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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-歴史の分岐点- 姫
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一日目朝 X

 普通の闘技場というのを見たことがないので分からないが、ここの闘技場はほぼ円状の敷地で、目視半径二百メートル程度の大きさを持つ。

 その半径二百メートル、直径四百メートルを『世界(ワールドスフィア)』で覆う。


――『世界』、半径二百メートル程度で覆え。観客(どくしゃ)は外せ。

 と、脳内で『世界』に命令を下せば。

――承知致しました。

 と、即座に了承の意が響く。


 結果、世界は『世界』に覆われ、観客は守られる。かと思えば、ギリギリ端っこが二百メートルの範囲から外れているようであった。

 観客の部分だけ切り取られたような、歪な球状ではなくちゃんとした球状の結界になるようだ。

 それならそれでいい。

 完全な球状になれば、綻びは出ずに割れる心配もない。

――観客、保護出来ませんでした。

『世界』の抑揚のない声が結果を応える。

――よい、気にするな。ありがとう。

『世界』を(ねぎら)えば、『十全の理』を経て返ってくるのは淡くも嬉しいという感情の感覚。


 元々魔法陣に個々の意識があるというものは、黒歴史ノートに描写した通りだ。

 少なくともウェリエがいる世界での『十全の理』は最終的にハッキリとした意識を持ち、主人(ウェリエ)の補助火力になる。

 そういった設定で、『竜風衝墜』や『吸襲風吼』が自我を持ったのがわかったのが、セシルと初めて会ったときのことだ。

 そう、空から落ちたあの時。

『吸襲風吼』が『竜風衝墜』に掛けあって「衝撃吸収(エアクッション)」を起動したといったあのとき。

 自我を持たなければ掛け合うことはしない。

 最近であれば、エレイシアに対する『永久不滅の誓文(インペリシャブル・エコー)』の感想。


 自我を持つ彼ら相手を道具扱いには出来る立場ではあるが、意識を持つ彼らを邪険に扱うことなど俺には出来ない。

 だから、基本的に彼らの望むことは聞く方針だ。

『最終騎士』と『前衛要塞』、『闇夜の影渡』辺りは移籍を希望しているので、『十全の理』が複製(レプリカ)を作成中だ。

 もちろん、オリジナルは移籍先に譲渡予定だが、誰に行くのが分からない。

 家人の誰かだろうか。

 複製が完了すれば、彼らから言ってくれるだろう。

 それまで待つか。


 なお、現状『世界(ワールドスフィア)』は移籍を全く希望しておらず、『蠱毒街都(ヴェナムガーデン)』、『奪熱凍結の言霊(ニブルヘイム)』などは良い相手がいれば移籍したいと言ってきている。

『最終騎士』ら三柱と『永久不滅の誓文』の複製が終われば、彼らの複製もしておきたいところだ。



 さて、自我を持って接してくる彼ら魔法陣らに話しかけている間に、イケメンお兄さんこと、ゼルファーさんがショートソードと丸盾を俺の出方を待っているようだった。

 隙だらけの俺を待ってくれたのか、はたまた出方を伺っていたのか、それとも警戒か。

 どちらにせよ、俺が動き出せばゼルファーさんが勝つ可能性は皆無。

 さぁ上級の強さを見せて貰おうか。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 初手は当然、ゼルファーさんに見せたことがある「雪山の吹雪(クレバスストーム)」だ。

 但し、ゼルファーさんに見せたものとは違い、精製魔力を突っ込んでいる上に、通常起動だ。

 つまりは高濃度の魔力による現象が発生する……!


 これを相手にぶつければ、牡丹雪などで確実に体温奪って身体能力を下げさせ、(ひょう)などで確実に傷を増やすというものだ。

 これだけでも十分強いが、これを自分に使うと自分にもそうだが、何よりも相手から見えにくくなる。

 つまり補足されにくくなるのだ。


 吹雪による視界の悪さと高速で舞う魔力の雪で、魔力検知はジャミング。

 雪によって、熱源感知はしにくく、また吹雪の音で音感検知も難しい。

 攻防一体の(わざ)

 この「雪山の吹雪」に対して、対策を考えた?

