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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-啜り啼く黒い海の呼び声-
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『人魚姫』の設定

「エレイシアだ。



   ――――エレイシア・フローレス」


 エルリネほどではないにしても、この名前も非常に多くの意味を持つ。

 黒歴史ノートの中において、エレイシアの名を冠するモノは、楽器やら歌とかなんにでも付いていた。


 なにせ初登場の世界では、主人公を愛して愛して、愛しながら旅してその想いの歌が魔法となり、彼女が手にした楽器全ては神の音色となり、そして老衰で死ぬまで想いを綴り、人生を全うする。

 エルリネとも長い付き合いの彼女で、エルリネは即席の木笛でエレイシアは歌を作り、旅人の心と身体の疲れを取るという、人生を生きる。

 

 その旅の中で出会った、主人公パーティーに一目惚れする。

 理由はたった一つ。

 彼の周りの音が綺麗だから。

 鮮やかな音色。

 彼女の目には音と属性は全て、色として現れる。

 だから、「一目惚れした」と物語で主人公と離別する前ぐらいに想いを明かす。

 そして想いを綴り続け、後の世の中に"楽聖"と謳われ続ける。


 彼女に設定したのは物語(れきし)だ。

 それを今、使う。


 それと同時になんちゃって『奴隷落とし』も済ませる。

 エルリネにも施した「精神の願望」。

 それを、彼女の左腕の肘を中心に張らせる。


「"起動"、『精神の願望(マインドデザイア)』。彼の者が主なり」

 結果、発生するのは燦然玲瓏と輝き、奇妙な文字配列と魔力線で描かれた魔法陣。

 前回のように月光が彼女から発し、月へ駆け抜ける。

 例にもよって『十全の理』初起動したような、光量だった。


 必要以上に覚悟させるのも悪いし、俺としてもそんなものは望んじゃいない。

 俺は別に恐怖で縛りたいとか思ってもいない。

 望むのは、あくまで平穏。

 ハーレムによって出来る女性同士の喧嘩はどうにかして避けたい。

 だからハーレムは勘弁と言っていたが、もはや形骸化している。

「NO、ハーレム!」は、もう諦める。

 

 とにかく、彼女たちが仲良くなってもらうことにする。

 それに尽きる。

 エルリネは多分、普通だろう。

 あの娘の性格からして嫉妬は余りしなそうだし、セシルは四番目でヒジョーに喜んでたから「別に?」と言いそうだ。

 エレイシアには「喧嘩しないように」と言い聞かせた。

 問題は、村に残した姉さんとメティアだ。

 

――どうしよう。ヤバい。

 嫉妬するタチだったら、俺の首が物理的に飛びそうだ。

 主に姉さんの一撃で。

 土下座が効く世界か分からないが、土下座しよう。


 そんなことを他所に、名前を『人魚姫』から"エレイシア"と名付け、『精神の願望』を彼女に張ったとき、異変が現れた。

 それは、博物館の食堂の中だというのに、俺とエレイシアの周りが日の当たる比較的温かい海中に入ったような空間。

 周りには"生前"の世界の水族館で散々見た、イワシの大群やアジやらマンボウやら珊瑚にサメとか色々な魚類に、クジラにシャチといった哺乳類までが泳ぐ空間。

 エレイシアの足元に『精神の願望』とは違う紋様の魔法陣が現れていた。


――『精神の願望』によって早速『想い』が引きずり出されたか……!

 エレイシアの足元の魔法陣から、ゴボゴボと泡となった空気が生じ天へ向けて上っていく。

 エレイシアはともかく、少なくとも呼吸は出来ている。

 別に『十全の理』で防御もしていないので、攻撃ではなく、あくまで現象を見せているだけか。

 そして海の底から聞こえるのはゴボゴボという音だけではなく、音色。

 ……これは『歌』だろうか。

 

