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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-歴史の分岐点- 殺戮の魔王(Lord of NecroExecutioner)
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二日目 -殺意-


 今日はみんなと一緒にセリスおねーちゃんの服を買いに南街へ行くようだ。

 というのも、セリスおねーちゃんが昨日家族になった。

 私と同じく、おにーちゃんを慕って、だ。

 嫉妬なんて全く沸かない。

 おにーちゃんを認めてくれる人が増えるのだもの、好ましいと思うこそすれ迷惑だなんて思わない。

 たった一人相手に寵愛(ちょうあい)を受けたがるというのも、女性の本能だということで分からなくもないけども、少なくとも私はそんなに思わない。


 家族が増えていっぱい楽しいことがあればいいや。


 そういえば、昨日久しぶりに『にんぎょひめ』ではない夢を見た。

 二人の見たことがない男と女の人が「きみのことが気に入ったよ」とかなんとか言ってたけど、「私にはおにーちゃんがいるので駄目です」なんて言ったら、ニヤって嗤って消えちゃった。

 なんだったんだろう……。

 だからといっておにーちゃんに聞いても、きっと「夢だから気にしなくていいんじゃないかな」というだけだろうし、考えないことにする。


 おにーちゃんがツペェア焼きを作っている間に、倉庫のおにーちゃん謹製の氷蔵から"日本語"で言う『くりぃむ』とか言うのも持ってきた。

 ふふふ、これは本当に美味しいんだ。

 ちょっとだけ凍っているけども、あつあつのツペェア焼きにたっぷり乗っけると甘くて甘い匂いが、鼻孔をくすぐる。


 似たようなものは、おかあさんと旅している間に一度だけ食べた。

 あのときはまだ元気なおかあさんで、ずっと美味しくて楽しかった。

 そのあとはあの地獄しか、覚えてないけども。


 だから、最初は食べるときに涙がぽろぽろ落ちてて、おにーちゃんとエルリ姉さんが心配してくれてた。

 そのあとは、もう私の中できっと折り合いがついたのだと思う。

 ツペェア焼きの『くりぃむ』をいっぱい掛けても、おかあさんの楽しい思い出は相変わらず思い出すけど。

 それ以上に、ここでの楽しい思い出が塗り潰してくれる。

 だから、喫茶店とかのツペェア焼きよりも、我が家のツペェア焼きは私の好物だ。

 ずっと味わっていたいから、わざと遅く食べる。

 うーん、美味しい。




 セリスおねーちゃんがセシルお姉さんの服を着て、食堂に来た。

 私とは一、二つ違うだけなのに、みんな背が高くて羨ましい。

 お服屋さんの服はみんな、私より背が高い人用のものばかりで、取っ替え引っ替えで服を選ぶというのが出来ない。

 寂しいなぁと思うけど、私の体型がおにーちゃんに似ているからか、この間はおにーちゃんとお服屋さんに行って、お揃いのお服買ってくれた。

 だから、今日もお揃いのお服だ。

 セシルお姉さんがいつもどおりに『くりぃむ』を塗りたくる。


 その姿にセリスおねーちゃんは、「なにそれ」って顔で見てる。

 初めて見ると確かに「なにそれ」って思えるよね。

 私も初めて見たとき「なにこれ?」だったし。

 おにーちゃんがセリスおねーちゃんに「はい、クオセリスの分だよ」といってセリスおねーちゃんの前にツペェア焼きを出す。

 それをセリスおねーちゃんが受け取って、食器で千切って口の中に入れるところで、エルリ姉さんが「ちょっと待って」と止めて、『くりぃむ』が入った瓶をセリスおねーちゃんに差し出した。

