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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-歴史の分岐点- 姫
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一日目朝 IV

 決意を新たにしたところで、ふと視線を感じ、落とした視線を上に上げれば。

 ネコ顔のおっさんは寝ていた。

 ……おいおい、いいのかよ。職務中じゃないのかこのおっさん。

 っていうか、リアルで鼻ちょうちんとか初めてみたのですが。

 呼吸に合わせて風船が膨らんで萎む。

 見事な寝っぷりである。


 ではなくて、視線を感じて前を見れば、真向かいに座っている男の子が俺を見ていた。

 このツペェアの人間に多い目の色は碧眼だ。

 ただ彼の碧眼はちょっと他人と違うようで透明度が殊更に高い。

 イメージで言えば、蒼天か。


 一応こう見えても厨二病患者で、作家を目指しそして結局自分の妄想を形にできず死んだ俺だ。

 だから、こういった他人と違うところを見て、素直に感嘆するしそれを特殊な力が云々とか言ったりする。

 最近はそういうことはしないようにしていたが、やはり本物を見てしまうと言ってしまうようだ。

 そう、彼に。


「――綺麗だね」


 と、言ってしまった。

 俺はホモではない。

 しかし、今の言い方からして容姿に対して言っているようにも聞こえるだろう。

 勘違いをされて、実は彼にそのケがあって本気にされたら困る。

 慌てて言い間違いを訂正しようと、口を開けたところで彼が「何が?」と聞かれてしまった。

 男性というよりも女性っぽい声だ。

 だが、"生前"の友人に職場の上司は、電話口で女性と間違えられるような声を持っており、電話口の相手から「奥様ですか? 失礼ですがご本人を」と言われ、最早事務的に「いえ、本人ですが」というやりとりを何度も見た。

 多分彼も、そういう類だろう。


 いやまあしかし、「何が?」か。

 聞き間違いか何かでスルーしてくれれば、やりやすかったんだが。

 今更言い間違えたなんてことは言いにくい。

 よって正直に言う。



「その目の色だよ」

 事実、その目の色を見て綺麗と思ったのだ。

 嘘偽りは無い。

「そう、ありがと」

 と、言って彼はそっぽを向いた。

 なんとなく顔が赤い。

 多分きっと彼は照れているのだろう。


 これで男の子の心を握った、この調子で学園に行けばきっと男だけで「友達百人できるかな」の歌が歌えそうだ。

「ねぇ、どんなところが綺麗だと思った?」

 と、彼から目に関して感想を聞かれた。

「そうだなぁ、今日みたいな蒼天の色かな」

「そうてん?」

「そう、蒼天。

ちょっと馬車の屋根があるから見難いけど、今日は青空でしょ。

感覚で悪いけど、その青空よりももっと青く青くそれでいて澄んでいる色のこと、かな」


「よく……、わかんないや」

「まっ、そうだよね。わかりやすく言えば、他の人よりも澄んだ青空の目をしているから綺麗だな、って言ったんだよ」

 蒼天もしくは無色の水晶とも言えるが、この世界に水晶なんて鉱物があるか分からないので黙っておく。

「そうなんだ」

 ほんのさっきまで無言だった彼は、俺に話しかけてからというものの話すようになった。

 内容は、その目の色で虐められているとか、セシルたちのことや"宮廷魔術師"のことだ。


 流石に男の子だけあって、"宮廷魔術師"のことが興味あるようで、根掘り葉掘り聞かれた。

 もちろん、俺にも俺TUEEEEってことを聞いて欲しいし、それを聞いて感想も言って欲しい。

 要は「流石、ご主人様!」で認められたいという欲か。

 だから、話した。

 宮廷魔術師として力を振るった博物館での出来事とか、あの滅びかけた森の出来事などをだ。

 もちろん、『マンディアトリコス』もとい『ニルティナオヴエ』のことは黙っておく。


 いや、凄いね。

 ほんのさっきまで蒼天のような目の色で、微妙に軽めにレイプ目のような虚ろな目していたが、今じゃ目を輝かせていてずっと続きを催促される。

 その食い付き方も、エレイシアのようで空目した。 

 ちらと隣を見れば、我が家の家人たちも続きを聞きたがっているようで、話もせずにじっと俺を見つめている。

 結局、時間にして約一時間ほどエレイシアと出会う前の滅びかけた森の中の出来事を、子どもたちに絵本を読むかのように語り、ちょうど森から帰り植物園の扉が消えたところを話し終わったとき、ネコ顔のおっさんが起きた。

 ちょうど、式典会場に着いたようだ。


 このネコ顔のおっさん、自動人形か何かだろうか。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 馬車の扉を開けられ外へ出てみれば、式典会場が目の前にあった。

 どうやら式典会場は闘技場のようだ。

 というかツペェアにあったんだな、闘技場。

 そんな式典会場の開会式も時間的にはそろそろ終わりのはずらしいが、長引いているようだ。

 なんでも、さるお方とやらの話が少々長いらしく、時間になっても終わらないとかなんとか。


 いるよな、校長だか理事長だかが開会式にしゃしゃり出てきて、ひたすら話が長くて日射病とか、貧血起こさせる輩。

 流石に日射病とか貧血の類を起こしてはいる人はいないようだけども、だらだらと話が長いのはどうにかすべきだ。

 話が終わり、開会式も終わったのが、俺たちが着いてから大体三十分程経過してからだった。

 ちなみに、その三十分で博物館のお話も終わった。


 開会式が終わり、闘技場の出入口からわらわらぞろぞろと人が出ていき、漸く周辺から祭りらしい賑やかな音が聞こえだす。

 これだよ、この音だ。

 人々が歩く不協和音。

 ざわざわと楽しげでありながら、何を話しているか分からない雑音。

 そして客引きの声。

 微妙に聞こえる怒鳴り声。


 そしてあちらこちらから漂う、屋台の飯の匂い。

 魚などの海鮮物の塩焼きの匂いに、鳥などの肉をサイコロ状に切った串焼きの焼けたタレの匂い。

 味は全く違うが、"生前"の世界で言う醤油と同じ使い方をする、魚ベースのどろっとしたタレは中々に美味で、もしこの場に醤油があっても、迷うこと無くそのタレを選ぶぐらいに、美味いタレの匂いだ。

 あまりにもツペェアの家庭に出回っているので、特産品として見られていないようだが、これは間違いなく売れると思う。


 さてこの面倒なイベントをこなせば、あとはめくるめく家人たちとのお巡りになる。

 楽しみで仕方がない。


 闘技場の出入口から完全に人が出てこなくなったころを見計らい、中に入るところで、例の男の子とネコ顔のおっさんは一緒に入れないとのこと。

 なんでも、身分が違いすぎるようだ。

 よく分からないが、身分がそうなら仕方がない。

 今までの案内にお礼を言い、闘技場の門を潜り、うねりにうねった順路を歩き進み、結果観客席ではなく闘技場に出た。


 そこにはさるお方こと、オウネさんとやらと、儀仗剣を持った騎士が並んでいた。

 そのオウネさんの隣には見たことのあるにーちゃんと、見たことのないセシルのような背丈の女の子もいた。

 セシルがいるところから衣擦れの音がしたため、ふと見やれば片膝を着いて頭を垂れていた。

 どうやら、本物らしい。


 エルリネも自然に片膝をつき、頭を垂らし、その光景に見よう見まねで真似するエレイシア。

 そして、俺も急いで片膝をつこうとしたが、「お前は頭を垂らずともよい」と止められた。

 発言した相手を見てみればオウネさんだった。


 有力貴族相手に頭を垂らさないって、どういう関係になるんだろうか。 




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