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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-歴史の分岐点- 殺戮の魔王(Lord of NecroExecutioner)
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二日目 -走馬灯- II

※警告※


R-15描写。

 仲間が『魔王』を足止めをしている間に、ちょっと縮こまっている一番乳臭そうな子供の頭を、抑えつけて地に押し倒した。

 ちらっと顔を見れば、この国の「姫」と呼ばれる女だった。

『魔王』の許に嫁くため、この祭りが行われることになったという。

 だから、思わず舌なめずりをした。

 まさか、俺たちが『魔王』を殺せば、この国の幼い「姫」を犯せるなど。

 全員で犯し、ひと通り愉しんだ後は他国の物好きに売ればいい。


 思わず掘り出し物を見つけた気分だ。

 ちょっとだけ痛く首元に刃傷(やいばきず)を付けるが、あとは快楽しかない。

 だから、耳元に呟こうとした瞬間に、別の子供が「今、ここに」とか何とか言った。


 何かほざいた子供を見れば、左腕が青く輝き。

 そして。

 辺りは。



 水に包まれた。



 俺は「姫」を押し倒したままで、仲間は手を止める。

 警戒しているのは俺一人で、この異常な空間に馬鹿(なかま)共は警戒すらせずに呆けている。

 不思議なことに呼吸は出来ている。

 水の中に入れば大抵は溺れ死ぬ。

 だが、いまこの場では溺れることなくいられる。


 周辺を群遊する小魚の大群。

 見たことがない細身の魚。

 平たい身体で左、または右側に口が向いている魚。

 鋭い歯が生え揃った青い魚もいる。

 城門かとまごうばかりの灰色の魚に、赤い色をした石があり、売れば高そうだ。


 明らかな面倒事。

 これ以上の面倒は御免被りたい。

 勿体無いが「姫」を殺すことにする。

 殺せば、子供どもは恐れてこれ以上変なことは起きない。


 だから刃を振り上げる。


――ゾワッとしたナニカが傍を通った。

 そのゾワッとさせる気配は、周辺を探すも見当たらない。

 平和に太陽と思われる陽の光が、水中に差し込み。

 その陽の光を反射して、魚たちがきらきらと輝く。

 その空間の中を何かが泳ぐ。


 先ほど何かをほざいた女の子供が青く淡く光を身に纏い、歌う。

 足元には見たことがない。

 いや、見たことはある。

 だが、幼学校の先生が見せてくれた魔法陣と呼ばれる円状のナニカ。

 円の中に模様を書き連ね、色々な現象を起こすというもの。


 それは国の学者どもが夢を見て、見続け朽ち果てたという曰くつきのもの。

 奴隷紋のようであり、奴隷紋とは全く違うという魔法陣。

 その魔法陣からいくつかの水泡がゴボゴボという音と共に水面へ向かって浮き上がる。


 そのゴボゴボという音には歌が入り混じる。

 聞いたことはない。

 だが内容は通じる。

 故郷への歌。

 いや、故郷への祈りか。


 あの子供の故郷は海国だというのが分かる程度しかない。

 だが、それだけに思考が止まる。


 視界の端にゾワッとさせる気配の物体の姿が映る。

 直視できないほどの、違和感。

 匂いは感じないが、汚物のように感じ。

 視界にハッキリ映らないが、嫌悪感を催す黒い物体。

 知りたくない、死の気配。


 死に魅入られたという直感。

 全身から嫌な汗が流れ落ちる。

 依頼を捨ててでも、国へ帰りたいと思わせるこの感覚。


 しばらく、その周辺を泳ぐ黒いモノに対し警戒をしていれば、相も変わらずの異変が起きる。

 それは、日中だったと思われた太陽の陽の光が、唐突に夜になったかの消え、陽の光を受けて反射して、きらきらと輝く小魚も、周辺で群れるのもいなくなり。

 歌が更に響いている内に、鋭い歯の青い魚や、灰色の魚、赤い石のようなものが、輪郭を残して透明になっていき、そして最後には輪郭もなくなり消えていく。


 全てが無くなった水の空間。

 いや、黒いナニカだけがいる空間。

 残るは、ほざいた子供と、押し倒している「姫」と、『魔王』と俺たち。


 天井と思われた水面が低くなっていき、頭頂、肩、腰、膝と水面は下がり、最後には地面と同じ水位になった。

 ほっとしたのも束の間、当然異常は終わらない。


 頭の中に響く聞いたこともない、女の声。

 言語は分からない。

 だが、意味は通じる。


――複合された不明瞭な信号を検知致しました。似た信号を持つものは「精神(せいしん)願望(がんぼう)」、「永久不滅(えいきゅうふめつ)誓文(せいもん)」、「心なき改造台(かいぞうだい)」です。


