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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第1章-学校-
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魔族①(メティア視点)

 

 太陽が沈み、教室が赤く染まりながら時間とともに暗くなっていくこの時間。

 昼間にあった、友人たちの話し声、喧騒は聞こえず。

 魔力の残り香も感じられず、ただ涼しく寒くなっていく。

 季節は秋。

 夕焼けに染められる、木々の葉。

 木々の葉が風に吹かれて葉を散らす。

 その木々の姿を私は夕焼けに染まる教室の窓から見ている。


 時間は覚えていない。

 終礼の鐘が鳴ってからしばらく経っているとは思う。

 鐘が鳴った時は、まだ明るかったが、気付いたら夕焼けが教室を染めていた。

――最近、いつもこうだなぁ。

 鐘が鳴ってからずっと木々を見続ける。

 そして気付いたら暗くなっている。

 ここ毎日、そんな放課後を過ごしている。

「なんで、私はこんなにも怖くて仕方がないのだろう」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 自宅に帰れば、村の中では大きい家でお父さんとお母さんと家政婦さんが暖かいご飯を作って待っている。

 楽しみだ。それには違いない。

 実際にいつも授業中は勉強するよりも、夜ご飯の献立をいつも楽しみにしている。

 今日も献立を楽しみにしていた。が、帰ろうと思うと何故かここ毎日『怖い』と思ってしまう。


 理由は分からない。

 理由は分からないではない。口にしたくない。この場に誰かがいて、聞かれるのが嫌だ。

 だからといって、口に出さないのは『怖い』という感情の理由の再確認にならない。

 だから

「私が『魔族』なのに魔法が全く使えないからでしょうか」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 基本的に『魔族』というものは『魔法の扱いに長けた種族』であれば、総てが魔族になる。

 実際にお父さんもお母さんも魔法を扱える種族だ。

 お父さんとお母さんの馴れ初めは、お互い旅人でお母さんが危ない時に、お父さんが格好良く現れて手助けして、

 一緒に旅して、結婚して、結婚を機にお父さんの友人の貴族の伝手でお父さんが貴族になって、私が生まれた。


 トントン拍子で幸せを掴んだ魔族のお父さんとお母さんだ。

 だから、私も使える、はずだった。

 主要属性判定では濃い青で、お母さんと同じ色だった。

 それなのに、蓋を開けてみれば水球が使える使えないとかではなく、瓶に水を入れることすら出来ない。

 発動しない。

 お父さんとお母さんは、

――魔法っていうのはね。今は、使えなくても急に使えるようになるのよ。お母さんもそんな感じだったから。

 と私を慰めてくれた。


 でも、私は誇りある魔族だ。

 一流のお父さんとお母さんから生まれたのは『五流』なんてものはだめだ。

 そう考えさせられたら、私達は引っ越すことになった。


 話を聞くと不便だが、自然が溢れる村だと言う。

 きっと私が使えない五流の子だから。

 一流が集まる学校だと虐められる可能性があったから逃げるように、不便な村へ引っ越すことになったのだと思う。


 私はそんなことが起きないように属性判定が確定してからずっと水を出そうと頑張った。

 頑張ったけど結果は火を見るより明らかで、だから引っ越した。不便な村に。

 両親に住み慣れた家を捨てさせた。私はとても悔しい。だからこの村の学校が始まる三歳までに水球だけでも使えるようにしたい。そう考えた。


 でも結局、三歳になって学校に入るという話が、お父さんとお母さんとのご飯の時の話題に登っても私は水球も使えなかった。

 お父さんが買ってくれた、【初級者用:魔法教本】の瞑想という魔力容量を上げる方法も試した。結果は当然効果がなくて、魔力というものは感じられなかった。

 学校に行くまでに変わりたい。村の人達に「流石!」と言われて鼻を伸ばしたい。

 でも、思いつかない。

 学校に行きたくない。


 そんな折、お母さんから学友となる予定の少年の話を聞いた。

――属性判定で無属性が強い子が貴女より一日遅れで入学するわ。

 と。

 他にもお母さんが何か言っていたけど。

 つまり私は『無属性の無能と仲良くしてなさい』と言われたのだ。


 悔しかった、悲しかった。でも、それは当然だと思った。

 お母さんに失望されたくないから頑張った。

 それでも貴重な本を使っても水が出ない。

 努力が足りないからだと思って、寝る間も惜しんで瞑想を交えながら、基本魔法の水球を練習した。駄目だった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 三歳になった。一日だけ遅らせて、例の少年と同じ日に入学することになった。

 三歳になる前に一度、家政婦さんと一緒に学校に行っているから道は迷わなかった。

 いっそ、迷ってどこか遠くへ行ければいいのになんて呟いても仕方が無い。


 迷うこと無く学校の敷地内に入った。

 私と同い年の人たちが一杯いた。

 でも、名前が分からないから怖いと思った。帰りたいと思った。でも、一流のお父さんとお母さんを持つ私だ。

 逃げることは出来ない。

 泣きたい。


 そんな中、目の前に男の子がいた。

 赤が濃くて青い色の魔力がちょっとあって鮮やかな色発していて、私と歳が変わらなさそうな男の子がいた。

 その男の子は、女の私が見てもとっても格好いい年上の女の子と一緒に、学校の扉の先に消えていった。

 あんなにも濃くて鮮やかで綺麗な色の魔力は初めて見た。

 一流のお父さんもあそこまで鮮やかな色ではなかった。


 何故だか分からないけど、その男の子を見てとても安心できた。

 普通なら怖いと思うはずなのに。


 学校の教室に入ったあと、そこには先程の男の子がいた。

 女の子の膝の上に座り、口をへの字に曲げながら女の子のお頬ずりを受けている。

 安心できたのもつかの間、それを見ていて私はとても腹が立った。

 何故だろう。何故私は腹が立っているのだろう。

 結局分からないまま、女の子はベロっと男の子のほっぺたを舐めてから、教室から出て行った。



 腹が立っている時に、その男の子から近づいてきた。

「たしか、僕と同時期に入った人だよね。

僕の名前はミリエトラル・フロリアっていうんだ。よろしく!」

 と自己紹介された。

「ごめんね。姉さんはとても自慢出来る姉さんなんだけど、僕が絡むとあんな感じに見苦しい感じになるんだ」

 と、謝ってきた。


 でも私は先程の腹が立った、その感情が分からなくて、つい教卓の陰に逃げてしまった。

 でも、男の子が気になるからちょっとだけ、陰から覗く。

 床に手を起き、凹んでいるようにみえた。

 そこまでショックなことをしてしまったのかな。

 悪いことをした。



 その日の授業が終わり、自己紹介してくれたのに私は返事していない。

 それを謝りたくて、放課後に探したけど見つからなかった。

 あの濃い赤色の魔力の男の子はいなくなってしまった。

 その後言いようのない、焦燥感を感じた。

 何故かは分からない。

 同い年の友だちがいないから、彼がいないと私は村の人たちと話せなくなる。

 それが怖いからだと思った。

 だから、探したけどやっぱり見つからなかった。


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