魔族③(メティア視点)
自己紹介をした仲とはいえ、お互い話しかけたりしなかった。
私自身授業中は無駄口を叩けるような、余裕のある授業ではなかったし、
彼、ミルも授業中は凄い汗を流しながら、魔法を使ってて話しかけられる雰囲気ではない。
きっと火属性が強いとはいえ、使うための魔力がないのだろう。
そういう意味では私と同じ種類の人なんだろう。
ただ、違うのは努力した結果、出せるようになったミルと、努力しても全く出ない私。
似ているようで天と地のほどの差がある。
お母さんは仲良くしておきなさいと言っていた。それでも私はミルに取って見合わない、友だち甲斐のない奴だと思う。
なにせ、社会的地位に必要な魔法を、それも生活魔法が使えないのだ。
そんな奴を友だちにしたって、ハブられるに決まっている。
私のせいで孤立させてしまうのも嫌だ。だから話しかけない。
ミルの傍に立てるように、あのお姉さんほどにはなりたくはないけど、一日だけお姉さんだもの。少しでもお姉さんらしいところを見せたい。
だから休み時間も使って生活魔法の発現に取り組む。
唸っても当然出るはずはない。それでも唸って水を出そうとする。
ミルは無属性だと言っていたけども、実際は火と水の魔力の色が出ていた。
つまり、私も水だけではなく他の色、他の属性も試せばきっと出来ると考えた。
だから、早速火の生活魔法を使ってみた。
気づけば保養室だった。
聞けば慣れていない反属性の魔法を使うと、急激に魔力が尽きて倒れるとのことであった。
この現象が起きるのであれば、私は魔力があることが確定した。
ただそれでも、水が出なかった。
私が保養室から出たときにちょうど、お昼の鐘が鳴った。
れっきとした理由があるとはいえ、授業を休んでしまったのにご飯を食べる。
なんだかイケナイことをしたようで、心が苦しくなった。
だから、お弁当を教室で食べずに外の森の近くで食べることにした。
家政婦さんが作ってくれた、目玉焼きは好物なのでいつも一番最後に食べる。
今日のご飯は黒パンのようだ。
硬くて歯ごたえがあって、昔住んでいた街の白パンより美味しくないけど、目玉焼きに合うから大好きだ。
この食感が癖になる。
一頻り、食事を堪能したところで、お昼の授業開始の予鈴が鳴る。
急いで教室に戻らないと、午後の授業も欠席になってしまう、だから学校に向かって走った。
そのときに何故かお母さんの魔力のような、ピリピリとした痛痒感を感じた。
……え、お母さん?
と思わず振り向いたとき、目の前が朱に染まり、一瞬遅れて轟音が聞こえた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
音と衝撃で私は吹き飛ばされた。
雷の轟音のような音だった。
頭がグラグラと揺れて、耳がキーンといっている。
森の入口は破壊されていて、爆心地と思われるところは大きく円形に凹んでいた。
その周辺はえぐれた地面の分が山盛りになっていた。
森の木々は倒れているとかそういった生易しい表現ではなく、千切れていた。
好奇心が勝ってしまい予鈴が鳴ったことを忘れて、ついその惨状を見てしまった。
ピリピリとした痛痒感を感じた。だから、この現象は間違いなく魔法による一撃。
でも、桁違いだった。
お父さんの本気の魔法を一度だけ見たことがあった。
それと比べると、雲泥の差があるほどにこちらの魔法は威力があった。
魔法のあの痛痒感も一瞬だけだった。
つまり、即時発動した訳だ。
桁違いだった。
そして、この魔法の属性が分からないのも理由だった。
こんなに綺麗に円形の凹みを作るということは、地属性魔法かと思えば、あの轟音と朱色の光の説明が付かない。では火属性かと言えば、火属性にしては精密な円形だ。
だから、分からない。
結局、分からない尽くしであったところで、予鈴の存在を思い出した。
急いで帰ったところ既に授業をしていて、物凄く入りにくかった。
でも、逃げることはできない。
だから教室に入り、遅刻したことを詫びると、お爺さん先生は私を抱きしめた。
「無事で良かった」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……無事?」
私が固まっているとお爺さん先生は話を続ける。
「先ほどメティアくんが、お昼休みに森の近くに行ったのを知っておる。
そしてその森の近くで、謎の爆発音が聞こえたのも知っておる」
だから、
「メティアくんが、巻き込まれたのではないか」と、心配していたとお爺さん先生は言っていた。
「心配を掛けてごめんなさい」と先生と一緒に授業を受けていた学校の人たちに謝る。
学校の人たちを見ると、一様に心配してそうな顔をしていた。
……私みたいな属性だけの無能でも、心配してくれるのか。
などと考えていると、ミルが心配とはまた違った青い顔をしていた。
……あの顔は恐怖を感じているときの顔色に見えるし。ミルもあの朱の光を間近でみたのかな。
私とミルの二人で秘密裏に謎の魔法を見たと思うと、私は何故か嬉しくなった。
たしかにひとつ間違えると、死んでいたかもしれないけど。
その日の午後の授業は実践魔法ではなく、座学になった。
座学は村の出来事と、この国の歴史とえらーい人の言ったことを覚えるというもの。
私にとって歴史とえらい人の言っていることは、今ひとつ理解出来なかった。
けれども、この不便な村、ミルがいるこの村が、とても好きになった。
その日の授業はずっとミルの気配を感じながら座学に集中した。
ルビの使い方を変えます。ルビのほうがこの世界の言い方になります。
変わってないのでちょっとテストでもう一度編集します。(10/2 10:45現在)
まだ変わらないのでもう一度編集します。(10:47)
ルビの方を日本語にします。重ね重ね申し訳ございません。(10:48)