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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-歴史の分岐点- 姫
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一日目朝 I

 あなたの血に刻んだその知識はボクを縛る魔法のことば。

 

 そのためならばボクは、あなたの盾にも鎧にも、そして剣にもなる。


 だから、どうか。


 ……ボクたちを頼って下さい。


 古代の歌詞の碑文:血識騙る蒼くて青い海:-イニネス・メルクリエ-




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 祭りとは、神を祀り豊作・健康祈願やら感謝したりする行事というのは、"生前"の世界での"祭り"の定義だった。

 というのは表向きで、大抵の人間は出店と仲間内で楽しむというのがメインだったと思われる。

 ではこの世界での"祭り"はどうかといえば、そっくりそのままでその認識でいいようだ。


 というのもツペェアにほぼ一年住んでいたが、神社とか教会といったようなモノはなかった。

 それなのに、このように祭りがある。

 神がいないのであれば祀る相手がいない。

 では何を祀るのか。

 その回答はこの日、知った。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 

 今日は非常に楽しみにしていたお祭りの日だ。

 どれぐらいかというと、昨日の就寝時に楽しみにし過ぎて眠れなかったぐらい。

 その所為で今、物凄く眠い。

 戦闘なんて早々起きる訳がないし、眠さで遅れなどまずない。

 害意反応で「自動起動」にセットされた「重力」が自動発生する。

 しつこい相手であれば攻性魔法の「重力杭」に変化し、骨を砕く。

 大抵砕けばおとなしくなるだろう。


 もちろん害意ではなく、暗殺系であっても『十全の理』があるのでまずそんな心配は杞憂だ。

 他にも俺と固まっていれば『前衛要塞』が仕事をしてくれるだろう。

 いや、セシルを中心に展開させておけば問題ないはずだ。

 防御面はこれでいい。


 あとは、攻撃面だ。

 俺は家人に認められるほどに、大破壊系の魔法使いである。

 流石"宮廷魔術師"の面目躍如といったところだろう。

 だが、祭りといった一般人が多いところで、暴れる核弾頭は迷惑以外の何者でもない。

 いや、迷惑ではない。

 一種のテロだ。

 人混みの中でいきなり破裂する爆弾とかありえない。

 

 たかが襲われただけで、辺り一帯を重力の押し潰しが発生する。

 何も知らない人たちから見ればテロだ。テロ以外の何者でもない。


 対象指定の魔法が無さ過ぎる。

 いや、あるにはある。

瞬炎(インシネレート)」だ。

 だが「瞬炎(インシネレート)」では威力が高過ぎる。

 だからといっていきなり「重力杭」は駄目だ。

 ごりっといってしまう。

 ということで結局のところ、「重力」しかなかった。


 さて、眠気がありながらも頭と目が覚醒してしまっている現在、大体朝六時。

 今から寝るには遅すぎる。

 だが、セシルたち家人を待つには、時間がありすぎる。

 というわけでやったことは、俺の部屋に置いた鉢で生えているニルティナオヴエ――略してニルティナ――に独り言だ。

 ニルティナも寝ているかもしれないが、嫌だったら人化して否定でもしてみろとばかりに、独り言だ。

 内容はニルティナの名前の由来の世界のお話。


 稀代の薬術士としての一生と、"作者"と主人公がどれだけニルティナに対して思っていたか。

 その辺りを念入りに、設定を話しまくった。


「というわけなんだよ、ニルティナ」

 心なしか、ニルティナの双葉が揺れたように見えた。

 朝一発目に連々と設定なんぞ話されても大迷惑だろうが、嫌なら人化してから嫌がれってんだ。

 というわけでひたすら話し続ける。

 ニルティナに話し続けている内に、空が白んできた。

 頭と目は相変わらず覚醒しているが、相変わらず身体が眠いと言っている。

 ……これは、きっと昼間に眠くなるパターンだな。

 先ほど無理してでも寝ておけばよかった……、などの後悔先に立たずとはよく言ったもので、まさにあとの祭り。

 祭りなだけに。


「……、そういえば"生前"の話した上で、このように設定の話をするなんてニルティナが初だな」

 その呟きを漏らしたとき、ニルティナの双葉がピクピクと揺れる。

 どうやら、反応してくれたようだ。

 ……可愛い奴め。


 しかし実際、その通りで初めてだ。

『この世界は、俺の妄想が形になって動いている』なんて呟けば頭のおかしい人だろう。

 だから姉さんにもメティアにも、当然セシルとエルリネにも話してない。

 いま、この部屋には俺とトカゲくんとニルティナしかいない。

 人化したら分からんが、少なくとも現状は誰も俺が"作者(かみさま)"だと思われてはいない。

 つまり、この場はどれだけ妄想を垂れ流してもOKな場だ。

 だから垂れ流す。

 ニルティナとその薬術士の友人である、両性具有の精霊の話を。

 ニルティナは生物的な毒使いだったが、その精霊は化学的な毒使いだ。

 

