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ウェリエの聖域:滅びゆく魔族たちの王  作者: 加賀良 景
第2章-啜り啼く黒い海の呼び声-
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止まり木

 さて愚痴(という名の悪口)大会も終わり、一転して真面目なお話に。

 議題はたった一つ。

 発端である。


 話の流れはこうだ。

 まず庭で暴れていた馬鹿がいた。

 それは俺も知っている。

 俺が植物園へ行く前の話だ。

 防御性能に特化しているが故の『要塞』という二つ名といえども、並大抵以上の攻撃性能はある、らしい。

 で、あっさり取り押さえ……たとおもえば、死をも恐れぬほどの抵抗を受けて一度逃げられた。


 リコリスは直ぐさま一級兵士を指揮し、門などの出入口を封鎖。

 彼女の特殊魔法で、人相書を全一級兵士と博物館周辺の警ら隊に分配。

 緊急特例によりリコリスが持つ神器が開放されたが、それに呼応するように『鬼神』の装具と外套お化けの展示用封印が強引に破壊。


 装備者なく封印が解かれたため、例の自動人形モードで起動する鉄屑と外套お化け。

 逃げ遅れた一般人は軽傷。一般人を庇った学芸員四名の内一名死亡。

 ほか三名は重症。

 緊急事態用隔壁も、外套お化けにより破砕。

 外套お化けを倒そうとすれば、物理攻撃と物理防御が馬鹿高い装具が盾になり次々と警備員が次々と犠牲になり、離れようとすれば外套お化けの餌食になり、リコリスが現場に向かうまでまさに地獄絵図。


 現場に付けば血の臭いにむせ返るほどの地獄で、更にここで別れたはずの俺がおらず、学芸員の指示に従って逃げたか、帰ったか考えたようだ。

 帰ったのであれば、しょうがない。

 ただ、逃げたのであれば『情けない・許せない』と思ったそうな。

 あの場で認めたのに力を認めたのに、その気持ちは無駄だったのか、とかその辺りを考えたようだ。


 で、まあもやもやしながら、どうにかして庭へ叩きだして一般人へ被害が及ばないようにしたものの、戦場が広くなったおかげで、外套お化けがやたらと強くなり、相変わらずクソ硬い装具相手にジリ貧。


 外で警らしている警ら隊に、"お爺さん"を呼んで貰おうとしたときに、装具が博物館へ向かおうとする姿を確認して、強引にどうにかしようとしたら外套お化けの魔法で複数人の一級兵士と学芸員に死傷者が出て、どうしようもなくなって、妨害も出来なくなって向かわされて。

 外套お化け相手にも決定打は浴びせられず……、そこに俺が現れたという流れらしい。


 ……あっ、やべっ。

 そういや装具を鉄屑にしちゃったんだ。

 いくらなんでも展示品を勝手に鉄屑にしちゃうのは拙いんじゃなかろうか。


 リコリスの目の前で申し訳程度に手を挙げる。

 そして。

「ごめん、装具をただの鉄屑にしちゃった」

 俺の言葉に対して、彼女は。

「……いいですよ、別に。

上層部としては、本当に問題児でいい加減鋳塊(ちゅうかい)にしたがっていたようですし。

ウェリエくんが鉄屑にして頂いたお陰で、こちらの者で鋳塊にしようと試みて更に被害を被った可能性がありましたし」

 

 ……なら、いいのかなー?


「とにかく、事の発端は暴れていた人間です。

見てください。……一応、これが人相書です」

 といってリコリスが差し出すものは人相書。

 まさかと思い人相書を覗き込むが、今日の朝に見た冒険者風情の男女ではないようだ。


 ただ雰囲気はそっくりだ。

 関係者だろうか。


「……ウェリエくんなら大丈夫かと思いますが、もしこの者をみたら無理をしないでください。

ウェリエくんがいくら強くても、奥さんたちはウェリエくんみたいな方ではないのですから」

「……ああ、ご忠告感謝する」


 ……あっ、そうだ。今日の朝のこと、直接伝えておくか。

 リコリスに今日の朝にあった刃傷沙汰未遂のことを伝える。

 結果、リコリスのほうから警ら隊に情報共有してくれるようだ。


 これで一安心……ではないな。

 似たような雰囲気の賊がこの都市(まち)に複数入り込んできている、というのは一般人からすれば脅威だ。

 こちらとしても、あと約三ヶ月ほどしか逗留出来ないが、要請があれば付き合うことを約束した。


「さて、一休みもしたことなので、私はまた職務を果たしてきますね」そういって、リコリスは食堂から出ていった。

 "宮廷魔術師"としてか、学芸員としての職務か。

 どちらにせよ、悲しみに沈むことは出来ないのだろう。


 もうしばらくすれば、門は一応開くだろうとおもう。

 開いたら『マンディアトリコス』用の鉢買わないとな。

 ……あ、『マンディアトリコス』のことをリコリスから聞こうとおもっていたんだ。

 毒性が超強い魔草だと立て札にあったけど、具体的にどれぐらい危険なのかが知りたかった。

 

 でもまぁこれは、学園で聞くのもありかもしれないかな。


 そう思いながらしばらく『人魚姫』と、食堂(へや)から退出したリコリスが出て行った扉を見つめる。

 俺も彼女みたいな立場になったら、"「死者」よりも「生者」のために立たねばならない"というときがくるかもしれないな、なんてそう思う。

 何かしらの立場で頂点に立つものは、弱みを見せてはいけない。

 それは足元を掬う事柄の原因になるということを、"生前"では滅多にドラマや映画はもちろんのこと、web小説やラノベ、漫画にもそんな展開が腐るほど表現される。

 

 足元を掬われないように、心を鬼にすれば人でなしと蔑まれ、人並みに泣けば食われる。

 少なくとも俺より長い間"宮廷魔術師"という名前の兵器をやっているんだ。

 人並み以上に上記の地獄を体験していると思う。

 いや、食われるということはないかもしれない、それでも心が折れそうなことがあるかもしれない。

『鬼神』は恋人が盗賊にヤられた。

 その結果、例の鉄屑が『鬼神』と共に生き、『鬼神』が死んで尚も生き、今日この日本当の意味の鉄屑になった。


 それはともかく、リコリスもそういった場面になるかもしれない。

 彼女の持ち物が彼女の『願いを聞き入れて動き出す』なんてこともあるかもれない。

 その『願い』は恨みか嫉みか、それとも幸せか。

 恨みや嫉みで動き出す、ゴーレムなど悲しみしかない。

 彼女の心が怨恨に染まり、怨恨に染まったゴーレムを倒すなんて俺には出来ない。

 なんて、思う。


 そんな未来が来なければいいな、と思う。

 だから、先程はこう言いたかった。


「『要は、同じ"宮廷魔術師"をやっている者として、リコリスの止まり木になれればいいな』と思ったんだよ」と、言えればイケメンだったんだろうが、思いつかなかったんだよな。


 と、自己嫌悪。

 言えれば本当に良かった。

 言えれば「素敵、抱いて!」まっしぐら。

 猫まっしぐらって言えるぐらいに、俺の胸にまっしぐら、かなーと思うも、その場で思いつかなければ意味が無い。


 ちょっと残念に思った。




本文書き加えました。(12/16 21:01)

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