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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-暴毒の魂-
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朱色の女性

「相変わらず、エルリネは凄いわね」

 率直な感想だ。

 外盾の防壁を開けた瞬間に駆け抜けて、残り三匹のクズの内二匹の首を一瞬で掻き切った。

 その一瞬が速過ぎる。

 兄上の"日本語"講座なるもので『音速』というものを教えてもらったが、それに近いのではないだろうか。

 流石夜な夜な魔力循環をしているだけあるようだ。


 更に首の切り傷から察するに、中空に擬似的な足場を瞬作して視覚外の死角から両断しているようだ。

『闇夜の影渡』で誰からも見えない筈なのに。


 兄上も敵に回したら当然駄目だけど、正直エルリネも回したくない。

 死角という認識難を最大限使おうとし、更に透明化する相手にどう立ち向かえばいいのか。

 常に警戒か。

 いつどこで首を刈られるか。

 分からないものをずっと警戒するのは、酷い精神疲労を強要するものだ、と苦笑いしてしまう。

 それほどまでにエルリネは危険だ。


 戦争において兄上と私であれば、全面勝負になる。

 だが、エルリネは要人暗殺が主になるだろう。

 完全に信用しているつもりはないが、正直に言えば兄上の魔法は兄上直伝でなければ使えない筈だという自信がある。

 更に魔法というものの最上位に位置するものだと思っている。

 だから、最上位に対抗する魔法はきっと、いや絶対無い。

 だから、検知も『出来ない』。


 私もこの姿が常在化出来れば……、エルリネ対策だけはしておきたいとおもう。

 だが、それはいつになるか。

「っと、そんなこと考えている間に終わったわね」

 そういって、私はクズを見やる。

 最後に残ったクズは私によって切断された腕を持っていたが、エルリネによって更に足の踵の腱を切断されているようだ。

 なるほど、これでは逃げられない。

 更にギザギザに切断だ。

「あらあらぁ、クズらしく芋虫ねぇ。

気分はどうかしら、芋虫さん?」

「あがががががががが、許さねぇぞぉおおお、『奴隷魔族』がぁああっぁぁ」

 冷めた顔で見つめるエルリネも、中々怖いわね。

 いやぁ怖い怖い。


「でも、残念私はそこの魔族と違って『奴隷』ではないので、ねぇ。

遺言は聞いてあげない。

そして、貴方を殺すのは私とそこの魔族でもない」

 そして、エルリネに向き直り、エルリネの笹穂の耳に小声で耳打ちをする。

「クズの処遇はちょっと任せて」

 私の提案にエルリネは。

「手伝ってくれたのだから、当然任せるよ。

tdxklnad(トカゲ)くん』」

「くすっ、ありがと」

 そして、私はエルリネの耳から顔を話して大声を出す。


「さぁ、皆様にお聞きしたい事があります!

今回の件で暴れたクズの処遇についてです!」

 一息を付く。

 そしてまた大声を出す。

「私たちとしてはクズ共を殺してもよいですし、このまま警ら隊に差し出すかで悩んでおります!

この中で、ほかに思いつく案はありませんでしょうか!」

 その提案についてすぐに声が上がった。

「本当にいいのですか」

 声を上げたのは子どもを喪ったばかりの、あの若い母親だ。

 何に対して本当に『いい』のか、分からないが当然許可する。

 

「ええ、いいですよ。私は当然、笹穂耳の彼女も認めています」

「そうですか。では、刃物をお貸し頂けますか」

 ノッたか。

 私刑確定……ね。

「ええ、いいですよ……。エルリネ持ってる?」

「……投擲用でよければ」

「あるそうですので、どうぞ」

 そういって、エルリネから譲り受けた投擲用短剣を若い母親に手渡しする。

 手渡ししたとき、振るえていながらもしっかりと握った。

 ……その手指の震えは、恐怖かしらそれとも怒りかしらねぇ。


 それから響く激痛ならではの絶叫。

 そしてわらわらと「俺も俺も」、「僕も僕も」とクズに集る人集り。

 響く絶叫。


 いやあ怖いねぇ。

 こんな人生歩みたくないわ。


 さて、だいぶクズの肉が削ぎ落とされたところで漸く警ら隊兵士がやってきた。

 余りの惨状に、警ら隊の何人かが吐いた。

 弱いわね、と思う反面、辛うじて息をしているクズなんて顔が酷いことになっている。

 これをみて吐き気を催さない人間は狂ってるわね。


 そうあそこで泣き嗤っている、子を喪った母親のように。

 あれも、狂っちゃってる。

 クズの舌を切り取って叫ばなくしたのも、あの母親だし。

 ……私も母親になったらああなるのかな。

 なんて思うけども、私がそんな相手に娶られたいと思う相手は兄上だけ。

 そんな兄上だって、人化しているとはいえ、私みたいな人あらざる者と好きあうなんてないから、母親になるなんてことはないだろうけどね。


 ほぼやり過ぎたぐらいでしかないけども、特に何も言われずに。

 寧ろ警ら隊と街の人々に感謝された。

 私も、もちろんエルリネも。

 エルリネがヘボだったから起きてしまった事件なのに。

 例の母親からは、あの狂った表情はなりを潜め「仇を取らせてくれてありがとう」と述べられた。

 更に、「貴女みたいな強い女になります」と言って去っていった。

 私は女性ではあるが、人型を取っているが人ではないのは分かっているのだろうか。


 そのあとは、観光どころではないのにそのまま気分が沈んだまま、観光を続けた。

 エルリネはともかく、セシルは脳天気ね。

 なんて、思ってみればそうでもなく。

 中々に応えたようで。

 だからお互い、精一杯励ましあった。


 ちなみに、遠慮されているとか怖がられていることはなく、寧ろ北東街で半英雄的な反応を示されていた。

 というのも、先ほどのクズは本当のクズだったようで、酒場の店員に毒牙を掛けた上に街娘に数回ほど路地裏での行為に励んでいたようだ。

 で、警ら隊があっちらこっちら探しているときに、我々と衝突したという話し。

 もちろん、我々と衝突する前は警ら隊とぶつかっており、警ら隊にも被害者が出ていた。

 そんな中で、我々が死傷者を出してしまいながらも、一人を残し全員殺戮。

 残った一人はボロ雑巾のように瀕死にさせた上で、街民の不安・不満解消に私刑許可。

 辛うじて生きていたことにより、クズの親がいるようであれば損害賠償を求めるとかなんとか。


 私に言われても困る。

 どうせ、この姿は今日一日だ。

 ということで、飲んでみたかったお酒に手を出した。

 これが、お酒か。

 兄上から頂戴する水の魔力ほどではないが、こちらも中々の味だ。

 うん、美味い。


 労働且つ勝利の美酒は美味しいねぇ。

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