、抱く。

 例え、薄っぺらいと罵られ言われようとも、その胸で抱く。

 

 クオセリスは震えていた。

 当然だ、嫁いだその矢先で未だ危険な目に合わないだろうと考えていた、そのときに死にかけるのだから。

 この震えは、俺が『前衛要塞』を使っていたから、させてしまった。

 悔やんでも悔やみきれない。


 エレイシアもそうだ。

 エレイシアと共にこの数ヶ月、一緒にいたが非常に優しい子だ。

 どんなことにも気が利くし、丁稚奉公(アルバイト)してたときだってそうだ。


 そんな優しい子が、火属性とか水属性の魔法といった生活の延長線上の魔法を使うのではなく、殺戮を主とした魔法を使う。

 鉄の槍を作成して貫く魔法のどこが、生活の延長線上にある魔法だろうか。

 赤黒く咲いた剣の花のどこに生活に必要な魔法だろうか。


 エレイシアもカタカタと震えていた。

 貶して欲しい「お前のせいで死にかけた」と。

 だが、欲しい答えは帰ってこず。

「お兄ちゃん、使えるようになったよ。魔法」と。


 そんなに嬉しそうに言わないで欲しい。

「これでエルリ姉さんだけでなくて、私にも頼ってくれるよね」

 馬鹿を言うな。

 あくまでこの世界に逸脱しない程度の属性魔法、そう「隆起する大地」などを覚えて貰いたかった。

 何をトチ狂えば、『心なき改造台』の特有魔法である「血黒の万力(ブラックヴァイス)」などを覚えるのか。


 理性は「ああ、お前のお陰でクオセリスに大事がなくて、助かったよ」と言いたい。

 だけど、感情は警鐘を鳴らす。

 そんなことを言えば、エレイシアはもっと残虐性に傾いた魔法を覚えていくだろう。

 残虐に傾き過ぎた所為で、最終的には俺と共に滅ぼされる運命になるなどはさせない。

 させたくない。


 俺が道を外したときは殴ってでも止めて欲しい。

 それなのに、俺が褒めたりしたら……。

 でも、()り出せる声は。

「無事でよかった、二人共」

 ある意味、エレイシアの行動とその能力を褒めた。

 エレイシアの『心なき改造台』+『永久不滅の誓文』が合わさった、墨色のスライムゼリーのようなプルプルした質感がありそうなウナギ。

 

