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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-歴史の分岐点- 姫
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一日目朝 IX


 見たことがあるにーちゃんとはツペェアに来る前に、ほんのちょっと世話になったにーちゃんであった。

 たった一年、されど一年とはよく言うが、年齢だからなのか一年前と変わらず、落ち着いた雰囲気と柔和そうな顔。

 甘いマスクで女性を(とりこ)にする、そんなイケメン。

 ふと、よくよく考えてみれば、殆ど覚えていないが、確か雇ったとかなんとか言っていたと思う。

 セシルのお父さんはよく王族の関係者を雇えたものだ。



「その顔の様子だと、どうしてキュリアのおじさんに雇われたか、分からない様子だね」

 ……ほう、よく分かるな、こいつエスパーか。

「それは理由があってね。

簡単な理由さ。世間的にはゼルファーの名前を略してゼルって通しているからねえ」


 ……なるほど。

 末席かどうかはサッパリだけども、王族として表に出なければ王族として名前は知られても、顔は不明だし愛称と名前の区別は出来ない。

 で、知らずに雇った訳か。

 しっかしイケメン王族を、たった宿屋三ヶ月分で雇えるとは貴族のお嬢サマが知ったら、こぞって雇いそうだな。


「なに考えているか、分からないけどこれは秘密のことだから黙っておいてね」

 何故わかる。


 で。

「ゼルファーさんの身の上は分かりましたけど、何故この場に?」

「そりゃあ、俺の妹が結婚するって言うからさ。

どんな男性(ひと)かな~? っていう私的好奇心と、つまらなくも面白い仕事の件でここにいるって感じかな」

「……好奇心は満たされました?」

「うん、まぁ話には聞いてたからね。

大体予測は付いてたけども」


「……では、お仕事のお話というのは」

「結論から言うとさ」と、言うやいなやゼルファーさんは剣をスラっと抜いた。

 その剣の長さは五十センチメートル程度のショートソードだ。

 王族がよく持っていそうな、豪奢な装飾儀礼剣とかではなく、質素でありながら素人目でも分かる一品物。

 刃の輝きが鋼鉄モノではなく、魔力を感じる銀のようなモノで作られているようだ。

 そんなものを抜いて構えながら「俺と殴り合いしてくんね?」と、俺に聞く。


「殴り合い、というより斬り合いですかね」

「あっはっはっはっはっ、まっ、そうだね」

「殴り合いの意図は?」

「うーん、公的な理由と私的な理由があるけど、どっちから聞きたい?」

 どっちも教えてくれるのか。


「じゃあ、公的な理由で」

 ゼルは頷きながら。


「ほら、父はさ。

体型的にはガッチリしてはいるんだけど、俺たちみたいな戦闘に特化しているような筋力・魔力とか持ってないんだよ。

だからまぁ、普通の一般人相手なら『殴り合い』は出来るんだけども、俺と殴り合いしたら俺が圧勝だしさ。

まぁそういう訳で、俺が雇われたってわけ」


「なるほど」

「別に身内なんだから、俺の好奇心も満たせるし『遊び』扱いでいいのに、わざわざ丁寧に『雇う』もんだから、やらないといけないわけで。

……で、理由なんだけど。

雇用された際の依頼内容は、俺のお眼鏡に叶うほどの実力を持っているか、どうかって内容」


 ……私的な理由は……?

「で、ね。

私的な理由は、ウチの娘、または妹をこいつに託していいのかな?

