観光地
温暖な気候とはいえ寒くなってきたためか、少女の格好は少々厚着だ。
とはいえ、肌が見えている箇所が多く、いかにもなツペェアの街娘の格好であるが。
北東街は酒場が多いためか、飲んだくれがそこらかしこに転がっている地域で有名であり、余り女性が寄り付かないところである。
だが、ここにも当然観光名所はある。
それはそこらかしこにある酒蔵だ。
年齢から飲めない少女と少年だが、ツペェア名物といえばお酒というぐらいお酒が名物である。
よって、ここを攻略する必要があった。
ここを攻略せねばツペェアを見まわったとは言えないのだ。
本来、街の中とはいえ若い女性が歩きまわってよい場所ではない。
だが、この二人は色々と有名であったのだ。
まず、本人たちのスペックが高かった。
少女は祖父母と夫である少年が"宮廷魔術師"という、ツペェア公認の"兵器"であった。
そのため、何か粗相があれば、それこそツペェアが滅びかねない災害に見舞われる可能性があった。
この事実は警らしている兵士は全員知っており、なにかと気にかけていた。
そして、その様子を街に住んでいる者は知っているため、やはり只者ではないということで、自然と扱いが変わってしまっていた。
つまりは自然と傅かれていたのだ。
もちろん、少女としては傅かれたくて観光しているわけではない。
知名度の高さはこれ以外にもある。
幼いながらも、突発的な事件は解決してしまう。
親子連れの旅人で迷子の子や、逆に親の方を見つけたりする。
そのため、ツペェアに住んでいながらも観光する珍しい少女という認識が、南と西街の者達にあった。
そして忘れてはいけないのが、その少女の脇に侍る、褐色肌の森人。
青みがかった長めの銀髪をうなじが見えるように、結いた女性。
笹穂の耳は森人らしさをもち、更に森人の例に漏れず中々の美人である。
但し人を選ぶものが彼女に施されていた。
それは刺青だ。
稀に外套からちらりと見える右肩から下腹部までに仄かに輝く線。
その刺青はまるで『奴隷紋』。
では、誰の奴隷か。
少女か。
いや、違うと誰かが言った。
少女ではない。
主人は、少女の夫の"宮廷魔術師"だ、と別の誰かが言った。
少女が主人というよりも、ありえる話しだ。
だから、誰もが納得した。
あの少女は"宮廷魔術師"の『妻』で、あの見目麗しい『奴隷』は"宮廷魔術師"の物だと。
また、いつの日からか外套から隠された『奴隷紋』では意味がないとばかりに、女性の宝と言われる顔と首に刺青が彫られていた。
右目から頬にかけての一面と、首輪のように首を一周するかのように彫られた刺青。
見るものが引くような刺青でありながら、どれもが仄かに蠢き怪しく青白く光るその姿は、褐色肌のよく似合う。
そして彼女は見た目だけではない。
彼女に話しかければ優しい声音の女性であることが分かり、礼を以って相対すればそれに応える者だということが南と西街の者たちの共通の見解だ。
もちろん、街の者がそうであっても無礼な者は当然多い。
女性の臀部を触ろうとしたものには、彼女の足技が手加減なく叩きこまれた。
中には足技を受けたことにより激昂をし、刃物を抜いた者もいた。
その場合は、即座に女性の黒塗りの短剣の軌跡が閃き、肘から先が飛んだ者もいる。
どれも、どの場合であっても即殺はさせずに、痛みで転がる姿が芋虫が這っているようだと評し、冷たく汚物を見るような目で見下ろす。
その姿に街の若い者の何人かは、その女性に懸想をするようになってしまった。
中には「ああやって罵られたい」と鼻息荒くするものもいるとか。
とにかくツペェアでは色々と有名な彼女たちのため、この北東街も安全であった。
酒場や酒蔵の店員も、もちろん一般家庭も、この街に潜むアウトローも仲良くこそすれ、"宮廷魔術師"の怒りをいたずらに買う阿呆は本来どこにもいなかった。
しかし、この日は違った。
それは彼女たちに、触れば事件が起きかねないということを知らなかった、その罪で、北東街で事件が起きた。
短いですが、ちょうどいい区切りなので投稿します。
まだ続きます。