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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-啜り啼く黒い海の呼び声-
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生活


 翌日、セシルを気絶させた手前寝るわけにもいかない。

 かといって、気絶とはいえ寝ている身だ。

 起こすわけにもいかない。

 なので、セシルに宛てがわれた便宜上の部屋で一夜を明かす。

 座りながら寝る。

 これは"生前"の世界で身につけた技術だ。

 古くは高校生時代に授業中就寝の技術。

 大学時代からニート、そして死ぬその日の朝まで、電車の中でも使った技術。

 腕を胸元で組み、椅子の上でぐっすり就寝。

 

 ほんの少しの空気の動きで即座に覚醒する。

 なので、セシルが俺の前に立ったときに覚醒した。

 覚醒したと同時に声が掛かる。

「寝てしまった、わたくしのために起きていたのですか……。

おばかですね。

……おやすみなさい、ミル様」

 そういって、セシルは俺の額にキスをして、部屋を出て行った。


 ……これって、実は起きてますなんて言えない展開ですかね。

 うん、まぁもっと寝ておくか。

 うん、そうしよう。


 俺はそう、自分に言い訳をして寝ることにした。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 結局起きたのは昼を過ぎてからだ。

 首を重力通りに下げる寝方なので、寝違えたのが猫背の状態で非常に首が痛い。

 猫背にしながら居間に降りてみれば、エルリネとセシルとエレイシアがいない。

 どこか出かけたのだろうか。


 他にも思うことがあったので、『マンディアトリコス』の元へ向かう。

『マンディアトリコス』の鉢は、昨日の内に自分の部屋に飾っておいた。

 俺の部屋は日の当たる一等部屋だ。

 そんな日の当たる一等部屋の窓にちょこんと置かれた『マンディアトリコス』の鉢。

 いくら危険な草花だとしても、元気に育って欲しいところだ。

 思うところというのは別に、『マンディアトリコス』がトカゲくんに食われていないかを確認するためではない。


――この際だから名前付けてやろうか。

 ということだ。

『マンディアトリコス』だと、事情を知っている奴が間違いなく大騒ぎする。

 ならば、名付けもありだろう。


 脳内の黒歴史ノートの人物表をパラパラとめくる。

 毒使いなら、この二つか。

 さて、どうしようか。

 この二つの内、設定に近いのは……。

 こちらか。

 どちらも精霊系だが、草木を愛するが故の毒使い。

 生命を生かし、殺す薬術士の名前をあげよう。

 "生前"の世界では『薬が毒になり、毒が薬になる」という故事もある。

 意味はそのままで、薬と毒は表裏一体だということ。


 その故事に習うのであれば『マンディアトリコス』は『禁忌の猛毒草』だ。

 つまり、裏を返せば『神の薬』にもなりえる可能性も秘めている。

 それに草花も愛を持てば、それに応える生物だということは、割りと"生前"の世界で聞いた話だ。

 ならば、愛を持って接してみる。

 それで失敗したら、燃やす……という失敗ありきの考え方だけど、誰でも種族で呼ばれるより名前で呼ばれたいだろう。

 例え、それが勝手に付けられた名前だとしても。

 よし。

「『マンディアトリコス』。

これからお前の名前は『ニルティナオヴエ・コリュッソス』だ。

この名前は、お前の先代を殺した魔法が存在する世界の中の名前でな。

稀代の薬術士となる者の予定の名前だ。

それをお前、いや『ニルティナオヴエ』にやる。

だから、毒薬ではなく稀代の薬術士の名に恥じないような存在に育って欲しい」


 是か否か、それとも俺の鼻息が『ニルティナオヴエ』の葉に当たったのか、ピクピクと小さな葉っぱが動いた。

 言語を理解するトカゲくんに、言語を理解する魔草。

 将来が楽しみだ。

『ニルティナオヴエ』相手に微笑む俺。

 端から見ると、植木鉢の苗を見て一喜一憂する変態のようだ。


 と、ちょうどそのころにエルリネたちが帰ってきたようだ。

 (かしま)しい、賑やかなエルリネとセシルたちの声の中に、明るいエレイシアの声が混じっている。

 打ち解けてくれたようだ。

 良かった良かった。

『ニルティナオヴエ』から目を離し、玄関に向かう。

 そこにあったのは、エルリネとセシルと同じ格好のエレイシアだ。

 もちろん、靴も我が家が懇意にしているところの靴の新品だ。


 これで彼女(エレイシア)の足もあのようにはならないと思う。

 一生、あのように「みないで」といったことを言わせないようにしたい。


 歳相応に笑う『人魚姫』はやはり綺麗であった。




2000字未満で短いですが、ちょうどいいので投稿。

今回の小章は終わりです。

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