っていうのが理由」


「…………、」

「俺自体は去年の盗賊らをなぎ倒していく姿を知っているから、まぁ強さ的には問題ない。

と、太鼓判を押せるのだけど。

如何せん、父と妹は報告の又聞きなんだよね。

結婚して一緒になる前に、旦那がここまで強いというのを、見せてあげたいなと兄として思ったわけでね」


 というわけで。

「というわけで、やり合おうか」

 と、ウキウキした顔でそう言われる。

 非常ににこやかだ。

 こういうのを好戦的な人物だというのだろうか。


「……別にやりあうのは(やぶさ)かではないんだけど、勝敗条件を教えて欲しい。

流石に殺しはしないけども、条件なしだと手足粉砕または切り落としで芋虫ってこともしかねないし。

もちろん、そういったこともそっちもするかもしれないし」

「あー、うーん。そういうことは、割と荒くれとかが言ったりするけど、宮廷魔術師とはいえ年端もいかない子供が言うと、違和感あるね」


「そう? よく言われるよ、別に家系に魔族はいないけど」

 と、俺は鼻で笑う。

 精神は二十七歳で止まってるお兄さんだしな。

 そういう意味ではある意味魔族か。


「じゃあね、まず勝敗条件だけど。基本は寸止めで、相手に降参を促しそれに応えさせれば勝利。

敗北はその逆。

行き過ぎたとしても、腕の切断までは可能。但し、本人が戦いたがっても、戦闘の続行は不可。もちろん、切られた方が負け。

恨みっこなし……ぐらい?」


「あとは、基本規定かな。

そうだな、基本的に俺とゼルファーさんの二人の戦いで外野は応援こそすれ、手助け禁止。

人質禁止。外野同士の喧嘩禁止かな」


 俺の発言にゼルファーさんも「うんうん」と頷いているようだ。

「これで、双方とも――」

「あ、もう一つ」

 途中で発言を遮られた追加規定は、「回復術はありで」とのことだった。


「回復術?」とはなんだろうか。

 回復薬(ポーション)のことだろうか。


「回復薬もそうなんだけど、回復魔法のことだね」

 相変わらず俺の疑問に答える人だ。

 ……この人はエスパーか何かだろうか。


「俺の強さって回復術ありきなんだよ。

出来ることならお互いの万全な状態でやりあいたい訳さ」

「……そうですか」

「まぁ、ウェリエくんが万全な状態だと、一瞬にして肉塊にされそうだけど、それはまぁ手加減して欲しい……かな?」

 惜しい。


「肉塊じゃない、炭の予定でした」

 ええ、「瞬炎(インシネレート)」か「赤熱の刃」で早期決着を考えてました。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 さて、王族に関して勝手なイメージだが、王族という生き物は『神聖』というワードにとっても弱いと思っている。

 というのも某カードゲームにおいて王様とか、君主といった、人族の王様は大抵『白』というカラーイメージになっており、そのカラーの主な戦術は軽い生物の早期展開による削り殺し。

 いわゆる、「ウィニー」と呼ばれるものだが、それはともかく、その『白』の強化魔法に『神聖な~』や『神の~』といったワードに「天使」という存在が割と多く現れる。

 要は「人族の王 ⇒ 白 ⇒ 神聖&天使」という至極単純なイメージだ。


 そんなわかりやすいイメージを、「黒歴史ノートに記載しない」なんてもったいないことはしない。

 結果、そのカードゲームの各色のイメージに合わせた魔方陣が生まれた。

 感慨深い白のイメージを持つ魔方陣を今ここに。

 この世界の王族がいるこの場で。


 作者の王族に対する回答を見せて魅せる。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 実力テストというものを行うことは歓迎したい。

 というのも博物館の植物園で魔草を灰にしたとか、あの鎧を鋳塊にした程度しか暴れておらず、ぶっちゃけて言えば欲求不満だ。

 主に暴れる方向で。

 魔草のときはそこそこではあったが、いかんせん観客(どくしゃ)がいないので暴れた感がなかった。

 鋳塊のときは、観客がいるにはいたが暴れたというよりも一瞬で終わらせたという認識で、ちょっと不満でもあった。

 だが、今回は違う。

 当然のごとく色々縛りがある――やり過ぎずに手加減するとか――が、観客はおり、自分の家人がいるため「流石ご主人様!」が期待できる。

 

 だが、俺の一撃一撃は今までのところから見て、明らかに"国墜とし"が出来るバ火力が主体だ。

 相手に手加減はもちろんのことだが、観客までに気を使うことは正直に言えば出来ない。

 だから。


「聞いていたな?

