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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-閑話- II
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お祭り

 今日もエレイシアと共に、丁稚奉公だ。

 相変わらず、彼女のBGMで客が来る。

 いや寧ろ肉野菜といった商品より、ウチのエレイシアの歌目的が多い。

 下衆い気持ちで作った遊び半分で、彼女を店先で歌わせて彼女の前に「良かったらお金を入れてね」と書いた板と、底の深い大口瓶を置いたら、冒険者や旅人を中心に人集りが出来てお金を入れていき、底の深い大口瓶四つが満杯になった。

 中には金貨まで入っていた。


 流石楽聖の名前を持つ彼女だ。

 彼女がもし独り立ちしたとき用に、このお金は取っておこうか。


 さて、冒険者や旅人たちだが、中にはデュエットしていく人もいる。

 つまりは一緒に歌ったり、彼らの持つ笛などの楽器と合わせたり。

 エレイシアも天才肌らしく、歌を即興で作る。

 歌を即興で作り店先はヒートアップしていき、観客から誕生日曲歌ってとせがまれれば、それを歌い、恋人に振られたと言われたら、最初は物悲しくそれでいて段々と明るくなる歌とか凄いわ。

 俺が作曲するとしたら、慰めに明るい曲をやりそうだが、エレイシアは悲しい気持ちから立ち直るさまを謡う。

 これは凄い。

 

 この娘は本当に俺より年齢が下なのだろうか。

 エルリネ並に生きている気がする。

 でなければ、その人に立ち直って欲しいと思うような歌なんて出来るかと思う。

 一芸に秀ですぎているし、歌ものの魔法が強くなりそうだ。

 となれば、彼女には『魔王系魔法』というより魔法陣が合うだろう。


 俺の『魔王系魔法』は頭のなかで名前とそれに準ずるエフェクトなどをイメージで形作って、それに魔力を注ぎ込んで現象が発生する。

 つまり、歌っている暇などないし、『魔王系魔法』のメリットが完全に潰れる。

 イメージがあればどうにかなるものでもない、というのもエルリネの泣き言で分かった。

 まあ、以前も思ったとおりに彼女達に俺の魔力が常在、または精製できればいいのだけれども。


 そんな方法など思いつくはずもなく。

 彼女たちに夢を与えるだけで、どうにもならないことをさせている気がする。

 本当にこれはどうにかしないとな。

 だからといって、魔法陣をあげるというのもちょっと考えものだった。

 以前は、エルリネに一つあげようとか言ったもんだが、魔法陣は魔法陣で一個の人格のようなモノが内蔵されている。


 つまりは、あげたとしても魔法陣本人が気に入ってくれるかは別問題なのである。

 だからあげられない。

 顔見せぐらいはさせようか。

 エルリネもそうだが、エレイシアの魔法陣についてだが、これについてはちょうどいいものがある。

 というのも『十全の理』の音声録音・再生部分だ。

 絞り滓といえば聞こえが悪いが、事実おまけの部分だ。

 

 だが、変なところでハイスペックなもので、黒歴史ノートに書き記した音楽の種類とかはもちろん、俺が戯れに作った歌魔法の情報まで入れている。

 更に言えば音声記憶まで当然出来るので、彼女の美声を録音出来る。

 他にも色々、エレイシア向けの能力があるが、全部は言い表せない。

『精神の願望』で引っ張りだされた種族特性とか個人特性もある。

 何らかの拍子に、魔法陣と特性が合わさって何らかのシナジーが発生する可能性もある。


 おまけの部分とはいえ、ちゃんと名前自体はある。

永久不滅の誓文(インペリシャブル・エコー)』。

 その名の通り、永久不滅に音声を保存する。

 自分で使うには学習目的で音声保存するとか、旅で遺言を聞いて保存するとかそんなものしか思い付かないけれども、きっとこの世界の人間であるエレイシアなら、良い使い方を思いついてくれるだろう。