 馬鹿を言うな、これの対策は難しい。

 それこそ"生前"の軍用兵器のようなスキャニング能力があれば、対策を取れているとは言えるだろう。

 だが、この世界では軍用兵器など見たことがない。

 いや"宮廷魔術師"を兵器と称する国だ。


 スキャニング能力を持った宮廷魔術師はいないだろう。

 いや、どこまで能力があるかは分からない。

『要塞のリコリス』さんとまともに撃ちあったことがないので、底も上限も分からない。

 もしかしたら、基本能力でスキャニング能力があるかもしれない。


 だからこそ、この視界が悪い間に白のイメージを持つ魔法陣を召喚する。

 そいつを召喚すると決めたときから、「出番来た!」と喜んでいると『十全の理』から来ていた。

 だから今ここに呼び出す。


「来い、『戦熾天使の祝福(セラフィック・イージス)』!」


――『戦熾天使の祝福』を確認。……起動します。


 俺の掛け声に合わせて『世界』から魔法陣の召喚に対して許可が下りる。


 最初に現れるのは俺を中心にきらきらと舞い落ちる白光の粒子。

 燦然玲瓏とは違う、暖かみがある魔法の粒子。

 その粒子が俺の周りを覆い、魔法陣が現す人智を超えた異常は俺の背中、いや両肩に現れる。


 それは一言で言えば長い立方体の箱だ。

 基本色は純白で縁に金色の装飾があるが、必要以上の装飾はなく実用面しかない。

 長さは、俺の現在の身長を遥かに超えた二メートル五十センチメートルほどで、横幅は三十センチメートル、厚みは十センチメートル程度の盾というよりは細長い筒状の立方体。

 それが両肩に八本生え揃う姿はさながら天使の翼のよう。


 その翼を構成する巨大な立方体とは、"生前"の世界でいう大砲だ。

 だが、黒歴史ノートに描写された謎の技術によって、能力は大砲だけではない。

 ミサイルが撃てるし、狙撃も行える。

 もちろんレーザーも撃てるし、前述したとおりに大砲にもなる。

 要はこれ一つでどこぞのロボゲーで使用していた銃火器が使えるようになる。

 今回は最低起動で翼だけの召喚だが、通常起動であれば、脚甲、腕甲、鎧が装着され、手の甲にカタール状のブレードが装着され、それに併せて"日本語"能力とそれに追随するイメージ能力があれば両腕に、銃火器も装備できる。

 

 正に『戦熾天使』だ。


 片肩四門のそれらをアームでお互いを繋ぎ合わせ、背中の純白色で描かれた幾何学的な文様の魔法陣と接続。


 その巨大な砲塔の動作を安定させるために、『戦熾天使の祝福』が俺の身体を約五メートルほどに浮かせるも、ふわふわと浮いているため逆に安定しなそうだ。

 設定上の『戦熾天使の祝福』は高速機動と天使の羽による立体戦闘がウリの魔法陣で、俺の身長が完成する十五、六歳頃であれば、その設定通りの動きが出来るだろう。

 楽しみであるが、この魔方陣も移籍を希望している魔法陣なので、誰かに譲渡される予定だ。

 一応レプリカで同様の動きは出来るので、名残惜しいものの問題はない。


 戦闘(バトルセラフ)モードに移行しておらず、また機動(スピードイルネス)モードでもないときの、中立(ニュートラル)モードの『戦熾天使の祝福』の翼は内部に発生する、熱を逃がすために至るところを蓋が開き、蒸気が漏れ出る。

 今回はあくまでも『戦熾天使の祝福』の顔見せのイベント戦闘だ。

 殺さない程度に手加減するが、最低限変に避けるつもりで当たりに行かないで欲しいところだ。


 さて、こちらの用意は万端だ。

 吹雪が晴れたときに使うものは、「後方右一門、ホーミングレイ、ヴァーチカルレイ用意。後方左二門、対人狙撃用意」と『戦熾天使の祝福』に命令を飛ばす。

 それに対して言葉はなくとも、応えるは行動。


 左肩の一番外側と二番目の大砲がザルファーさんへ向く。

 溜め撃ちをするようで、砲口に白色の魔力素が収束していき、射出命令を待つ体勢になった。

 対して、ホーミングレイの方が命令された右肩の内側から二番目と三番目の大砲を覆っているカバー部分が折り畳まれ、現れるのは小指の爪程度の穴が開いている砲筒。

 それらの砲口も溜め撃ちをする狙撃銃のように、白色の魔力素の光がそれぞれの砲口に現れる。


 翼を使って浮いているのであれば、明らかに飛べていない状態ではあるが、そんな詳しい設定など入れている筈などないので、不思議パワーで浮いているということにしておく。


 吹雪が晴れたその瞬間を狙い、左肩の狙撃銃の射出許可を出す。

 その数刹那後、発生するのは「タァン」という射出音。

 二発の弾は同時に射出され、ゼルファーさんを射抜く。

 着弾場所は狙っていた、左足の甲とショートソードを持っていた腕。

 寸分違わず、肉を貫き骨を砕く。

 ザルファーさんに痛みを感じさせる前に、用意していたヴァーチカルレイを撃つ。

 射出された光の粒子によって作られた白色の線は、一度空へ垂直に登り、重力を伴い地に向かって一直線に墜ちる。

 

 線の先は返しのついた槍のよう。

 穿つは闘技場の地面。

 どの槍もゼルファーさんを避けて穿たれる。

 穿った魔力素の衝撃と過剰に含まされた大地へと、発生した結果は地形魔法の「激動(アップヘイバル)」を誘発。

 大地を砕き、地割れを引き起こす。


「あれ、これやり過ぎの部類じゃね?」と思ったところで、心にざわめく焦燥感。

 焦燥感が出した結果に応えるように、身体を後ろへ倒し『戦熾天使の祝福』の機動で移動すれば、俺がいたところに土煙と共にショートソードが宙を描くように振り切られる。

 土煙で見えにくい中でニヤリと嗤っているゼルファーさんの顔が、あの村で起きたことがフラッシュバックする。


 そのフラッシュバックによる恐怖を懸命に押し殺そうとするも、その一瞬のトラウマの発現を目ざとく『戦熾天使の祝福』が即座に認識、ゼルファーさんを捉えホーミングレイを射出命令を出していないのに射出する。

 その後に発生するのは目標追尾機構がゼルファーさんを正確に捉えましたとばかりに、その対象に殺到するホーミングレイ、約三十本。

 更に一瞬だけトラウマ発現により、気が緩んだ瞬間に射出されたのは、対象を補足し続け自律追尾しながらレーザーを撃つオービット兵器一門と、左肩からも当然撃てるホーミングレイ十五本。

 慌てて「待て!」と命令するも、その一瞬の間に射出してしまったものは、手加減なしの一撃一殺の攻撃。

 ホーミングレイが大地に当たれば、土煙が舞う。

『世界』の中で充満するのは、痛痒感を感じさせ、軽微とはいえ魔力汚染を引き起こす魔力素。


『世界』がなければこの世界は滅びかけていた。



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