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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-歴史の分岐点- 姫
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一日目朝 II

 今日の朝食はツペェアで穫れる魚を焼いたものだ。

 これもまた、鍋物のように好みが激しく別れる食べ物のようで、少食組のエルリネが魚を食べれなかった。

 曰く「生臭い」とのこと。


 しつこいようだが、俺は元"日本人"なので抵抗はない。

 エレイシアは元々海が近いところの出身なので、慣れてるらしい。

 ザクリケルの人間であれば、魚は主食ってことでセシルもノープロブレム。


 だが、エルリネは違っていて、基本的に陸のものが好みで肉野菜、木の実が好物でなんでも食べる。

 だが、魚の臭さがどうしても駄目らしい。

 焼いても微かに匂っているらしく、顔から直角水平になっていた笹穂型の耳が、鋭角に下降するところからみて、彼女にとって我慢できない臭いだというのが見て取れる。


 栄養面的にも家人の協調性のためにも、食べさせるべきなんだろうけども、無理して食べさせて身体を壊される方が駄目なので、エルリネには特別に魚の代わりに肉を食べさせている。


 つくづくエルリネには甘いな、とは思うがこの処置に関してはエレイシアは何も言わないし、当然セシルも言わない。

 ちなみにセシルは、鍋といった料理法について抵抗があるようだが、食材に関しての好き嫌いは今のところ聞いたことがない。


 なお、エレイシアは食材と料理法について全く好き嫌いがないようだ。


 エルリネとエレイシアは同一世界の登場人物で、好き嫌いに関してはあまり設定していない。

 ただ、森人とセイレーンという海人のくくりの人種に、森人の方が魚が駄目となれば海人は肉が駄目とかになりそうなもんだが……、なんて思ったが蓋を開けてみれば、彼女は非常に雑食だった。


 この世界でも悪魔の魚と評される蛸も、うなぎを食べたり、当然例の猫肉に鳥肉も食べる。

 野菜も食べる。

 先日の夜にも考えたことだが、バクバク食べないと歌うためのカロリーを稼げないのかもしれない。


 とにかく、事情のなかで今日の朝食は美味しそうな匂いのする焼き魚だ。

 それもアジの開きだ。

 厳密というか名称がアジではないが、味も見た目も正にアジ。アジなだけに。


 箸を使って綺麗に食べる俺と、先割れスプーンを器用に使って食べるセシル。

 豪快に頭からバリバリ食べるエレイシア。


 エレイシアもエルリネと同じように我が家のオチ担当になりそうだ。

 ちなみにエルリネは魚臭い空間の中、干し肉を食べていた。

 嫌いな匂いのはずなのに、よくいられるなエルリネは。


 ――ごん、ごん。 


 食事中にて、不意に玄関の戸がドアノッカーで叩かれた。

 ……はて、だれだろうか。

 家賃取りに来た人だろうか。

 しかし、家賃の類は今まで払ったことがない。

 もし払うことになっても"宮廷魔術師"のとんでもびっくりな金額で、向こう五年分は支払えるだろう。

 とはいっても、あと一週間程度しかいないのに一年分滞納していたとしても、あと四年分は過剰な金額だ。


 とか考えても仕方がないので、仲良く朝食を食べている彼女たちに断りを入れて玄関の戸を開けたそこには……。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「お初にお目に掛かります。宮廷魔術師ウェリエ様」