 でも、セリスおねーちゃんは見慣れないものだからか、受け取らないから実践することにした。

 まず、私が『くりぃむ』を掬って自分のツペェア焼きに盛って、勿体無いけど一口でぱくんと口に入れる。


 私が美味しそうに、実際に美味しいから仕方がないのだけど、そんな感じで食べたら、セリスおねーちゃんがちょっと興味を持ったみたいだった。

 だから、盛った。

 いっぱい盛った。

 王様のおうちの人で、美味しいものをいっぱい食べていたかもしれないけれども、それでも我が家が保証する最高の味。

 エルリ姉さんとセシルお姉さんが「美味しいよ」とか「甘いよ」と勧めているから私も勧めた結果、意を決するようにパクっと食べて、美味しいと言ってくれた。


 良かった、口に合ってくれて。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 おにーちゃんが私とお揃いの服を合わせてくれて、一緒に家を出たところでピリッとした痛痒感を感じたと同時に、先にお外に出ていたおにーちゃんとエルリ姉さんが構えていた。

 私だってあの博物館のことを体験した身だ。

 だから、何かが起きているということは分かる。

 でも、何か分からない。

 だから、おにーちゃんの陰から見れば、なるほど。戦いになりそうだ。


 おにーちゃんは「家から出れば刃物持った"ちんどんや"がおでましかよ」とか言ってるけど、"ちんどんや"ってなんだろう。

 きっと"日本語"の言い回しだろう。

 今日の夜聞いてみようっと。

「何のようだ、冒険者」とおにーちゃんが目の前の"ちんどんや"に聞くも、汚い笑顔でニチャアと嗤ってるだけで気持ち悪い。


「エルリネ、巻き込まれないように。

それとセシル、クオセリス、エレイシアを守れ」

「はい、ご主人様」

「エレイシア、それとセシル、クオセリスもエルリネと離れるな」

「う、うん」

 一緒に戦えればいいのだけど、"日本語"を覚えてもおにーちゃんの魔法が使えない。

 おにーちゃんの魔法が使えなくても、そうじゃない自衛魔法すらも使えない。


「刃物出した時点で、殺されても文句言えないんだけど、それ知ってんの?」

「知っているさ、俺だってこの国のグピュアッ」

「じゃあ死ねや。文句ねーんだろ」

 そう言っておにーちゃんが、見たことがない魔法で汚い笑顔を貼り付ける複数人の男女の顔面を叩き潰す。


 ボキャとかゴリッとかグチャアとか、思わず耳を塞ぎたくなる音が聞こえる。

 ビチャビチャと血が噴き出る音も出る。

 セシルお姉さんやセリスおねーちゃんは顔を背けている。

 エルリ姉さんは目を背けたい筈なのに、ずっと前を向いている。

 

 おにーちゃんが「ぐらびとんそおど」というものでちんどんやの男女をばったばたと切り刻んでいき、おにーちゃんが更に。

「出てこいや、"さんどすとおむ"。舞え、五匹」と言って魔法の蛇が"ちんどんや"をズパン、ズパァンと削り刻んで、更に死体と血溜まりが増える。

 さんどすとおむが私にも使えたら。

 他にも魔法を思っても全く出る感じがない。

 いめえじはあるのだけれども。


 おかあさんをあのとき、獣の臭いと白い池に引きずり込んでいた、あの人どもと獣人ども。

 あれがあったから、おかあさんは身体を壊した。

 あの地獄の旅のなかで、何度殺してやろうと思った。

 どれぐらい地獄を見せてやろうかと思った。

 地獄を見せる前に私は明日を生きることが分からなかった。


 いつしか、その気持ちは引っ込んで、おにーちゃんに会ってひと目で綺麗と思って、おにーちゃんの子になって。

 おにーちゃんの"日本語"を覚えている内に、あのときの恨みと辛みが鎌首をもたげて私に襲いかかって。


 ごめんなさい、嘘を付きました。

 嫉妬なんかしないなんて言ったけど、実はしてしまう。

 主にお兄ちゃんに迫る、人、獣人族なら全員殺したくなる。

 セリスおねーちゃんは、私の目から見ると人族より魔族が強そうなので、気にならないけど。

 人族は、おかあさんを奪ったようにお兄ちゃんを私からきっと奪うから、絶対に許さない。


 だから、目の前のちんどんやも、人が中心のようだから絶対に許さない。

 絶対に殺してやる、絶対に壊してやる。

 でも、私には力がない。



――だから、願う。全てを壊して全てを殺す力を……!


「今、ここに……!」


 思わず、口に出してしまって、視界の端に映った夢の中で見たような気がする男女がニヤリと嗤った気がした。



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