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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-歴史の分岐点- 姫
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一日目朝 XI



 土煙が晴れたとき。

 そこに残るのは、大地が隆起しするも砕かれた大地にへたり込む、ゼルファーさんの姿。

 先ほどまでゼルファーさんが着けていたそこそこ立派だった鎧が、今や凹み砕かれ、丸盾は無い。

 回復術を使っているのであろう、身体全体が淡く緑色の燐光を帯びており、狙撃銃の銃弾が貫いたと思われる部分には、治りかけの銃創が見えるだけだ。

 しかし、それ以上に目を引く傷は、肩と腹から溢れ出る血の色。

 致命傷ではない。

 だが、勢い余ってやり過ぎた。


 罵倒されるだろうか。

 いや、絶対にされる。

 なんと言われるか。

 オウネさんとクオセリスから「よくも、ゼルファーを」とか言われるだろう。


「あー、降参しまーす」

 そんな俺の考えを否定するかのように間延びしたゼルファーさんの声が耳朶を打つ。

 その発言と同時に規定に設定していた『世界』が閉じられ、外界の音が聞こえ、風を感じるようになった。


「いやァ、強いねぇ。ここまで強いとは、予測してなかったよ。

いやホントにヤバいわ、これ。

これで手加減しているんだろ、流石"国墜とし"と自称するだけあるよ」

 アハハハとあくまで軽く乾いた笑い声が、広い闘技場に響く。


『世界』に覆われていなかった家人たちの様子を『戦熾天使の祝福』で視界強化させて見れば、各自千差万別の顔色をしていた。

 例えばエルリネは、全く心配していないかのようにニッコリ微笑っているし、エレイシアは凄いものをみたとばかりに目をキラキラと輝かせ、クオセリスは「よくも、兄を!」とか言うかなと思えば、彼女もエレイシア並に目をキラキラさせ、黄色い歓声をエレイシアと共に挙げている。

 対して、セシルは呆然としているのか口を開けて「ぽかーん」としており、オウネさんは顔色が土気色で、唇を戦慄(わなな)かせていた。


 実際に国を運営している身からすれば、この火力は恐怖以外の何者でもないだろう。

 俺が王族でこの状況を見たら「どうにかして、彼をこの国に縛り付ける必要がある」と考える。

 下手に牙を剥かれたら国が滅ぶ。

 更に国民総奴隷化の危険性もある。


 秘密裏に殺すと考えているか、味方で良かったと考えてくれているか。

 出来れば後者であってほしい。


 呆れたような乾いた笑い声が止んだときには、ゼルファーさんの肩と腹から溢れていた赤は、既に乾いているようで赤茶色になっていた。

「っと……。おっとっと」

 と、ゼルファーさんは立ち上がるも立ち眩みをしたようで、少々足元が覚束ない。

 それでもどうにか立ち上がれたようで、「さて、ウェリエくん」と俺に声を上げた。


「俺が認める、実力については申し分なし!

父が何と言おうとも(リーネ)のことは全て任せるよ、キミの子供が楽しみだ!」


 ……まだ、俺もクオセリスも子供なんですが。

 その点は無視ですかね。まぁいいけども。

「ときにウェリエくん!」

「はい、なんでしょうか」

「近いうちに学園に行くようだけど、学園がある大陸を渡るための船の席の予約取ったかい?」

「いや、取ってない。家人たちをお祭りで楽しませている間に、俺だけ港に向かって予約取ろうかなと考えてた」


「そうかそうか。じゃあきみのお義兄さんということで、この予約券をあげよう」

 そういって、俺にくれたものは学園がある大陸への片道切符六人前だ。

 あれ、一つ多いな。

「一つ多いけど、それは予備だよ」

 あぁなるほど。

「その券はどの日でも使えるものだ。きみの都合がいい日に使うといい」

「ありがとうございます」と言って頭を下げる。

 だが。


「頭を下げる必要はないよ」

 ……なにゆえ。

(ゼルファー)は王族であり、且つ、きみのお義兄さんではあるが、それ以前に俺はきみの友達だ。

ザクリケルニアからツペェアまで短い期間であったけど、友達だと思った。

年齢も一回り以上の差があるけども、友達だ。

その友達相手に頭を下げさせる奴がどこにいる」

「親しい仲にも礼儀はあります」

「それでもだ。

堅苦しい仲ではない。こういうときは『ありがとう』の一言だけいいんだよ」


 そういうことなら。

「では」

 ゴホンと一咳。

「ありがとう、ゼル」

「……!

ああ、どういたしましてウェル」

 驚いた顔から一転、いつもの柔和そうな甘いマスクで返された。


「……なんだよ、ウェルって」と苦笑いしながら聞いてみれば、「愛称だよ、愛称。ウェリエだと硬いだろ」と言われ、お互い同時に笑う。




短いですが、朝は終わりです。

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