 もっと聞いてみたいと思う反面、引きずり込まれると思わせる『歌』の魔力。

 心が聞きたいと言い続け……、唐突にパキィンとあの硝子の割れる音がした。

 頭のなかが急速醒めていき、それに伴い周りの世界も急速に青色が薄くなり消えていく。

 サメもクジラもシャチも消えていく。

 色が薄くなるだけではない。

 魔法陣に吸い込まれていくように消えていく。


 消えたあと残ったのは、何もなく。

 強いて言えば、彼女の今まで歩いた旅の軌跡であるボロボロの足の傷が、綺麗にサッパリ消えていることだろうか。

 白魚のような肌だ。

 これが素肌か。

 もちろん、足だけではなく腕も顔もつるんとしておりゆでたまごのよう。

 血色もよい。

 ボロボロの外套の下をめくるような、変態性はないつもりなので見ないが、きっとゆでたまごのようだろう。


 しかし、水族館は久し振りに俺の心に来る一撃だ。

 "生前"の俺の趣味は、水族館巡り。

 それも野郎一人でだ。

 周辺はカップルと子連れだらけで、肩身が狭かったが"一応"趣味の一つで、いつも黒歴史に恨み辛みを書くだけでは疲れると、思って始めた趣味。

 "生前"は程よく行っていたお陰で、特に思いが高じて爆発せずにどうにかなっていた。

 その後、この世界に来て黒歴史ノートを書くまでもなく、人生を謳歌してたからすっぽり忘れていたが、水族館巡りは俺の趣味だった。

 ……もう一度、シードラゴンとか見たい。

 ここの世界のシードラゴンというと、きっと竜族とかになりそうだけど……。


 目頭が熱くなり、思わず手の甲で目頭を押さえると濡れていた。

 懐かしい。

 "生前"の世界の母に無理を言って、大人料金になる前に臨海水族館に行ったのが、家族とともに行ったことの最後か。

 いちいち、いちいち俺の心を抉るようなイベントを挟むのを止めて欲しい。

 

 エレイシアは一瞬だけ気を失ったようだが、直ぐに目覚めた。

 というのも、「魔法破壊」で現象を強制介入したあとに空間の色が()せ始めたとき、彼女(エレイシア)は倒れ、それに追随するかのように、魔法陣にその空間が吸い込まれたからだ。

 吸い込んで世界が消えたと同時に、エレイシアは目覚めた。

 あの魔法陣は意識があるときに起きて能動的に出たのか、突発的に出たのか判断に迷う。


 能動的に出たのであれば「精神感応系」で、突発であれば事故か何かだ。

 突発の場合で且つ好意的に見れば、お互いの故郷を思い出させる系だろうか。

 彼女の故郷は海の近くだといった。

 そして、俺は海といえば海洋生物を連想する。

 その結果、あれが出たのかもしれない。

 

 目覚めてから「うん?」と顔を傾げる姿からして、あの現象は突発的なことだったのだろうか。

 だが、能動的に出て暴発したということも考えられる。

 一応聞くが「なんですか今の」と本当に分からないように答えた。

 これは追々か。


 エレイシアに右手を差し伸べる。

 彼女は恐る恐る俺の手を掴み、それを確認して立ち上がるように起こす。

 半日セシルをおんぶした俺だ。

 女の子をおんぶすることは、最早慣れた。


 なので、そのまま流れるようにしておんぶ出来るように、立膝をつく。

 だが「ほら」と、背中を見せても乗ってこないし、声も出してこない。

 後ろを振り向けども固まっているようだ。


「エレイシアのような白魚の肌のような女の子に、裸足で歩け。

――なんて、言えるわけないだろ。

靴が手に入るまでの間、俺が靴になるから。

ほら、おとなしくおんぶされなさい」

 そういって漸くおんぶされる覚悟が出来たようだ。

 まったく、強情なものだ。

 そう思い、いつものため息を一つ。

 今日一日で二回目だ。

 一回目は「マンディアトリコス」、二回目はこれ。


 今日みたいな重複イベントはこれっきりにして欲しいところだ……。

 もちろん、そんなことは口には出さない。

 今日一日で、家族が一人と一輪増えた。

 きっと、多分エルリネもセシルもなんだかんだ言って喜ぶだろう。

 その内一輪は毒魔草だが、言わなければ多分気づか……いや、エルリネは気付きそうだ。

――ちゃんと言っておこう。


「さて、帰ろっか」と背中にいるエレイシアに声を掛ける。

 耳元で、小さな声が聞こえる。

 ぼそっと。

――うん。

 と。

 それとともに「…………、」とも何か呟かれたが、相変わらず聞こえなかった。

 とにかく、俺は帰路を急いだ。



深夜の部はこれで終わりです。

続きは午後にでも。

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