 そうでなくても、特性と合わさるだろうし、一つの人格を持つ魔法陣として扱ってくれそうだ。


 俺が持ってたとしても『永久不滅の誓文』として見ずに、『十全の理』として見そうだしな。

 人格があるなら集合体で一括りされるより、一個人として見られたいと思うだろう。

 だから、エレイシアと『永久不滅の誓文』のお互いが気に入るなら、譲渡したいところ。

 一応、上級管理者として『十全の理』があるので、必要があれば音声録音・再生部分を使えるし、失うわけではない。


 というわけで、早速歌っていたアップテンポな曲などを、『永久不滅の誓文』に記憶させた。

 そのあと、しばらくすればエレイシアは休憩に入るので、お店に『永久不滅の誓文』を貼る。

 そして、再生。

 うん、成功だ。

 しっかりループ機能まである。

 そして『十全の理』を通じて感じる、この歌に対する作者への感想。


 中々高評価らしい。

 これなら近いうちに合わせても問題ないだろう。

 エレイシアは喜んでくれるだろうか。


 なおどうでもいいが、俺の歌は聞くに堪えないらしく、録音始めてから三秒ぐらいで録音拒絶された。

 一応、管理者なんだがな俺。


 ちなみに、休憩から戻ってきたエレイシアは、延々と垂れ流される自分の美声に気づかずに「誰が歌っているんですか?」と中々に愉快なことを聞いてきた。

 きっとあれだ。

 "生前"の世界にあった『TV』なんて見せたら、絶対に「箱のなかに人がいる」なんて思ってくれそうだ。


 さて店内ではBGMが流れ、店先では『人魚姫』が歌う。

 この店の方向性が分からなくなってきた。

 肉、野菜を売る生鮮食品店なのか、回復薬(ポーション)屋なのか。

 歌手がメインの雑貨屋か。

 寧ろ歌手応援用にグッズ展開したほうがいいのか……、とはいえグッズなんてあるわけないし、作るとしても手作りになるのでそんな商用展開は出来ない。

 

 そんなこんなでエレイシアと共に、丁稚奉公をしているところでお世話になっているおじさんから気になることを、世間話として振られた。


「そういえば、ミリエトラル君はお祭りはどうするのかい?」

 祭りとな?

「祭……りですか」

「あれ、祭りしらない?」

「どんなものかどうかについてなら存じてますが、ツペェアにあるんですか?」

「おお、あるとも。

今年の祭りは大きい予定だよ。

なにせ今年はミリエトラル君の"宮廷魔術師"が一人増えたというのと、王族が来られるからな」

「王族……ですか」

 

 あれあれ?

 なんか物凄く面倒なイベントフラグがビンビンしているぞ。

 どうせ、あれだろ。

 王族に惚れられるとか、王族暗殺とかそんな感じのイベントが立つんだろ。

 止めろよ。

 あの時の村みたいなことが起きるのは止めてくれよ。

 あんなことが起きたら、今度こそ国ごと滅ぼしそうだ。


「ミリエトラル君は、王族の方に一度謁見することになるだろうね」

「……何故ですか」

「ミリエトラル君は史上最年少の"宮廷魔術師"だ。

国としては女性を宛てがうためにも、一度会って身なり行儀と体格、考え方を見極める必要がある」

 ……ありがた迷惑だなぁ、と思わず半目でおじさんを見る。

 これ以上増えても、そのなんだ困るな。

 もう一夫多妻制(ハーレム)について文句は言わないけど、平等に愛するためにもこれ以上増えたら困る。


「とはいえ、ミリエトラル君の女性事情はしっかりしているからね。

ただの謁見だと思って気を楽にするといいよ。

会えばわかるけど、王族はみな気のいい人ばかりだし」

 このおじさんは会ったことがあるようだ。

 最近富みに思うが、この夫婦ツペェアでかなり高位の身分の人じゃなかろうか。

 理由はないのだが、敢えて述べるなら仕草とか肉や野菜の仕入れ方とかそう思う。


 しかし今までの経験から、そんなことを思っていたり考えてるとフラグが立ってたりするので、強制的に思考から落とす。

 よし、このおじさん夫婦は一般人、一般ピーポーだ。

 うん、そういうことにしよう。

 