 なんのことを言っているのかは分からない。

 だが、一つ言えることは途轍もなくヤバいことだ。

 なにせ、身体が動かない。


 振り上げた腕も微動だにしない。

 呆けていた馬鹿(なかま)共も同様のようだ。


 光を纏った子供が右手を前に出す。

 そして現れるのは鉄の槍。

「fegicvlkp」

 相変わらず、言っている言葉が滅茶苦茶だ。

 だが、不思議と意味は通じ「処刑者の剣」というものらしい。


 その槍が俺に向かって飛んできたが、一瞬だけ拘束が外れ、即飛び退(ずさ)った。

 しかし鉄槍の対象者は、複数人だったようでドン臭い奴らが刺し貫かれ、いや穴だらけになる。


 その女の足元にあった魔法陣は、女から離れていき、二つに別れた。

 一つは地面に張り付き、一つは女の背中の空間に貼られた。

 地面の魔法陣は赤黒く、滲み出るは先程の水中で感じた死の気配。

 気配に遅れて現れるのは、(ぬめ)りをもった液体が魔法陣から滲み出る。

 その姿はまるで、擦りむいて滲み出た血のように、じゅくじゅくと湧き現れる。

 

 離れている筈なのに、魔法陣からプツプツと液体が出す気泡の音が聞こえる。

 見ている間にズルンと、洞窟内で出会ったスライム種のように滑りをもった怪物が昇り上がる。

 鎌首をもたげた蛇のように身体を曲げて、俺たちを見る。

 その姿は蛇のようでいて、蛇ではない。


 蛇ならば鱗がある。

 しかしこいつは滑りけのある身体で、鋭い爪を持つ両手があった。

 ではなにか。

 蛙か。

 しかし、蛙であれば目は左右両側にあるが、こいつは仄暗く明滅する蛍のような光が鼻吻で舞う。


 動物的ではない。

 敢えて述べるならばスライム種が、魔獣化したナニカだ。

 ぬるんとした鼻吻が、ひび割れギザギザの歯を模したような口のようにガパァと開く。


 口を開けば夜闇の色をした体色をした魚……、そう魚だ。

 そいつが口を開く。

 口の中は変わらずの、闇色。

 闇色の口に魔法陣らしき緻密な模様を描かれた円状のものが現れる。


 対魔獣の戦いをするのであれば、あの魔法陣らしきものが弱点だろう。

 だが、この場でこれを相手をするには準備が足りなさすぎる。


『魔王』と、腕のある魚。

 準備が足りなさすぎる。

 幼いころにみた騎士物語の劇で夢見た、本物の魔王がここにいる。


 ガパァと口を開いたその魚は、口を開けたまま倒れこむようにして仲間を、地面の石畳ごと喰った。

 石を噛み砕く音と共に仲間が食われる、魚の口の中で仲間だった奴のくぐもった断末魔が聞こえる。

 砂利を踏んだような、石同士がぶつかる音。

 それと共に響く声。

 