 それの設定の古さはエルリネ以上に古い。

『吸襲風吼』並とは言わないが、それでも相当古い。

 キャラクター設定集の中でも、一番設定が濃い。

 殺しても死なないという最強の師匠枠。

 精霊であるが故の、絶対的な魔法防御力。

 魔力素で構成された身体のため、物理防御力はやたらと高く、永く生きているが故の知識まで併せ持つ。


 主人公が仲を橋渡ししたお陰で、お互いの仲が良くなる。

 そこまでも話した。

 話している間、ニルティナはその双葉を揺らす。

 そしてトカゲくんもいつの間にか起きていた。

 一対の瞳と苗が俺を注視しているような、錯覚に陥る。

 トカゲくんの見方が、「続き、続きを」と言っているようにみえる。

 勝手ながらも、その姿に笑みを漏らす。


 興味ありげに見られているその姿は、"生前"には無かった読者のようだ。

 この場には妄想を垂れ流す"作者"と"読者"しかいない。

 この空間にいられるだけで、今とても幸せだ。


「このニルティナの友人の名前はね。

パイソ・フォルティーネっていうんだ。


凄いんだよ、この人は。

事実上死なないし、寿命を迎えることもない。

だから自分の人生に飽いていて、両性具有であるが故に女性になったり男性になったりしていた。

そしてオンリーワンである、毒能力で周辺に破壊を(もたら)すから誰も近寄らない。

だから孤立して更に飽いて、主人公に会って、ニルティナを紹介されるんだ。


あとは物語が終わるまでずっと仲良し。

その後は特に描写ないけどね。

きっと多分仲良しだと思う」


 この話をしている間、トカゲくんは微動だにしなかった。

 狂人の戯言だ。

 多分きっと呆れているのだろう。

 それでもいい。

 小動物と植物が相手の"読者"でも。

 

 暇潰しに語る狂人の戯言でもいい。

 "生前"に語れなかった、この話を、この妄想(おもい)をぶち撒けられれば。


「だからね、ニルティナが来て名前をあげて。

ニルティナと仲良くして欲しい。

だからさ、トカゲくんにはこの名前をあげる。

……よろしくね、パイソ」

 

 何事も『友達』が大事だ。

 だから。


「別に設定通りに『毒使い』になれとか、『精霊種』だったらいいなとか言わないよ。

ただ、同じ世界の出身者としてお互い仲良くなって欲しいかな、と思う」


 パイソとニルティナの世界にもう一人のヒロインがいる。

 それは『イニネス・メルクリエ』という者だ。

『イニネス』も例に漏れず精霊型で、精霊殺しの精霊という設定だ。

 だから、パイソは厳密には無敵ではなく、イニネスの前では負ける。

 だがじゃんけんのように、イニネスはニルティナに弱い。

 という三つ巴のバランスになっている。


 世界と称したが、ニルティナとパイソ、イニネスがいる世界と、エルリネとエレイシアがいる世界は別世界だ。

 というのも別作品というのが理由。

 ニルティナ、パイソと来れば、残るはイニネス。

 そのイニネスとはどこで会えるのだろうか。 

 学園で、だろうか。

 ここまで来たら、七人のヒロイン全員に早く会いたいところだ。

 


 と、妄想垂れ流ししていたところで不意に、とんとんと戸を叩かれた。

「ミルくん、朝だよ~」と呼ばれた。

 どうやら起こしに来たようだ。

 

 結局一睡もせずに祭り当日を迎えた。

 王族が来るらしいが、失礼ないようにしないとな。

 などと、もぞもぞ考えながらニルティナに、いつもの日課として四滴ほど精製魔力水を垂らす。

 うむ、今日も目に見えて喜……んでないな。

 心なしか「グェエエアアア」と苦しんで、身を(よじ)っているように見える。

 その苦しそうに捩る姿は、最早慣れた。

――新手のパックンフラワーだわな。


 ……過剰すぎる魔力をあげると、更に無駄に毒持つ可能性があるのかもしれない。

 だとしても止めないが。

 トカゲくんもとい、パイソにも精製した魔力で作った炎の槍を食わせる。

 こちらはこちらで、物凄い勢いで美味しそうに食べる。

 作った甲斐がある。

 ……学園に行ったら「獄炎」と「瞬炎」を食わせてみたいところだ。


 さて朝飯、食べに食堂に向かうとするか。




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