 ……さて、お祭りか。

 期間が気になる。

 一日ってことはないだろう。

 となれば三日、いや長くて一週間程度か。

 一週間程度であれば、祭りもそこそこ楽しんだ上で学園に行けそうだ。

 肝心の期間についておじさんに聞いてみれば、例年通りであればたった二日程度らしい。

 だが、前述した通り"宮廷魔術師"となった俺を見に、王族が来るので延びるだそうで。


 現状予定では三日らしい。

 延びてもたった一日追加か、とは思うものの。

 それはそれでちょうどいい。

 セシルの祖父母とリコリスらに挨拶回りして……、ああそうだ学園に行くための船の予約もそろそろ取らないと。


 エレイシアと共に図書館に行って、エレイシアに絵本を読み聞かせている合間に調べたが、学園があるところはこの大陸ではないらしい。

 行き方は簡単でツペェアから半日越えた先にある港から、船に乗り大陸を渡る。

 比較的ザクリケルが近いらしいが、他の国との合同学園らしく、別の国の貴族や種族考え方などが入り混じるとかなんとか。

 法律もある程度入り混じっているらしく、ザクリケルの一夫多妻制もこの学園では是扱いらしい。

 つまりは、ザクリケル国民でなくとも一夫多妻を築くことも出来る。

 当然、実力は必須だが。


 他国の法律。

 他国の歴史。

 他国の常識。

 他国の魔法。

 どれもこれも楽しみで仕方がない。


 もちろん、他国の種族も楽しみだ。

 特に魔族系。

 ……男友達が増えるといいなあ。

 来るはずの未来が待ち遠しい。

 ……分岐点も中々に恐怖だが。

 

 さて、"生前"の世界でお祭りといえば、地元の祇園祭ぐらいしかピンと来ない。

 外国の牛追い祭りとかトマトだか卵を投げる祭りも、ちょっと興味があったが体験する前にこの世界に来てしまった。

 

 ただまあ、この世界も中々に広い。

 似たようないわゆる奇祭もきっとどこかにあるだろう。

 それに参加してみたいところだ。

 もちろん、家族みんなでだ。 

 トカゲくんとニルティナオヴエは、現状無理だろうが……。

 出来ることなら、人化して欲しいところだ。

 いや、人化は駄目だ。

 これはフラグになってしまう。

 

 お金を数えられるようになってからというものの、月の給与のぶっ飛び具合が分かるようになった。

 正直、今のお金の使い方だとあと五十人の人間がいても養えるレベルだ。

 それも一月(ひとつき)の月給で三ヶ月もつ。

 お金が足りないのではなく、その逆の消費力が足りない。

 ひたすら溜まり続ける。

 現状四人とおまけのトカゲくん程度では、本当に減らない。

 

 貰い始めてから、ほぼ一年経つが最初の月給与を使い切っていないところから見て、給与のぶっ飛び具合が分かる。

 そんな訳でお金だけは有り余っている。

 だから、人化されても余裕で養えるが、最近富に欲しいのは愛玩動物(ペット)が欲しくなってきた。

 特に(わんこ)


 エルリネの属性が犬だが、そうじゃなくてもふもふ系の犬が欲しい。

 いや、欲しいというかなんというか、この世界の犬は主に魔獣系の狼だ。

 マンディアトリコスがいた、滅びかけた森の中にいた、樹木っぽい犬とかああいうの。

 そうではなくて、俺が心底愛でたいのはガチわんこだ。


 ふさふさの毛皮に顔を埋めてくんくんしたい。

 嫌がりなんて許さない。

 逃げ出そうだなんてさせない。

 それぐらい、犬成分が足りない。


 他国に狼系の獣人がいたらもふもふさせてもらおうか。


 閑話休題。


 とにかく、お祭りが近いことが分かったが開始時期が分からなかった。

 そこでおじさんに聞いてみたが、返ってきた答えは俺の背中側から聞こえた。

「明後日からよ」

「おいおい、お前が言うなよ。ミリエトラル君は俺に聞いたんだから」

「……いいじゃない、別に。

で、ミリエトラル君は誰かと周るの?」

「ええ、そりゃあ家族と」

「大人として、子どもにいうけど。

しっかり楽しみなさいよ。

大人になったら楽しむ暇なんてないのだから」

「……ええ」

 