 そのウナギは心配そうに蛍の光のような目を明滅させ、俺たちの周りを周る。

 鎖がじゃらじゃらと音を鳴らし、石畳を叩く。

「お兄ちゃん、その子はね。何も出来ない私のことなんかを気に入ったって、言ったの」

――だから。

「名前をあげたの。『ガルガンチュア』って」


 ガルガンチュアとは、巨人で且つ大食漢を意味する俗語だ。アルファベットに直せば、確か「Gargantua」。

 正に行動と名前が言い得て妙。

 巨大なウナギ(っぽい)生き物。

 大食漢ばりに人間を食っていった。

 これで「ポチ」とか「タマ」とか「タロー」とかそんな名前だったら、エレイシアの名前のセンスに脱帽する。


 兎にも角にも。

『ガルガンチュア』と呼ばれた魚は満足気な気配をしながら、周回する。

 赤黒い魔法陣は『ガルガンチュア』とは切り離せない物らしく、周回するウナギの頭の位置と同じだ。

――とぷん。

 と、ウナギが石畳の中に隠れ、魔法陣だけがエレイシアの足元へ向けてススっと移動する。

 そして足元の影に隠れて魔法陣が明滅し、そして完全に沈黙した。


「お兄ちゃん、ガルガンチュアはね。ずっと見守ってくれるんだって。

もちろん「おんおふ」っていうのが出来て、今は「おふ」だけど、「奴隷紋(まいんどでざいあ)」で「おん」に出来るって言ってた!」


精神の願望(マインドデザイア)』をONにすれば、か。

 ONつまりは、魔力を通したときだ。

 奴隷紋はどうだか知らないが、エルリネ、エレイシアに施した『精神の願望』は高性能だ。

 なにせ、本人がその気になくとも、自動且つ唐突に魔力が通されることがある。

 もちろん、理由はある。


 大抵、しばらく使っていないとそれはそれで、錆びたり朽ちたりする。

 つまり、使わないと要事に出なくなるということを恐れて、自動ONという機能がある。

 更に言えば、警戒などの感情を検知すれば即座に危険信号として魔力が通され、明滅する機能まで持ち合わせている。

 要は主が警戒する、異常だと思えば『精神の願望』が自動起動し、『ガルガンチュア』が起動する。


 起動したら最後、敵対者がエレイシアの前に現れれば、影から『ガルガンチュア』が大口を開けた状態で飛び出し、一飲みし蹂躙する。


 自分で言うのも難だが、俺は割りと常識的だ。

 だが、エレイシアはどうだろうか。

 エレイシアの思考など読めない。


 エレイシアの思考回路が殺戮破滅系だった場合。

 少しでも嫌な奴だと思われれば丸呑み。

 少しでも害意があれば、拷問と見紛うばかりの殺戮魔法が待っている。

 俺に"一目惚れ"といった「にんぎょひめ」が、うっかりヤンデレであれば、俺に近づく奴を丸呑みにされかねない。


 全てを滅ぼしかねない魔王系魔法の使い手として『魔王』と名乗っているが、名実共に殺戮魔法を使って『魔王』なんて呼ばれたくないし、彼女をそう呼びたくない。

 だから何度も言うが、この道を突き進んで欲しくないからこそ、褒めることが出来ない。

 しかし、俺に褒めて欲しいのか、目をきらきらと輝かせて見つめるその純真無垢な顔に。

 

 声を荒らげようとした、そのとき。

「エリー、ありがとう」

「どういたしまして、セリスおねーちゃん!」

「でも、駄目ですよ」

「なにがあ?」


「あのような有無を言わさずに殺戮を愉しむような、魔法を使うことですよ」

「えっ、でも」

「でも、ではありませんよ。確かに、エリーのお陰で助かりました。

でも、私以外の人を助けるときがきっとあるはずです。

そのとき、あのような苦しみを目的とした魔法を使ったら、その助かった人はどう思いますか」

「う、ううう」

「旦那様は『魔王』と呼ばれたがっています。

でも『魔法使いの王』も『魔王』と略されます。

エリー、貴女の魔法はなんですか?」


「ううう」

「殺戮を主とした魔法です。名実ともに『魔王』になってしまいますよ、このままでは。

いいのですか、私……というには日は経ってませんが、エルリネさんとセシルさん、旦那様と別れて、敵対して死にたいのですか」

「や、やだ。セリスおねーちゃんとエルリ姉さん、セシルお姉さんとお兄ちゃんと別れるの、やだ」

「でしょう。私も嫌です。

大事な、大事な妹が殺されるなんて」

「い、もうと……?」


「はい。血が繋がっていなくても姉妹にはなれるのです。

エリーが私をおねーちゃんと慕ってくれるのであれば、私とエリーは姉妹です。


……嫌ですか?」


「う、ううん」

「では、今日から姉妹です」

「本当にいいの?」

「ええ、どこにも拒むところはありませんよ」

「うえっ、うええええええん」


 俺の腕の中で、クオセリスはエレイシアを愛しそうに抱く。

 クオセリスの目尻には涙が貯まり、クオセリスの腕の中でエレイシアは泣く。


「あー、その。なんだ」

「恨んでなんかいませんよ、旦那様」

「……えっ」

「怖い思いをさせたとか、大方考えたのでしょうけども。

私はそんなことは思っていないです、旦那様は何がどうあっても私のことを助けてくれると思ってました。

確かに少々怖かったのですが、エリーが旦那様に褒められたくて誰もが怖がる、あの殺戮魔法を使って最終的に『魔王』と呼ばれてしまうのではないか。

そちらの方が、余程怖かったです」


 この娘凄い大物ね。

 普通は家族の行く末よりも、自分の命を喪うことに怖がる筈なんだが。

「エリーみたいなことは出来ませんが、これからも末永く宜しくお願い致します、旦那様」

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