俺と彼の者との外界を遮断しろ」

 という俺の呟きに、エルリネ以外の総人物たちは訝しげに俺を見やる。

 当然だ。

世界(ワールドスフィア)』はエルリネ以外には、まともに見せたことがない。


――『世界』起動します。


 と脳内に女性の声が響き、発生する現象は俺とゼルファーさんのいる世界と外界の隔絶。

 それに伴うは、半球状に切り取られた地球のような形状の結界。

 "生前"で宇宙がテーマの映画とかそういったものでみた地球のように、暗い中でも青暗く、仄かにぼうっと蛍光する半球状の結界。


 魔方陣に描かれている幾何学的文字か紋様はなんだろうとか思っていたが、『世界』の魔方陣はなるほど、この世界の言語と地図のようだ。

 学んでいないとわからないこの事実。


 言語の部分の意味は分からない。

 だが、文字と世界がこの『世界』に表示されているのであれば、これは新しく文字通りの『世界』を構築するものだと、なんとなくわかる。

 そういうものだ、きっと。

 多分、ここではない別の異世界で『世界』を起動すれば、その世界に合わせた世界地図と言語が出てくるのだろう。


 閑話休題。


 そんな世界を現した魔法が、俺が放つ暴れ狂う魔力に耐えるためだけに世界を構築した。

 この世界から外された家人たちと王族は、きっと至近距離での"作者"にだけ許された火力を見て恐れるだろう。


 エルリネは何があっても、俺と共に歩むといった。

 だから、彼女には惜しみなくバ火力を見せつけた。

 それでもついてきた。

 だからきっと、彼女は大丈夫だろう。


 エレイシアとセシルと、新しく迎いいれたクオセリス。

 彼女たちはどうだろう。

 ちびっこたちが夢を見て憧れるという、『魔法王』でも『魔族たちの王』の『魔王』ではなく、本当の意味での世界を滅ぼす『魔王』の力。

 化け物といって恐れるだろうか。


 この力を持ってしても憧れてくれるだろうか。

 エレイシアとクオセリスの一目惚れという言葉一つで、どこまで付いてきてくれるだろうか。

 全ての力を魅せた上で付いてきてくれるだろうか。


 ……その未来のための力を見せる第一歩がこのゼルファーさんとの戦いだ。


 

「こっちは準備整いましたよ。さ、やりましょう。ゼルファーさん」

「いや、まったまった。リーネと父と君の家人はどうするのさ」

「大丈夫ですよ、僕とゼルファーさんとで世界を隔絶したので、彼女らに危害は及びません」

「いやいや……、もしそうだとしても信じられないに決まっているだろう。こんな状態でやられたら、普通に人質を取られているようなもので……」


 それもそうか。

 声を張り上げて「エルリネ、彼女たちをもっと遠くへ。こいつの規模はわかるだろ!」と約十メートルほど離れた彼女に伝える。

 それを聞いたエルリネら、家人とクオセリスと父王も一緒に闘技場の端っこに離れる。

「闘技場の端っこに行くぐらいだったら、観客席に行けばいいのに」

「あはははは、ちょっと気づかないみたいだね。

ま、気持ちはわかるよ。

現役宮廷魔術師のなかでも、最強と名高いウェリエくんと上級の俺との差合い。

実際に戦う側ではなくて、観る側だったら今頃『早くしろ!』と騒ぎ立てちゃうね」


 娯楽ない世界だと、そういうもんなのかね。

「とはいっても、いざ戦う側になるとこの状況が非常に怖いんだけどね」

「何故?」


「いや、きみの「雪山の吹雪」を知っている身からすると、あんなものがきみからびっくり箱のようにたくさん出てくるってことでしょ。

実はね、あの場でウェリエくんと離れたがったのは、その火力の自衛研究のためにさっさと離れたかったんだよ」

「…………そうなんですか」

「うん、いざ「雪山の吹雪」を使われたらどのように逃げるか、どのように避けてきみに一撃を当てるか。

そんなことを考えてた」


「結果は、見せてくれるんですね?」

「…………結構、嫌なこというね。まあただでは負けないよ。

腕一本とは言わない。妹が悲しむしね。

でも、指一本ぐらいは覚悟して貰う」

「分かりました。では、僕からは。

剣を握れないぐらいに砕いてやるから覚悟しろ、と言っておきます」


「流石、強者の余裕さが見て取れるね」

「いいえ、弱者ですよ。弱者は大言壮語吐きたがりますから」

「…………『大言壮語』ってなに?」

 え、知らないの…………?

 

 と思ったところで、気付く。

 エレイシアやエルリネらと日本語で会話していると、忘れがちになるがこの世界、そもそもとして異世界だ。

 (ことわざ)、四字熟語を前のように使っても、分かるわけがない。

「あーえっと。

弱い奴ほどよく吠えるって奴ですね、うん」

「な……なるほど?

まぁいいや。じゃ離れたことだし始めようか」


「ええ、始めましょう」



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