 ……誰だ、このおっさん。

 戸を開けるとそこにはくたびれたネコ顔のおっさんがいた。

 朝の涼しい時間だというのに汗でてらてらしている。


「ええと、どちらさま……ですか?」とくたびれたネコ顔のおっさんに誰何したところ、「これは失礼」と言いたげな顔して、そこそこ広いデコを肉球の右手でペチっと叩く。

 というかこのおっさん、ちらっと見えた肉球からして本当にネコか。


「私めはザウレル、ザウレル・コムソーと申します」

 ……いや、名前が分かってもどういう人なのか分からない時点で……、いやそう突っ込むのはやめとこうか。

 と、くたびれたおっさんを見ていると、またおっさんは肉球でデコを叩き、「あぁ私めがどんな者か、分からないご様子ですね」と俺の疑問に答えてくれるようだ。


「さるお方、いえここだけの話、オウネ・ザクリケル様の付き人でございます」

 ……ザクリケル。家名が国の名前からして王族だろうか。

「よく分かりませんが、この国の代表者みたいな方ですかね」

「ええ、わかりますか」

「そりゃあ、家名に国名が入っていれば、わかりますでしょう」


「流石、宮廷魔術師ということだけはありますね。

中々ご存知のようで」

 ……それは常識の範囲内じゃないかな……、まあいいけども。


「ええと、そのさるお方の付き人様が何故この家に……?」


「あ、これは大変失礼致しました」と言って、ネコ顔のおっさんはゴホンと咳を一つ。

「私めはウェリエ様をお迎えに上がりました。

ささ、私めと共にあの馬車へ」

 と言って俺を促そうとする。


 それに対して「……はぁ」と、俺はこれ見よがしに気の抜けたような返事を返す。

 予測はしていたが、ちょっとあからさまである。

「あー、すみませんが家人が三人いるんで、家人らも連れて行きたいのですが」


「あぁそうでしたね、ウェリエ様はそのお年で奥様が二人……。

……あれ、三人ですか?」

「ええ、先日一人増えました……、でなくて妻ではなく奴隷が二人に増えただけです」

 この国の奴隷観は比較的緩いが、貴族共がどう考えているかについては未知数だ。

 だから努めて、モノに近い考えを先に出しておく。


『郷に入れば郷に従え』だ。

 俺がどう思ってようが、考えていようが、我を通すにはまだまだ力も、能力も年齢も足りない。

 外面上は道具扱い。

 内面、いやプライベートのときは家族として見る。

 ということは既にエルリネにも通してあるし、エレイシアにも言ってある。


 二人共(内一人はぽんこつだが)聡明なので、直ぐに『郷に入れば郷に従え』の概念については直ぐに理解してくれた。

「奴隷……ですか」

 訝しげな顔で俺を見る。

 当然か。

 エレイシアが我が家に来てから、ほぼはや三ヶ月。

 

 公的手順を踏んだ奴隷が我が家に入ったなんて情報は、入っていないのだろう。

「ええ、奴隷ですよ。

……『奴隷落とし』しましたが」

 ネコ顔のおっさんの顔が目に見えて、驚愕に目を見開かれる。

 その反応も想定内。

 下衆と罵られようが、エレイシアのためにもやらざるを得ない処置だ。

 そうでなければ、彼女は孤児院送りだった。

 彼女の涙のためにも、これに関しては俺が矢面に立つ必要がある。


 ちなみに丁稚奉公(アルバイト)先のおじさんと、おばさんは多くを語らずともエレイシアの左腕に施された精神の願望(どれいもん)を見て、ちょっと顔を顰めたが特に聞いてこなかった。

「個人的な興味なのですが、宮廷魔術師に対してどのような無礼を働いたのでしょう?」

 耳打ちするように俺に聞くおっさん、それに対して俺は「おじさん、本当に……聞きたい……ですか?」と、俺は精一杯悪そうな顔で聞いてみる。

 すると、ネコ顔のおっさん青くなった顔で、首を横に振る。


 本当は全く何もやってないんだがな。

 奴隷紋に見えるだろうけど、全然違うし。


「というわけなので、家人たちを外行きの服装に着替えさせますので、少々中でお待ちください」

「立場いえ階級上、宮廷魔術師様より下なので外でお待たせさせて頂きます」

「そうですか、ではお待たせさせて頂きます」

「はい、それでは」


 玄関の戸を閉めたところで、向こうからああは言ったものの待たせるのも悪い。

 さっさと着替えて行こうかなどと考えながら、居間の戸を潜れば既にセシルたちは外行きの服装になっていた。

 着替えるのが早い。


 時間にして一、二分も話してはいなかったのに、既に着替えていた。

 超スピードとか催眠術(ry

 着替えるのが早い理由について聞いてみれば、エルリネのわんこイヤーが傍受したらしい。

 流石わんこ属性のダークエルフだ。

 だとしても、早い。


 とか、なんとか言っても別に勝負しているものでもないので、着替えを理由に話を切り上げて自室に戻る。

 動きまわってもいいような、服装に着替える。

 卸したてホヤホヤの服で、身体にしっかりフィットしており、動き易い。

 胸ポケットもあるのでトカゲくんの定位置も完備だ。


 念のため、服に魔力を流す。

――魔力の阻害感覚も無い。

 何かあっても即座に動けそうだ。


――さて、鬼が出るか蛇が出るか。




故事部分修正(1/4 22:00)

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