 その魚が人間臭く、蛍目を明滅させ、口を弓のように笑む。

 その姿は明らかに嘲笑っており、それを示すかのように俺たちが木の実の種を吐くように。

 プッと息とともに吐き出されたそれは、仲間の首から上だった。

 もちろんそれだけではない。

 仲間の顎と頬骨が、石畳の石が顔の一部として埋め込まれたかのようになっていた。


 仲間の何人かが悲鳴を上げる。

 だが、悲鳴を上げきれた奴はいなかった。

 何故なら、それは。

 いや、そいつらは。

 魚の魔法か何かによって、首輪をつけられたのだ。

 奴隷用の首輪。


 最早泣き叫ぶ余裕など"無い"。

 何が起きるのかは分からない、とにかく首輪を外さなければ死ぬ。

 結局誰も外せず、いや外せる時間など元々なかった。

 外せると思えた時間など、悠久と思えるも一瞬であった。


 そうそいつは、首輪が嵌められたのを確認した瞬間に、ニヤッと魚とは思えないほどに嘲笑い、そして直ぐに中空を泳ぎだした。

 首輪には闇夜色の鎖が魚と繋がっており、起きる現象は明白。

 そう、連れ回しだ。

「ぐぇええええええ」

 締まる首輪。

 浮く身体。

 自分の身を守るための鎧と、相手に示威を見せるための刀剣が今は首輪つけられた仲間を苦しめる重み。

「かっ…………かっあぐぐぐ……」

 男も女も誰も彼もが、首輪を嵌められたものは一様にして、首を吊られる。

 一人首が完全に折れて死んだ。

 そうそいつは重鎧の奴で首鎧までしており、物理衝撃だけではなく魔法にも強い盾役だった。

 俺の飲み友達だった奴だったが、この首輪は鎧を貫通するようだ。

 そいつ以外にも何人ものの人間が死んでいった。


 もちろん、そいつらだけを連れ回すのは飽き足りないようで、死んだ奴らを中空で捨てる。

 その高さは屋敷の屋根と同じ高さで、ご丁寧に頭から墜とす。

 空いた首輪には数名の仲間の首を捕らえ、引き上げる。

 その度に悲鳴を上げる仲間。 


 その姿を愉しむかのように、魚は家の屋根まで高さに浮くだけではなく、地面近くを泳ぐ。

 石畳に削られる自重がない、仲間たち。

 石畳に革鎧だけではなく、服の破片。

 毛皮、または皮膚。

 そして肉、骨と。

 削りに削り、そして最後は魚は。

 潜った。


 図鑑で読んだ砂漠にいると言われる蟲のように掘り進むのではなく、それは(にじ)むようにして進むようで魚本体が石畳の中を進むが、仲間たちは削られるだけだ。

 潜ってから石畳の上から出たときも、穴などはなく。

――とぷん。


 という、音とともに魚が現れ空中に浮いたりし、最後は一直線に石畳の中を潜った。

 鎖に繋がられた仲間たちは、石畳から下へ潜れず、それでいながら鎖は石畳の下へ行き、ピンと鎖は張り、そして。

 首輪を嵌められた者は、首をヘシ折り砕き千切り、何人も辛うじて首輪を嵌められた仲間たちは全員苦しんで死んだ。


 拷問かと思えるぐらいに、苦しんで死んだ。

 警戒など無意味。

 俺の傍をヌメリけのある魚が石畳からぬうっと現れ、泳ぐ。

 誰も嵌められていない首輪はじゃらじゃらと魚の装飾品のように空を舞う。

 

 その魚がほざいた女の子供を主人として守るかのように、とぐろを巻く。

 その魚がニヤリと嗤う姿は、魔王のよう。


 そしてもう一つの別れた魔法陣が、青が強い緑色に輝く。

 魔法陣の緻密な模様は見たことがない。が、敢えて特徴の述べるのであれば、線が五本でそれぞれ一本または空白の部分に緑色の丸に線とはためく旗のような模様のモノなどが規則正しく集まっている。

 見たことがない模様でまた見たことがない魔法陣と呼ばれるモノ。


 女が口を開く。

「みんな飢えてしんじゃえ」

 女が俺たちに向けた右手から、よく分からない魔力の発動を感じる。

 この場では致命的だ。

 だが、分からないものは仕方がない。

 だから、分からない。

 分からないからこそ、なんとか更に後退れば、更に周りの仲間が急に喉を押さえ、石畳の石を口の中に放り込み咀嚼し始める。

 

 歯が砕けようとも、口から血を出そうとも、飲み込み、お互い仲間を喰い合い。

 異常、異様。


 その後は早かった。

血滾(ちたぎ)る剣の花」で、剣山。

「断罪の刃」で、綺麗な断面で切断。

 万力のようにギリギリと締め付けられ、最後に砕くものは「血黒の万力」

 鉄の槍は「処刑者の剣」で、仲間が一人、また一人と死んでいき。


 そして俺は――。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


――奴……か。

 そう呟いた筈だったが、声として出ず、見えたのは俺の右肩が喰い千切られて。

 視線の高さが幼いころに、愛玩動物として飼っていたネズミと遊んだ頃にのように、見上げ。

 そして……、俺の身体のようなものから、黒い噴水が吹き上げ……、て――。



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