 確かに幼いときの祇園祭はとても楽しんだが、死ぬ四・五年前ぐらいからは毎年恒例の惰性で行ってた気がする。

 地元の友人などとはとうに縁を切った。

 だから、会ってもどうしようもなかった。

 それなのに、惰性で行ってた。

 確かに楽しむ暇なんて、ない。


 いや、きっと脇に人がいたから楽しかったのだろう。

 友人が脇にいれば楽しかった。

 母さんがいれば楽しかった。

 四・五年前から死んだ年の祇園祭巡りは一人だった。

 ああ、楽しかったんだろうな。

 だから、エルリネとセシルとエレイシアがいるこの世界の人生初のお祭りは、きっと楽しくて一生記憶に残ると思う。


 どんなときでも初めては印象に残るものだから。


 さて、お祭りは明後日ということなので、明日で丁稚奉公は仕事納めになるようだ。

 つまり、お祭りが終われば学園入学準備で、丁稚奉公どころではなくなる。

 なので、次に会うときは挨拶回りのときで、挨拶回り以降に出向くときは卒業後、つまりはメティアや姉さんを引き連れて、会うことになるだろう。

 うん、そう考えたら泣きたくなってきた。

 

 おじさんとおばさんにギョッとされたが、理由を話したら納得され「ミリエトラルくんが来るまで、この店は開けておくから」と約束された。

 明日を越えて挨拶回りも終わったら、七年も会えない。

 でも、笑って再会して学園であったことを、おじさんとおばさんに胸を張って報告出来るようにする。


 肉親でもないのに、俺の読解力向上を手伝ってくれた人たちだ。

 もちろん、厭味とかそういったものも無かった。

 たった一年だったけど、受けた恩義は多分計り知れないと思う。


 明後日のお祭りのために、明日の丁稚奉公は午前のみでいいらしい。

 午後はお祭りのために、家人みんな早寝しようかな。


 ……さて、もう一働きだ。

 今日の夜の夕食後の休憩時に、話題に挙げようか。

 ところで、どうやら自然と口角が上がってたようで、エレイシアから「何かいいことでもあったのですか?」と聞かれた。

「うん、とってもいいことがあった」と答えたら、「どんなことですか?」と聞いてきた。

「むっふっふ、内緒」

「むー、教えてくださいよ。お兄ちゃん」

 とふくれっ面になるエレイシア。

 あざと可愛い。


「ふふふ、夕食の休憩時に、ね」

「本当に、教えてくださいよ?

お兄ちゃんのこと知りたいのですから」

「分かったって。ま、楽しみにしてな」


 そして今日の丁稚奉公は何事も無く終わった。

 別に暴れる馬鹿とか、可愛さ余りにエレイシアを拉致ろうとする阿呆もおらず、万引きしようとする腐れ冒険者は二匹いたが、「重力(グラビトン)」で文字通り叩き潰して、腕を粉砕しておいたぐらいで、いつもの風物詩で終わった。


 というか、俺の魔法も一種の見世物になった。

 というのがわかったのも、固定客がついたのはいいのだが、商品を買わずにじっと俺を見る男女複数名。

 女性に見られるのはまあよしとして、野郎に見られるのはサブイボが出るところだ。

 で、腐れ冒険者がウチの不人気商品の回復薬をパクって、店から出れば飛び出す「重力杭(グラビトネスバンカー)」で両腕に撃ち込んで鳴ってはいけない音が、冒険者の腕から鳴る。


 その姿にその固定客共は、拍手喝采で「今日も見れたな!」とか「スカッとした!」とかなんとか、つまりはその手の固定客を獲得してしまった。

 というわけである。

 その芸も明日の午前で終わりであるが、理解して貰えるだろうか。


 いつもの風物詩に関する、警ら隊の兄ちゃんたちに提出する報告書という名前の感想文を書きながら、エレイシアには今日の売上などを書き上げて貰う。

 ……俺が中々出来なかったことを、この(エレイシア)は直ぐにこなす。

 この娘、結構なチート持ちなのではないだろうか。

 エレイシアの書いた営業報告書をおじさんとおばさんに提出したところで、今日の風物詩に関する感想文を書き上げた。

 あとは帰宅時に渡すだけだ。



 ……よし帰ろうか。



終わりませんでした。

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