表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-閑話- I
127/503

後日譚

 おかあさんがきえてから、だいぶ月日が流れた。

 おかあさんとおそろいだった外套は、ボロボロになり。

 靴なんてとっくにボロボロで捨ててしまった。

 だから、足が痛くて痒くて仕方がなかった。

 いつまで経っても終わらない私の旅路。

 おかあさんとおとうさんから貰った、このいのち。

 捨てる訳にはいかない。

 おかあさんは言った。

 わたしのいのちは、だれかを愛するために貰ったいのちだと。

 わたしが死ぬことで、だれかが愛されなくなってしまうと。

 だから、わたしはあきらめなかった。

 痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて仕方がなかったけど。

 痒くて痒くて痒くて痒くて痒くて足なんてなくなればいいと何度も、何十回も、何百回も思ったけど。


 そのわたしをあいして愛する人のために、いつ終わるともしれない。

 この旅を私は……。


 とうとう。

 終わった。


 この家の大黒柱たるミルくんから、『エレイシア』という素敵な名前を貰ってはや三日。

 とても、とても幸せだ。

 旅していた以上ににめまぐるしく、移り変わる景色。

 同じ地域なはずなのに。

 おかあさんと一緒に寝たときのような寝台の上で、私の先輩奴隷にあたるエルリ姉さん。

 私と同年代でミルくんの奥さんである、セシル姉さん。

 私なんかを愛してくれる人は誰だか、分からないけれど。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 私はあの建物の中で、ミルくんを好きになった。

 好きという感情については、おかあさんから聞いていた。


 心がきゅうっとして、その人しか考えられなくなって、子作りしたくなる。

 それが好きになって愛する行為だと、聞いていた。

 それであの場で私は、心がきゅうっと締め付けられてミルくんしか、考えられなくなって身体が(うず)いた。

 身体と心の底から子作りがしたいと思った。

 それなのにミルくんは、なんでもないように私を親切にしてくれて。


 でも、おかあさんにしていた男たちはとても酷いことをした。

 だから、きっと本当は獣なんだ。

 だから、ちょっとだけ試してみたら。

 私を、たった一匹の『雌』ではなく、一人の「女」としてみてくれた。

 もう駄目だ。

 私、この人に一目惚れした。

 だから、もう駄目。

 我慢できない。


 そしてミルくんを取り巻く属性が音となって、私の耳に聞こえる。

 この音は火属性。

 これは水属性。

 風は一番多くて、土は少なめだけど存在感があって。

 よく分からない属性の音が三つ、四つぐらいあって。


 これが、彼の属性の音。

 一つの音楽。

 歌が出来る。


 彼、ミルくんに宛てた、ミルくん専用の歌だ。

 今なら、おかあさんのように呪歌(まじないうた)も歌える。

 これが、愛する人を見つけた力なんだ。

 でも、想いを込めても彼には通じなかった。

 それどころか理由まで聞かれた。

 

 こんなこと、明らかに人族の彼には言えない。

 こんなに音と色が鮮やかだから、惚れちゃいました。

 なんて言えない。


 好きで好きで好きで好きで好きで好きで、とにかく好きになって。

 ずっと離れたくないと思って。

 危ないと言われても離れたくないと思って。

 初めて見た女性と仲良くするミルくんをみて、ちょっとだけ嫉妬しちゃって。


 そのあとは見られたくない傷を見られて、謝られて。

 本当はしたくはなかったけど、これを逃すともう二度と会えないと思って。

 名前を貰った。

 それが『エレイシア』。

 それと一緒に『奴隷紋』が私の左肘中心に左腕全体に、刺青(いれずみ)のような紋様が描かれた。

 これが、『奴隷紋』なのだろうか。

 痛いと聞いたけど、全然痛くない。


 それどころか、とても優しくて暖かい感触と柔らかい光が私の左腕。

 いや、身体全体を包み、痛くて痒かった足の裏や、木の枝や鋭い葉っぱで刺したり切ったりした足首が痛くも痒くもなくなった。

 彼の取り巻く属性の音が、色となって鮮烈に私の目に映った。


 ……ああ、とても綺麗な色だ。

 鮮やかな紅色に、濃くて寒々しいながらも安心させるような藍色、見るものに警戒を与えながらもこれも鮮やかに輝く紫電、申し訳程度とはいえしっかりと存在感を匂わせる緑色。

 そして一番目立つのが風の黄色。

 黄色がとにかくミルくんを塗り潰していて、白く昇華されている。

 

 この属性の奔流の中に私が入れたら、私は身も心も融けるのではないだろうか。

 それほどまでに愛しく、恋しい。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 そんなことがあって今に至る。

 私を愛してくれる人はいるかもしれない。

 でも、私はもう愛する人を見つけてしまった。

 私にはこの人しかいない。


 いつの日か、きっと私を愛してくれるだろう。

 エルリ姉さんとセシル姉さん。

 あとミルくんの故郷にいるという、女性の二人。

 その二人を愛して、残った絞り滓の愛でもいい。

 私を愛してくれるならば、私はその愛のためにこの命を捧げたい。


 ……そうだ。

『ミルくん』というのは他人行儀だ。

 エルリ姉さんのように奴隷としてご主人様というべきか。

 いや、旦那様というべきか……。


 ……そうだ。

 ミルくんは、私より一つ歳上だ。

 となれば……。

『お兄ちゃん』と呼ぼう。

 名案だ。


 お兄ちゃんのお金で、新しい下着と服と靴を買って貰った。




 ありがとう。

 そしてこれからも、よろしくね。

『お兄ちゃん』



作者名とアカウントネームが違うため、私の活動報告に直接飛べません。目次の下部にある「作者マイページ」から、私のアカウントの活動報告の閲覧出来ます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